『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』より
イスラームの文化が根づく国や地域を舞台にした映画を紹介する映画祭『イスラーム映画祭4』が、2015年の第1回、2017年の第2回、2018年の第3回に続き、3月16日(土)から渋谷ユーロスペース、3月30日(土)から名古屋シネマテーク、4月27日(土)から神戸・元町映画館にて開催される。
4回目の開催となる今回はイエメンにフォーカスを当て、内戦に揺れ現在500万人以上の子どもが飢餓の脅威にさらされているというこの国の文化を知ることができる作品をラインナップしている。webDICEでは、映画祭主宰の藤本高之さんに上映される全12作を解説してもらった。
「2015年に激化した内戦の影響で、“世界最悪の人道危機”が続くイエメン。『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』はイエメン出身のハディージャ・アル=サラーミー監督が児童婚根絶を願う、かつて自身もその犠牲者だった監督の力強いメッセージが込められた作品です。そして『イエメン:子どもたちと戦争』は、サウジアラビアによる空爆が続き、海外メディアの取材さえ困難な中、アル=サラーミー監督が現地に入り込んで撮影した貴重なドキュメンタリーです」(イスラーム映画祭・藤本高之さん)
日本初公開
『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』
実在の女性の体験を元に、現在はフランスで活躍するイエメン出身のハディージャ・アル=サラーミー監督が、自身の経験も反映させた“児童婚”に抵抗する少女の物語です。児童婚は途上国だけの問題と思われがちですが、実際は、宗教や民族や地域、国の発展具合と関係なく世界の各地で今も行われている風習であり、その根底には、日本も決して他人事ではない女性差別の問題が横たわっています。本作は、児童婚根絶を願う、かつて自身もその犠牲者だった監督の力強いメッセージが込められた作品です。初日の上映後には、日本の大学で“ジェンダーと政治”について学んでいるイエメン人女性の方をお招きし、女性の権利をテーマに幅広いトークを行います。
監督:ハディージャ・アル=サラーミー
2015年/イエメン=UAE=フランス/99分/アラビア語
▼トーク情報
3月16日(土)13時10分の回上映後
ゲスト:マリヤム・アル=クバーティ(イエメン、タイズ出身/筑波大学大学院博士課程 国際日本研究専攻)※通訳:松下由美
鳥山純子(立命館大学国際関係学部准教授 中東ジェンダー学専門)
3月19日(火)13時30分の回上映後
ゲスト:和家麻子((株)ジェイ・エス・エス勤務/2004年~2005年イエメン、サナア留学)
劇場初公開
『イエメン:子どもたちと戦争』
2015年に激化した内戦の影響で、“世界最悪の人道危機”が続くイエメン。サウジアラビアによる空爆が続き、海外メディアの取材さえ困難な中、『わたしはヌジューム~』の監督が現地に入り込んで撮影した貴重なドキュメンタリーです。映画スタッフは3人の子どもたちに、携帯カメラで自分たちの声を世界に発信する方法を教え、彼らは負傷したり、親を失った子どもたちのほか、画家やラッパー、SNSの人気モデルにもインタビューしてゆきます。大人たちに向ける、子どもだからこその無垢な質問が戦争の不条理を浮き彫りにし、胸が詰まりますが、その課外授業のような取材活動は、子どもたちに武器よりも知識を持つことの大切さを教えるのです。
監督:ハディージャ・アル=サラーミー
2018年/フランス/52分/アラビア語、英語
『気乗りのしない革命家』
山形国際ドキュメンタリー映画祭で好評を博した、“アラブの春”を取材するためにイエメンを訪れたイギリス人の監督が、現地の観光ガイドの男性とともに革命に呑み込まれてゆくという作品です。ビジネスに支障をきたし、初めは反政府デモに懐疑的だった主人公が、政府によるデモ隊への発砲や死傷者を見て態度を変えてゆく様子はまさにイエメン版『タクシー運転手』。しかし、映画が作られた当時、その後の泥沼の内戦はまだ想像もできなかったことでしょう…。なお、本作は『イエメン:子どもたちと戦争』と2本立で上映します。そして初日と3日目にはイエメンでの支援活動のご経験がある方をお招きし、現地の状況についてじっくりとお聞きします。
監督:ショーン・マカリスター
2012年/イギリス/70分/アラビア語、英語
▼トーク情報
3月16日(土)16時05分の回上映後
ゲスト:藤目春子(認定NPO法人アイキャン/外務省NGO相談員)
3月18日(月)13時30分の回上映後
ゲスト:白川優子(国境なき医師団・看護師)
日本初公開
『その手を離さないで』
内戦下のシリアから逃れ、親を失い、シリアとの国境に近いトルコ南東部の街シャンルウルファの孤児施設に暮らす、難民の子どもたちのドラマです。日本でシリア難民といえば地中海を越えてヨーロッパに避難してゆく人々のイメージしかないかもしれませんが、当然隣国に逃れた難民も多く、本作はそんな人たちのリアルな日常を伝えてくれます。主人公の3人をはじめ、登場する孤児はすべて実際の難民の子どもたちが名前もそのままに演じており、戦争によって大切な子ども時代を奪われた彼らの悲しみに、胸を打たれずにはいられません。自身もユーゴスラビア内戦を経験したムスリマの監督が描く、痛ましくも、包み込むような優しさを感じる物語です。
監督:アイダ・ベギッチ
2017年/ボスニア・ヘルツェゴビナ=トルコ/96分/アラビア語、トルコ語
▼トーク情報
3月22日(金)13時15分の回上映後
ゲスト:山田一竹(Stand with Syria Japan代表)
村山木乃実(東京外国語大学大学院 総合国際学研究科 博士後期課程)
堀谷加佳留(トルコ語実務翻訳者)
日本初公開
『ナイジェリアのスーダンさん』
本作は、南インド・ケーララ州が舞台のマラヤーラム語映画。ナイジェリアから招聘されたのにスーダン人だと思い込まれるサッカー選手と、所属チームのマネジャーとの友情を描く人情コメディです。ある事情でサッカーを始めたクリスチャンのアフリカの若者と、ケーララのムスリムコミュニティの交流が温かな笑いと涙を誘い、ホロリとさせられます。これがデビュー作のザカリヤ監督はマラヤーラム語映画の超新星。『ムトゥ 踊るマハラジャ』のタミル語映画や、『バーフバリ』のテルグ語映画とはまたひと味違う、マラヤーラム語映画の世界をお楽しみください。『パッドマン』『バジュランギおじさんと、小さな迷子』の次に泣けるインド映画はこれだ!
監督:ザカリヤ
2018年/インド/122分/マラヤーラム語、英語
▼トーク情報
3月17日(月)3時15分の回上映後
ゲスト:安宅直子(編集者/インド映画研究)
『イクロ クルアーンと星空』
イクロ(Iqro)とは、クルアーン(コーラン:イスラームの聖典)をアラビア語で詠む練習方法を指します。本作は、インドネシアの理系の最高学府バンドゥン工科大学のサルマン・モスクが、“イスラームと科学”をテーマに製作した子ども映画です。科学は大好きだけど宗教には興味のない女の子が、天文学者のおじいさんに観測所の大望遠鏡で星を見せてもらう代わりに、クルアーンの勉強をするというお話です。実は本作は昨年の上映作で、今回はその続篇『イクロ2 わたしの宇宙(そら)』を上映する予定でした。しかし映画の完成が大幅に遅れたため、本作を昨年の上映時には日本語字幕が付いていなかった、クルアーンの朗誦のシーンにも字幕を付けて再映することになりました。
監督:アクバル・アルファジリ
2017年/インドネシア/97分/インドネシア語、アラビア語
『西ベイルート』
昨年大ヒットした『判決、ふたつの希望』のジアド・ドゥエイリ監督のデビュー作です。 時は1975年。西ベイルート(ムスリム地区)に暮らし、東ベイルート(クリスチャン地区)の学校に通っていた少年が、レバノン内戦を目の当たりにする戦争青春ドラマです。街が遮断され学校へ行かなくてもよくなり、初めは戦争をよろこんでいた主人公が、迫り来る恐怖に心を蝕まれてゆく様子が生々しく描かれます。リベラルなムスリム家庭で育ったというドゥエイリ監督の自伝的要素も込められた作品です。『判決~』に震えた方は本作もぜひご覧ください。
監督:ジアド・ドゥエイリ
1998年/フランス=ノルウェー=レバノン=ベルギー/110分/アラビア語、フランス語
▼トーク情報
3月21日(木)13時10分の回上映後
ゲスト:佐野光子(アラブ映画研究者/写真作家)
『判決、ふたつの希望』
そして特別参考上映として、本作を各会場1回限り『西ベイルート』と連続で上映します。 パレスチナ人とレバノン人、主人公2人の口論がなぜ国を巻き込む大騒乱にまで発展したのか? その理由と背景がより深く理解できる大変貴重な機会です。渋谷会場では各作品の上映後に、本作のアラビア語監修をされたアラブ映画研究者の佐野光子さんをお迎えしてトークを行います。 レバノン内戦やパレスチナ問題を、“中東映画史”を紐解きながら解説していただく予定です。また、佐野さんは直前にレバノンへ渡航されますので生の現地情報もお聞きします。
監督:ジアド・ドゥエイリ
2017年/レバノン=フランス/113分/アラビア語
▼トーク情報
3月21日(木)16時の回上映後
ゲスト:佐野光子(アラブ映画研究者/写真作家)
劇場初公開
『乳牛たちのインティファーダ』
1987年の第1次インティファーダの契機となったある逸話を独創的な手法で描き、世界中の映画祭で絶賛されたほか、「BS世界のドキュメンタリー」でも好評を博した作品を今回は75分のフルバージョンでお送りします。パレスチナのある町の人々が、それまでイスラエルに頼るしかなかった牛乳を自分たちで生産しようと18頭の乳牛を“合法的”に手に入れますが、イスラエル当局はそれを“安全保障上の脅威”と見なし、なんと牛の摘発に乗り出すのです…。単に関係者の証言を綴るだけでなく、クレイアニメを駆使して牛を擬人化するなど、複雑なパレスチナ問題を身近に感じさせる斬新な語り口に驚き、真の抵抗とは何かを教えられ胸が熱くなります。
監督:アメール・ショマリ、ポール・コーワン
2014年/カナダ=パレスチナ=フランス/75分/アラビア語、英語、ヘブライ語
▼トーク情報
3月21日(木)18時50分の回上映後
ゲスト:古居みずえ(ジャーナリスト/映画監督)
高橋美香(写真家)
『僕たちのキックオフ』
かつてNHKは、アジアの個性的な作家に出資して数々の良作を生み出していました。本作もその1本です。イラク北部の街キルクーク。家を失ったクルド人たちが暮らすスタジアムで、争い嫌いの青年が、地雷で片足を失った弟のため民族対抗の少年サッカー大会を企画します。キルクークはかつてフセイン政権下でクルド人を弾圧する苛烈なアラブ化政策が進められた街。その街を舞台に、心優しい主人公をはじめ市井のクルド人たちのささやかな日常が描かれます。 果たしてサッカー大会はうまくいくのか? モノクロに近い映像が印象的な作品です。
監督:シャウキャット・アミン・コルキ
2009年/イラク・クルディスタン地域=日本/81分/クルド語、アラビア語、トルコ語
『二番目の妻』
本作は、ウィーンで育った移民二世のクルド人監督による悲劇的な家族ドラマで、2012年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて最優秀作品賞を受賞しています。イスラーム映画祭3で上映したドイツの移民一家のドキュメンタリー『私の舌は回らない』にも通じる内容です。ストーリーは微塵も明かせませんが、欧州においても根強い家父長制の中に生きる女性たちの困難と、すべての移民が抱えているに相違ない、アイデンティティーの板挟みの苦悩が精緻な演出によって描かれます。移民やジェンダーについて我々も考えさせられる作品です。
監督:ウムト・ダー
2012年/オーストリア/89分/トルコ語、ドイツ語
▼トーク情報
3月20日(水) 13時45分の回上映後
ゲスト:松下由美(映画プレゼンター/キュレーター)
『幸せのアレンジ』
今回、初めてアメリカ映画を上映します。N.Y.ブルックリンの学校で共に新任教師として出会った、正統派ユダヤ教徒の女性とムスリム女性の友情物語です。ある授業がきっかけで仲良くなった2人は、互いに控えている“お見合い”について相談しあうようになります。現代のアメリカ社会で、それぞれの信仰や伝統にしたがいながら自分なりの生き方を探す女性の姿が描かれ、幸せや物事の価値観は自分で決めるという姿勢が共感を呼びます。本作もSKIP映画祭の最優秀作品です。 実はイスラーム映画祭2の時からかけたかった作品なのですが、今回ついに3年越しで上映権の再取得が叶いリバイバルとなりました。とてもいい映画です。ぜひご覧ください!
監督:ダイアン・クレスポ、ステファン・シェイファー
2007年/アメリカ/92分/英語、ヘブライ語、アラビア語
『イスラーム映画祭4』
【東京】
会期 : 2019年3月16日(土)~22日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペース
【名古屋】
会期 : 2019年3月30日(土)~4月5日(金)
会場 : 名古屋シネマテーク
【神戸】
会期 : 2019年4月27日(土)~5月3日(金)
会場 : 神戸・元町映画館
主催:イスラーム映画祭実行委員会