トークゲストのwarmerwarmer代表・高橋一也氏(左)と、聞き手のアップリンク代表・浅井隆(右)
「アップリンク・アースライフシリーズ 上映+トークイベント」は、映画で「問題提起」、トークで問題解決の「実際例」、そして「考え、行動する」イベントシリーズです。
去る8月31日(土)、このシリーズの最終回がアップリンク渋谷にて開催され、ドキュメンタリー映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』の上映後に、古来種野菜の販売やコーディネートを手がけるwarmerwarmer代表・高橋一也さんがトークゲストとして登壇しました。
『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』は、3人の子供を育てる映画監督が、遺伝子組み換え市場シェア90%のモンサント本社や、ノルウェーにある種を保管する“種子銀行”の巨大な冷凍貯蔵庫などを訪れて、遺伝子組み換え食品の真実を追うドキュメンタリー映画です。
学校・公民館・カフェ・イベントスペースなどでの自主上映を受付中です。詳細はアップリンク自主上映のページをご覧ください。
また、『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』はアップリンク・クラウドにて500円にて配信中です。
▼映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』予告編
100年後の未来のために、人間はどうすべきか
浅井隆(アップリンク代表 以下、浅井):この「アップリンク・アースライフシリーズ 上映+トークイベント」の最終回となる今回、問題提起として取り上げた映画は、『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』です。まさにタイトル通りの問題提起です。高橋さんの活動から、どんな解決策があるのかを語っていただきます。改めて映画をご覧になっていかがでしたか?
高橋一也(warmerwarmer代表 以下、高橋):現在、取り引きをしている90軒の農家さんを訪ねて全国を回っていると、農家さんそれぞれのメッセージというものがあります。この映画でも、あまりにもいい言葉が多くて、メモだらけになってしまいました。ヴァンダナ・シヴァさんをはじめ、世界の様々な立場の人が、すばらしいメッセージを発信していました。それを自分たちがどう受け止め、日本でいかに活動していくかを考えるきっかけになる映画だと改めて思いました。
4年前にメキシコで種を守る活動をされている方と対談をしたのですが、メキシコでも遺伝子組み換えについては、国が大企業寄りで本当に深刻な状況です。先日は台湾から農水省の方が5人いらっしゃって、在来作物を保護するアドバイスを聞きに来られました。日本は、遺伝子組み換えについては国がある程度は禁止していますが、世界的にどんどん在来作物が途絶えそうになっています。
企業が遺伝子組み換えのような科学の力を行使することに対して、これから100年後の未来を考えた時、人間はどうしたらいいのかが問われていると、映画を通じて感じました。
浅井:アップリンクは2009年に、学校給食と高齢者の宅配給食をオーガニックにするという前例のない試みに挑戦する南フランスの村を追った『未来の食卓』というドキュメンタリー映画を配給しました。その公開時には、上映する映画館側から、「オーガニックという言葉は新興宗教っぽいので、宣伝であまり前面に出さないで下さい」と言われたことを、今でも忘れません。10年前はそういう状況でしたが、その後、オーガニックは食べ物だけではなく、コットンや化粧品などをはじめライフスタイルの一部になったし、あらゆる面で浸透したと思います。
『未来の食卓』のジャン=ポール・ジョー監督は、次作の『セヴァンの地球のなおし方』や『世界が食べられなくなる日』というドキュメンタリー映画でも、遺伝子組み換え技術ともう一つ、人間が生み出した原子力技術について描いています。電気を安く提供することを旗印に原子力発電所が作られ、遺伝子組み換えも安く大量に食糧を栽培する目的で開発したということですね。
高橋:自然と科学が混在しているのが、今の社会の状況なのでしょうね。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
本来、野菜はバラバラなもの
浅井:今、市場に流通している野菜や種のほとんどがF1種(first filial generation/一代交配種)ですよね? 代々同じ形質が受け継がれる固定種と違って、F1種は異なる形質の種を交配させて、一世代では優勢の法則で優れた形質を持つけれど、ニ世代では隠れていた劣性形質が出てくるから、自家採種しても同じものは作れない。だから毎年種を買わなければならないというものですが、このF1種については、どう思いますか?
高橋:現在市場に出ている野菜の9割はF1種です。戦後、焼野原で日本に食べ物が無かった時代、食料を安定供給しなければならないと種屋さんが考えて、収量のいいものをまず開発していくわけですね。F1種を一言でいうと、人為的に規格を揃えるとか、収量を多くなるようにとか、目的をもって交配させた種のことです。
浅井:交配だから遺伝子組み換えではない?
高橋:遺伝子組み換えではないです。私たちもF1種の野菜を今も悪い意味ではとらえていません。必要とする人がいて、それで社会が成り立つ社会システムというものがある。という風に私たちは思っている。
ただ、本来、野菜はバラバラなものです。人間と一緒で、何一つ同じ形の野菜はない。同じ規格の野菜が店頭に並んでいるので、私たちはそれを自然だと思ってしまっていますが。逆にバラバラだと不自然という感覚になっています。
浅井:野菜を買う人が画一化された野菜を望むと、作る側も合わせて作らないとはじかれるわけですね。
高橋:「在来作物はお金にならないので、お金になる野菜に変えましょう」と、長距離輸送にむいた新しい品種の野菜を紹介するなど、農協が地方の農家の意識をどんどん変えていったんです。悪い意味ではありません。その方が東京で売れますから。例えば、昔の柔らかいネギを作っている農家さんのところに行って、「東京で求められている硬いネギを作りましょう」と。それで昔からの在来作物の種採りをやめて、種を買うという農業に変わっていきます。そのことを、戦後ずっとやってきてしまったんです。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
人間視点から自然視点へ
浅井:食べる側とすると、F1種と古来種の違いは何ですか? 美味しさでしょうか? 家計を考えると有機野菜は高い。美味しいという一点があれば、高くても買うかもしれませんが。
高橋:「美味しい」という基準も人によって違いますよね。
浅井:マクドナルドが美味しいと思っている人もたくさんいるし。その場の雰囲気で美味しいと感じることもありますよね。
高橋:みんなで食べることも美味しいし。食べ物は生きるために口にするもので、美味しいか美味しくないかって判断するのはするのは違うなと、いつも思っています。
浅井:ただ、これは美味しい野菜ですと言ってもらえると、買う方も心が動きますよね。
高橋:古来種野菜は食べたら複雑な味があり、えぐみ、にがみ、驚きがあります。野菜ってこんなに複雑な味がするんだということを知ってほしいです。例えるなら、コンビニで買う単味のオレンジジュースと、自分で切って絞ったオレンジジュースとの違いのような。自分で絞ると皮の味が入っていたり、複雑な味がしますよね。
浅井:(観客に向かって)高橋さんの野菜食べたことがある方はいますか? どんな味でしたか?
観客1:味が濃くて、とてもおいしいと思いました。大量生産の野菜は味が薄いけれど、野菜がとても生きている感じがしました。
観客2:キュウリは、えぐみがあってビックリしました。美味しいというか力強い。ナスも、中身が詰まっていて、ズッシリ身体にくるような重量感を感じました。
高橋:そうだ。浅井さん、キュウリを食べてみてください。食べてもらうのが一番いい。どうですか。
浅井:「美味しい」というのは個人差があるので、「複雑な味」という表現が正しいかもしれません。このキュウリと比較すると、今朝食べたF1種のキュウリは水っぽかったです。でも、「美味しい」って言ったほうが分かりやすくないですか?
高橋:本当は強く言いたいですよ。
浅井:このキュウリは、「野菜本来の味」と言うのも抽象的な表現だけど、それは感じます。F1種より密度は感じます。
高橋:よかったです。オクラも食べてみて下さい。本当は茹でた方がいいですが。
浅井:美味しい。これなら生で食べられます。売っているオクラより大きいですね。
トークゲストのwarmerwarmer代表・高橋一也氏(左)と、聞き手のアップリンク代表・浅井隆(右)
浅井:僕がお客だったとして、どうやってこれをセールスしますか?
高橋:「買いたいと思いますか?」と聞きます。買いたくないと言われたら「わかりました」と答えます。セールスすること自体も、あまりピンとこないのです。
浅井:ナチュラルハウスに勤めていらした時には、セールスをしたでしょう?
高橋:しましたよ。販促やプロモーションも組みましたし。お客さんをどう説得するかと考えましたね。
浅井:なぜ独立しようと思ったのですか?
高橋:マーケティングや販売戦略で自分たちが生き延びようとか、世の中を作っていこうというのが、人間視点のように思えたんです。私たちは自然の中で生かされているので、自然視点に変えて、自然に寄り添ってみたらどうかと。それで、こういう野菜と付き合っていくようになって、とても楽になりました。「セールスするって必要なことなのか?」と考えるようにもなりました。
最初は一生懸命に人を変えようと思ってやっていたんですよ。「この途絶えそうになっている在来作物の種を、一人の農家さんが守っています。だから皆さん、一緒にやっていきましょう」と訴えていました。しかし、例えば飲食店さんに行って説明しても、安定供給を求めなければならない事情があります。そういう中で人を変えようとしても、ダメだと気づいたんです。
でも同時に、古来種野菜の大切さを感じてくれる人が、社会にいることにも気づいた。だから、感じてくれる人と一緒にやればいいんだとわかった。企業として大きくならなくても目的もなくていい。それをどう持続していくか、古来種野菜をどう残していくかが大事だと気づいたんです。
浅井:社員は何人ぐらいですか?
高橋:最初から私と妻の二人です。社員は二人だけれど、取り引きしている農家さんは90人いる。全国で野菜を作って下さっている。だから農家さんも、勝手に言ってしまえば、社員だと思っています。
社員が多ければいいというものではありません。人の輪が徐々に広がっていき、取り引きしている農家の方と、買って食べてくれる方が、私たちのコミュニティであり、一緒にやっているメンバーですね。
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
種を継いでいる農家の方と無理なくやっていく
浅井:全国の農家から野菜を買い取りされているのですか?
高橋:はい、すべて買い取りです。取り引きをさせていただいているのは、北海道から沖縄まで全国90人の農家の方々です。マーケティングをせずにバランスをとって行っています。それが無理なく自然なことだと思うからです。農家さんのリズムもありますし。高齢化している80歳、90歳の方からお野菜をいただいているので。
糠塚キュウリを一人で作っていた金濱一美さんという方が3ヵ月前に亡くなりました。亡くなる前に9人の方に5年をかけて技術を教え続け、種を継いでいました。それぞれの地域で、在来作物の種を継いでいる方が、高齢でお亡くなりになられています。
しかし最近では、古来から続く野菜の種を引き継ぐ若い人も出てきています。地域のものを絶やしてはいけない、先祖が守ってきたものだからという意識を持っている。取り引きしている全国の農家さんが大事にしていることをどう続けていくかを、私たちは最優先にしています。流行りではなく、僕たちは日常を作りたい。だから、あせらず、ゆっくり自分たちと同じ価値観を持つ人たちと、できる範囲でやっていきたいと思っています。
高橋一也(warmerwarmer代表)
1970年生まれ。高等学校卒業後、中国上海の華東師範大学に留学。その後(株)キハチアンドエス青山本店に調理師として勤務するなか「有機野菜」と出逢う。1998年に自然食品小売業(株)ナチュラルハウスに入社し、取締役へ就任。2011年3月の東日本大震災をきっかけにwarmerwarmerとして独立。古来種野菜(固定種・在来種)の販売や、生産者を守るための活動、次世代のオーガニック市場の開拓に取り組む。著書に『古来種野菜を食べてください』(晶文社)、『八百屋とかんがえるオーガニック』(アノニマ・スタジオ)。NHKラジオ『ラジオ深夜便』にて「やさいの日本地図」のコーナーを担当。「伝統野菜の八百屋」という愛称で親しまれている。
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