骰子の眼

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東京都 渋谷区

2019-05-30 18:45


快挙!史上最年少22歳でサンセバスチャン受賞の奥山大史監督『僕はイエス様が嫌い』

「宗教は死後の世界をのぞき見したいという欲求からできたもの」監督語る
快挙!史上最年少22歳でサンセバスチャン受賞の奥山大史監督『僕はイエス様が嫌い』

雪深い地方のミッション系小学校に転校し、自分にしか見えない小さなイエス様と出会った少年ユラの試練を描き、奥山大史監督が史上最年少の22歳(当時)で第66回サンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞するなど海外の映画祭を騒がせている『僕はイエス様が嫌い』が5月31日(金)より公開。webDICEでは奥山大史監督のインタビューを掲載する。

いわゆるイマジナリーフレンドと戯れる少年の話、とすると内向きな葛藤を切り取る青春譚のように思われるかもしれないが、奥山監督はあからさまに感情的な演技やドラマチックな演出を抑え、ミッション系の学校で聖書を読みながら、家では仏壇に線香をあげる少年ユラが育む友情と予期せぬ終焉、そしてある決断へと至る過程を丁寧に、そして客観的な視点で追うことにより、日本人が持つ「宗教観」という大きなテーマに挑んでいる。


「サンセバスチャン映画祭で驚いたのは、街中で積極的に話しかけてもらえることです。その中で、若い現地の女性から『どうしてあなたは日本人なのに、私たちカトリック教徒の気持ちが分かるの』と質問を受けました。つまり、ユラのように絶対的な存在であるイエス様を疑う、という経験はカトリックの国でも必ず誰もがしているというのです」(奥山大史監督)


小学生は結構大人な会話をしている

──この物語は実体験がベースになっているそうですが、映画にするうえで気を付けたことは?

「僕の実体験を観て下さい」という考え方では描ける世界も狭くなりますし、良くないなと。脚本段階でとくに意識したのは、とにかく画になるようにすることです。実体験をただ映像化するわけではなく、観客に楽しんでもらえるように工夫しました。撮影では、全編を通してワンシーン/ワンカットで撮りたかったのですが、そればかりだと役者の表情が撮りにくいという問題もあったので、表情に寄れるカットを足すなど距離を取りすぎないように調整しました。

映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言
映画『僕はイエス様が嫌い』奥山大史監督

──脚本づくりは、むしろ実体験であるからこそ難しいものだったのでは?

はい。僕は小学5年生の頃、ユラと似た経験をしています。脚本づくりでは迷った時期もありました。何となくこういう話にしようというのは、撮影の1年前にできていました。A4/1枚にプロットを書いてある程度のものでした。主人公ユラの年齢は、実体験にあわせて、できれば小学5~6年生に設定したいと思い描いていましたが、それだとあまりに会話や人間関係が稚拙になってしまうのかなという疑問もありました。そこで母校の小学校に1週間通わせてもらい、まずは実際の小学生を知ることから始めました。すると、彼らは結構大人な会話をしているということが分かりました。それから撮影に入るまで脚本を書き進めていき、現場でセリフを足したり、アドリブを重ねたりしながら脚本を固めていきました。また、子役中心の物語を撮るにあたり、セリフはあえて最小限しか書かず、子役たちに任せました。ユラとユラの友だちが会話をしながらサッカーをするシーンがありますが、実はあのシーンの脚本にはセリフを全く書いておらず、ただ「サッカーをする」とだけでした。

映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言
映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言

──ユラ役の佐藤結良君は独特の雰囲気を持っていて、堂々とした演技でした。オーディションで意識したことは?

例えば、先ほどの「サッカーをする」シーンのように脚本にセリフが書いていなくても、そのことに耐えられる子を探しました。耐えられるというのは、ただ黙ってしまったり、撮られているということを意識したりしない子。黙ったとしても、それが画になる子です。オーディションは、一人ずつロボットでひたすら遊ばせて、その様子を僕たちがカメラで撮るという方法で行いました。ロボットで遊びながら、喋りたくなければ喋らなくても良いし、喋りたかったら喋っても良いというルールです。こちらはカメラで寄ったり、引いたりしますが、大体の子はカメラを意識して、「まだ撮るのかな」とチラッとこちらを向いてしまいます。撮ったものをチェックすると、本当にずっと観ていられる子か、もういいやと飛ばしてしまう子の2パターンでした。結良君の場合、理由は分からないけれど、ずっと観ていられましたし、彼は小さな声でぼそぼそと何かを喋っていて、かつ、あまりマイクに届けようとは考えていない、その雰囲気がとても良いなと思い、彼にお願いしました。彼をキャスティングしたことは、サンセバスチャンの観客の反応を見ても、間違ってなかったと確信していますし、受賞できたのは彼のおかげだと思っています。

映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言
映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言

──イエス様役にチャド・マレーンを起用した理由は?

映画にイエス様を出そうと考えた瞬間にチャドさんのことを思い出したんです。失礼な言い方かもしれませんけど、頭のネジが何本か抜けたような感じがあって(笑)。

──宗教/死生観のテーマを選んだ理由は?

これも僕の実体験がもととなっていて、僕はキリスト教の幼稚園に編入した経験があります。その幼稚園ではお昼過ぎになると、みんなが嬉しそうにはなれの教会に走って行き、嬉しそうに聖句を大声で唱えていました。それまでこうした光景に出会ったことがなかった僕は、正直引いてしまった。これは、どういうことが起きているのだろうと、最初は馴染めませんでした。しかし、不思議なことに数週間もすれば、自分も笑顔でみんなと同じことをしていました。今振り返れば、大きな声でみんなと同じことを言う、ということが純粋に楽しかっただけとも思いますが、宗教はよくできていて、幼い頃に一度それを経験すると、神の存在を信じるようになります。また、宗教には代表的なものが3つありますが、それらは全て死後の世界観が違います。僕は、宗教は死後の世界をのぞき見したいという欲求からできたものだと考えています。詳しくは言えませんが、『僕はイエス様が嫌い』でもユラが成長していくなかで死後の世界に触れる場面があります。

映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言
映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言

サンセバスチャン映画祭出品にあたっての2つの課題

──サンセバスチャン映画祭出品の経緯を教えて下さい。

もともとサンセバスチャンには観客として行きたいと思っていました。カンヌなどを経て参加する映画人が多いので、ある意味リラックスムードで、本当に映画を愛している映画人が来る映画祭として純粋に楽しめるという話を聞いていた為です。今回の出品には、日本映画を海外に紹介している、川喜多記念映画文化財団の坂野ゆかさんに相談し、御協力いただきました。坂野さんには以前、僕が監督した大竹しのぶさん主演の短編映画を釜山国際映画祭に出品した際にもお世話になっています。『僕はイエス様が嫌い』を坂野さんに相談したタイミングには、もうすでに締め切りが迫っていました。訪日するサンセバスチャンの選考者に観てもらうリミットまでに、ある程度観れるレベルまでに編集すること、英語字幕を付けること、この2つの課題をクリアするために本当に多くの人にお世話になりました。

猛スピードで編集を終わらせて、英語字幕はイエス様役で出演しているチャド・マレーンさんに作ってもらい、音楽は完成していなかったので仮で付けました。デモ版ができあがったのが、選考者が帰ってしまう日。会社を途中で抜けて川喜多に着くなり坂野さんを通してすぐに渡しました。とにかく渡すことができたので、選考に通る・通らないとかではなくて、僕たちの名前を知ってもらうだけでもOKという満足感すらありました。すると、その日の夕方に坂野さんから、「すごく気に入ってらっしゃいましたよ。イエス様が登場するたびに笑ってらっしゃいましたよ」と御電話がありました。驚いたし、とても嬉しかった。そこから出品が決まるまでは早く、2週間後には招待状が届きました。

映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言
映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言

──出品が決まってから、完成のマスター版を提出するまでにどれぐらいの時間があったのでしょうか。

2か月半ほどありました。会社が終われば編集作業をし、土日は音楽を作る作業、ととても慌ただしかったため、この期間を短く感じました。また、出品が決まった後の仕上げ作業だったので小さなことでも見逃せなくなり、こだわりました。とくに、イエス様の合成にはこだわりました。本当にその場にいるように見せたかったためです。通常は画が確定してからの字幕作業ですが、今回はチャドさんに画が変わるたびに字幕を変えていただきました。こうした理由から、ポスプロ費がかさみ、撮影費と同じぐらいかかりました。製作費は全体で500万円ですが、学生の特権を使い、無料にしてもらったところがかなりありますから、今の会社員の身で同じものを撮ると3倍はかかったはずです。お礼を言いたい人が本当に多くいます。

映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言
映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言

──英語タイトルを“JESUS”とした理由は?

“I HATE JESUS”と『僕はイエス様が嫌い』では、ニュアンスが結構変わってくると、多くの人から指摘されたんです。“I HATE JESUS”だと、どうもロックっぽく受け止められると。それでシンプルに“JESUS”にしました。

海外の映画祭は目指すべき

──実際にサンセバスチャンで上映した感想は?

驚いたのは、街中で積極的に話しかけてもらえることです。その中で、若い現地の女性から「どうしてあなたは日本人なのに、私たちカトリック教徒の気持ちが分かるの」と質問を受けました。つまり、ユラのように絶対的な存在であるイエス様を疑う、という経験はカトリックの国でも必ず誰もがしているというのです。また、彼女は「私たちにはイエス様という存在が身近にあるから、こうした経験をすると考えていたけれど、あなたたちも同じなのね」と。そう言われた時、当初カトリックの国でこういう内容の映画を上映して良いものか不安だった自分が馬鹿馬鹿しく思え、不要な心配だったのだなと知りました。彼女のおかげで『僕はイエス様が嫌い』は、カトリックの彼らにとっても核となる部分をちゃんと突いていると、今は自信を持って言えます。まったくの偶然ですが、最初に出品したのがサンセバスチャンで良かったなと感じています。運命的なものを感じていて、どうにかもう一度参加したい。

──同世代の日本の若手監督たちも海外展開にフォーカスしていくべきと思うか?

若いとかそういった理由ではなく、インディーズの世界だけでは限界があって、“作品”を作ってもそれが商業ベースに乗せた“商品”として回らなかったらどうしようもない。やはりいろいろな人に見ていただく手段として、海外の映画祭に応募するのも大いにありだと。それは僕に限らず、みんな目指すことなのかなとは思います。

 
映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言
映画『僕はイエス様が嫌い』 ©2019 閉会宣言

──今、奥山監督は広告会社の会社員ですが、今後も映画を撮り続けますか?

はい。映画監督の活動に関しては、会社員と両立したい考えです。サンセバスチャンでの受賞をきっかけに、テレビドラマやミュージックビデオを撮りませんかというオファーが少しずつ出てきていますが、次もオリジナル脚本の長編映画を撮りたいと考えています。カンヌも含めて国際映画祭の若手監督部門のコンペには、長編2作目までという制限付きのところが多く、僕にとって、若手監督としては次がラストチャンスで、今出し切れるものを全て出し切ることに集中したい。長いスパンの将来は、その時に見えた景色から考えます。現在は、『僕はイエス様が嫌い』をきちんと国内で展開させる、どれぐらいの可能性があるのかを知るという活動を行っていますが、これらの活動のためにも、次回作を撮るためにも会社員としての生活も必要です。次回作の構想は、まだ固まっていませんが、被写体は少年・少女を撮り続けていくつもりです。近未来を描いてみたいなと考えてもいます。

(2019年2月15日の文化通信.comの記事からの一部抜粋と、5月8日・日本外国特派員協会記者会見での発言により構成)



奥山大史(おくやまひろし)

1996年東京生まれ。初監督長編映画「僕はイエス様が嫌い」が、第66回サン・セバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞。学生時代に監督した短編映画「Tokyo 2001/10/21 22:32?22:41」(主演:大竹しのぶ)は、第23回釜山国際映画祭に正式出品された。撮影監督としても映画 「過ぎていけ、延滞10代」や映画 「最期の星」などを撮影する他、GUやLOFTのCM 撮影も担当。




映画『僕はイエス様が嫌い』
5月31日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次ロードショー

監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
出演:佐藤結良 大熊理樹 チャド・マレーン 木引優子 ただのあっ子 二瓶鮫一 秋山建一  大迫一平 北山雅康 佐伯日菜子
プロデューサー:吉野匡志
ラインプロデューサー:黒川莉子
制作担当:志村光紀
照明:岩渕隆斗
録音:柳田耕佑
美術:藤本楓
ヘアメイク:ほんだなお
助監督:関航大
整音:渡部聖
制作:閉会宣言
配給:ショウゲート
宣伝:プレイタイム
英題:Jesus
2019/日本/カラー/スタンダード/76分/5.1ch

公式サイト


▼映画『僕はイエス様が嫌い』予告編

キーワード:

奥山大史


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