映画『ガラスの城の約束』 © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
ホームレスの両親に育てられた女性の半生を綴った全米ベストセラー小説を『ルーム ROOM』『キャプテン・マーヴェル』のブリー・ラーソン主演で映画化した『ガラスの城の約束』が6月14日(金)より公開。webDICEでは、デスティン・ダニエル・クレットン監督のインタビューを掲載する。
原作となるのは、アメリカの人気コラムニスト、ジャネット・ウォールズが自身の幼少時代を綴った同名書籍で、作家として成功間近のジャネットが、縁を切った父親との関係の修復を目指し過去を回想するという構成をとっている。定職につかず定住地も決めず、ときにはホームレスにまでなりながら自由な生き方を志向する父レックス(ウディ・ハレルソン)と母ローズマリー(ナオミ・ワッツ)のもとで育てられた主人公ジャネット。ウォールズ一家の奔放な生活がユーモラスに描かれるなか、やはりいちばんの見どころはブリー・ラーソンの複雑な役を演じきる演技力だ。本来は愛すべき親に裏切られてしまった子どもの不安や混乱、その困難を乗り越え自ら新しい家族を作り出そうとする強い意思をラーソン体現している。そしてクレットン監督の、他者に手を差し伸べることを重んじる眼差し、人と人の距離をセリフではなく登場人物のなにげない仕草で細やかな動きで描く演出に目を見張る。
「今作が過去のつらい経験や、今抱えている悩みを思い出し、異なる“レンズ”を通して見るきっかけになればうれしい。主人公のジャネットはその“レンズ”を通して過去を見ることを学び、そうすることで彼女は強くなった。それは周囲にも勇気を与えるはずだ」(デスティン・ダニエル・クレットン監督)
ジャネットを自分に身近なことのように感じた
──この作品は作家ジャネット・ウォールズの自伝的作品であるベストセラー『ガラスの城の約束』の映画化ですが、どのような気持ちで取り組みましたか?
その責任を負うのは、非常に緊張した。僕は小説もジャネットも大好きで、彼女の家族に対しても尊敬の念しかないから、彼らが納得できないような作品は作りたくなかったんだ。でもジャネットは人柄が温かく、とてもオープンかつ協力的で、いつも励ましてくれたから救われたよ。僕たちがストーリーの真髄に触れられるように、最初から最後まで付き添ってくれたんだ。映画を観た人が、原作を読んだあとと同じように、何かを感じ、疑問を抱き、議論を交わしたくなるようにね。
映画『ガラスの城の約束』 © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
いわば、この本はジャネットの私小説だが、読んだ時、自分に身近なことのように感じたんだ。僕の子供時代は、彼女ほどクレイジーじゃなかったけど、彼女の愛情を求める姿や様々な局面、そして家族とうまくいっている時と厄介で疎ましく思っている時の双方に共感を覚えたんだ。リアルで腑に落ちる、そしてカタルシスを感じる作品だった。どこかで自分が世界とつながっていて、一人じゃないんだと感じることができる作品の1つだね。
ジャネットの本は多くの人の琴線に触れたから、僕らは本を愛してくれた人たちにこの映画を作りたかったわけだが、ウォールズ一家のためにもこの映画を作りたかったんだ。ある意味で、我々は彼らの思い出を記録した“動く家族アルバム”を作ったんだ。包み隠さないポートレートであり、動くポートレートであり、複雑で、それでいて単純でパワフルな愛を描いたポートレートになっていることを願ってるよ。
映画『ガラスの城の約束』 © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
主人公ジャネットが自分を受け入れる物語
──ジャネットの書籍を映画化するにあたって、どのような点に気を配りましたか
我々は彼女の記憶を元に、若い女性を主人公に仕立て上げ、これまでの彼女の人生を整理させ、最終的には自分の過去と両親とに折り合いを付けるという筋立てにした。究極的には、女性が愛を学び、自分を受け入れるという物語なんだ。
ジャネットの本のどのページにも信じられないほど複雑なキャラクターの別の面や2人の関係が書かれている。あるキャラクターを好きになっても、何かすることで嫌いになったりする。ところがページを捲ると、また好きになってしまう。どのキャラクターも、止めどもなくすごく人間的なんだ。
映画『ガラスの城の約束』 © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
──映画ではドラマの冒頭をジャネットの20代半ばに設定して、それまでの出来事をフラッシュバックで見せることで傷ついた心を開く過程を見せる手法をとっています。
私もそうだが、多くの人がそれぐらいの年齢で初めてセラピストに相談したり、「心理学入門」の講座を取ったりしたりして、自らの人生を振り返ったり、今の自分がどうやって形成されたのかとか、どう家族に影響を受けたとかを省みる。誰もが今の自分を作ったものを見極めようとして、不仲になっているが愛する家族と和解する方法を見つけようとした時がある。それがジャネットにとって、いつかと考えたんだ。
これはドラマであって、真実のドキュメンタリーじゃない。だが望むべくはジャネットの物語に新しい見方を加えることで、新しい人たちが楽しめて、喜んでもらえるような斬新なものにしたかった。
映画『ガラスの城の約束』母ローズマリー役のナオミ・ワッツ © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
ブリー・ラーソンの深い演技に何度も息を呑んだ
──『ショート・ターム』に続き、ブリー・ラーソンと再び組んだ感想は?
再び組めたのは最高にうれしいよ。今後も繰り返しチャンスが訪れることを願うね。彼女は『ショート・ターム』の時から役者として大きく飛躍したと思う。僕にとっても喜ばしいし、誇らしく思うし、今回一緒に仕事ができて幸せだよ。
ラーソンはいつも予想を超えてくる女優なんだ。この映画でも想像を超えた彼女の深い演技に何度も息を呑んだ。まるで手品を見てるようだった。彼女がどう演じるかは説明できないんだ。事前に分かるようなことではなく、彼女の中から吹き出すような感じだからね。
映画『ガラスの城の約束』主人公ジャネットを演じるブリー・ラーソン(右)、恋人デヴィッド役のマックス・グリーンフィールド(左) © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
──では酒好きの父親レックス役のウディ・ハレルソンについては?
ウディは毎日僕を驚かせていたよ。来る日も来る日も、僕は彼が演じるレックスを見るのが待ちきれなかった。彼はこの役にとてもまじめに取り組んで、たくさん自分でリサーチをした。レックスの日記を読んで彼の思考に浸ったりしていた。僕らはレックスの実録のビデオを入手して、それはウディにとってさらに彼を消化する材料にもなった。そして、撮影現場で、彼はこの多才で、美しく、イカれたキャラクターに変貌したんだ。ウディはレックスの無謀さ、意志の強さ、意地悪なところ、その一方で優しくて、気遣いができ、陽気な部分もよく理解していたよ。
映画『ガラスの城の約束』父レックス役のウディ・ハレルソン © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
過去のつらい経験を異なる“レンズ”を通して見ること
──『ショート・ターム』でも撮影監督を担当したブレット・ポウラクとはどのように撮影を進めていきましたか?
ブレット・ポウラクは、平気で、そぎ落とした映像を撮る。決してやり過ぎた派手な映像は撮らない。その選択が彼ら家族の簡素さを素晴らしく美しくしているんだよ。これは、いろんな要素がある映画なんだ。違う時代が描かれ、すばらしい舞台セットに、さまざまな感情。僕はさらにそこにもっと加えたくはなかった。むしろ構成的には一歩後ろに下がって、シンプルにしたかったんだ。
映画『ガラスの城の約束』 © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
──『ショート・ターム』に続き、今作でも脚本を担当していますが、ストーリーテラーとしての仕事の何が最も楽しいですか?
知らない世界を探検でき、知らないことを学べるのが楽しい。素晴らしい体験ができているよ。『ガラスの城の約束』も、作品を通じて僕自身についてたくさん学ぶことができたし、ジャネットや彼女の物語と多くの時間を過ごすことで、より良い人間になれたと思う。これ以上の仕事はないよね?
──最後に、観た人に感じてもらいたいメッセージは?
過去のつらい経験や、今抱えている悩みを思い出し、異なる“レンズ”を通して見るきっかけになればうれしい。ジャネットはその“レンズ”を通して過去を見ることを学び、そうすることで彼女は強くなった。過去の人生が足かせになったり、過去を恥じたりすることはもうない。完全にコントロールすることで、強さの源に変えたんだ。それは周囲にも勇気を与えるはず。僕もまさにそうだったね。ジャネットと会話をすると、自分の人生を彼女に打ち明けたくなるんだ。それは無類の才能だと思う。
(オフィシャル・インタビューより)
デスティン・ダニエル・クレットン(Destin Daniel Cretton)
1978年11月23日ハワイ州マウイ郡生まれ。サンディエゴ州立大学にて映画制作を学ぶ。2009年、自身4作目の短編映画『ショート・ターム』がサンダンス映画祭審査員賞を受賞。その後、シアトル国際映画祭、シネベガス、ジェンアートでも各賞に輝く。同名の長編映画は、13年SXSW映画祭でプレミア上映され、客賞、最優秀審査員賞のW受賞を果たした。祖父母が沖縄出身の日系3世で日本への造詣も深い。
映画『ガラスの城の約束』 © 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
映画『ガラスの城の約束』
6月14日(金)より新宿シネマカリテ、
YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
出演:ブリー・ラーソン、ウディ・ハレルソン、ナオミ・ワッツ、マックス・グリーンフィールド、セーラ・スヌーク、ジョシュ・カラス、ブリジット・ランディ=ペイン
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
脚本:デスティン・ダニエル・クレットン、アンドリュー・ラナム
原作:ジャネット・ウォールズ 「ガラスの城の約束」(ハヤカワ文庫)
プロデューサー:ギル・ネッター
撮影:ブレット・ポウラク
美術:シャロン・シーモア
衣装:ミレン・ゴードン=クロ―ジャー、ジョイ・ハナエ・ラニ・クレットン
編集:ナット・サンダース
作曲:ジョエル・P・ウェスト
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ファントム・フィルム
原題: The Glass Castle
2017年/アメリカ/127分/スコープサイズ/5.1ch