▲OGA BREWING COMPANYの小笠原恵助さん
吉祥寺の映画館「アップリンク吉祥寺」では伊良コーラや自家製ジンジャエール、コダマのソーセージを使用したホットドッグなどこだわりのコンセッションを展開しているが、4月20日(土)から新たに3種類のクラフトビール「吉祥寺IPA(インディア・ペールエール)」「三鷹PA(ペールエール)」「三鷹WA(ウィートエール)」を発売開始する。
webDICEではこの銘柄を手がける小笠原恵助さんに話を聞いた。小笠原さんは自ら運営する三鷹にあるビアバー「cafe HOOOOP」の一角に自らのブルワリーOGA(オー・ジー・エー)BREWING COMPANYを1月に新設。今回の新しい銘柄もここで製造されている。
「吉祥寺IPA(インディア・ペールエール)」[中央]
「三鷹PA(ペールエール)」[左]
「三鷹WA(ウィートエール)」[右]
価格:各780円
エール=上面発酵酵母を使用し、高めの温度で発酵を行う醸造するビール。それに対して下面発酵酵母を使い、低い温度でゆっくりと時間をかけて発酵させたのがラガービール。日本で販売されているビールの99パーセントはラガービールと言われている。
PA=ペールエール。淡い色の大麦麦芽を使用して醸造する。
IPA=インディア・ペールエール。イギリスからインドに輸送するためのビールを起源とするため、この名がつけられている。通常のペールエールよりも多くのホップを使用し醸造するためより苦味が強いのが特徴。
WA=ウィートエール。小麦を使用して醸造する。
【編集部の一言レビュー】
「吉祥寺IPA」
まずは爽やかな香りを楽しんでほしい!柑橘系の芳醇な味わいと苦みが口の中に広がります。これを飲んだらきっとクラフトビールの世界にハマるはず。
「三鷹PA」
どれにするか迷ったらまずこれ!甘みと濃厚なコクが特徴で、苦みは控えめなので、クラフトビールが初めての方にもおすすめです。
「三鷹WA」
ウィートという名前の通り小麦を使ったエールビール。フワッとした柔らかな口当たり、そしてしばらくすると飛び込んでくる苦みで満足感たっぷり。
「ビールのレシピを作るのはデザインを組み立てるのと同じ。クラフトビールの楽しみ方はまず『色』そして『香り』、そのあと『甘み』『苦味』『アルコール感』続きます。それをどれくらいのスピードで、どういう風に感じてもらいたいか設計し、そこから原材料を選んでいくんです」
(小笠原恵助さん)
20年で花開いた日本のクラフトビール・ブーム
──小笠原さんがクラフトビールを手がけるようになったきっかけを教えてください。
独立する前、10年くらい前にデザイン事務所に務めて商業グラフィックのデザインをしていて、飲食店のショップカードや看板のデザインや店舗プロデュースをしていました。職場が国立で、武蔵小金井に住んでいたのですが、その間の国分寺駅に2007年12月にクラフトビールのお店ができたんです。そのことを知って、途中下車して飲んだのがきっかけで、面白さを発見しました。
現在でこそ、3タップ以上を持ち国内のクラフトビールを扱っている店舗は400店以上ありますが、その当時は12店舗しかなかった。そんななかで、ずっとクラフトビールをやりたいと言い続けていたら、応援してくれる人が集まるようになりました。
独立してからもずっとクラフトビールにはまっていて、デザインでクラフトビールに関わりたいとラベルデザインをデザインさせてくださいと醸造会社をまわって営業をしていたんです。それで10銘柄くらいのデザインをすることになってさらにハマりました。自分のやってきたノウハウを活かせるアンテナショップがほしいと場所を探していたときに、三鷹の物件を見つけて、ひとりでビアバーを開くことになりました。自分でもオリジナルを作りたいと思って、事業計画としてブルワリーを建てようと決めたのが6年前です。
必要なものはなにかを落とし込み、醸造の認可、技術、場所、資金、設備とひとつひとつクリアして、3年前に「吉祥寺ビール」「三鷹ビール」の商標登録をとって、ブランド「Cool Air One Brewing」を立ち上げました。
普通であれば工場を建ててから商品を作ってマーケティングをするのですが、マーケティングをしてきたことを活かして、日本のいろんなところでタンクを借りて「委託醸造」を行い、樽詰めとボトリングをして展開をしてきました。
▲「cafe HOOOOP」入口
──三鷹にお店をオープンした理由は?
クラフトビールを単なる嗜好品にしたくなかったからです。海外ではブルワリーは日常で、人が集まるコミュニティセンターみたいな場所で、おじいちゃんやおばあちゃんも集まってビールを飲みながら他愛もない話をして帰っていくような場。三鷹はそうした文化が育ちやすいなと感じたんです。1杯1,000円という価格帯は、なかなか週1回、月1回飲むのは難しいですが、いいものを薦めればちゃんと受け取ってくれる意識のある方がとても多かったので、三鷹で立ち上げることにしました。
クラフトビールのブームはグルメ雑誌などのメディアが仕掛けたものではなくて、ベルギービール好きの文化をベースに、ユーザーが少しずつ増えていって形成されたので、衰えることがないんです。クラフトビールの流通や管理、知識を持つ人がまだ少なかった頃から、20年間がんばってきたことがここで花開いたんだと思います。
▲これまでの小笠原さんが手がけたビールのラベル
クラフトビールはコンセプトが重要
──三鷹の地域性についてはどのように感じていますか?
お店をオープンしてからお客さんと接していても、年代問わずいいものに対して反応がある。それから住みたい街ランキングで去年38位だったのが今年16位まで上がったのは、30代から40代の方が手が届くマンションや家を買うようになって、子育てもしやすい街ということからで、あと20年で地域が活性化し、子供も増える。そうした状況になってきたこともあって、クラフトビールでコミュニティを作りたいということを実感しています。
吉祥寺は吉祥寺に合わせてキャッチーにやったり、地域に合わせたやりたかたでクラフトビールを薦めていきたいです。
▲「cafe HOOOOP」に併設された醸造所
──委託醸造からご自身のブルワリーを構えることになったのは?
レシピがあればどのブルワリーでも自分のイメージを再現することはできるんです。でも醸造量を確保して安定して供給できるようにするためですね。そして、自前の工場を持っていることはラベルを細かくチェックしている人にも「三鷹市で製造しているんだ!」とアピールできますし(笑)。
でも僕は製造する場所よりも、どんなビールをどういう人にどんな状況で飲んでもらいたいたいかというコンセプトのほうが重要だと思っているんです。でもまだ市場的には「三鷹で作っているから飲みたい!」という消費者の方の心理のほうが強いです。
▲取材時に販売していた「本日のビール」
──ラベルのデザインからクラフトビールの世界に入った小笠原さんらしい考えですね。
広告マーケティングのベースを利用しているだけですが、まず手にとってもらうために、その人が持っているイメージとなにかしらリンクしなければいけない。専門用語を並べてもその人のアクションには繋がりづらい。海外のクラフトビールのラベルはデザイン性が高く、コンセプチュアルで、かつ企業のメッセージが伝わりやすい。ラベルを見ただけで味へのリンクグまでいったら嬉しいですし、詳しいことを知らなくても「かっこいいから飲んでみようかな」だけもいいんです。そこから、「エール」(上面発酵で醸造されるビール)という専門用語を加えることで「エールって何?」とお客さんに知ってもらい成長してもらうことも目標です。
──お客さんに届けるにあたってどのようなことを心がけていますか?
ビールのレシピを作るのも「デザイン」を組み立てるのと同じ。クラフトビールの楽しみ方はまず「色」そして「香り」、そのあと「甘み」「苦味」「アルコール感」と続きます。それをどれくらいのスピードで、どういう風に感じてもらいたいか設計し、そこから原材料を選んでいくんです。ですので、その段階でパッケージのデザインもイメージできているんです。私にとってはデザインもビールを作るのも同じ工程なんです。
説明しなければ分からないデザインというのは厚みがないですよね。それと同じで、私がひとつひとつプレゼンしなくても満足してもらえるビールを作る工夫をしています。
▲「cafe HOOOOP」店内
いまのビール業界の国内流通量を100としたら99パーセントが大手企業のビールなんです。クラフトビールはまだ生産量も消費量も1パーセント。10年前は0.4パーセントだったので、倍になったというすごい成長ですが、それでも1パーセント。その1パーセントのマーケットにアプローチするブルワリーも多いのですが、私は時間がかかっても99パーセントのほうに投げかけたい。クラフトビール好きの人は自分で調べて飲んでくれますから。
ですので、地域の活動もしますし、専門店に卸すだけでなく、アップリンク吉祥寺のような映画館や居酒屋さん、カレー屋さんに手持ちして扱ってもらうようにしています。
──海外はカルチャーとビールが密接な印象があります。
日本では「とりあえずビール」と、ぞんざいに扱われているような気がします。海外ではビールのなかのスタイルを選ぶ。それは業界の責任なのですが、1パーセントのなかに何万種類もあるけれど、大手の99パーセントのビールは3種類しかない。そのうちのピルスナーというすっきりしてのどごしと炭酸の強さと冷たさで楽しむ種類がほとんど。
──もっとビールは多様性のあるものなのに、それを狭めてしまっているということですね。
世間に知られていないだけなんです。ビールはコミュニケーション・ツールだと思うので、「温度が上がってもおいしく飲めるビール」など、お客さんの要望に合わせた銘柄をいろんな場所で薦めること、そして文化との繋がりを大切にしていきたいです。
──今回のアップリンク吉祥寺で提供するのは「吉祥寺IPA(インディア・ペールエール)」「三鷹PA(ペールエール)」「三鷹WA(ウィートエール)」の3種類です。これまで映画館とのコラボは?
今回が初めてです。オープン当初に「むさしのレールエール」を販売していただいたのがきっかけです。まずはクラフトビールに触れてこなかったお客さんに知ってもらいたいということですね。「アップリンク吉祥寺」は発信の場だと思いますので、これまでも「この作品に合うビールはこれ」とセレクトしたイベントをやったことがありますが、アップリンクでもやりたいですし、最終的にはクラフトビールを題材にした映画を撮りたい!そこから文化が生まれて、その映画を観た若者が「ブルワリーをやってみたい」を思ってもらえる作品を作りたいです。
(インタビュー・文:駒井憲嗣)
小笠原恵助(おがさわらけいすけ)
岩手県久慈市生まれ。デザイン会社勤務の後、2004年に広告代理店「小笠原デザインスタジオ」を設立。2015年「Cool Air One Brewing」名義でクラフトビール醸造を開始。2018年3月1日にビアバー「cafe HOOOOP」を三鷹市にオープン。2019年1月、同スペースにマイクロブルワリー「OGA BREWING COMPANY」をオープン。
https://www.facebook.com/ogabrewing/
Cafe Hoooop
15:00~22:00
東京都三鷹市下連雀4-1-16
0422-29-8210
https://www.facebook.com/pages/Cafe-Hoooop/313151012754678