映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited
映画化もされた『サラ、いつわりの祈り』で間に時代の寵児となったものの、実は2人の女性が作り上げた架空の作家だったことが明らかになったJ・T・リロイにまつわる事件を、クリステン・スチュワートとローラ・ダーン主演で映画化した『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』が2月14日(金)より公開。webDICEではジャスティン・ケリー監督のインタビューを掲載する。
この騒動にまつわる映画は、作家ローラ・アルバートの語りを中心に事件の真相を明かしたドキュメンタリー映画『作家、本当のJ.T.リロイ』があるが、この『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』は、ローラに雇われてJ・T・リロイを演じたサヴァンナ・クープの回想録『Girl Boy Girl : How I Became JT LeRoy』が基になっている。既に話題になっているように、サヴァンナ役のクリステン・スチュワートと『マリッジ・ストーリー』で第92回アカデミー賞で助演女優賞を受賞したローラ・ダーンのそっくりぶりが話題になっているが、ローラ・ダーンはこの役について「ローラにとって、J・Tというのは、自分の抱える痛みや経験を表現する方法だった。作家として真実を伝える方法だったのだと思う。彼女を演じていると、彼女の悪意を感じるような場面すらあったけれど、それでも私はローラが大好きだった」と述懐している。そして「この映画でローラが象徴しているように、自分自身の真実と格闘することは、ときに苦痛で、誰かに指摘されるまで自分が何で苦しんでいるかわからなくなったりする。この映画が素晴らしいところは、ジャスティン・ケリー監督が、人はどのようにして自己を築いていくのかということを、ある個人を研究することによって描いていることよ」と分析している。ふたりの心情の変化や、アイデンティティを模索していく過程が、ローラと立場とサヴァンナの立場でどのように異なるのか。アップリンク吉祥寺では、『作家、本当のJ.T.リロイ』を2月21日(金)から再上映するので、ぜひ両作品を比較して観てほしい。
「人がアイデンティティを偽ったことを映画にすることを問題にする人もいることはいたけど、でも僕個人としては、この映画で彼らがやったことは問題があるとか、良いことだとか承認する目的で作ったわけではない。それよりも、アイデンティティにまつわる複雑な問題についての真実を描きたかったんだ。だから起きたことを描き、それがなぜ起きたのかを人に理解してもらうために、その周りの状況を描いた」(ジャスティン・ケリー監督)
アイデンティティの変貌がテーマ
──非常に基本的な質問ですが、この物語を今映画化したかった理由は何ですか?
僕は、JTの物語の成功と衰退をサンフランシスコに住んでいる時に見ていて、夢中になっていたんだよね。もちろん、本を読んで面白いとも思ったし、世間で話題になっていたから、「一体何が起きているんだ?」と思っていた。偽物だとは全く思ってなかったしね。映画で描かれているように、JTは本物なのか?という噂は常に漂っていたけど、でも信じている人の方が多かった。それに、彼が偽物なら、外に出てくるわけがないし、コートニー・ラブが彼を友達だというわけもないとも思っていた。だから僕は完全に信じていたんだ(笑)。それで、回想録『Girl Boy Girl : How I Became JT LeRoy』を読んで、この物語は僕が思っていたのと全く違っていた、と気付いた。それよりももっと複雑だ、と思った。簡単に金と名声に魅せられた、と片付けられるようなものではない。だから、本を読んで彼女には語るべき素晴らしい物語があると思えた。それを映画にしたいと思ったんだよね(笑)。僕は、いつもアイデンティティの変貌や、別人に見られたいと願う人などに関心があって、そういうことをテーマにしたいと思っていた。この物語はその決定版にして究極版だと思えたんだ。なぜ、そしてどうして、ローラ・アルバートとサバンナがJRリロイを作り上げたのかに長い間感激し、関心があったから、それが理解できるような映画を作ったら絶対に面白いと思った。僕のその他の作品もそうだけど、真実は小説より奇なりというものに惹かれるんだよね。タブロイドのヘッドラインになる以上の物語がその裏側に隠れている。それが面白いと思ったんだ。
映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』ジャスティン・ケリー監督
──9年かけてこうして映画が完成した今、どのように思いますか?
どんな映画も大変な部分は、撮影だと思う。もちろん長い間かけて書いたし、その間に他のこともしていたわけだけど、撮影現場に行って、全てが現実のものになるのを見るのは、本当にエキサイティングだ。それに本当に優れた俳優達と仕事できたから、感動的だったしね。それぞれのキャラクターを僕が想像している以上に最高の人物として演じてくれた。だからこの映画がとうとう上映できて本当に嬉しいよ。
──例えば、映画の中に出てくるエヴァ(ダイアン・クルーガー)はアーシア・アルジェントのことなのではないかと思います。というのも、2004年に公開された映画というとアルジェントの『サラ、いつわりの祈り』(2004年)があるので。なぜ名前を変えたのですか?
アーシアに関して言えば、彼女がこの映画に興味を示さなかったというのがある。だから違うキャラクターを作ったんだ。それで、もしこれが例えばJFKに関する物語だったり、ものすごく有名なセレブリティに関する物語だったら、勝手に変えてしまうのは、おかしいと思ったかもしれないけど、この作品はもともとサバンナが演じたキャラクターについて描いた作品だったわけだし、彼女が関わっていたわけだから、少し事実と変えても問題ないと思えたんだよね。
──アーシア・アルジェントは、イタリア人ですが、フランス人役にしたのはなぜですか?
そこまで正確に再現する必要はないと思ったからだよ。有名な女優で、ヨーロッパ人という設定であればいいと思った。それにダイアン・クルーガーがやってくれることになったわけだしね。ここで大事だったのは、JTが美しい女優に惹かれていくということだったわけで、ここでは、真実をそのまま描かないことで、より真実を強烈に描いたと思う。
映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited
── コートニー・ラブが、コートニー自身ではなく、JTファンの女性サーシャを演じていたのも面白かったです。彼女は何と言ったのですか?
彼女は楽しんで演じてくれたよ。それに、実際当時JTの友達であった人にこの映画に出演してもらえたというのは良かったと思う。彼女がやってくれると言うかどうかは分からなかったけど、JTの長年の友人でありながらも、自分がこの映画でそこに返ってきて、自分ではない役を演じるというアイディアを気に入ってくれたんだ。人生がそこで一周するように思ってくれたんだ。彼女はクールだし、仕事していてすごく楽しかったよ。彼女がサバンナを初めて見る瞬間を目撃したしね(笑)。何て言ったのか忘れてしまったけど、「あなたのこと知ってるわ!」みたいなことを言ったと思う(笑)。
映画のセットのシーンは“偽もの”がリアルなものになる瞬間
──クリステン・スチュワートが、あなたが最もキャストしたかった女優ですか? 他にも候補はいたのですか? 彼女はすぐに了解してくれましたか?
うん、彼女にやって欲しいとずっと思っていた。ドリームキャストと言えるくらいだ(笑)。彼女の作品が大好きだったからね。見た目的にもぴったりだったし。彼女には、『アクトレス 女たちの舞台』(2014年)を観る前に会ったんだけど、キャラクターを完璧に理解していたし、どのように演じればいいのかしっかりと分かっていた。完璧だと思ったんだ。それでその後に、『アクトレス』を観て、さらに、『パーソナル・ショッパー』(2016年)も観て彼女があまりに優れた女優だと分かったから、さらに嬉しかったよ(笑)。
映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited
──この映画は、人生を模倣したアートであり、アートを模倣した人生だと言えると思うのですが、映画化された『サラ、いつわりの祈り』の撮影中のセットのシーンが重要だと思った理由はありますか?
それは、あの映画が、JTの本を元に作られた作品であって、本自体はフィクションではあったけど、“偽もの”がリアルなものになる瞬間として大事な要素だったと思う。そこで描かれた2人がまた別の人になるふりをするという瞬間だったわけだしね。あのシーンには、そういう幾重にもなった層が映し出されていると思う。さらに、サバンナが、JTでいることをやめらない意味も描かれていると思う。というのも、彼女は撮影現場に行くことに、ロマンチックな幻想も抱いていたわけだからね。だから、サバンナがJTになってこの巨大な映画のセットにいるという状況は、彼女をより絶望的に映し出すと思ったんだ。本来ならエキサイティングな祝福の場であるはずなのに、彼女はそこを去る時に、絶望的な気分になっているわけだからね。
映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited
──人がアイデンティティを偽ったことを映画にするのは、モラル的に問題があると思いましたか?
それを問題にする人もいることはいたけど、でも僕個人としては、この映画で彼らがやったことは問題があるとか、良いことだとか承認する目的で作ったわけではない。それよりも、アイデンティティにまつわる複雑な問題についての真実を描きたかったんだ。だから起きたことを描き、それがなぜ起きたのかを人に理解してもらうために、その周りの状況を描いた。これを観た人達が、それについてどう思うのか、それぞれで判断を下せば良いと思った。人によっては、彼女達がキャラクターを演じきったことを素晴らしいと感動するかもしれないし、または人が人を騙して裏切った物語だと思うかもしれない。つまり、一方的にひとつの答えしかあり得ないという映画を作ったつもりないんだよね。
──この物語に関して数年前にドキュメンタリー『作家、本当のJ.T.リロイ』もありました、作者であるローラ・アルバートの視点から描かれたものでした。だからこそ、この作品でサバンナの視点の物語を作るのが大事だったということはありますか?
僕らがこの映画の制作を開始したのは、ドキュメンタリーが公開されるよりもずっと前だったからね。その当時からローラの物語で面白い部分は、JTにまつわる部分ではなくて、彼女自身のそれより前の背景だと思っていた。というのも、JTが誕生してからは、彼女は、主にオフィスにいて電話でやり取りをしていただけだからね。
映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited
内面によりフォーカスしたものになった
──完成に9年間かかったと言っていましたが、なぜそんなに時間がかかったのですか? 脚本に時間がかかったのでしょうか?
いや、そういうわけでもなくて、インディ映画の制作に、それくらい時間がかかるのはむしろ当たり前だと思う。脚本の初稿は1年くらいで書いて、それを元に、このプロジェクトの存在を紹介しようとした。そこから何度も脚本を書き直して、その間に、このプロジェクトに関わる相応しい人達を捜していた。それで僕がラッキーだったのは、その間に他の映画も作れたから、それがこの映画の制作に役立ったんだ。というのも、この映画を初監督作として制作するのはすごく難しいと思うからね。だから、ある意味これだけ時間がかかる運命だったんだと思う。それで、僕は、それぞれのプロジェクトが終わる度に彼女と会って、脚本を3ヶ月全く見ない状態から、もう一度見直し、ビリビリに破いては書き直し(笑)、それを繰り返しながら、どんどん良くしていったんだ。初稿をあるプロデューサーに見せた時に、「この物語はすごく面白いけど、彼らがどんな人達で何でこれをしているのかが分からない」って言われたんだよね。それがすごく参考になった。だから初稿を裏返しにして暴くように書き直していったんだ。そのおかげで、色々な場所を歩き回るものではなくて、内面によりフォーカスしたものになった。そうしたことで、より良い物語になったからね。
この映画を作るにあたり、ゼロから作るわけではなくて、情報がたくさんあるから楽だろうと思う人もいると思うけど、僕らにしたらだからこそより難しかった。脚本の初稿は200ページもあったからね。だからそれをどうやって削って、より良くしていくのかという作業だったわけだ。
──撮影のスタイルについて意識したことはありましたか?
当初はもっと複雑な方法で撮影しようと計画していたんだけど、撮影が実際に開始して、ハンディカムでクローズアップを撮影した時に、その瞬間をより良く捉えていると思えた。それに、クリステンも、ローラも、レンズが近くにある方がやり安いと言っていた。だから予定とは違った撮影の仕方になったんだ。
(オフィシャル・インタビューより)
ジャスティン・ケリー(Justin Kelly)
1980年、米国ロサンゼルス生まれ。長編監督デビュー作は、ガス・ヴァン・サント製作総指揮、ジェームズ・フランコ主演による『I Am Michael』(15)。脚本も兼ねたこの作品は、サンダンス映画祭とベルリン国際映画祭でプレミア上映された。その後、ギャレット・クレイトン、クリスチャン・スレイター、ジェームズ・フランコ主演『King Cobra』(16)、アビー・リー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ライリー・キーオ主演『ストレンジャー 異界からの訪問者』(18・配信題)で脚本・監督を兼ねた。ロサンゼルス在住。
映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』
2月14日(金)より、シネマカリテ&YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
監督・脚本・製作総指揮:ジャスティン・ケリー
原作・脚本・製作総指揮:サヴァンナ・クヌープ
出演:クリステン・スチュワート、ローラ・ダーン、ジム・スタージェス、ダイアン・クルーガー、コートニー・ラヴ
アメリカ/カラー/108分
原題:Jeremiah Terminator LeRoy
字幕翻訳:石田泰子/PG12
配給:ポニーキャニオン
映画『作家、本当のJ.T.リロイ』
監督:ジェフ・フォイヤージーク(『悪魔とダニエル・ジョンストン』)
撮影監督:リチャード・ヘンケルズ
音楽:ウォルター・ワーゾワ
出演:ローラ・アルバート、ブルース・ベンダーソン、デニス・クーパー、ウィノナ・ライダー、アイラ・シルバーバーグ ほか
2016年/アメリカ/111分
原題: Author: The JT Leroy Story
配給・宣伝:アップリンク