骰子の眼

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2019-05-02 18:35


故ロビン・ウィリアムズが映画化を熱望した風刺漫画家の半生『ドント・ウォーリー』

「ロビンもジョン・キャラハンも笑いへの脅迫観念に囚われていた」ヴァン・サント監督
故ロビン・ウィリアムズが映画化を熱望した風刺漫画家の半生『ドント・ウォーリー』
(C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

ガス・ヴァン・サント監督が2010年、59歳で他界した車椅子の風刺漫画家ジョン・キャラハンの半生を映画化した『ドント・ウォーリー』が5月3日(金)より公開。webDICEではガス・ヴァン・サント監督のインタビューを掲載する。

原作となるのは、飲酒が原因で起こした交通事故で四肢麻痺になりながらも風刺漫画家として成功を収めた漫画家ジョン・キャラハンの手記『Don't Worry, He Won't Get Far on Foot(心配するな、彼は遠くまで行けないんだから)』。俳優のロビン・ウィリアムズが映画化の権利を獲得し、自身の主演で映画化の構想をあたためていたものの、2014年にウィリアムズが死去し企画が頓挫。その後、ヴァン・サント監督が原作を再び脚色し、原作により近い形で脚本を作り上げたという。『マラノーチェ』(1986年)『ドラッグストア・カウボーイ』(1989年)『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)といった初期作品でオレゴン州ポートランドをテーマにしてきたヴァン・サント監督だが、今作でもポートランドで酒浸りで自暴自棄な生活を送るキャラハンが持ち前の皮肉とユーモアを活かし風刺漫画家としてその名の知られるようになる過程を描いている。「隠れることのできる場所は今世界中のどこにもない」とヴァン・サント監督は今回のインタビューで語っているが、ジョン・キャラハンという男の生き様、ロビン・ウィリアムズへのリスペクト、そしてポートランドという町への憧憬をユーモラスなドラマとして織りなす。キャラハンを演じるホアキン・フェニックスは、取り憑かれたように描き続けるキャラハンの漫画への情熱、ひいては表現への根源的な欲求を見事に体現している。


「この物語の主人公ジョン・キャラハンと、映画化を望んでいた故ロビン・ウィリアムズは似ているところがある。イラストを描くというのはとても特別なことで、それはまるでコメディのようなもので、非常に特徴的な笑いの要素を伝えなければならないんだ」(ガス・ヴァン・サント監督)


ジョン・キャラハンはいつも母親を探していた

──この作品は、キャラハンの自伝『Don't Worry, He Won’t Get Far on Foot』の映画化権を得ていたロビン・ウィリアムズが『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1998年)の公開時から映画化を熱望していたそうですね。完成するまでとても長い道のりだったと思います。

そう、ロビン・ウィリアムズは1989年に発表された原作の映画化権を1990年代の早い段階で獲得していた。20年以上だね。

映画『ドント・ウォーリー』ガス・ヴァン・サント監督
映画『ドント・ウォーリー』ガス・ヴァン・サント監督

──この企画が映画化されないかもしれない、と思った時はありましたか?

もう少しで映画製作をスタートできるのではという時も何度もあったよ。脚本を書いて、これで準備万端と渡すことができた時には、十分な時間をとってやっと「今」なのだなと感慨深かった。

──あなたはジョン・キャラハンに生前会っているそうですが、彼はどんな人でしたか?映画の中のようにアナーキーな精神の持ち主でしたか?

そうだね、彼はアイルランド人のように激しい気性を持つトラブル・メイカーで、そのなかでもユーモアを忘れていなかった。彼には、養子として育ててくれた家族のほかに、究極のカトリックとして修道女たちに育てられたんだから。彼がお酒を飲むようになったのは、子供の頃に母親を知らないで育ったことで、彼が世界から追い出されたと感じていて、その理由が彼には何か分からなかったからだ。彼は、養子の兄弟4人の長男で、他の子どもたちとは違うと感じていたと思う。彼は家族の中に居場所がないと感じ、それは大きな問題だった。子供の頃、家族に血のつながりがないということが分かるのは精神的なダメージが大きくて、彼はいつも彼の母親が誰で、どこにいるのかを探していた。だからこそ、あえていつも茶目っ気をだしていたんだと思う。

──ジョン・キャラハン自身はどんな映画を作って欲しいと思っていたのでしょうか?

自分の映画が製作されることをとても喜んでいた。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でロビンと仕事をした後、彼は脚本を開発しないかと私に聞いてきて、その時からキャラハンと仕事を始め、彼からいろいろなことを話し、ランチに一緒に行き、彼の自伝の本の理解を深めていった。ジョン・キャラハンはロビン・ウィリアムズがカメラの前で、自分を演じることを望んでいたね。それは彼にとってとても光栄なことだったんだよ。もともと彼はロビンのファンで、ロビンは彼のイラストのファン。それが始まり。ロビンはその時に彼自身が本の権利を持っていることが分かったんだ。だからこそ、キャラハンと共にとても興奮していたが、映画がなかなか製作できないことをとても悲しんでいた。長い間、そんな状況をみていて、「この映画ができるころには僕たちは死んでしまっているよ」と語っていた。そして、彼とロビンが亡くなり、彼が正しかったことが分かったんだ。

映画『ドント・ウォーリー』 ©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
映画『ドント・ウォーリー』 ©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

──キャラハンは、イラストを描き始めたら止めることができず、多くのアーティストが持つような脅迫観念に取りつかれていたと語っています。あなたもそのような感情を共有しますか?

そうだね、たぶん共有していると言えると思う。イラストを描くというのはとても特別なことで、それはまるでコメディのようなもので、非常に特徴的な笑いの要素を伝えなければならない。ジョンとロビンは似ているところがある。ロビン・ウィリアムズは、笑いに対して脅迫観念に囚われていたと思う。例えば、彼が誰かを笑わせ始めたら、それがグループであろうが、ひとりであろうが、彼は笑わせ続けるんだ。それは、ジョンと同じだよ。彼のイラストに一旦反応を得たら、彼は歩き回って、より多くの人にイラストを見せて、より多くの笑いをとろうとした。実際彼は通りの角に居て、いろいろな人を止めては「これって面白い?」と聞いていたんだ。多くの人にイラストをインプットしてもらいたいのと同時に、もっと多くの笑いの反応を見たいと思っていたんだね。彼にとっては、ひとりやふたりがイラストを見るだけでは十分ではなく、さらにもっと多くの人に見てもらいたいと思っていたのだろう。だからこそ、彼のイラストがメディアに掲載されること、そしてそれらについての反応の手紙が届くことはとても重要だったんだ。

映画『ドント・ウォーリー』 ©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
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ホアキンはキャラクターを呼び起こすことが本当にうまい

──あなたはポートランドに住んでいました。ロビンがあなたにアプローチする前からジョンのイラストは知っていましたか?

はい、ポートランドの主要地方紙である「ウィラメット・ウィーク」に1980年代からジョンのイラストは載っていたし、私がLAにいた頃には「LAウィークリー」にも掲載されていたからね。

映画『ドント・ウォーリー』 ©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
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──キャラハンを演じたホアキン・フェニックスはジョンが実際に治療を受け、車いすの訓練をしたリハビリセンターを訪ねたということですが、ホアキンが演じるこの役柄の準備にあなたも関わっていましたか?それとも彼に任せていましたか?

関わっていたよ。ジョン・キャラハンが事故のあと運ばれたランチョ・ロス・アミゴス・ナショナル・リハビリテーション・センターは私たちが彼に紹介したんだ。準備の段階で、彼は自分で車いすをレンタルしたか購入していたと思う。まだ、製作資金が集まっていなかったけれど、車いすを購入して、自分のSUV(車)に乗せていた。彼は、自分自身で準備をし、それはこの映画に対して成果を生んでいたね。

──彼が事故に遭った時には21歳でした。ホアキンは年齢が上ですが、それについて心配はしませんでしたか?

作品の中で彼の年齢には触れていない。彼の年齢を明らかにせずに、過去も同じ俳優に演じてもらった。若いキャラハンを他の俳優に演じてもらうという選択肢もあったが、私たちはホアキンに演じてほしかったんだ。

──あなたからみて、何がホアキンを素晴らしい俳優にしていると思いますか?

ホアキンはシーンの中で特別な瞬間を見つけることがとてもうまくて、キャラクターになりきっている。彼がその瞬間にいることを見ることがとても楽しかった。その瞬間というのは、グループでのセラピー中だったり、病院の中だったり、イラストを描いている家の中だったりと、彼はキャラクターを呼び起こすことが本当にうまいんだ。

映画『ドント・ウォーリー』 ©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
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──撮影の準備の段階でいちばん大変だったことは?

映画は常に多くの課題に妨げられるものなので、この作品が特別だったかどうかはわからない。LAでの撮影の時は、高額で撮影場所を見つけるのが大変だった。何故なら、LAでは映画の撮影が長い期間行われていて、街の人たちがお金を稼げることを期待しているため。例えば、家を借りるのは3,000ドル(約33万4千円)ではできないんだよ。他には、脚本のドラフトを何度も書き直した。でもそれは、素材として十分なものを準備するためのことなので、大変なことではなかったけれどね。

どこにいても同じ町にいるように感じる

──ジョン・キャラハンは四肢麻痺になり、そしてアルコール依存症の問題も抱えていました。彼の物語を語るためにどのようにバランスを取り、感傷的になりすぎないようにしましたか?

製作しながらそれを決めていった。原作はそんなにやさしい話ではなくて、なぜなら風刺漫画家になった彼は非常に怖くて、彼のイラストは非常に敵対的だったから、物語の中で組み立てて、流れに任せていった。

映画『ドント・ウォーリー』 ©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
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──あなたはこれまでもポートランドを舞台にした物語を作ってきました。あなたはポートランドについて今も新しい発見をしていますか?

これまでにポートランドを舞台にした映画は、『ドラッグストア・カウボーイ』、『マイ・プライベート・アイダホ』、『マラノーチェ』の3本を作ったんだ。この作品たちにでてくるキャラクターの一人は、ポートランド生まれ、あとの二人はポートランドの外で生まれたキャラクターたち。そして、今回はジョンです。言うなれば、意図的でなく、4人目のポートランド生まれのキャラクターに自然となった。

──『ドラッグストア・カウボーイ』でも依存症を取り上げていますね。

そうなんだ。ドラッグストア・カウボーイ』では小さなAA(アルコホーリクス・アノニマス アルコール依存症者の自助グループ)の状況を描いた。

──ポートランドはあなたにとってどんな意味を持っていますか?

今はもうポートランドに家はなく、LAとパーム・スプリングスに住んでいる。私は、世界中の全ての都市が通信の発展によって等しくなったと思っていて、インターネットにより、都会に住んでいようと、いまいが、最終的には地球村の一部なのだと思うんだ。そう感じることが今社会では起きている。例えば、君がベルリンにいるとしても、ポートランドにいるような気分で目覚めたり、LAにいて、ポートランドにいるような気分になったりできるんだ。または、ポートランドにいながら、他の街にいるような気分にもなれる。私にとっては、どこにいても同じ町にいるように感じるんだ。

──あなたは、そのような状況がゲイ・カルチャーにも起こっていると思いますか?

そうだね、多くの様々なところでそのようなことが起こっているね。多くのものが奇妙に同質化されている。それが良いことか悪いことかは私には分からない。確かに、15年前、ポートランドは隠れ家的な場所だった。とても離れた町同士では、郵便で連絡をし、急ぎの連絡は電話、または他の場所から車または飛行機でその場所に行く。その結果、目的地以外の場所とはつながっていないと感じる。それは素晴らしい感覚だった。しかし、現在すべての通信によってつながっている。でも、世界は変わらずに同じなんだよ。隠れることのできる場所は今世界中のどこにもないように見えるね。

(オフィシャル・インタビューより)




ガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant) プロフィール

ケンタッキー州ルイビル出身。1985年ロサンゼルス批評家協会に高く評価された『マラノーチェ』(86)で映画監督デビューを果たす。2作目『ドラッグストア・カウボーイ』(89)はインディペンデント・スピリット賞で主演・脚本を含む4部門、全米映画批評家協会賞で作品・監督・脚本賞等を受賞。リヴァー・フェニックス、キアヌ・リーヴスが共演した『マイ・プライベート・アイダホ』(91)も多くの賞を受賞、インディペンデント・スピリット賞で主演・脚本を含む3部門に輝いた。『誘う女』(95)では主演ニコール・キッドマンがゴールデン・グローブ賞主演女優賞を受賞。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)は、新しい才能マッド・デイモンとベン・アフレックがアカデミー賞脚本賞、ロビン・ウィリアムズがアカデミー賞助演男優賞を受賞。2003年に発表したコロンバイン高校の銃乱射事件をモチーフにした『エレファント』は、カンヌ映画祭最高賞パルムドール、監督賞をダブル受賞。2008年、ショーン・ペンがアカデミー賞主演男優賞を受賞した『ミルク』が公開、本人も2度目の監督賞にノミネートされる等、彼の手掛ける作品は多くの称賛を受けている。その他『カウガール・ブルース』(93)、『サイコ』(98)、『小説家を見つけたら』(00)、『ラストデイズ』(05)、『パラノイドパーク』(07)、『永遠の僕たち』(11)、『プロミスト・ランド』(12)等。2015年カンヌ映画祭コンペティション部門出品『追憶の森』(15)は青木ヶ原樹海を舞台にした物語である。ゴールデン・グローブ賞を受賞したケイシー・グラマー主演のTVシリーズ「BOSS/ボス ~権力の代償~」(シーズン1、11)(シーズン2、12)を監督、製作総指揮も務めた。その他、ABC製作のミニシリーズ、『ミルク』(08)の脚本家ダスティン・ランス・ブラックがクリエイティブを手掛けた”When We Rise”(17・未)を監督、ジェームズ・フランコが主演の自伝映画『I Am Michael』(15・未)の製作総指揮を務めた。




映画『ドント・ウォーリー』
5月3日(金・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町・ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他全国順次公開

監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
出演:ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック
音楽:ダニー・エルフマン
原作:ジョン・キャラハン
原題:Don't Worry, He Won’t Get Far on Foot
2018年/アメリカ/英語/115分/カラー/PG12
配給:東京テアトル
提供:東宝東和、東京テアトル

公式サイト


▼映画『ドント・ウォーリー』予告編

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