骰子の眼

cinema

東京都 その他

2019-07-25 22:30


過酷な自然に文化の壁!グリーンランドで奮闘する青年教師『北の果ての小さな村で』

北極に位置する人口わずか80人の村は、冬の間世界から切り離され孤立する
過酷な自然に文化の壁!グリーンランドで奮闘する青年教師『北の果ての小さな村で』
映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema

北極圏の島国グリーンランドを舞台に、人口80人の村の小学校に赴任したデンマーク人教師と村の人びととの交流を描く映画『北の果ての小さな村で』が7月27日(土)よりシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺にて公開。webDICEではサミュエル・コラルデ監督のインタビューを掲載する。

CPH:DOXという、デンマークのコペンハーゲンで開催されるドキュメンタリー映画祭に数年前に参加した時のことだ。グリーンランド出身の若い女性フィルムメーカーとカフェで話していて初めて知ったことがある。グリーンランドは、かつてデンマークの植民地で、現在はデンマーク国に併合されているが、独立運動の機運もあるという。グリーンランドの歴史を恥ずかしながら全然知らなかった僕は、現在の独立運動などをドキュメンタリーにしたら面白いと思うし、世界の人は知りたいと思うよと、話した記憶がある。

ウィキペディアには次のように書かれている。「2008年グリーンランドで自治拡大を問う住民投票が行われた。開票の結果、賛成75.54%、反対23.57%で承認された。投票率は71.96%だった。グリーンランドのエノクセン首相は『遠くない将来に完全独立が実現することを望む』と語った。これにより公用語をグリーンランド語と明記し、警察と司法、沿岸警備などの権限が中央政府から自治政府に移譲されることとなった」

デンマークからグリーンランドに赴任してきた教師を、なかばドキュメンタリーのように撮影し、この映画は作られたと監督は語っている。映画の視点はその教師を描くことにフォーカスをあて、デンマークからの独立運動など政治的なことは描かれていないが、そういうバックグランウドがあるという事を知った上で映画を観ると、小さな物語により奥行きを感じられると思う。

(文:浅井隆)


撮影前に村とそこに住む人々のリズムのなかで暮らした

──グリーンランドを舞台にした理由は何ですか。

フランス国立映像音響芸術学院(La femis)を経て、撮影監督として活動していました。一番初めに撮ったドキュメンタリーは、フランス東部の雪に覆われたジュラ山脈にある実家の農場を描いたものです。このころから、牧歌的で雪に覆われた遠く離れている世界、グリーンランドで撮影したいという欲望が湧きました。

映画『北の果ての小さな村で』サミュエル・コラルデ監督 Photo:Karine Collardey
映画『北の果ての小さな村で』サミュエル・コラルデ監督 Photo:Karine Collardey

──舞台となるチニツキラーク村との出会いについて教えてください。

2015年にはじめてグリーンランドの東海岸にあるタシーラクという地域を旅しました。タシーラクはこの地域で一番大きな都市で、2000人の住民がいます。旅の途中で、デンマークで電気技師の訓練を受けていた時に英語を学んだというジュリアスと出会いました。タシーラクを囲む5つの小さな村をジュリアスが案内してくれ、私は、彼の故郷であるチニツキラーク村を舞台にしようと即決したのです。

映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema
映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema

──村の人々は、撮影することをすぐに受け入れてくれたのですか。

撮影前にチニツキラークを3回訪れて、それぞれ数ヶ月にわたって滞在しました。私の家からチニツキラークまでは、およそ一週間かかるんです!そこでは、村とそこに住む人々のリズムのなかで暮らしました。男性たちと一緒に狩りや釣りに行ったり、ある家族と夕食を共にしてアザラシや鯨を食べたりしました。洗礼式やお葬式といったあらゆる行事にも参加しましたね。だんだん、ジュリアスの友達や家族が私を受け入れてくれるようになりました。

──実際に生活して、どのような印象を持ちましたか。

最も印象的だったことは、「孤立(isolation)」です。チニツキラークは、広大な大地に対して人口が80人と非常に少ないです。冬の間は、数週間あるいは数か月もの間、世界から切り離されてしまいます。この作品の主人公であるアンダースのようなアウトサイダーにとって、こういった寂しさを伴う孤独はとても辛かったと思います。

映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema
映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema

アンダースはジレンマを抱えながらも頼もしい話を紡いでくれるはずだと思った

──主人公のデンマークの新人教師役のアンダースとはどのように出会ったのですか。

撮影前に滞在している時に、村にある小学校で教師をしているベティーナという女性に出会いました。村に暮らしているほとんどすべての家族とやりとりする唯一の存在が教師であり、人々の生活において重要な役割をもっています。2016年の春に、ベティーナから退職するという連絡をもらいました。後任の新しい教師が新学期にあわせてチニツキラークに赴任するという話でした。

このとき、私は作品の主人公を探している最中で、猟師のトビアスにしようか、あるいはジュリアスにしようかなどと悩んでいました。そんな時にちょうどデンマーク人教師の新たな赴任を知り、それがアンダースだったのです。このコミュニティの日々の生活を伝える最良の方法は彼だと思いました。自分の居場所をみつけるために、新しい友人をつくるために、孤独や孤立とたたかうために、彼はすべてを学ばなければいけないのです。

映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema
映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema

──アンダースと初めて会ったときの印象は。

ベティーナから話を聞いた数ヶ月後に、やっとチニツキラークに赴任する人物の名前と住所を知り、アンダースに連絡をとってデンマーク北部へ会いにいきました。アンダースは、北欧人らしいがっしりとした体形で、ブロンドの無精ひげを生やした、シャイで控えめだけど明るい青年でした。

そして、共に過ごした夜に、彼の父親が7世代続く農場を営んでいることを知りました。そこから少しずつ、私はアンダースが微妙な状況にいることを理解しました。彼の父親は75歳で、息子が農場を継いで8世代目になることを期待している。一方アンダースは、家業の伝統を壊したくないと思う反面、農家が天職だとも思っていない。

それを聞いて私は、グリーンランドでの仕事に対するアンダースの本当の動機を理解しました。ジレンマを抱えながらも、彼は、頼もしい話を紡いでくれるはずだと思ったのです。

映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema
映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema

──撮影はどのように行われたのですか。

6回のセッションに分けて、それぞれ3~6週間にわたり撮影しました。5人チームで撮影をしましたが、トータルでの撮影期間は1年以上にも及びました。各撮影期間の間には、脚本家と編集とともに次の撮影の準備をしました。

家族の食卓や学校の様子、日々の生活の瞬間などのショットは完全にドキュメンタリーですが、本編終盤の探検など、多かれ少なかれ演出が必要とされたショットもあったので、村のみなさんにも協力してもらいました。本作の大部分は、このように質の異なるショットを編集でつないで作っています。

──撮影中困難だったこと、印象に残っているエピソードなどがあれば教えてください。

寒さが一番厳しかったのでは、と想像するかもしれませんが、それは違います。撮影で最も困難だったことは、村人たちとのコミュニケーション、言葉の壁です。村にはジュリアスしか英語を話せる人がおらず、彼なしでは他の人とのコミュニケーションは不可能でした。時々、通訳の段階で伝えたい情報が多く抜け落ちてしまうこともありました。撮影や演出について相手に正確に情報を伝える必要があるとき、非常に難しいなと感じました。チニツキラークでの撮影は、私を忍耐強くしましたよ。

(オフィシャル・インタビューより)



サミュエル・コラルデ(Samuel Collardey)

1975年フランス、ブザンソン生まれ。フランスの映画監督であり撮影監督。これまでの監督作に、カンヌ国際映画祭でSACD賞を受賞した“Du soleil en hiver”、ヴェネチア国際映画祭で国際批評家週間作品賞を受賞した“L’APPRENTI”、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で俳優賞を受賞した“TEMPÊTE”などがある。“COMME UN LION”では、プロサッカー選手を目指すセネガル出身の一般青年を主人公に抜擢するなど、ドキュフィクション(ドキュメンタリー的要素のつまったフィクション作品)を得意とする。他に、高い評価を得た政治スリラーのテレビシリーズ“The Bureau”でも、いくつかのエピソードで監督を務めた。




映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema
映画『北の果ての小さな村で』 © 2018 Geko Films and France 3 Cinema

映画『北の果ての小さな村で』
7月27日(土)シネスイッチ銀座・アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー

監督・撮影・脚本:サミュエル・コラルデ
脚本:カトリーヌ・パイエ
出演:アンダース・ヴィーデゴー、アサー・ボアセン、チニツキラーク村の人々
カメラアシスタント・ドローン操縦:シャルル・ウィレルム
編集:ジュリアン・ラシュレ
音楽:エルワン・シャンドン
エンディング:「Giant in a Shell」ミレーヌ・バリヨン
プロデューサー:グレゴワール・ドゥバイ
原題:Une annee polaire
英題:A POLAR YEAR
配給:ザジフィルムズ
2017年/フランス/グリーンランド語、デンマーク語/94分/カラー/5.1ch/1:2.39

公式サイト


▼映画『北の果ての小さな村で』予告編

キーワード:

グリーンランド


レビュー(0)


コメント(0)