映画『ペトラは静かに対峙する』 ©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE
これまで発表した長編6作のうち5作がカンヌ映画祭に選出されているスペインのハイメ・ロサレス監督が、カタルーニャの美しい田園を舞台に描くサスペンス『ペトラは静かに対峙する』が6月29日(土)より公開。webDICEではロサレス監督のインタビューを掲載する。
人気彫刻家ジャウメの制作協力のために彼の邸宅を訪れた画家のペトラ。自身の出生の秘密を探るペトラの本当の目的は、ジャウメが自分の父ではないかという疑惑を確かめることだった。『マジカル・ガール』などで進境著しいスペインの女優バルバラ・レニーが、葛藤を抱えながら家族の秘密を探る女性ペトラを演じている。ロサレス監督は、ギリシャ神話からハリウッド映画まで数多く題材となってきた「父親探し」をめぐる物語を、時系列を前後させる構成と、ゆったりと移動するカメラが浮かび上がらせる不穏なムードにより、展開の読めないサスペンスと同時に、悲劇の連鎖に立ち向かうペトラの毅然とした生き方に焦点を当てる人間ドラマとして仕上げている。
「観客に喜んでもらうことはとても難しくなりました。なぜなら、もし提示しすぎると、彼らは簡単すぎると言って映画を貶すでしょう。そして、もし、少ししか提示しなかったとしたら、わかりづらいと言って貶すでしょう。ちょうど良いものを見せないといけないが、多すぎてもいけないし、心を動かすバランスは難しいものです」(ハイメ・ロサレス監督)
からっぽの場所には天使がいる
──『ペトラは静かに対峙する』は今までのあなたの作品と比べて変化がありましたか?
はい、コンセプトの面で変化がありました。私の映画にはコアとなるひとつのテーマがありました。そして、そこからフォームを追求していきました。それに反して、本作では観る者の視点から考えていきました。私はどんな観客に興味を引かれるのか、またその観客は何に興味があるのか。その観客に届けるために、また映画に徐々に組み込まれていくテーマにとって正確な映画の形を見つけるために、綿密に計画を立てました。予算の面では、これは『ソリチュード:孤独のかけら』に類似していました。そしてまた、独特な美的特性を持っています。それは他の作品とは異なります。私は、それぞれの映画にとってふさわしい形を見つけるようにしています。
映画『ペトラは静かに対峙する』ハイメ・ロサレス監督(右)と主演のバルバラ・レニー(左) ©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE
『ぺトラは静かに対峙する』には複数のテーマがあります。観る者それぞれが自分でテーマを定義するでしょう。しかし、アイデンティティは大切です。運命と、善悪の戦いも同じく。プロット全体に悲劇の静脈が流れています。もし私が『ぺトラは静かに対峙する』の主題を要約するとしたら、本作は探求と贖罪についての映画であると言うでしょう。
映画『ペトラは静かに対峙する』 ©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE
──どのように準備を進めましたか?
映画を形作る前に、私は学び直す必要がありました。最も優れた映画の学校は、映画と、映画についての本で構成されてます。今一度、私は本を読み映画を見て、数年間鍛錬しました。クラシック映画やモダンクラシック映画を観直しました。映画の観客はいい時間を過ごしたいのです。彼らはわくわくしたり感動したり、驚きたい。驚きはドラマへの興味を増やす活力です。全過程が作品作りの肉付けとなり、それが作品の魅力となります。共同で脚本を書いたミシェル・ガスタンビデとクララ・ロケとともに、クラシック映画へ立ち戻りました。アリストテレスが我々の灯台でした。「あらゆるものが驚きであり必要なものである」あらゆるものが観客を映画の深部へと招待し、その中を旅してもらうために考えられているのです。その旅は内面的なもの。登場人物や観客自身の内側へ向かう旅です。
──映画の中でカメラは静かに移動し、役者たちのいない空っぽの場所を映し出しますね。幽霊の存在のようなものを感じます。
確かに。でも私は幽霊ではなく天使がいるのだと思っています。それは、人間に何が起こっているのか、天使が観察しているようなものです。なぜなら、それは二面性を持っているからです。この世界とそれを超越したものの両面性。情緒的なものの見方であると同時に、表面的で、登場人物の運命には介入しない。映画全体がそのようなものの見方に貫かれています。技術的な話をすると、ステディカムとシネスコサイズの35㎜のフィルムで撮影された一連のショットによって、これは実現したのです。
映画『ペトラは静かに対峙する』 ©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE
私は、自分の映画に対する解釈を楽しんでいる
──アカペラのサウンドトラックがギリシャ悲劇的な要素を特に強調しているように思います。
そうですね。ドラマ的観点からすると『ペトラは静かに対峙する』は二つの異なるルーツから始まっています。一つは実の父を探している女性というアイデア。もう一つは彼女の母の死のエピソード以降、彼女の父親かもしれない、破壊のために大きな力を持つギリシャ悲劇的人物とともに、見られる全ての古典的な構造です。
また私の映画の中では、二つのひらめきの源泉があります。北米のクラシック映画と現代のヨーロッパ映画です。アメリカの映画はエンターテインメントの究極の形へ達したが、それはあまりにも陳腐です。例えば『スターウォーズ』シリーズがそうなってしまったように。
映画『ペトラは静かに対峙する』 ©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE
一方でヨーロッパ映画には全く逆のことが起こっています。度を超えた過激さや難解さへとじわじわと向かって行っています。ゴダールはいまだにそうです。重すぎる出来事が起こる映画に出会うでしょう。そこには、映画は心地よくて夢中にさせる経験だが、比較的単純な描き方であってもそれを解釈したいと考える観客がいるのでしょう。それから私は、自分の映画に対する解釈を楽しんでいます。(私のそれぞれの映画の)トピックは繰り返さないようにしています。私は自分の作品が様々に解釈してもらえるように心がけました。
映画『ペトラは静かに対峙する』 ©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE
──時系列が前後する『ペトラは静かに対峙する』の変わった構成は、観客に解釈を促しますね。
観客に喜んでもらうことはとても難しくなりました。なぜなら、もし提示しすぎると、彼らは簡単すぎると言って映画を貶すでしょう。そして、もし、少ししか提示しなかったとしたら、わかりづらいと言って貶すでしょう。ちょうど良いものを見せないといけないが、多すぎてもいけないし、心を動かすバランスは難しいものです。脚本はこうしたタイプの構造に影響をもたらします。先が読めるような展開にせずに、我々は直線的な構成を捨てました。そしてそういった構成が、解釈する努力を要するのです。しかし、我々は観客にさらなる努力を促します。それぞれの章の頭にタイトルをつけ、何が起こるかを予め知らせるのです。しかし、毎回ではありません。観客は追いつ追われつのゲームを楽しむのです。それは、満足いく形で実現するのはとても難しいものです。脚本は20通り用意しなければいけませんでしたし、驚きの要素を生み出すカメラを動きを追求していたので、撮影もまた複雑でした。観客の知性を刺激するような何かを探すよう心掛けました。ヒマラヤ登山をするほどではありませんが骨の折れる作業でした。
(オフィシャル・インタビューより)
ハイメ・ロサレス(Jaime Rosales)
1970年、スペイン・バルセロナ生まれ。ESADEビジネススクールで経営経済学の学士を取得後、1996年ハヴァナのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョス キューバ国際映画テレビ学校(EICTV)の奨学金を得て映画を学び始めた。その後、シドニーのオーストラリア映画テレビ・ラジオ学校(AFTRS)に入学。2000年に製作会社Fresdeval Filmsを設立し、監督としてキャリアをスタートした。2003年『The Hours Of The Day』、2007年『ソリチュード:孤独のかけら』、2014年『Beautiful Youth』の3作がカンヌ国際映画祭ある視点部門正式出品、そして2012年『The Dream And The Silence』と『ペトラは静かに対峙する』がカンヌ国際映画祭監督週間正式出品となる。
映画『ペトラは静かに対峙する』
6月29日(土)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
監督・脚本:ハイメ・ロサレス
出演:バルバラ・レニー、アレックス・ブレンデミュール、ジョアン・ボテイ、マリサ・パレデス、ペトラ・マルティネス
共同脚本:ミシェル・ガスタンビデ、クララ・ロケ
撮影監督:エレーヌ・ルヴァール
音楽:クリスチャン・エイネス・アンダーソン
美術:ビクトリア・パス・アルバレス
編集:ルシア・カサル
衣装:イラチェ・サンス
プロデューサー:バルバラ・ディエス、ホセ・マリア・モラレス、アントニオ・チャバリアス、ジェローム・ドプフェール、カトリン・ポルス、ミケル・イェアスィン、エヴァ・ヤコブセン
配給:サンリス
2018年/スペイン、フランス、デンマーク/スペイン語、カタルーニャ語/107分