骰子の眼

東京都 ------

2019-03-06 18:40


性別変更後 同性婚を認めない日本のシステムを壊そうとするエリン&みどりさんに聞く

「性別は自由に選べると示せる事は子供たちの未来にとっても大きな前進」
性別変更後 同性婚を認めない日本のシステムを壊そうとするエリン&みどりさんに聞く
▲エリン・マクレディさん(左)とマクレディ・もりたみどりさん(右)[写真提供:マクレディ・みどりさん]

アメリカ出身で現在、青山学院大学で言語学の教授を務めるトランスジェンダーのエリン・マクレディさん(45歳)と妻のマクレディ・もりたみどりさん(48歳)は3人の子供とともに結婚19年を迎えるが、ふたりの結婚が国により壊されようとしている。

エリンさんは昨年アメリカ・テキサス州で性別と氏名を変更しトランスジェンダー女性となり、新しい米国パスポートを持って帰国した。永住権を持っている日本で日本での在留カードを変えることは問題なかったものの、新しい在留カードを自治体に登録する際に職員が彼女が結婚していることに気づき、前例がないということで手続きが停止され、3ヵ月以上が経過している。この出来事はAPFの取材により、2月19日に英語の記事としてYahoo!に掲載、その後翻訳された記事が3月5日に掲載された。

【Yahoo!News】After gender change, a bureaucratic brick wall in Japan(2018年2月19日)

【Yahoo!ニュース】米国人夫が性別移行した夫婦、立ちはだかる日本の法律の壁(2018年3月5日)

日本政府が婚姻関係を引き続き認めれば、日本初の同姓婚成立、認めなければ、存在する婚姻を政府が勝手に無効にするということになる。マクレディさんは永住権を所得しているため、法的に婚姻を認められなくなった場合でも、国外退去となることはない。

「日本で性別を変更できる条件」は
一  二十歳以上であること。
二  現に婚姻をしていないこと。
三  現に未成年の子がいないこと。
四  生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五  その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

平成十五年法律第百十一号 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 より)

書類上の性別変更を日本国外で行ったマクレディさんはこのうち二と三と四が当てはまらない。

webDICEではこの出来事についてエリンさんとみどりさんにメールで質問に回答してもらった。


官僚政治に同性婚の問題を投げた

──エリンさんの行動は日本の同性婚を巡る矛盾をつまびらかにしました。エリンさんとみどりさんは、こうした政府の対応は予想されていましたか?

エリン・マクレディ(以下、エリン):予想はしていましたね。私たちのやってきた手順からして政治家に問題を示しているというよりは官僚政治に同性婚の問題を投げたという感じです。もともとは私が性別を変えて普通に保険証の書き換え等、官僚的な事をやっておきたい、という所から始めた訳ですが、同性婚が認められていない事で問題になるだろうと予想はしていました。官僚政治の中で仕事している公務員からしたら「面倒なのが来たな」という感じで、誰も責任を取りたがらないでしょう。そこで彼らが「とりあえず動かない」という戦略をとったのも想定内です。しかし3ヶ月以上放置されたままになっているのでこちらからメディアを通して明確にしたいと思いました。

マクレディ・もりたみどり(以下、みどり):はい、予想していました。周りからは「結婚取り消されたら困るし黙っておけば良いんじゃない?」というアドバイスをくれる人もいましたが、だからこそ社会的地位と永久ビザを持っているエリンが政府にプレッシャーをかけるべきだと思いました。

皆さんが本当の自分として生活ができるように

──今回の政府の対応も含め、日本でトランスジェンダーが生きる上での法的・経済的な問題点を教えてください。

エリン:そもそも全部が「問題点」だと思います!日本で性別を書類上変える事は非常に難しい。結婚していたらできない、未成年の子供が居たらできない、また子供を作る事ができたらできない、というかなり理不尽な条件があります。この三つの条件は性別を変える事と全くなんの関係もありません。そもそもこの条件を一つも満たさない私がアメリカで性別を変えて、家族で平和にやって行っていますし、むしろ子供達との関係も良くなっています。私のケースからこの条件はどれだけ理不尽であるかが解ります。(性別の変更が)日本に移民として住んでいる私ができて国内のトランスの方ができない、というのが凄く不公平で私自身複雑な気持ちです。私たちのアクションによりこの法律が改善し(トランスジェンダーの)皆さんが本当の自分として生活ができるようになればすごく嬉しいです。

さらに経済面でいうと、トランス医療に関する保険制度の規則です。主に二つあります。一つはホルモン治療は保険でカバーされない事です。もう一つは性転換の手術に関する規則で、過去にホルモン治療を受けた事があれば性転換手術の際保険が適用されない事です。例えば腰痛の人はまずは市販の痛み止めを飲んだり整骨院に行ったりするのが普通で、いきなり「ハイ手術!」と言う人は居ないでしょう。トランスジェンダー治療も同じで、先ずはカウンセラーで相談して一番取っ付きやすいホルモン治療から始めます。なのにこのホルモン治療をすっ飛ばしていきなり手術する人にしか保険が下りないというのは本当におかしな話です。私が言いたいのは、この制度が如何にお金のない人を差別しているかという事です。例え保険が適用されなくてもお金に困っていない方なら手術をして性別を変える事は可能です。しかしお金に困っている方は性転換手術は不可能で、結局書類上で性別を変える事もできません。生活に困っていれば困っているほど、本来の自分の性別で生活する事ができない上に、書類とルックスが違う(例えば完全に女性に見えるのに手術をしていないので書類上は男性、又はその逆)ので就職もし難く悪循環から脱する事はなかなか難しい。この規則は本当に最悪としか言えません。

みどり:今回私たちの同性婚が認められれば「同性婚」以外にも大きな問題点をクリアした事になります。一つは、性転換手術をしてない人でも性別変更を成し遂げたという事。もう一つは子供の居る人でも性別変更を成し遂げたという事。

日本では性転換手術をしていない人が性別を変更する事を認められていません。これは非常に差別的で、最近裁判で違法性が認められた「旧優生保護法」と同じに見えます。「トランスジェンダーは精神病だから子孫を作っちゃいけないよ」的な。シスジェンダーの人でも結婚したい人、結婚したくない人、子供が欲しい人、子供が欲しくない人が居る様にLGBTの方でも同じ様に多様な考え方があり、子供が欲しい人も多く居ます。ゲイカップルが他のレズビアンカップルに自分の精子を提供して子供を産んでもらい4人の子供として育てているという事は外国ではよくある事です。又性別が入れ代わったトランスジェンダー同士のカップルも多く居ます。そういう方々は二人の子供を作る事も可能でそれを希望しているカップルも多く居ます。なのに政府はそういう方々から生殖機能を奪おうとしている。少子化の時代非常にナンセンスで、それによって「生産性が無い」等と偏見を持たれ理不尽な差別を受けています。

又、子供の居る人は「子供が混乱するから」という理由で性転換を認められていませんが、私たちの同性婚が認められれば「決してそんな事は無い」という事が証明されます。3人の息子はエリンの行動を尊重し応援してくれています。未だ小学生の三男はエリンが告白したとき「そんな事勝手にして良いんだ!」と素直な反応をしました。妻が性別変更した事により周りの子供たちも「そういう選択があるんだ」「性別は自由に選べる、自分たちは自由なんだ」と示せる事は子供たちの未来にとっても大きな前進です。

日本政府はトランスジェンダーの存在を消そうとしている

──今年2月のバレンタインデーに、日本各地の同性カップル13組が「同性同士の結婚を禁止するのは、憲法が保障する婚姻の自由や法の下の平等などの権利を侵害している」と、結婚する権利を求めて提訴を行いました。また京都では結婚後に女性への性別適合手術を受けた方が戸籍上の性別を女性に変更するよう京都家裁に申し立てたことも報じられました。日本でそのような動きが高まるなかで、エリンさんとみどりさんによる問題提起、そしてこの問題の解決の行方が、日本の同性婚成立への後押しとなるように思います。いま政府に、そして日本の社会にどのようなことを伝えたいですか?

エリン:オリンピック前で政府はプレッシャーを感じているかと思いますね。同性婚を認めるための提訴や私たちのニュースは海外メディアでは結構注目を浴びていて、政府のイメージが悪くなる一方です。私たちのケースが同性婚を認める一つの理由になったらすごく嬉しいです。

同性婚だけでなく、トランスジェンダー権利の問題にも起動点になって欲しい。現在の制度は全体的にトランスジェンダーの方を存在できないようにしているように思います。医療はほとんどできない。書類上で性別を変えるのは非常に難しい。日本でトランスジェンダーが普通に生きて行くのはすごく大変で、政府には一切サポートを感じないどころか、そもそも私たちの存在を消そうとしているようなポリシーばかりです。私の様に性別変更するのは日本人なら非常に難しいというより、ほとんど無理です。マイノリティでも同じ人間で人間として生きる権利がありますが今の法律ではそれもできません。今の所トランス医療・書類問題について知っている人は少ないですが、その問題を国民全体で気付いて変える意思を持って欲しい。

みどり:周りで色々な提訴が起っている今がタイミングだと思いマスコミに私達の事をお伝えしましたが取り上げて頂いたのは結局海外の新聞だけでした。こちらで取り上げて頂くのを機に日本国内でも日本語の記事を多く出して頂き、LGBTの権利が社会でもっと議論され、もっと政府に圧力がかかれば良いと思っています。私達の結婚を認められないのであれば政府が不正に「離婚させた」形になり、それこそ裁判で勝てる自信があります。裁判で勝てば政府は同性婚を認めざるをえないでしょう。私達のアクションが多くのLGBTの方が待ち望む「同性婚合法化」に繋がる事を切に願っています。

(取材・文:駒井憲嗣)

キーワード:

トランスジェンダー / 同性婚


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