マーティン・スコセッシが監督を務め、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシが共演するNetflix映画『アイリッシュマン』が、11月27日(水)からの配信に先駆け、11月15日(金)からアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて日本劇場公開される。
この作品は11月5日に閉幕した第32回東京国際映画祭に正式出品され、クロージング上映となる計3回の上映がいずれも満席完売となった。
webDICEでは『アイリッシュマン』の劇場公開にあたり、アメリカのメディアに掲載された情報やスコセッシ監督の発言から、作品の魅力についてまとめた。
映画『アイリッシュマン』
デニーロとスコセッシ、9度目のタッグ
『アイリッシュマン』は、第2次大戦後のアメリカ裏社会を舞台に、全米トラック運転組合のリーダーであるジミー・ホッファの失踪と、殺人容疑をかけられた実在の凄腕ヒットマン、フランク・シーランの半生を描く作品だ。フランク・シーランをロバート・デニーロが、ジミー・ホッファをアル・パチーノが演じている。スコセッシ監督は『タクシードライバー』(1976年)『グッドフェローズ』(1990年)など、これまで8作品でタッグを組んできたデニーロとこの作品を製作することになった経緯を次のように語っている。
「この映画は製作されるまでに困難を極め、10年かかった。しかしデニーロと私はどうしてもあと1作作りたかった。ロバートは2006年の映画『グッド・シェパード』のときに原作となるチャールズ・ブラントの本『I Heard You Paint Houses』(日本での書名は『アイリッシュマン』)を読んで、私にその本をくれた。ロバートがこのキャラクターに繋がりを感じたのがわかった。『カジノ』(1995年)以来、ずっとなにか一緒にやりたいと待っていたからね。彼がほんとうにこのキャラクターを好きであることがわかって、胸を打たれた。だからやることにした」(マーティン・スコセッシ監督)
( 【Entertainment Weekly】Martin Scorsese: The Irishman interview)
この作品でスコセッシ監督は、『スター・ウォーズ』シリーズなどで知られるハリウッドを代表するSFX企業ILM(インダストリアル・ライト&マジック)のデジタル・テクノロジーを導入し、デニーロに中年の役を演じさせるために若返らせている。スコセッシ監督はその効果について、事前のテストで確認していたのでまったく心配はなかったとし、「私たちは素晴らしい進化の時代にいる」と胸を張る。
「登場人物の髪に白髪があるとき、どんな映画でも、特に古い映画だとそれはパウダーを塗ったりカラーリングしたりしている。目元などをメーキャップをしているようにね。でも考え方によっては、それは観客が幻想を受け入れているから、歳をとっているように見える。実際のところ、これは私にとって次のステップのメーキャップなんだ。やってみる価値があることだと本当に感じた」(マーティン・スコセッシ監督)
( 【Entertainment Weekly】Martin Scorsese: The Irishman interview)
映画『アイリッシュマン』
この作品は個人的な叙事詩
108日にわたる撮影で、準備は90日間用意されていたが、3時間半の作品ゆえに過密なスケジュールで製作は進行。VFXスーパーバイザーのパブロ・ヘルマンとILMのチームに対応するための準備も必要だった。撮影監督のロドリゴ・プリエトは、4種類のルックアップテーブル(動画の色調を調整できるツール)を用意。1950年代のコダクローム・フィルム、1960年代のエクタクローム・フィルム、1970年代前半をライトなENR(フィルムの銀要素を残し重たい映像の質感を創り出す「銀残し現像」)、そして1975年のホッファの死後から2000年までをフルのENRと、シーン時代設定により異なる。コダクロームとエクタクロームは非常に色彩が豊かであるものの、年月が経つにつれ次第に褪せていくという特性を活かし、主人公の境遇の変化を映像にも反映させている。
「私は主人公フランクの人生が進んでいくのに合わせて、色彩を落としていきました。彼の晩年は幻滅や後悔の念に満ちているからです」(ロドリゴ・プリエト)
( 【Variety】‘The Irishman’ DP Shares How He Mixed Media to Define the Movie’s Different Eras)
映画『アイリッシュマン』
アメリカのThe Film Stageは、スコセッシ監督とスパイク・リー監督がDGA劇場で行ったトーク・セッションからの発言を引用しながら、スコセッシ監督がこの作品を撮るうえで影響を受けた作品を挙げている。映画は、ジャン=ピエール・メルヴィル監督『いぬ』(1963年)『ギャング』(1966年)ジャック・ベッケル監督『現金に手を出すな』(1954年)ジュールズ・ダッシン監督『男の争い』(1955年)ルイス・ブニュエル『忘れられた人々』(1950年)アルフレッド・ヒッチコック監督『サイコ』(1960年)。そして書籍ではルイ=フェルディナン・セリーヌ『夜の果てへの旅』(1937年)そして、この物語の原作となるチャールズ・ブラントによるノンフィクション『I Heard You Paint Houses』。
「この映画のトーンは瞑想的、そして叙事詩的でなければいけなかった。個人的な叙事詩だ。私は撮影監督のロドリゴ・プリエトにメルヴィルの『いぬ』と『ギャング』を見せた。異なる世界を持つ映画だが、その控えめな表現が好きだったからだ」(マーティン・スコセッシ監督)
( 【The Film Stage】Martin Scorsese on the Films and Books that Influenced ‘The Irishman’)
映画『アイリッシュマン』
ニューヨークではブロードウェイで1ヵ月連続上映
『アイリッシュマン』はアメリカではニューヨークとロサンゼルスの8つのスクリーンで先行上映されている。ニューヨーク・ブロードウェイでは、100年以上の歴史を誇る1,015席のベラスコ劇場をNetflixが11月1日より1ヵ月にわたって借り切って上映中だ。通常ブロードウェイのチケットは100ドル(約10,900円)を上回るが、『アイリッシュマン』の入場料は15ドル(約1,635円)。NYTIXによると、ベラスコ劇場の運営会社シューベルト・オーガニゼーションは、Netflixより差額の支払いの保証を受けているという。
そしてロサンゼルス・ハリウッドでは1922年に建てられた歴史的劇場グローマンズ・エジプシャン・シアター(最大1,397席)で上映される。アメリカでは、「シアトリカル・ウィンドウ」として劇場公開からネット配信までの期間を公開後72日間、場合によっては最大90日間と定めている。New York Timesなどの記事によると、8,200スクリーンを持つアメリカの大手映画館チェーンAMCと、カナダに1,600のスクリーンを持つ映画館チェーン・シネプレックスはこの『アイリッシュマン』のためにNetflixに60日という譲歩案を提示し上映の交渉をしていたが、Netflix側は45日を超えることはないと回答し、全米公開に至らなかった。
ロッテン・トマトのレビューより
ジョン・フォードの『リバティ・バランスを射った男』がウェスタンに与えた影響と同じものを、ギャングスター映画に与える。間違いない傑作だ。(Mick LaSalle/San Francisco Chronicle)
新しいアメリカの古典。(Adam Woodward/Little White Lies)
本当に新しい。繊細さとウィットと余韻に、装飾的なトリックとはかけ離れた穏やかで確信的なテクニックに、贅沢なプロダクションに、そして壮大な物語に深く満足できる。(Joe Morgenstern/Wall Street Journal)
1973年の『ミーン・ストリート』以来、スコセッシはギャングスター映画のマスターであることが何度も証明されており、『アイリッシュマン』には暴力や緊張から魅惑的な世俗まで、犯罪映画愛好家が望むすべてのものがある。(Brian Truitt/USA Today)
映画『アイリッシュマン』
11月15日(金)よりアップリンク渋谷・アップリンク吉祥寺ほかにて上映
監督:マーティン・スコセッシ
キャスト:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ぺシ
209分/カラー/英語/2019年/アメリカ/PG12
▼映画『アイリッシュマン』予告編
【Netflix映画 今後の劇場公開作品】
『失くした体』
劇場公開:11月22日(金)、Netflix配信:11月29日(金)
『マリッジ・ストーリー』
劇場公開:11月29日(金)、Netflix配信:12月6日(金)
『2人のローマ教皇』
劇場公開:12月13日(金)、Netflix配信:12月20日(金)