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2020-01-29 18:31


ケタ違いの愛は呪いか祝福か?『母との約束、250通の手紙』文豪と母の深く激しい絆

C・ゲンズブール×ピエール・ニネ主演、ロマン・ガリ自伝『夜明けの約束』映画化  
ケタ違いの愛は呪いか祝福か?『母との約束、250通の手紙』文豪と母の深く激しい絆
映画『母との約束、250通の手紙』©2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-NEXUS FACTORY-UMEDIA

女優ジーン・セバーグの夫としても知られるフランスの伝説的文豪ロマン・ガリの自伝小説をシャルロット・ゲンズブールとピエール・ニネの共演で映画化した『母との約束、250通の手紙』が1月31日(金)より新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺ほかにて公開。webDICEではエリック・バルビエ監督のインタビューを掲載する。

物語は、作家として大成しロサンゼルスのフランス総領事となったロマン・ガリによる、母ニナ・カツェフについての回想を中心に進んでいく。フランス空軍に入隊しながら小説家になることを夢見るガリのもとに、長編小説を書き上げるよう母からの激励の手紙が届き続ける。映画は、小さい頃から息子が有名になることを信じて疑わない母、過剰なまでの愛に重圧を感じながらもその期待に奔走する息子の関係が描かれる。今回のバルビエ監督のインタビューで語られているように、ガリは母親の願望に従うことで大人の階段を登っていく。「母と息子の愛」が主題となっているものの、「自らを縛る家族からの逃避」といった成長物語の定形とは異なる、一筋縄ではいかないビターな後味が心に残る。


「この作品の主題は二重の約束だよ。ニナは、何があっても息子を愛すると約束した。無条件で完全に彼を支えるとね。そしてそのお返しとして、ロマンは成功して有名になることを約束する。この映画は、母親の夢を実現させるべく奮闘する息子の物語なんだ」(エリック・バルビエ監督)


ガリはロマン主義者であり、謎

──ロマン・ガリの小説「夜明けの約束」を映画化するに至った経緯は?

「夜明けの約束」は、プロデューサーであるエリック・ジュエルマンが、以前から映画化したいと思っていた小説なんだ。素晴らしい小説で、この捉えどころのない人格に解明の光を照らしてくれる。全体にわたって真実と偽り、そしていつの時も現実と想像が混ざり合うんだ。これは抜群の記憶で書かれた自伝で、記憶の再現なんだ。僕はこの作品にすぐさま興味を持ち、この小説を映画化するという仕事に身を投じたんだよ。僕の目に映ったガリは、ロマン主義者であり、謎であり、多くの側面を持っている。様々な肩書の名前の背後に影を潜めていた。

映画『母との約束、250通の手紙』©2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-NEXUS FACTORY-UMEDIA
映画『母との約束、250通の手紙』エリック・バルビエ監督

「夜明けの約束」は、悪漢を題材とした小説で、ロマン・ガリが母親と過ごした20年間で、どのように大人になったかを描いている。彼と母親は、国々を移動しながら様々な困難に直面し、冒険や紆余曲折を経て進んでいく。彼らは人生の中であらゆる機会を失ったり手に入れたりして、人々と再会し、幸運な出来事や災難に見舞われる。人が想像しうるありとあらゆる状況にあふれているんだ。

物語の前半は人の理解力をはるかに超えたもので、読者は目がくらむような場面を突きつけられる。僕は、小説のエッセンスを保ちながらも、脚本のボリュームを3分の2に圧縮したんだ。そして、小説の中で起こったことを変えてよいものか、変えてはならないものか絶えず自問し続けた。小説の精神に絶対的に忠実でいたかったからだ。ロマン・ガリは自身の道のりについて、小説全体にわたってコメントし、分析し、深く考えているから、劇中全体にわたってナレーションを用いようと僕は最初から決めていた。彼が語るストーリーの全ては原作中のストーリーと一緒で、ナレーションで聞こえるフレーズは彼自身の言葉なんだ。「夜明けの約束」は、美しく巧みなストーリーで、作者が自分の人生の一部を語っているものであるということを、観客はすぐに理解する。

ガリはこの小説を主な3つの部分で構成した。東欧での子供時代、フランスでの青年時代、そして戦争が始まった成人期早期の3つの時代なんだけど、行ったり来たりして、違った時代に起こった様々な出来事を通してある特定のテーマ、思考、過去の回想を分析して展開させているんだよ。その手法はとても美しくて、文学ではうまく機能するんだけど、それを簡単に映画に移行することはできないんだ。僕は出来事の断片を年代順(起こった順)に並べてから、ストーリーを引き締めて、映画的なアプローチを取り始めた。

映画『母との約束、250通の手紙』©2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-NEXUS FACTORY-UMEDIA
映画『母との約束、250通の手紙』©2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-NEXUS FACTORY-UMEDIA

この作品の主題は二重の約束

──この主題をどのように練り上げたのですか?

『母との約束、250通の手紙』は、二人組が一つになる物語なんだ。僕はこの概念を心に描きながらこの作品を撮った。原作の中で、ガリは人生で多くの脱線を体験するんだけど、僕は、この二人組の物語を中心に置きたかった。それが主題だからね。二人に友達はいないし、友達ができたとしてもすぐにいなくなる。様々な人々が登場するけれど、ほとんど一貫してシルエットで、この二人組の周辺に存在する。

「僕の母親の存在を可能にするためには、僕は彼女を著名人にしなければならない」というロマンの有名な言葉がある。彼の小説全体が、彼のこの思いの上に立っていると僕は思うんだ。彼の執筆の目的なんだよ。だから僕は、彼のこの目的を映画の中心にしたかった。

この作品の主題は二重の約束だよ。ニナは、何があっても息子を愛すると約束した。無条件で完全に彼を支えるとね。そしてそのお返しとして、ロマンは成功して有名になることを約束する。この映画は、母親の夢を実現させるべく奮闘する息子の物語なんだ。

映画『母との約束、250通の手紙』©2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-NEXUS FACTORY-UMEDIA
映画『母との約束、250通の手紙』©2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-NEXUS FACTORY-UMEDIA

しかし物語を動かすものは正義であり、復讐である。ガリは、母親が受けてきた不公正を目にし、母親のために復讐することを誓う。それは子供の中によくある基本的な感情なんだ。信用が傷つけられたり、屈辱を受けたりと、親が苦しむのを見ると、子供の中にとてつもない怒りの感情や激しいエネルギーが生まれる。「母さんのために復讐をしなければ。社会に対して復讐するんだ。母さんは彼らが思うよりもずっと強いが、誰も母さんのことを知らない。母さんが何者なのかを僕が彼らに知らしめるんだ」と思うんだよ。それが、彼が小説「 夜明けの約束」を書いた理由、つまり、世界における母親の場所を再確立するためだった。でも、彼が約束を守ったことを見る前に母親が死んでしまう。結局、彼が20世紀フランスの著名な作家となり、領事にもなり、富を築き、数人の愛人、数人の妻など、母親が彼に望んだことすべてを手に入られるようになることを、母親は知ることがなかった。彼女の考え出したこの人物を作り出すことに成功したということを知ることがなかったんだよ。

映画『母との約束、250通の手紙』©2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-NEXUS FACTORY-UMEDIA
映画『母との約束、250通の手紙』©2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-NEXUS FACTORY-UMEDIA

──この母親が、良い時にも悪い時にも途方もなく大きな愛を持っているのを観客は確かに目にします。息子から見たら、彼女は良い母親なのですか、それとも悪い母親なのですか?

ロマンは、子供時代も青年時代も、無限大の愛を体験するけど、屈辱や反論や危機も体験する。彼は母親のことを恥ずかしいと思うことがよくあったんだよ。また彼女は、息子に対してとても凶暴でもあった。息子を許容するということが全くなかったんだ。母親が要求することに対しては、それを母親が望んでいるからという理由で、息子は従うほかなかった。彼が進む道は一つしかなかったんだ。彼女が彼に約束した運命は素晴らしいものだけど、それは前もって決められたものだ。だから彼は自由ではないんだ。でも同時に、この風変わりな母親は、少々注意散漫で、滑稽なところがある。母親が奇妙な行動をとって、奇怪ともいえるときでも、ロマンはなんとか母親に共感しなければと思う。

そして立派なのは、ロマンが決して母親の問いかけや提案を嘲笑わないこと。母親の要求を尊重するというのが、ニナとその息子にとっては法であり規則なんだ。息子はこの道を進んでいく。だから、滑稽なシーンは、いつもこの中途半端ではない行動からくる。息子は、母親に言われることを決して軽視せず、母親が言うことはなんでも、それなりの理由があるのだから、母親を擁護しないといけない。それが二人の間にある絆なんだよ。

これは、子供が大人になる物語だ。それは、家族の拘束から自由になることによってではなく、むしろその反対で、母親ニナの思いに屈することによってなんだ。「神々は僕のへその緒を切るのを忘れたようだ」とガリが言うようにね。でもだからこそこの物語が独創的で卓越したものになる。そして母親と息子の愛の物語っていうのは、国境や時間を超えるんだ。

(オフィシャル・インタビューより)



エリック・バルビエ(Eric Barbier)

1960年6月29日生まれ、エクス=アン=プロヴァンス出身。短編を手掛けた後、フランス人坑夫とポーランド移民坑夫の対立を描いた『赤と黒の接吻』(91)で長編デビュー。その他にイヴァン・アタル主演のフレンチ・サスペンス『蛇男』(08)、伝説のダイヤモンドをめぐる、美人オーナーと詐欺師の危険な恋の駆け引きを描いたクライム・アクション『ラスト・ダイヤモンド 華麗なる罠』(14)などがある。




映画『母との約束、250通の手紙』©2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-NEXUS FACTORY-UMEDIA

映画『母との約束、250通の手紙』
1月31日(金)より、新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

監督・脚本:エリック・バルビエ
共同脚本:マリー・エイナール
出演:ピエール・ニネ シャルロット・ゲンズブール ディディエ・ブルドン ジャン=ピエール・ダルッサン キャサリン・マコーマック
2017年/フランス=ベルギー/フランス語、ポーランド語、スペイン語、英語/131分
原題:La promesse de l‘aube
原作:ロマン・ガリ『夜明けの約束』(共和国)
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
配給:松竹

公式サイト


▼映画『母との約束、250通の手紙』予告編
 

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