骰子の眼

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東京都 渋谷区

2019-05-16 19:30


実録!エリート大学生たちが企てた美術品強奪事件『アメリカン・アニマルズ』

フィクションとドキュメンタリーを交差させ事件の"リアル"を追及する
実録!エリート大学生たちが企てた美術品強奪事件『アメリカン・アニマルズ』
映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

2004年にアメリカ・ケンタッキー州で起こった、約12億円相当の、画家ジョン・ジェームズ・オーデュボンの画集『アメリカの鳥類』強奪事件を、犯人の4人の大学生や関係者を劇中に登場させ映画化した『アメリカン・アニマルズ』が5月17日(金)より公開。webDICEではバート・レイトン監督のインタビューを掲載する。

ドラマパートと交互に映される実際の犯人のインタビューパートに登場する、うだつの上がらぬエリート大学生たちが苛立ち、怒り、失望し、泣く姿が「犯罪ドラマに登場する犯人」さながらであることに舌を巻く。その4人の濃いキャラクターが次第にドラマ部分に侵食し、俳優と本人が同じ場面に登場しさえする。観る者は、俳優なのか当事者なのか混乱をきたすなかで、「演じることの意味」を突きつけられる。

ハイブリッドは俳優だけではない。犯人が犯行計画時に参照したタランティーノ監督『レザボア・ドッグス』よろしく、ドノヴァン『サンシャイン・スーパーマン』など、ロックの名曲を随所に盛り込む演出で、スリリングなクライム・サスペンスとして構築。もちろんこの作品は「自由を求めて自分の内なる世界を飛び出した主人公」を褒め称える画ではない。むしろ、自己啓発的な行動や発言を称揚しがちな人々の鼻を明かし、割り切れない感情を抱えて生きていくしかない現実を突きつける、残酷な作品である。


「役者と本人たちは撮影前に接触することを避けた。役者には、本人たちと交流を深めて忠実に演じるよりも、自らの考えに基づいた独自のバージョンを演じて欲しいと思ったんだ。誰かが自分を演じる場合、色々と口を出しがちだよね。“あまりイヤな男に見せないで”ってなるだろ?」(バート・レイトン監督)


これは実話だと常に観客に思い出させたかった

──作品について、またこのストーリーに惹かれた理由について教えてください。

ニューヨークからロンドンに向かうフライトの中で、この実話について読んだんだ。飛行機を降りる頃には、“何て面白い話なんだ”と完全に心を奪われていたのさ。強盗事件としても興味深いけど、それ以上に意外な犯人像に惹かれた。いわゆる罪を犯しそうな連中じゃない。彼らは若くて学歴もあり、家庭環境もよくて、多くのチャンスに恵まれていた。このような大胆な美術品強奪を企てるとは到底思えない4人だ。そういう意表を突くようなストーリーに魅了された。

映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018
映画『アメリカン・アニマルズ』バート・レイトン監督

その後、服役中の本人たちと連絡を取り始めたんだけど、彼らから届く手紙の内容も驚きの連続で、彼らの動機は僕が予想していたものとはまったく違ったのさ。そのままでも十分面白いストーリーに、さらに魅力が増した。

──本人たちを登場させてドキュメンタリーを融合させていますが、どの段階でそのような構成にしようと思ったのですか?これはうまくいくと閃いたのはいつですか?

早めの段階で、実話であることがいかに重要かと気づいたんだ。“実話に基づいたストーリー”と謳っている映画は多いけど、“大げさに描いていて、フィクションも混ざっているに違いない”と思いがちだ。でもこのストーリーは誇張や作り話が必要なかった。だから、これは実話だと常に観客に思い出させたかったんだ。

それに本物の4人が素直で説得力があったから、もし何らかの方法で彼らを作品に組み込めるのなら、今までにない方法でストーリーを伝えられるはずと思ったのさ。観客は彼らに感情移入するから、新しい映画の見方ができるはずだ。作られた非現実的なストーリーだと、登場人物の行動に大して影響されないけど、本作にはどっぷりハマってしまう。

映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018
映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

──ドラマの場合、役者を演出しますが、本作はドキュメンタリーの要素もあり、ドキュメンタリーに場合は自然な姿が求められます。監督として何を心がけましたか?

演出方法は変えないといけない。フィクションもドキュメンタリーも原則は同じと言う人もいるが、ドキュメンタリーは真実を見せているだけで、何も操作をする必要はない。自然な流れに任せて、できるだけ関与しないんだ。一方、フィクションの場合は、監督自身が真実を作り出さないといけない。役者の演技が真実に迫っているか、リアルに見えるかを判断するのは僕なんだ。

だからドキュメンタリーの部分は、リアルかつ自然に捉えることを心がけた。ウォーレンたちが真実を自らの言葉で語っていると伝わるようにね。インタビューを撮り終えたら、一旦それは置いておいて、今度はドラマの部分の撮影を始めたんだ。

重視したのは、本人たちの要素が何かしら感じられる俳優を配役すること、その4人の関係性を築くこと、そして彼らの才能を存分に発揮して脚本を具現化してもらうこと。ドラマの脚本を書いたのは今回が初めてで、4人の演技を見て初めて、“これはうまくいくかもしれない”と感じたんだ。

役者には独自のバージョンを演じて欲しかった

──キャスティングのプロセスを教えてください。4人の役者はどのように決めたのですか?

今回のキャスティングは、犯罪グループを結成する流れに似ていたかもしれない。まずは、ダニー・オーシャンのようなカリスマ性のあるリーダーが必要だった。エヴァン・ピーターズがオーディションに来て、ウォーレン役は彼しかいないと即座に感じたんだ。“もう探す必要はない”とね。リーダー役が固まってから、他の3人も順々に決めていった。次に配役したのは、スペンサー役のバリー・コーガンだった。

映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018
映画『アメリカン・アニマルズ』リーダーのウォーレンを演じるエヴァン・ピーターズ © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018
映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018
映画『アメリカン・アニマルズ』スペンサー役のバリー・コーガン © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

同年代のトップスターをキャスティングすることももちろん可能だった。でも本作にはそれを求めていなかった。他の大作でよく見かける俳優ではなく、個性のある注目俳優を探していたんだ。4人はみんなハンサムだけど、どこにでもいそうで生活感が感じられる。僕たちが共感できるような役者であることが大切だった。

映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018
映画『アメリカン・アニマルズ』エリック・ボーサク役のジャレッド・アブラハムソンとチャールズ・T・アレン2世役のブレイク・ジェナー © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

──役者と本人たちの間に多くの共通点が見られたのですが、それは監督のリサーチに基づいた演出ですか?それとも役者たちが観察した結果なのですか?

役者と本人たちはできるだけ接点のないようにした。撮影前に接触することを避けたんだ。役者なら、本人と話したいと思って当然だ。“すぐそこに本人がいるのに、なぜ1週間一緒に過ごして、動き方や話し方を参考にすることができないんだ?”ともどかしく感じるだろう。でも僕自身がそれを求めていなかった。本人たちは事件当時から10歳も年を取っている。その10年のほとんどを刑務所で過ごしてきたから、人間としても変わっているはずだ。役者には、本人たちと交流を深めて忠実に演じるよりも、自らの考えに基づいた独自のバージョンを演じて欲しいと思ったんだ。それに誰かが自分を演じる場合、色々と口を出しがちだよね。例えば、僕が君を演じても、“あまりイヤな男に見せないで”ってなるだろ?

映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018
映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

──強奪へ向かうにあたり老人に変装するシーンが印象的です。自分でメイクができるようになったのは誰ですか?

扮装は楽しかったね。大の大人が仕事として、ごっこ遊びができるんだから。70年代風の服装というのは僕のアイデアだったんだ。おじいさんのクローゼットから盗んできたような服を思い描いていた。頭の中にあった映画は『サブウェイ・パニック』(1974)。一風変わった老人風の衣装だ。おそらくウォーレン本人たちは、“老人なら誰も怪しまない、老人には脅威を感じない”と考えていたのだろう。映画の中でもスペンサーは、“老人は見えない存在”と言っている。社会の中で無視されがちだから、老人が強盗を図るなんて誰も想像もしないはずと信じていたんだ。

撮影時は、数々のメイクや特殊メイクが施された。エヴァンが老人メイクをするシーンがあるんだけど、3週間ほどメイク担当に教えてもらい、最後は自分でできるようになっていた。あれには感心したね。

(オフィシャル・インタビューより)



バート・レイトン(Bart Layton)

『アメリカン・アニマルズ』が長編ドラマとしての初監督作品となる。2012年に監督したドキュメンタリー映画『The Imposter』でその独創性と語り口が批評家から高い評価を得て、オースティン映画批評家協会賞、英国アカデミー賞最優秀デビュー賞、英国インディペンデント映画賞(最優秀ドキュメンタリー賞ほか2部門)をはじめ、世界中の映画祭で30ノミネート、12受賞を果たした。斬新なスタイルとジャーナリスティックな手法で挑戦的なテーマにも果敢に取り組むことで知られているクリエイター。12年間イギリスの大手制作会社Rawの創作局長を務めており、賞に輝くドキュメンタリー作品やシリーズ物の数々を手掛けてきた実績がある。『The Imposter』は英国歴代最高収益を上げたドキュメンタリーとして記録されている。




映画『アメリカン・アニマルズ』 © AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

映画『アメリカン・アニマルズ』
5月17日(金)より新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

監督・脚本:バート・レイトン
出演:エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン
提供:ファントム・フィルム、カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ファントム・フィルム
原題:American Animals
2018年/アメリカ・イギリス/116分/スコープサイズ/5.1ch

公式サイト


▼映画『アメリカン・アニマルズ』予告編

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