骰子の眼

cinema

東京都 その他

2019-04-10 14:00


磯村暖×カナイフユキが語る映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』

「民主主義がなくて人間に自由がない」と感じることが多いから皆でボイスの話がしたい
磯村暖×カナイフユキが語る映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』
アップリンク吉祥寺のトークイベントにて、磯村暖さん(左)とカナイフユキさん(右)

3月17日(日)、アップリンク吉祥寺にて『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』公開記念のトークイベントが行われ、移民問題や同性婚など社会的な課題を組み込んだ作品などを制作する美術家の磯村暖さんと、“personal is political(個人的なことは、政治的である)”をモットーにイラストレーターやコミック作家として、またZINEの制作など幅広く活動するカナイフユキさんの2名が登壇した。

まず、映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』について磯村暖さんが「僕はこの映画を、みんなに観てほしいと思っています。当時のドイツに民主主義がなくて人間に自由がないという話が出てきますが、今の日本でそういう風に感じる事が多いので、皆でボイスの事を話したいです」と本作への感想を述べるとカナイフユキさんは「色々焚きつけられるような言葉が出てくるので、“どんな言葉が好き”とか、皆でそういう話がしたいですよね」と深く頷いた。

また、カナイさんが「今の日本の社会は自分の意思を持っていても、団結できない。団結しづらい状況に追い込まれているように感じますよね」とボイスの“民主主義がない”“人間に自由がない”という言葉について感想を述べると磯村さんは「それを発信する事に意義を感じられないのではないかと思っています」と同意した。

トークイベント開催日、アップリンク吉祥寺では本作の公開を記念したリレー展示「現代の社会彫刻」vol.2「ドミナントストーリー -わたしは男の子-」と題されたカナイフユキさんによる展示が開催中だった。「“現代の社会彫刻”という題材からどのように展示を構想したのか」という司会者からの質問に対し「映画館で展示するという事から意識して好きな俳優や好きな映画をイラストに落とし込める事ができればと考えていました。また依頼が来た時と同時期に抱えていた母親からの手紙に返す事ができないというパーソナルな悩みをテーマにしました。パーソナルな事を突き詰めていけばいくほど、オーディエンスに自分のパーソナルヒストリーを掘り下げて考えもらうことを狙いました。僕はパーソナルヒストリーから浮かび上がる“家族規範”や“社会規範”みたいな社会問題を浮かび上がらせることができればと思い作品を作っています」と答えた。

また磯村さんが「僕は、ボイス以降のアーティストとしての自負があり、“ソーシャリー・エンゲージド・アート”とカテゴライズされる作品も作っています。ボイスやフルクサスの作品は、理解できると同時にオーディエンスを突き放すような印象を持っています。“社会彫刻”が掲げる理念と実際の作品を比較した時に、入り込みづらいと感じることもあります。僕は、オーディエンスの人が“入り込める”ことを作品から切り離したくないと思いながら活動しています」と“社会彫刻”という概念について言及すると、カナイさんは「すごく大切な指摘ですね。誰にでもわかるような事がやりたいという事を意識しているので、例えばギャラリーでは作品を展示しない事をポリシーとしていたり、アーティストではなく“イラストレーター・コミック作家”と名乗るようにしています」と語り、互いの作品に対しての姿勢を共有した。

最後に、ヨーゼフ・ボイスは“資本主義”でも“共産主義”でもない第三の道を追求したアーティストでもある。“資本主義”という課題について磯村さんは「ボイスが生きていた時代と今は社会が大きく変化していて、グローバル経済が登場し日常レベルに広がりました。グローバル経済が活発する中で、経済的に求められるものと、ないがしろにされてしまうものが出ています。最近、僕は経済にないがしろにされてしまう物の価値の大きさを感じています。資本主義によって社会から断絶されてしまったものを社会に取り戻す役割をアートも担っているのかもしれないと思っています」と語ると、カナイさんは「資本のサイクルから蔑ろにされているものを作品を通して気づいてもらえるようなことをこれからもしていきたい」と今後の展望を語った。

映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』は引き続きアップリンク吉祥寺・渋谷ほか、全国の劇場で公開中。4月10日(水)からはアップリンク吉祥寺でリレー展示「現代の社会彫刻」、大盛況の中終わった第二弾のカナイフユキさん「ドミナントストーリー -わたしは男の子-」に続き、第三弾として磯村暖さんによる展覧会がはじまる。




現代の社会彫刻vol.3 磯村暖「Hell on Earth」ー映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』公開記念


【開催期間】4月10日(水)~4月24日(水)
【会場】アップリンク吉祥寺(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-5-1 吉祥寺パルコ地下2階)
【入場料】無料

アップリンク吉祥寺公式ページ:
https://joji.uplink.co.jp/gallery/2019/2115

磯村暖_hellonearth



磯村暖

磯村暖(いそむら・だん)

美術家。国内外での歴史や宗教、フォークアートに関するリサーチをベースとし、トランスナショナルな視点でインスタレーションや絵画などの多岐に渡った制作活動を展開している。近年の活動に台湾の關渡美術やタイのワットパイローンウア寺院での滞在制作、キース・ヘリング生誕60周年記念イベントでのコラボレーション、香取慎吾の呼びかけによる「NAKAMA de ART」に新進気鋭のアーティストとして参加などがある。

Photo by BABY MSR
カナイフユキ

カナイフユキ

個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーター、コミック作家として活動しつつ、エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたジン(zine,個人出版物)の創作を行う。




映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』

映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』
アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中

監督・脚本:アンドレス・ファイエル
撮影:ヨーク・イェシェル
編集:シュテファン・クルムビーゲル、オラフ・フォクトレンダー
音楽:ウルリヒ・ロイター、ダミアン・ショル
音響:マティアス・レンペルト、フーベルトゥス・ミュル/アーカイブ・プロデューサー:モニカ・プライシュル
出演:ヨーゼフ・ボイス、キャロライン・ティズダル、レア・トンゲス・ストリンガリス、フランツ・ヨーゼフ・ヴァン・デル・グリンテン、ヨハネス・シュトゥットゲン、クラウス・シュテーク
配給・宣伝:アップリンク
字幕翻訳:渋谷哲也
学術協力:山本和弘
宣伝美術:千原航
(2017年/ドイツ/107分/ドイツ語、英語/DCP/16:9/5.1ch/原題:Beuys)

公式サイト

▼映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』予告編

レビュー(0)


コメント(0)