映画『ある少年の告白』 ©2018 UNERASED FILM, INC.
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のルーカス・ヘッジズが主演を務め、2016年にアメリカで出版された同性愛の矯正治療の体験を綴った回想録を映画化した『ある少年の告白』が4月19日(金)より公開。webDICEでは俳優としてだけでなく監督デビュー作『ザ・ギフト』でも高い評価を獲得したジョエル・エドガートンのインタビューを掲載する。
主人公のジャレッドはあるとき男性が好きであることを牧師の父と母に相談するが、福音波のキリスト教徒である両親は彼を同性愛矯正キャンプへ送ることを決める。映画はジャレッドの幼少時代から大学生までの過程で同性愛者であることを自覚する過程と、施設内での入所者や職員との関係を交互に積み上げ、ジャレッドが自分を偽ることなく生きていく決意を持つまでを描いている。ジャレッド役のルーカス・ヘッジズを始め、両親役のニコール・キッドマンとラッセル・クロウ、そして入所者を演じるグザヴィエ・ドランやトロイ・シヴァンなど、豪華俳優陣の演技のアンサンブルが素晴らしいのはもちろんだが、終盤、自らを施設に入れた信仰深い両親に意識を変えるよう説き伏せるジャレッドの姿には、「自分を発見」することだけでなく、他者を理解し受け入れようとする心こそ大切なのだ、というエドガートン監督の哲学が投影されている。
「本作は矯正治療にさらされた人々だけではなく、その家族の物語でもあります。私が望むのは、子供を受け入れることに問題を抱えている家族に、このメッセージが届くことです。セクシャリティとは、選択の問題ではないし、治すものでも学ぶものでもありません。しかし幸いにも受け入れるということは、学べたり、やり直せるものなのです」(ジョエル・エドガートン監督)
自由の喪失、受け入れてもらうための闘いを描く
──『ある少年の告白』は、2016年に発表されたガラルド・コンリーによる回顧録をもとにしていますね。原作のどのような部分に惹かれましたか。
原作者のガラルド・コンリーと初めて会ったのは、2017年2月の寒い午後、ブルックリンのカフェでした。その日以来、この映画の目的は「矯正治療の有害さについて世間に知らしめること」「彼の個人的な物語が持っている正当な価値をスクリーンに映すこと」になりました。
映画『ある少年の告白』ジョエル・エドガートン監督 ©2018 UNERASED FILM, INC.
子供の頃、私が最も恐れていて、悪夢の種になっていたものは、どんな状況であれ、私の自由を奪うようなものでした。戦争、刑務所、カルト、誘拐、両親から引き離されること……これらへの恐怖ゆえに少年だった私は祈るようになり、カトリック教徒になったのでした。この自由を奪われる恐怖こそ、原作に惹きつけられた理由です。確かに、そこにはすべてがありました。しかし、それ以上のものがあったのです。それこそが彼の物語を映画にしたいと思わせてくれたのです。自由の喪失、受け入れてもらうための闘いを描く彼の回想録には、深い愛ゆえに生じる苦しみ、混乱が描かれていました。彼に対峙する人々の誰一人悪い人物ではない。みんながみんな、正しいことをしようとしていたのです。私はこのことに敬意を払い、誠実に取り組もうと心に決めました。
映画『ある少年の告白』ニコール・キッドマンとラッセル・クロウ ©2018 UNERASED FILM, INC.
──どのような心境で撮影に臨みましたか。
撮影中は、描かれる出来事が出来事だけに、感情的につらくもありました。それでも真実を受け入れることは大事であると実感しました。何故なら、最終的にガラルドの実話は希望へと着地するからです。一番重要なことは、アイデンティティと未来を自分で見つけ出そうとする彼の意志です。その結果、彼の周囲の人も、彼に引きずられてポジティブな方向へ向っていくのです。
自由とは、受け入れてもらうことを巡る物語
映画『ある少年の告白』ルーカス・ヘッジス ©2018 UNERASED FILM, INC.
──アメリカでは現在も行われ続けている、危険な同性愛の矯正セラピー。この映画がもつ意義についてどう考えますか。
子供の頃の私を思い返すと、『カッコーの巣の上で』(75)がお気に入りの映画の一本になるというのも自然なことでした。この原作が書かれたのが1962年で、アメリカでロボトミー手術が禁止されたのはその5年後だったということは、注意すべき点です。この本は、本作の原作と同じように問題のある治療法に光を当てました。しかし、私たちがこの映画を作った現在でも、この正式に認可されていない矯正治療は実際に行われています。
映画『ある少年の告白』トロイ・シヴァン ©2018 UNERASED FILM, INC.
私たちが映画を作ることで何か一つ仕事をしたとするならば、それは人が気づくべき問題についてより広範な議論を引き起こしたことです。矯正治療は、様々な形式で行われています。宗教に基づくものもあれば、そうでないものもある。心理療法を組み合わせたものもあります。そのすべてに共通するのは、信じがたいほどに有害なものだということです。
しかし、すべての刑務所や矯正施設を扱う映画がそうであるように、その核心には、自由になりたいという願望がある。自由とは、受け入れてもらうことを巡る物語なのです。本作は矯正治療にさらされた人々だけではなく、その家族の物語でもあります。私が望むのは、子供を受け入れることに問題を抱えている家族に、このメッセージが届くことです。セクシャリティとは、選択の問題ではないし、治すものでも学ぶものでもありません。しかし幸いにも受け入れるということは、学べたり、やり直せるものなのです。
映画『ある少年の告白』 ©2018 UNERASED FILM, INC.
──この作品を完成させて、どのようなことを感じましたか?
この映画を作る過程で、人を愛すること、また、自分を愛することについて多くのことを学びました。そのお陰で自分の信念を見直し、人をもっと受け入れていこうと思うようになりました。この映画を観る時、どれだけの情熱が注がれているかを是非、体で感じてほしいのです。私たちは一人一人違うかもしれないけれど、愛という本質的な感情を共有している。愛は常に勝利する。愛はいつだって勝つのです。それがこの映画の描くところなのです。
(オフィシャル・インタビューより)
ジョエル・エドガートン(Joel Edgerton) プロフィール
1974年6月23日生まれ。オーストラリア・ニューサウスウェールズ出身。ネピアン・ドラマ・スクールで学んだ後、数多くの舞台作品に出演。テレビドラマシリーズ「シークレット・ライフ・オブ・アス」(01~02)で脚光を浴び、『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(02)、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(05)ではルーク・スカイウォーカーの伯父、若き日のオーウェン・ラーズに抜擢。その後、『キンキーブーツ』(05/ジュリアン・ジャロルド監督)、『ゼロ・ダーク・サーティ』(12/キャサリン・ビグロー監督)、『華麗なるギャツビー』(13/バズ・ラーマン監督)、『ブラック・スキャンダル』(15/スコット・クーパー監督)など話題作に立て続けに出演。『ラビング 愛という名前のふたり』(16/ジェフ・ニコルズ監督)では、ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされた。その他『イット・カムズ・アット・ナイト』(17/トレイ・エドワード・シュルツ監督)、『レッド・スパロウ』(18/フランシス・ローレンス監督)などがある。 映画監督としては、『ザ・ギフト』(15)で念願の監督デビューを果たす。オリジナル脚本も手掛けた同作は、全米で4週連続TOP10入りのスマッシュヒットを記録した。待機作に、ティモシー・シャラメとリリー=ローズ・デップの共演が話題のNetflixオリジナルドラマ「The King」がある。
映画『ある少年の告白』
4月19日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
出演:ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ラッセル・クロウ、ジョエル・エドガートン、グザヴィエ・ドラン、トロイ・シヴァン
監督・脚本:ジョエル・エドガートン
原作:ガラルド・コンリー
音楽:ダニー・ベンジー、サウンダー・ジュリアンズ
撮影:エドゥアルド・グラウ
プロデューサー:ケリー・コハンスキー=ロバーツ(p.g.a.)、スティーヴ・ゴリン(p.g.a.)、ジョエル・エドガートン(p.g.a.)
原題:BOY ERASED
2018年/アメリカ/115分
ユニバーサル作品
配給:ビターズ・エンド/パルコ