骰子の眼

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2020-01-23 23:58


今泉力哉監督×宮沢氷魚×藤原季節『his』男性同士の恋愛と家族を描く

「人の弱さやずるさ、不器用さにはずっと興味がある」監督インタビュー
今泉力哉監督×宮沢氷魚×藤原季節『his』男性同士の恋愛と家族を描く
映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会

今泉力哉監督が宮沢氷魚と藤原季節を主演に迎え、男性同士のカップルの親権獲得までの奮闘を描く『his』が1月24日(金)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほかにて公開。webDICEでは今泉監督のインタビューを掲載する。

田舎で自給自足の生活を送る迅の前に、かつての恋人・渚が6歳の娘・空を連れ現れる。迅の家に居候しながら、妻と娘の親権をめぐる裁判に臨む渚の姿に、ゲイであることを周囲に隠してきた迅は、渚・空と3人でこの場所で行きていくことを決意する。『愛がなんだ』をはじめ、不器用ながらも真剣に人間関係に向き合おうとしていく若者の姿を捉えてきた今泉監督だが、今作では主人公の恋愛模様を中心に、子どもや高齢者との関わり、そして裁判と司法についても取り上げ、その視点を社会のなかで生きづらさを感じている人たちへ広げている。


「男性同士のお話でしたが、感情や葛藤は男女と違いはなかったです。人の弱さやずるさ、不器用さにはずっと興味があるし、そういう人を主人公にしたお話はずっとやっていきたい」(今泉力哉監督)


自分に正直に生きることで
結果的に誰かを傷つけてしまう関係性

──『his』の監督を引き受けるにあたり、どんな思いでしたか?

情報公開時のコメントにも書きましたが、同性愛はずっと避けていた題材だったんです。キャラクターの1人としては登場させていましたが、それをメインの題材として扱うことは、ある意味利用しているというか、ひとつの差別じゃないかと思っていました。ドラマと映画が連動した作品として脚本を読んで、主要な登場人物が誰も人を傷つけようとしているわけではなく、自分に正直に生きることで結果的に誰かを傷つけてしまう関係性が描かれているところがいいなと思いました。それぞれの弱さや、わかりやすい悪人を作っていないところもよかった。このテーマでやるからには、今までにないいいものにしたいと思いました。

映画『his』今泉力哉監督
映画『his』今泉力哉監督

──宮沢氷魚さんと藤原季節さんを演出した印象は?

2人とも自分で決めたプランで演じずに、目の前の人の芝居に反応していくところがとてもよかったです。氷魚さんははじめましてでしたが、お芝居がすごく好きなんだろうなという印象を受けました。経験が浅いので不安はあったようですが、自分はもともと演技力の高いことがいいことだとは思っていないので、役を真剣に考えてくれるという点で、氷魚さんはすごく良かったです。季節さんは『ケンとカズ』で認識して以来、「この人はなんなんだ?」と気になって。何度か呑んだりして、「一緒にやりたい」とはずっと言っていました。思ったよりも器用じゃなくて、よくも悪くも熱があって、すごく面白かったです。クリスマスの夜に迅にキスをするシーンは、まさかあんな導線で動くとは思わなかったですし(笑)。役に気持ちから入り込む人なので、東京パートでは別人に見えるほど落ちていました。

映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会
映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会
映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会
映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会

──空を演じた子役の外村紗玖良さんはオーディションで選んだそうですね。

はい。賢くて素直なので、「台詞を言い終わってから動くのではなく、言いながら動いてください」といった微妙な調整にもすぐに対応してくれました。演技は一番達者だったかもしれません(笑)。季節が「子供から好かれる」と言っていたんですけど、本当に子供との接し方が上手でした。すんなり馴染んでくれたので、父親らしく見えるかはさておき、愛情で結ばれた父と娘に見えたと思います。

映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会
映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会

単純に、恋愛に興味がある

──監督が、ご自身のお子さんたちと接するなかから得たアイデアもありますか?

それはあると思います。うちには9歳、8歳、4歳と、三人の子供がいて、真ん中の子が紗玖良ちゃんと同い年なんです。だから、その年代の子のリアリティがわかるので、子供が一緒に住む人に手紙を書くエピソードなどに反映されています。

──迅と渚がつきあっていた頃や、別れていた8年間についての回想シーンを極力入れなかった理由を教えてください。

脚本の初期段階では過去をきちっと伝えようとしていたんですけど、だいぶ減らしました。『愛がなんだ』でも、その瞬間の二人の表情や距離感から二人の気持ちをお客さんが想像できると思ったので、男女が会っていない5ヶ月間の描写を全部すっ飛ばしたんです。今回も、迅の口調や表情、仕草から、彼が渚に裏切られたと思っていることが伝われば十分ですし、そこはシーンで出来事を説明しなくても観る人に伝わると信じています。

──『his』を監督してよかったことや、発見はありますか?

裁判シーンを初めて撮れたことや、子供から高齢者までお話を広げてやれてよかったです。そして、LGBTQに限らず、家族や人との暮らし方の距離にいろいろな形があることを考える機会になりました。きちんと調べて向き合ったことで、LGBTQからも漏れる、例えばインターセックスという存在を知って、知らないことがまだまだあることを知りました。とにかく勉強になりました。

映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会
映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会

──20代男女の恋愛を通して、心の機微や葛藤、人間関係を描いてきた今泉監督にとって、今回は、新しい映画になりましたか?

男性同士のお話でしたが、感情や葛藤は男女と違いはなかったです。人の弱さやずるさ、不器用さにはずっと興味があるし、そういう人を主人公にしたお話はずっとやっていきたい。迅は田舎に逃げ込んできているわけですし、渚も迅との未来が怖くなって別れたんだと思います。渚は、自分の存在が迅の迷惑になると思ったんでしょうけど、それは渚の弱さですし、迅と向き合って話せばよかったのにそうしなかった。しかも子供を連れて勝手に戻ってくるので本当にお前は何なんだよと(笑)。でも、そういうことって、性別や時代、年齢に関係なくたくさんあると思います。

──恋愛には人の弱さやずるさ、不器用さが出やすいんでしょうか。

自分の場合は、単純に、恋愛に興味があるんでしょうね。実人生でも。

──結婚されてからも!?

変わらないのが問題なんですけど(笑)。人と人の関係に興味があるので、これからも映画でそこをやるのは変わらないと思います。

(オフィシャル・インタビューより)



今泉力哉(いまいずみりきや)

1981年生まれ、福島県出身。2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。2013年『こっぴどい猫』がトランシルヴァニア国際映画祭で最優秀監督賞受賞。2014年『サッドティー』が公開され、話題に。その他の長編映画に『知らない、ふたり』(16)、『退屈な日々にさようならを』(17)、『パンとバスと2度目のハツコイ』(18)など。2019年4月『愛がなんだ』が、9月には『アイネクライネナハトムジーク』(19)が公開された。現在、田中圭主演の恋愛群像劇『mellow』(20)が公開中。公開待機作に、全編下北沢で撮影した映画『街の上で』(5月1日公開)、松坂桃李主演『あの頃。』がある。




映画『his』 ©2020映画「his」製作委員会

映画『his』
1月24日(金)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー

監督:今泉力哉
出演:宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香
企画・脚本:アサダアツシ
音楽:渡邊崇
配給:ファントム・フィルム
2020年/127分/G/日本

公式サイト


▼映画『his』予告編

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