骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2020-01-25 07:00


北欧映画祭ノーザンライツ、注目はノルウェーの少女から見た東京描く『HARAJUKU』

劇場未公開映画を中心に北欧カルチャーをまとめて楽しむ祭典 2/8(土)より開催
北欧映画祭ノーザンライツ、注目はノルウェーの少女から見た東京描く『HARAJUKU』
『HARAJUKU』より

北欧の映画界から注目の映画作家と作品を紹介する『トーキョーノーザンライツフェスティバル2020』が2月8日(土)から2月14日(金)まで渋谷ユーロスペースとアップリンク渋谷にて開催される。日本ではスクリーンで観ることのできない旧作や劇場未公開作がラインナップ。写真展やカフェレストランとの連動企画などもあり、北欧のカルチャーを様々な角度から楽しむことのできるフェスティバルとなっている。

開催にあたりwebDICEでは、映画祭のスタッフ細川典子さん、熊澤隆仁さん、青木希羅さんによるオススメの作品のレコメンド文を掲載する。


<北欧パノラマ>

『クィーン・オブ・ハーツ(原題)』

『クィーン・オブ・ハーツ(原題)』c2019 Nordisk Film Production A/S. All rights reserved.

ヨーテボリ国際映画祭でノルディック映画賞、ノルディック・カウンシル映画賞と、2019年の北欧の最高賞を受賞し、サンダンス映画祭でも観客賞を受賞した話題作。トリーヌ・ディルホムが夫の連れ子と関係を持ってしまう敏腕弁護士を演じています。主人公のアンネは児童保護を専門にしているにも関わらず、未成年の、しかも義理の息子と関係を持つというスキャンダラスな内容になっています。これまでに積み上げてきたキャリアと幸せな家庭が脅かされそうになると、禁断の関係から一転、アンネは残酷な行動に出ます。社会的地位のある大人の女性と、素行不良な少年。世間はどちらの声を信じるのか、アンネはよくわかっているのです。
強者が弱者を、大人が子供を追い詰めていく。自己保身のために平気で他人を傷付ける人間は世の中に溢れ返っています。そしてそれを見て見ぬ振りをする人々も……。メイ・エル・トーキー監督は「家族の秘密と家庭内の権力構造について描いた」と語っていますが、家庭内には収まらない問題が投げかけられ、重くのしかかってきます。(細川)

原題:Dronningen / Queen of Hearts
監督:メイ・エル・トーキー May el-Toukhy
2019年 / デンマーク 、スウェーデン / デンマーク語(Danish)、スウェーデン語(Swedish) / 127分
提供:アット エンタテインメント

◎上映スケジュール
2月11日(火)13:20
会場:ユーロスペース




<北欧パノラマ>

『HARAJUKU』

『HARAJUKU』

日本のアニメに感化され、部屋ではグッズを飾り、自分の髪も青く染めている15歳のヴィルデ。この作品は、Kawaii カルチャーをはじめとする日本のポップカルチャーから影響を受ける、ノルウェーに住む少女が主人公の物語です。クリスマスイブという幸せな日に起きた母親の自殺をきっかけに、つらい現実から逃れるため憧れの地である東京を目指し、首都オスロ市内を渡航費用を集めるため駆け回ります。映画が積極的に描くものは、物心つく前に離別した父親とのぎこちない再会、システマチックに対応をする児童福祉局とのやりとり、半ば自暴自棄になったヴィルデの孤独。幸福な国ランキングで常に上位にいるノルウェーからそのメージを一度引き離し、あまり触れられることのない現代の闇の部分を照らす監督の意欲を感じます。成功した福祉制度、安定した社会、経済格差の少ない国……そんなステレオタイプなイメージには映されていない人々の存在を、映画は伝えてくれます。
そしてもちろん、ノルウェーの方から見たトーキョーの姿も見所です。(青木)

原題:Harajuku
監督:エイリーク・スヴェンソン Eirik Svensson / 2018年 / ノルウェー / ノルウェー語(Norwegian) / 83分

◎上映スケジュール
2月8日(土)13:00 2月14日(金)21:10
会場:ユーロスペース




<北欧パノラマ>

『ザ・コミューン』

『ザ・コミューン』Photo by Christian Geisnas

『セレブレーション』(1998)でその名を世界に知らしめ、『偽りなき者』(2012)で見事アカデミー賞外国語映画賞を受賞したトマス・ヴィンターベア監督。日本未公開の本作は彼の幼少時代をインスピレーションにしています。本作の舞台は1970年代のコペンハーゲン。アメリカからヒッピー・ムーヴメントの波が起こり、北欧の国々もまたその影響をもろに受けました。トリーヌ・ディルホム演じる妻アンナはニュースキャスター、ウルリック・トムセン演じる夫エリックは建築学校の先生と一見完璧でしっかり上流のポジションを築いています。この夫婦が、親族から大きな家を受け継いだことから物語は始まります。彼らが始めた実験的な共同生活は、様々な年齢層・階級・人種を巻き込み一度は理想郷を築いたかに見えますが夫エリックの若き愛人の登場により、砂の城のごとく崩れ去ります。その栄枯盛衰を直視するのが、この夫婦の一人娘フレイヤです。スウェーデン人監督ルーカス・ムーディソンの作品『エヴァとステファンのすてきな家族』も同じく70年代の共同生活の実践を描いていますが、ここでも同じように 子どもは大人が思う以上に世の中や大人の言動をよく見ています。 昨今のグレタ・トゥーンベリの起こしたアクション然り「子どもをナメてはいけない」という視点もこの作品の重要なポイントです。(熊澤)

原題:Kollektivet / The Commune
監督:トマス・ヴィンターベア Thomas Vinterberg / 2016年 / デンマーク 、スウェーデン、オランダ / デンマーク語(Danish) / 111分

◎上映スケジュール
2月9日(日)11:00 2月11日(火)21:00 2月13日(木)14:00
会場:ユーロスペース




<北欧パノラマ>

『ロード・オブ・カオス』

『ロード・オブ・カオス』

本作は、ノルウェーのブラック・メタルバンド「MAYHEM」の元メンバーや関係者の証言をもとにしたノンフィクション本『ブラック・メタルの血塗られた歴史』を原案にしています。監督は、マドンナの『Ray of Light』やプロディジー『Smack My Bitch Up』など90年代を代表するミュージック・ビデオを手掛けたスウェーデン出身のジョナス・アカーランド。彼はスウェデンのメタルバンドBathoryのドラマーでもありました。
 MAYHEMのギターでブラック・メタル・コミュニティ『インナー・サークル』の精神的支柱でもあったユーロニモスをマコーレー・カルキンの弟ロリー・カルキン、そのガールフレンド役にゴスの雰囲気を纏うポップ・アイコン、スカイ・フェレイラが起用されています。物語は主にMAYHEM結成からボーカル・デッドのピストル自殺、教会放火、「BURZUM」ことヴァーグ・ヴァイカーネスがユーロニモスを刺殺するまでの顛末を中心に描かれています。彼らの狂信的な言動は、どこから発生したかは十分には語りつくされていません。 ただ、この世に光が存在する限り、漆黒の闇もまた存在し、姿形を変えて現れるのでしょう。それは音楽やアートという表現であったり、果ては信仰にまでたどりつくかもしれません。
本作に関してヴァーグ本人は「明らかにスカンジナビア人ではない太った男が俺に該当する役を演じている」と憤慨しているとか、真実と違うとかネガティブなニュースもあるようですが、それらは"So what?"な感覚で観てもらえたら楽しい作品です。血はたくさん流れます。 (熊澤)

原題:Lords of Chaos
監督:ジョナス・アカーランド Jonas Åkerlund / 2018年 / イギリス、スウェーデン、ノルウェー / 英語(English) / 118分

◎上映スケジュール
2月9日(日)18:30 2月12日(水)18:30 2月14日(金)16:30
会場:ユーロスペース




<スペシャル・アンコール>

『ショー・ミー・ラヴ』

『ショー・ミー・ラヴ』

第1回目の開催時に「ルーカス・ムーディソン監督特集」内で上映した作品を10周年記念の「スペシャル・アンコール」としてデジタル・リマスター版で再上映!
転校先の学校に馴染めずにいるアグネスが想いを寄せる相手は、いつも友達に囲まれているけれど満たされない日々を送っているエリン。あることをきっかけに距離を縮めるけれど、女の子に惹かれている自分に戸惑い、周囲に知られることを恐れたエリンは男子生徒と付き合い始めてしまい……。
スウェーデンの田舎町を舞台に、レズビアンの少女の恋愛と普遍的な10代の姿を活き活きと描き出した本作は、世界中の映画祭で絶賛されました。繊細な心の機微を、表情やしぐさで表現し切った主演のふたりの演技も素晴らしいのですが、彼女たちを取り巻く家族や同級生たちを含め、リアリティ溢れるキャラクター設定や会話にも注目です。
「どんな男性のなかにも<17歳の少女>が存在する」とは、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の言葉ですが、ムーディソン監督の中には<ティーンの少女>が存在すると確信しています。(細川)

原題:Fucking Åmål / Show Me Love
監督:ルーカス・ムーディソン Lukas Moodysson / 1998年 / スウェーデン、デンマーク / スウェーデン語(Swedish) / 89分

◎上映スケジュール
2月11日(火)11:00
会場:ユーロスペース




<アンナ・オデル -監督特集―>

『X&Y』

『同窓会~アンナの場合~』©Photo .Jonas Jorneberg

『同窓会~アンナの場合~』

『X&Y』

今回「監督特集」でスポットを当てるのは、コンセプチュアル・アーテイストとしても知られるスウェーデンのアンナ・オデル監督です。卒業制作の撮影のため、公共の場で自殺を演じて警察沙汰を起こしたことで世間を騒がせ、スウェーデン国内では知らない人はいないほどの存在になりました。今回上映する2作品において、監督自身が本人役を演じています。
長編デビュー作『同窓会~アンナの場合~』は、20年振りに同窓会を開かれると知ったアンナが、スピーチ用の原稿を用意していたにも関わらず結局呼ばれることはなかったため、もし出席していたら……を想定して制作されました。
2作目の『X&Y』では、ミカエル・パーシュブラントとアンナの内面の分身を、俳優に演じさせるというややこしい設定の企画を実現させるために、スタジオ内のセットでの共同生活を送る様子を描いた作品です。
パーシュブラントを始め、トリーヌ・ディルホム、イェンス・アルビヌシュ、ソフィー・グローベールら北欧のトップ俳優7人もまた、本人役を演じています。
どちらの作品も、ドキュメンタリーとフィクションの境界線を曖昧にし、複雑なレイヤーで構築された異色作となっています。彼女の才能と作品のおもしろさを伝える語彙力と表現力を持ち合わせてないのがもどかしいのですが、鑑賞時の衝撃を奪わないためにも説明はこのくらいにしておきます。百聞は一見にしかず。アンナ・ワールドをぜひご体験ください。(細川)

原題:X&Y
監督:アンナ・オデル Anna Odell / 2018年 / スウェーデン、デンマーク / スウェーデン語(Swedish)、デンマーク語(Danish) / 112分

◎上映スケジュール
2月8日(土)15:30 2月10日(月)18:30 2月14日(金)11:00
会場:ユーロスペース

原題:Återträffen / Reunion
監督:アンナ・オデル Anna Odell / 2013年 / スウェーデン / スウェーデン語(Swedish) / 90分

◎上映スケジュール
2月8日(土)18:30 2月10日(月)16:30 2月14日(金)14:00
会場:ユーロスペース




<ラース・フォン・トリアー / カウリスマキ兄弟 -初期傑作選―>

カウリスマキ兄弟『嘘つき』

『嘘つき』

カウリスマキ兄弟『ジャックポット2』

『ジャックポット2』

ラース・フォン・トリアー 『メディア』

『メディア』

まずは、フィンランド映画と言えば、のカウリスマキ兄弟の原点となる短編2作品を紹介します。言い切ってしまいますが、『嘘つき』はヌーヴェルバーグから生まれた作品です。主人公の名前はヴィレ・アルフィで逆から読むとゴダールのSF作品『アルファヴィル』、「手」にこだわったショットはブレッソンの『スリ』想起させ、『はなればなれに』本編そのままの挿入などフランス映画の一時代へのオマージュが捧げられています。兄のミカが監督を、弟のアキは脚本と主演を担当し、ジャン・ピエール=レオーの演技を大いに参考にしました。温故知新とはよく言ったものですが、彼らの映画愛には完全に脱帽です。『嘘つき』で得た賞金で制作した『ジャックポット2』は兄弟が共同で脚本を書きあげた近未来ディストピアを舞台にしたSF作品です。
そして、デンマークからは巨匠の域に到達しつつあるラース・フォン・トリアーの劇場未公開作を紹介します。国営放送DRの依頼により、トリアーが亡きカール・Th・ドライヤーの未完のプロジェクトを再構築させたのが本作『メディア』です。エウリピデス戯曲を舞台はスカンジナビアに遷し、トリアーなりの解釈でデンマーク映画史における最も偉大な監督に敬意を捧げています。
「初期傑作選」とはまとめましたが、両監督の「映画史との対峙」が裏テーマとも言えるのが本特集になっています。(熊澤)

原題:Valehtelija / The Liar
監督:ミカ・カウリスマキ Mika Kaurismäki / 1981年 / フィンランド、西ドイツ / フィンランド語(Finnish) / 53分

◎上映スケジュール
2月9日(日)16:00 2月12日(水)21:10
会場:ユーロスペース

原題:Jackpot 2
監督:ミカ・カウリスマキ Mika Kaurismäki / 1982年 / フィンランド/ フィンランド語(Finnish) / 35分

◎上映スケジュール
2月9日(日)16:00 2月12日(水)21:10
会場:ユーロスペース

※2月9日(日)16:00『嘘つき / ジャックポット2』上映後、ライターの小柳帝さんをお招きしてのトークショーを開催!フランス映画に造詣の深い小柳さんより『嘘つき』とその引用元となったヌーヴェルヴァーグとの関係について解説していただきます。

原題:Medea
監督:ラース・フォン・トリアー Lars von Trier / 1988年 / デンマーク / デンマーク語(Danish) / 77分

◎上映スケジュール
2月9日(日)21:30 2月12日(水)16:30 2月13日(木)21:30
会場:ユーロスペース




<アンデルセンの世界>

『マッチ売りの少女』『王様とナイチンゲール』『みにくいアヒルの子』『雪の女王』

『マッチ売りの少女』

デンマークが生んだ童話王ハンス・クリスチャン・アンデルセン。絵本やアニメーションや演劇といった形で描かれた彼の童話に触れてきた方は、きっと多いことでしょう。そのようにアンデルセン物語は国境を越えて、たくさんのアーティストによって表現されてきました。
今回はその中でも、人形(パペット)アニメーションとなった『マッチ売りの少女』『王様とナイチンゲール』『みにくいアヒルの子』『雪の女王』の馴染み深い4作品を一挙上映!1960年?1970年という日本でのパペットアニメ全盛期に作られたこれらの作品は、ストップモーション・アニメーションならではの立体的な表現手法でアンデルセンの世界を丁寧に作り上げています。アクリルをはじめとする人工物で作られた自然は、現実より一層美しく、そしてあたたかくパペットたちを迎え入れます。ぜひ、水に映る光の揺らぎ、雪のひとひら、風の柔らかい動きといった自然の表現にご注目いただきたいです。アンデルセンが物語を通じて伝える誠実に生きることへの思いを感じられるこれら作品は、子供も大人も楽しめるものとなっています!(青木)

『マッチ売りの少女』
プロデュース:神保まつえ
監督:渡辺和彦
1967年 / 18分

『王様とナイチンゲール』
プロデュース:神保まつえ
監督:渡辺隆平
1973 / 22分

『みにくいアヒルの子』
プロデュース:神保まつえ
監督:渡辺和彦
1968年 / 18分

『雪の女王』
プロデュース:神保まつえ
監督:渡辺和彦
1967年 / 18分

提供:学研プラス

◎上映スケジュール
2月1日(土)10:30
アップリンク渋谷




『トーキョーノーザンライツフェスティバル2020』
2020年2月8日(土)より2月14日(金)まで渋谷ユーロスペース&アップリンク渋谷にて上映

公式サイト

▼『トーキョーノーザンライツフェスティバル2020』予告編

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