骰子の眼

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東京都 渋谷区

2019-07-04 17:37


ポール・ダノ初監督作『ワイルドライフ』壊れゆく家族を14歳の息子の視点で描く

キャリー・マリガン&ジェイク・ギレンホール主演、ゾーイ・カザン共同脚本
ポール・ダノ初監督作『ワイルドライフ』壊れゆく家族を14歳の息子の視点で描く
映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.

俳優ポール・ダノの初監督作『ワイルドライフ』7月5日(金)より公開。キャリー・マリガンとジェイク・ギレンホールが夫婦役を演じ、ダノがパートナーのゾーイ・カザンと共同で脚本・製作も手がけ、ピュリッツァー賞作家リチャード・フォードの同名小説を原作に、幸せな家庭が次第に崩壊していく過程を14歳の息子の姿を通して映し出している。webDICEではポール・ダノ監督のインタビューを掲載する。

『スイス・アーミー・マン』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』など、出演作ごとに強烈な印象を残す個性派のダノだが、今作ではアメリカ映画のスタンダードなテーマである家族の絆を抑制されたタッチと、寂しげな色彩と美しい構図で描く。今回のインタビューでも「父親と母親、どちらのことも断罪したくはなかった」と語っているように、夫の不在により孤独にさいなまれる妻ジャネット、そして夢を追い求めながらも挫折し自己喪失に陥る夫ジュリー、双方のキャラクターどちらにも肩入れせず、息子ジョーが二人の対立を経て成長していく姿を中心に据えている。家族の絆は必要なものなのか否か、この作品を観てあらためて思いを巡らせてほしい。


「アメリカン・ドリームに挫折して自分を失見った父親も、良い母であろうと頑張っていたのが現実の困難に直面して躓(つまず)く母親も、どちらのキャラクターも断罪したくはなかった。お互いに許すにしろ許さないにしろ、やはり家族という絆があるものなのか、観客それぞれに考えて欲しいと思ったんだ」(ポール・ダノ監督)


親とはなんだろう、という疑問

──あなたは5年以上も前から、リチャード・フォードのこの原作の映画化を考えていたそうですが、そこまで惹かれた理由はなんですか。

じつはこの原作に出会う前から、もし自分が初めて映画を撮るとしたら、家族についての話になるだろうと思っていたんだ。僕が子供の頃を振り返って、たくさんの愛情に恵まれていたと同時に、困難なこともあった。覚えているのは、そういう時代を経て、ある朝起きたときに突然自分が大人になったような、これまでとは違う気分になったことだ。親とはなんだろう、という疑問にとらわれて、そこから何か答えを見つけたいというオブセッションで頭が一杯になった。それであるとき偶然フォードの原作をみつけて、1ページ目を開いたとたん、虜になった。これはきっと気に入る本にちがいないと直感的に思ったんだけど、実際その通りになった。でも映画化しようという決心がついたのは、このストーリーの最後の映像が頭に浮かんでからだ。それが見えてようやく、僕にも映画化できるかもしれないと思ったんだ。

映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.
映画『ワイルドライフ』ポール・ダノ監督(左)とジェイク・ギレンホール ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.

──脚本は、あなたのパートナー、ゾエ・カザンと一緒に執筆されていますが、そのプロセスはどのようなものでしたか。

僕が最初のドラフトを書いて、僕自身はけっこういいと思ったんだけど、それを彼女に見せたら満足しなくて(笑)。彼女はプロの脚本家でもあるから厳しいんだ。それから何時間も話しあって、そのあと彼女が手を入れたものをみせてもらって、また僕が手を入れて、ということを何度か繰り返した。実際に一緒に書く、というやり方はしなかったよ。たぶんそれをやったらお互い、クレイジーな気分になっただろう(笑)。

映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.
映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.

──これは14歳の少年の成長物語で、彼の視点から両親のことが描かれていますが、あなた自身がこの少年と重なり合うところが大きかったということでしょうか。

そうだね。彼に深い同情を感じたし、彼だけじゃなく両親に対してもとても共感した。この家族の苦難に心を奪われたよ。これは少年の視点を通したファミリーの肖像で、彼らの困難を描くことはセラピーとは言わないまでも、僕にとってはとても意義があった。観客も少年の視点を通して、彼とともに長い旅を経験する。彼の成長によって彼が感じる変化を、観客にも経験してもらえたら嬉しい。

映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.
映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.

どこか新しさと古さが混じった雰囲気

──主演の3人が素晴らしいですが、キャスティングについて教えてください。

キャスティングはまずジャネット役から始めた。ゾエは何年も前にキャリー(・マリガン)と一緒に仕事をしたことがあって、彼女のことを知っていた。素晴らしい女優だから、彼女に演じてもらえて光栄だった。それに彼女がジェイクと知り合いなのを知っていたし、彼女を通してジェイクに会ったこともあったから、このふたりのコンビネーションはうまくいくと思ったんだ。

少年役のエド(・オクセンボウルド)を見つけることができたのは、とてもラッキーだった。彼はオーストラリアの俳優で、すごく賢い。出会ったときはまだ15歳だったけれど、現場ではジェイクとキャリーに囲まれて一歩も引けを取らない存在感があった。

映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.
映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.

──映像が美しく、とても印象的です。映像の狙いについて伺えますか。

映像に関しては、写真家のスティーブン・ショアや、エドワード・ホッパーの絵画などを参考にした。それにクラシックなアメリカ映画、いくつかのアジア映画などからも影響を受けた。撮り方に関しては、誠実さを出したかった。たとえばカメラは必要なときだけ動かすこと。こういうストーリーにあったフィルムメーキングをしたかったんだ。そしてどこか新しさと古さが混じった雰囲気をもたらしたかった。

映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.
映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.

──両親のキャラクターは、観る人によって捉え方が異なりそうですね。あなた自身のキャラクターへの見方と、描き方の意図を教えてください。

僕はどちらのキャラクターのことも断罪したくはなかった。父親は、アメリカン・ドリームに挫折して、自分を見失う。どうしていいかわからなくなるんだ。でも彼もまた、映画の最後に向かって成熟する。母親は、この時代の母親たちがそうであるように、良い母であろうと頑張っていたのが、現実の困難に直面して躓(つまず)く。映画の描き方にグレーなところがあるとしたら、僕自身、そういうグレーな部分を残したいと思ったのと、これが息子の視点から描いたものであるから。母親にいったい何が起こっているのか、彼は不安とともに観察する。キャリーは素晴らしくて、そういう母親の揺れ動く部分をものすごくうまく表現してくれたと思う。

結果的に観た人それぞれに判断を委ねたいと思った。そして家族というのは、たとえ何があっても、お互いに許すにしろ許さないにしろ、やはり家族という絆があるものなのか、それも観客それぞれに考えて欲しいと思ったんだ。

(オフィシャル・インタビューより)



ポール・ダノ(Paul Dano)

1984年、アメリカ・ニューヨーク州出身。17歳の時に出演した『L.I.E(原題)』(01)で映画デビュー、インディペンデット・スピリット賞最優秀デビュー演技賞を受賞。『リトル・ミス・サンシャイン』(06)で注目を浴び、2007年、アカデミー賞作品賞にノミネートされた、ポール・トーマス・アンダーソン監督『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で、英国アカデミー賞助演男優賞にノミネート。15年『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』ではゴッサム・インディペンデント映画賞の最優秀男優賞を受賞した。その他、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『プリズナーズ』(13)、アカデミー賞作品賞に輝いたスティーブ・マックィーン監督『それでも夜は明ける』(13)、パオロ・ソレンティーノ監督『グランドフィナーレ』(15)、ポン・ジュノ監督のNetflixオリジナル映画『オクジャ/okja』など名だたる監督たちの作品に出演している。また『ルビー・スパークス』(12)では主演&製作を務め、出演&脚本のゾーイ・カザンとはプライベートでもパートナーで、2018年に第一子が誕生した。ゾーイ・カザンは本作『ワイルドライフ』でもダノと共同脚本を務める。




映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.
映画『ワイルドライフ』 ©2018 WILDLIFE 2016,LLC.

映画『ワイルドライフ』
7月5日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

監督:ポール・ダノ
脚本:ポール・ダノ/ゾーイ・カザン
音楽:デヴィッド・ラング
撮影:ディエゴ・ガルシア
出演:キャリー・マリガン ジェイク・ギレンホール エド・オクセンボールド ビル・キャンプ
2018年/アメリカ/105分/カラー/アメリカンビスタ/PG-12
字幕翻訳:牧野琴子
原題:WILDLIFE
配給:キノフィルムズ

公式サイト


▼映画『ワイルドライフ』予告編

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