映画『愛がなんだ』 ©2019 映画『愛がなんだ』製作委員会
直木賞作家・角田光代の同名恋愛小説を今泉力哉監督で映画化した『愛がなんだ』が4月19日(金)より公開。webDICEでは今泉監督のインタビューを掲載する。
主人公の28歳のOL、山田テルコは、一目惚れしたマモルのことが忘れられず、都合のいい女と捉えられていることも承知しながらマモルにアプローチする。将来への不安をどこか感じながらも仕事を放り出し相手を慕い続け、岡崎京子の漫画の言葉を借りるなら「フリルのついた暴力」を振りかざすテルコと、今の仕事を辞めたら野球選手か動物園の飼育員になると現実離れした夢を語るマモル。ベッドをともにするまで近づきながらもすれ違うテルコとマモル、そして彼らの友人たちの“強い想い”が結末へ向けて丁寧に積み上げられていく展開は、今泉監督の真骨頂と言えるだろう。
「この作品に限らず僕の映画は、恋愛が順調でリア充な人たちには必要ない(笑)。「何やってんの?バカだな」っていう視点では見られると思いますけど。僕自身は逆にリア充な人たちにあまり興味がないんです」(今泉力哉監督)
“強い想い”を持った人たちの物語
──今回のオファーを受けた時の率直な思いからお聞かせ下さい。
ありがたいなと思ったんですが、実は僕は小説を普段あまり読まなくて。角田光代さんのお名前はもちろん知っていたし、映像化された作品のどれもが素晴らしいものだったんですが、ちゃんと彼女の小説を読んだのはほぼほぼ初めてに近かったんです。そしたら内容はもちろん、リズム感、一人称ならではの言葉の選び方……小説でしかできないことがたくさんあって、“面白い小説ってこういうことか!”ってくらい魅了されました。あとは“強い想い”を持った人たちの話でもあるので、そこはこれまで自分が避けてきた部分でもあったので興味深いなと。ただ小説でも漫画でも面白い作品を映像化する時ってプレッシャーもあるので、そこは怖いなと思いつつ(笑)。
映画『愛がなんだ』今泉力哉監督
──“強い想い”を持った人たちの、ある意味ディープな恋愛群像劇に挑まれることは、ご自身にとっては挑戦だったのでしょうか。
そうですね。“好き”とか“片思い”を描いた作品は今までもやっていますが、付き合ってはいないけど寝たりキスしたりっていう関係性で悩んでいるっていうのはあまりやっていないかもしれないです。あとは相手のダメな部分も知ったうえで嫌いになれない……嫌いになるタイミングもまた難しいので、その辺りの答えの出ない悩みに突入する主人公=テルコが面白かったですね。
映画『愛がなんだ』テルコ役の岸井ゆきの ©2019 映画『愛がなんだ』製作委員会
成田凌を「いかにかっこ悪く見せるか」
──魅力的な役者陣についてもお聞かせ下さい。まずは主演の岸井ゆきのさん。
器用な人かなと思っていたら、想像以上に人間味がある方で魅力的でしたね。役者として一番素晴らしいなと思ったのは、技術がありつつもそれが前に出ないこと。僕の求めている温度感……あまり熱っぽくなり過ぎず、でも平坦にはならないというのをやってくれたのも岸井さんの魅力のおかげだと思います。いつもの僕の作品だともっと(芝居を)抑えたかもしれないけど、彼女の演じるテルコがすごく面白かったので今回は全然そのままでやってもらったし、テルコは岸井さんに膨らませてもらったキャラクターですね。
映画『愛がなんだ』テルコ役の岸井ゆきの(左)、マモル役の成田凌(右) ©2019 映画『愛がなんだ』製作委員会
──以前から交流のあったという成田凌さんについては。
昔、僕のやっていたワークショップに来てくれていてそこからの付き合いですね。いつか一緒にやりたいねって飲みながら話をしていたら、あっという間に売れていきましたが(笑)今回ご一緒できて嬉しかった。マモルはとにかくかっこよく見えないような芝居をしてもらいたかったんですが、彼は顔も整っているし衣裳や髪型も含め、いかにかっこ悪く見せるかってことは苦労しました。成田さんは自分の得意なこと不得意なことをよく分かっていて、今回も上手だなと思ったのは、テルコとベッドの中で足を蹴り合うシーン。ふざけ合いながらマモルが「なんだと、オラ!」って言い返すところがあるんですが、あそこは一歩間違えるとコミカルになっちゃう。たぶん彼はその危険を察知して、「1回(あえて)棒読みでやっていいですか」と言ってきたんです。わざとぼそぼそとしゃべって、必要以上にコミカルになるのを避けたんですね。僕もそれでいいと思ったし、あれは成田さんのアイデアをそのまま採用した感じです。
映画『愛がなんだ』マモルがあこがれる年上の女性、すみれ役の江口のりこ ©2019 映画『愛がなんだ』製作委員会
リア充な人たちにあまり興味がない
──着地点や正解のない“大人の片思い”ですが、監督自身はどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
今の若い人たちは、この映画で描かれているようなことがめんどくさいから、好きな人ができない。つまりこういう恋愛を避けているっていうのはあると思います。恋愛はいいから結婚だけしたいとか、結婚はいいから子供だけほしいと言っている方もいますよね。
──恋愛はコスパが悪いと。
そうそう。でも恋愛をめんどくさいと知っている時点で、1度はそういう経験をしている訳だし。僕はコスパが悪いことはいいことだと思います。いつも言っていることですがこの作品に限らず僕の映画は、恋愛が順調でリア充な人たちには必要ない(笑)。「何やってんの?バカだな」っていう視点では見られると思いますけど。僕自身は逆にリア充な人たちにあまり興味がないんです。
──ではテルコのように「好きな人と同化したい」という感覚については。
僕自身は思ったことはないんですが、東京国際映画祭でこの映画をご覧になった人の感想を検索してみると「本当によく分かります」って言ってくれている女性の方が結構な数いるんですよ。
(オフィシャル・インタビューより)
今泉力哉(いまいずみりきや)
1981年生まれ。福島県出身。数本の短編映画を監督した後、2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。翌2011年『終わってる』を発表後、2012年、“モト冬樹生誕60周年記念作品”となる『こっぴどい猫』を監督し、一躍注目を集める。2013年、こじらせた大人たちの恋愛群像劇を描いた『サッドティー』が第26回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品。『知らない、ふたり』(2016)、『退屈な日々にさようならを』(2017)も、それぞれ、第28回、第29回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品されている。他の長編監督作に『鬼灯さん家のアネキ』(2014)、深川麻衣を主演に迎えた『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018)など。新作に伊坂幸太郎原作&三浦春馬主演の『アイネクライネナハトムジーク』(2019年秋公開予定)が待機中。
映画『愛がなんだ』
4月19日(金)、テアトル新宿ほか全国公開
原作:角田光代「愛がなんだ」(角川文庫刊)
監督:今泉力哉
出演:岸井ゆきの 成田凌 深川麻衣 若葉竜也 片岡礼子 筒井真理子 /江口のりこ
配給:エレファントハウス