アニエス・ヴァルダ監督 2018年 第71回カンヌ国際映画祭にて 撮影:浅井隆
フランスの映画監督アニエス・ヴァルダが3月29日に乳がんのため死去した。享年90歳。自身のインスタグラムの最後の投稿は3月18日、愛猫ニニがディレクターズ・チェアに座る写真だった。
突然の訃報に、昨年劇場公開された『顔たち、ところどころ』で共同監督を務めるアーティストJRをはじめ、マドンナやマーティン・スコセッシ監督など多くのアーティストや映画人が追悼を捧げている。
冒頭の写真は2018年のカンヌ国際映画祭でのインタビュー取材中のカット。『顔たち、ところどころ』を昨年公開するにあたり、アニエス・ヴァルダ監督を6月のフランス映画祭に招聘しようと思っていましたが、5月のカンヌ映画祭直前に健康の具合で来日できないという知らせが届きました。カンヌ映画祭では、来日を予定していたアジアのメディアの取材を受けてくれました。ヴァルダらしい、チャーミングさを感じたのは、取材中、写真を撮っていたのですが、取材が終わると、机の上にあった植物から覗き込むように身をかがめ、カメラを見てくれた時です。
ご冥福をお祈りします。
(文:浅井隆)
アニエス・ヴァルダ監督 2018年 第71回カンヌ国際映画祭にて 撮影:浅井隆
アニエス・ヴァルダ監督 2018年 第71回カンヌ国際映画祭にて 撮影:浅井隆
アップリンク吉祥寺では追悼特集上映を4月6日(土)より2週間限定で開催。『顔たち、ところどころ』『5時から7時までのクレオ』『幸福(しあわせ)』『ジャック・ドゥミの少年期』、ヴァルダ監督が歌詞で参加しているジャック・ドゥミ監督作品『ローラ』の計5作品を上映する。
「アニエス・ヴァルダ監督追悼特集上映」
4月6日(土)~4月19日(金)
アップリンク吉祥寺にて開催
上映作品:
『顔たち、ところどころ』
監督・脚本・ナレーション:アニエス・ヴァルダ、JR
出演:アニエス・ヴァルダ、JR
音楽:マチュー・シェディッド(-M-)
2017年/フランス/カラー/89分
『5時から7時までのクレオ』
監督・脚本:アニエス・ヴァルダ
撮影:ジャン・ラビエ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:コリーヌ・マルシャン
1961年/フランス=イタリア/モノクロ/90分
『幸福(しあわせ)』
監督・脚本:アニエス・ヴァルダ
撮影:ジャン・ラビエ、クロード・ボーソレイユ
出演:ジャン=クロード・ドルオー、クレール・ドルオー
1964年/フランス/カラー/80分
『ジャック・ドゥミの少年期』
監督・脚本:アニエス・ヴァルダ
出演:ジャック・ドゥミ
1991年/フランス/カラー&モノクロ/120分
『ローラ』
監督・脚本:ジャック・ドゥミ
撮影:ラウル・クタール
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:アヌーク・エーメ
1961年/フランス/モノクロ/88分
ヴァルダ監督は1928年、ベルギーのブリュッセル生まれ。写真家としてキャリアをスタートさせた後、1954年友人アラン・レネの勧めで映画制作を開始し、デビュー作『ラ・ポワント・クルート』を監督。1958年の初長編『5時から7時までのクレオ』、1965年の『幸福』など、フィクションとドキュメンタリー双方の作品を多数監督しヌーヴェルヴァーグを代表する監督として活躍。第90回アカデミー賞で、長年の功績を称え名誉賞が授与された。
「アニエス・ヴァルダ、あなたはどこにいても私の流れ星です」
──JR(『顔たち、ところどころ』共同監督)
JRは、400人のボランティアとともに完成させたルーブル美術館ピラミッド建設30周年プロジェクト「JR AU LOUVRE」をヴァルダ監督に捧げている。
「この作品をあなたのために完成させました。あなたは人々を、ペースティングと錯視を愛した。きっと見てくれることを信じています。空の上から見えるように仕上げました」
「悲しい、悲しい、悲しい、悲しい、悲しい……私のアニエス、あなたがいなくなり寂しさで心にぽっかりと大きな穴が空いたようです。私の映画の母。あなたは全てを教えてくれました。ショックで言葉を失い、報道陣にあなたについて聞かれても答えられません。あなたの偉大さ、あなたの定義、あなたの寛容さ、あなたの快活さ、そしてあなたの映画。あなたは、独創的で職人的でインディペンデントな映画のために、そして家族のために!尽力しました。あなたは私の家族です。愛しています」
──ジュリー・ガイエ(『顔たち、ところどころ』プロデューサー)
「アニエス・ヴァルダはその人生、そのアートのあらゆる局面において、他人の足跡をたどることはなかった。彼女は自ら道を切り拓き、カメラを手にその一歩一歩を進んでいった。彼女が制作した映画はどれも、ドキュメンタリーとフィクションの美しいバランスの上に成り立っていて、すべての画、すべてのカットが誰にも似ていない。お茶目もありタフでもある、寛容であり孤独でもある、詩的でもあり物怖じしない、生き生きとした映画たち。私が最後に彼女に会ったのは数ヵ月前だった。彼女はもう自身の命が長くないことを知っていて、1秒も無駄にしたくないようだった。私は彼女と知り合えて幸運だ。そして、全ての若いフィルムメーカーへ、アニエス・ヴァルダの映画を観るべきだと伝えたい。アニエス、安らかに眠ってください」
──マーティン・スコセッシ監督(『タクシー・ドライバー』)
「彼女は私の人生の映画監督でした。『カンフー・マスター!』は『君とボクの虹色の世界』を作るために私を駆り立てた作品でした。そして彼女の人生そのものに、最も影響を受けました。自分とは別の監督と結婚すること、子供をもうけること、しかしいつも彼女は映画だけでなく精力的に心のこもった創作をし続けました。涙ぐんでいて、うまく書けません。最後の最後に彼女に出会えたことは、私にとって本当にうれしくて意味深いことでした。彼女のパリの家で彼女が作った食事を食べたこと、ここLAで私の子供が彼女の孫のトランポリンで飛んだこと、彼女が私の映像作品について面白いことを書いてくれたこと、私のことを自分はそうではないかのように『変わり者』と呼んでくれたこと。新しい映画を作っているとき、いつでも私は『アニエスに早く見せたいな』と思っていた。それはちょっとした自分勝手な考えでしたが、映画制作の長い工程のなかで私の助けになったのです。ひとりではないと感じられたのです。あなたからの恩に永遠に感謝します。オーケー、さようなら、おつかれさま、そしてありがとう」
──ミランダ・ジュライ監督(『the Future ザ・フューチャー』)
「この写真を撮った2013年のある日、アニエス・ヴァルダは、創作を止められない、毎朝4時に書き始めてしまうのだと、私に教えてくれました。彼女は小道具の絵で埋め尽くされたノートを私に見せて、まわりのテーブルにあった飲みかけの飲み物をすべて飲みました。彼女のアイデアで、この写真のポーズを取ることにしました。パワーとともに、どうぞ安らかに」
──レナ・ダナム監督(『タイニー・ファニチャー』)
「この伝説の人物のために作品と人生は疑うことなく融和した。彼女は90年間のあらゆる瞬間を完璧に生きた」
──バリー・ジェンキンス監督(『ムーンライト』)
Work and life were undeniably fused for this legend. She lived FULLY for every moment of those 90 damn years pic.twitter.com/SHnRbGoDmr
— Barry Jenkins (@BarryJenkins) 2019年3月29日
「さようなら、私の大好きなフィルムメーカー、アニエス・ヴァルダ。最後まで、いつも子供のように好奇心が強く、創造的だった。あなたがいなくなって寂しい!!」
──マドンナ
「昨年のカンヌ映画祭で、アニエス・ヴァルダは私を朝食に招待してくれました。彼女はそこで人生の最後の年をどう生きるか話してくれました。選択について、そして変化について。私は彼女に、いかに彼女が私にとって大切な存在かを伝えました。私たちは手を握り合いました。ありがとう、アニエス。あなたの映画に、あなたの情熱に、あなたの光に。それはこれからも輝き続けます」
──エイヴァ・デュヴァーネイ監督(『グローリー/明日への行進』)
Last year at Cannes, Agnes Varda invited me to breakfast. She spoke of how she was in the last year of her life. About choices. And change. I told her what she meant to me. She held my hand as I did. Merci, Agnes. For your films. For your passion. For your light. It shines on. pic.twitter.com/NP2FSJACY9
— Ava DuVernay (@ava) 2019年3月29日
「これは2008年パリのカルティエ財団現代美術館でのアニエス・ヴァルダの写真です。柔軟な精神、好奇心、果てしないエネルギーとお茶目な微笑みで私たちを楽しませてきた彼女の死を慎みます。彼女の映画と映像表現は、フィルムメーカーとアーティストたちを刺激し触発しました。常にインディペンデントで、特定の信条やルールに従わない稀に見る存在。常に正しいこと、そして予想外のこともしました。アニエス、あなたに会えなくてみんなが残念に思っています。かつてあなたは、塩を円錐に積んだインスタレーション作品を発表しましたね。私はその前に数時間立ちつくし、歴史の全てを感じました。さようなら、さようなら、アニエス。1万年、あなたの思索に1万ペニーを」
──パティ・スミス
「アニエス・ヴァルダは映画を愛し、そのお返しに映画に愛されていました。精力的な人として知られる彼女といくつかの美しい瞬間を共有できたのは、私の人生のハイライトでした。彼女は私が出会った最も若々しい魂でした」
──ギルレモ・デル・トロ監督(『シェイプ・オブ・ウォーター』)
Agnes Varda loved Cinema and was loved by Cinema in return. Sharing a few beautiful moments with her- in which she was recognized as the powerhouse she was- was a highlight of my life. The youngest soul I have ever met.
— Guillermo del Toro (@RealGDT) 2019年3月29日
「インディペンデント映画(という名前がなかった頃から)のアイコン、アニエス・ヴァルダ、RIP。『顔たち、ところどころ』は彼女の驚異的なキャリアの独創的で愉快なフィナーレだった。2017年のアカデミー名誉賞を受賞したときの困惑した微笑みはおかしかった。彼女にはそんな賞はいらなかった。すでに伝説だったのだから」
──エドガー・ライト監督(『ベイビー・ドライバー』)
【エドガー・ライト監督も言及している2017年アカデミー名誉賞受賞の際のプレゼンテーター、アンジェリーナ・ジョリーによるスピーチ】
「アーティストでいることは、レッテル貼りを疑うことです。アニエスは、うんざりしてきたに違いありません。“ヌーヴェルヴァーグの祖母”と、30歳で呼ばれるようになったのですから。今、この場でもきっと彼女は、あきれ顔をしているはずです。
長年のキャリアをとおして、アニエスは観客に日常生活の美しさと尊さを見せてきました。戦場からの生還を描くような大作ではなく、私たちのすぐ隣にいる人々の尊厳や勇気、苦しみ、記憶、そして価値観を伝える映画を、彼女はつくってきたのです。
アニエスは、いかなる地位を与えられることも拒むでしょう。けれども今夜、私たちは彼女を称えます。なぜなら彼女は特別な位置を占めているからです。
映画がまだ若い芸術形式だった63年前の1954年、アニエスは25歳で処女作をつくりました。脚本を書いたり読んだりした経験もなく、独学で。
彼女は1本だけ撮るつもりでした。しかし今、こうして彼女はいます。いまだに先駆者であり続け、美しい映画を撮り続けています。デビュー作から変わらぬオリジナリティと巧みさで。
“女性監督”は、アニエスが拒むであろうもう一つのレッテルです。彼女はもちろん、秀でたアーティストで、創造力に富み、才気に溢れた、好奇心の塊であり、コミュニケーターです。彼女は、それまで女性のみならず誰も作ったことのない映画をつくりました。
しかし当時、女性監督がほんのわずかしかいなかったことも事実です。お手本にできる先駆者がおらず、批判や偏見、さらには働く母親に立ちはだかるハードルも越えなければなりませんでした。
アニエスが想像しなかったであろう男女対等な現在の社会においても、女性アーティストはまだ闘わなければなりません。自由のために、技能を追及するために。
だからこそ私たちは、アニエスのようなアーティストから力をもらう必要があるのです。最初のステップを踏んでくれた女性たちは、私たちに道を示してくれました。
芸術の自由のために闘った女性たちは、周囲の人々よりも少し先を見て、“私は書く” “私は語る” “私は私の道を行く”と伝統を破り、次世代のために束縛を解いてくれました。
アニエスのそばにいると、より多くの酸素が流れてきます。あなたから、輝きと、そして、“不可能なことはない”という感覚が伝わってくるのです。
あなたは私に、喜びの重要性に気づかせてくれました。楽しく創造的に今を生きる喜びを。
今夜、私たちはあなたの作品だけでなく、あなたの人生と、品格、知性、魅力、気概、独立精神、オリジナリティを称えます。
あなたは、かつてこう言いました。『標準的では人々の興味は引けない』と。
私はこう言います。すべての人々を代表して、あなたが標準的ではないことに感謝します。あなたが唯一無二で、大胆不敵で、異例であることに、アニエスであることに感謝します。
アカデミー代表として、この賞をあなたに贈る名誉を与えられて、私は心底、光栄に思います」
▼アメリカの定額制動画配信サービス「MUBI」のSNSより、アニエス・ヴァルダとジャック・ドゥミ
Agnes Varda, with Jacques Demy. pic.twitter.com/CJl4Ken0XJ
— MUBI (@mubi) 2019年3月29日
映画『顔たち、ところどころ』
7月5日DVDリリース
3,800円(税抜)
【特典映像】
・削除シーン
・アニエス・ヴァルダとJRの対談
・アニエス・ヴァルダとJRから日本へのメッセージ
・予告編 ほか