映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』ギリシャのレスボス島、難民とアイ・ウェイウェイ監督 ©️2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.
中国の現代美術家、アイ・ウェイウェイが自ら世界23カ国・40カ所の難民キャンプを訪れ難民たちの声を記録したドキュメンタリー映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』が1月12日(土)より公開。webDICEではアイ・ウェイウェイ監督のインタビューを掲載する。
ヒューマン・フローなら大地漂流ではなく人間漂流ではとか、チベット難民、ウイグル難民は現在ベルリンにスタジオを持つアイ・ウェイウェイ監督の今回描こうとしたヨーロッパに押し寄せる難民問題の対象外かなと思えば映画ではロヒンギャ問題や唐突にアメリカとメキシコの国境も取材しているので敢えて中国の問題は避けたのかなとか、2時間20分に描かれた23カ国を移動する資金力で俯瞰的というか大雑把に取材してるなとか思うところはいろいろある映画だが、初日上映後のゲストトークで丸山ゴンザレス氏が言っていたように、映画としてなら個人に焦点を当てて作るとかした方がいいだろうということはわかった上で、これだけの地域を取材する物量でアイ監督は映画的な評価より現実を突きつけたかったのではという意のコメントに納得。
毎日3万4千人が故郷を追われて難民となっているとナレーションで言われても、暖房の効いたイメージフォーラムの客席にいる自分と映画の中と距離感をどうとって観ればいいいのか戸惑う。貧困からくる経済難民ではなく、シリアのスマホを持つ一般市民がある日故郷を追われて難民となる現実。ヨーロッパでのスマホのローミング代は高くないのかなど気になるが、個人個人に想いを馳せようとするがあまりにも多くの難民の映像を目の当たりにしてニュース映像の羅列ではないと思おうとするのだが呆然とするしかない。
発見はあった。ヨルダンのラーニア王妃へのインタビューで語られた「古今ヨルダンは隊商の通過点としてあらゆる文化と人を受け入れてきた、そのような人道主義に基づく国家である」という言葉には感動した。カンヌ、ベルリンをはじめとした映画祭で近年難民問題をテーマにした映画のいかに多いことか。難民問題を扱った日本映画はほとんどない。日本では難民問題はどこか遠い世界のできことなのだ。ただ、経済においても政治においても、そしてネットを通じてリアルタイムで世界のことを知ることのできるグローバリズムの時代に、日本にいても、この映画を観て今の世界を知っておくべきだと思う。
アップリンクでは『ラジオ・コバニ』というドキュメンタリーを昨年公開した、これは『ヒューマン・フロー』とは全く映画作りの方法で違い、シリアの街コバニの女子大学生のラジオDJに焦点をあてた映画だ。なぜ難民が生まれるのか、ISが支配した街が解放されてから始まったラジオ番組の現場を追った小さなドキュメンタリーだ。『ヒューマン・フロー』という大きな絵の難民の映画を観た後に小さな物語も観て欲しいと思った。アップリンク・クラウドで配信中です。
(文:浅井隆)
私は人間に対する最悪の仕打ち、差別、虐待を見て育った
──最初に、本作を作りあげた理由を教えてください。
私は生まれて間もない頃に、父が反共産党として国を追放されました。家族全員で人里離れた場所へ強制的に送られ、すべてを諦めねばなりませんでした。私は人間に対する最悪の仕打ち、差別、虐待を見て育ったのです。
次にヨーロッパで暮らすことになり、ここでの難民の状況を理解したいと考えました。難民たちが到着し続けるレスボス島へ何度も足を運ぶうちに、どんなことが待ち受けているのか見当もつかない彼らの不安な表情を見て、お互い理解しあえていない場所へ命の危険を冒してでもやってくる原因を知りたくなったのです。
この好奇心を基に、難民の歴史と現在の状況について研究する大きな調査団を作りました。シリア内戦のほかにも、イラク戦争、アフガニスタン紛争、パレスチナ問題、アフリカ内の紛争、ミャンマーの少数派民族の迫害、中米の暴力によって難民は増え続けています。私自身の理解を深めるためと、理解したことを全て記録するためにカメラを回し続けました。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』ドイツ・ベルリンのテンペルホフ空港 ©️2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.
──作品には、あなたの「不屈の楽観主義」とも言える思想が現れていると思います。
来る日も来る日も、終わることのない物語を耳にしましたが、なにより印象に残ったのは難民たちの決意です。彼らは明確な未来がなくて次にどうなるかもわからないのに、ほとんど不平を言いません。難民キャンプでサンドイッチを受け取るには、2時間も並ばなくてはなりませんし、電気が通っていないので夜は早く訪れとても寒く、雨漏りで土地はぬかるみ、下水道はありません。生活は極端に厳しいのですが、祖国を逃げだすという決意はとても固く、しばらくの間は西側諸国が平和な生活と子供たちの教育を提供してくれるはずだと信じ続けていました。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』シリアの難民 ©️2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.
映画は真実を完全に語ることはできない
──現代において、ドキュメンタリーの持つ役割とはどんなところにあると思いますか?
ドキュメンタリーは「現実」だとよく言われますが、実際それが「ありのままの現実」とは限りません。ドキュメンタリーの中では、時間が圧縮されているからです。本作の2時間20分ほどの時間の中では、彼らの体験が耐えられないものになる過程まで感じることはできないでしょう。映画は真実を完全に語ることも、その真実が耐え難いものである実感も、本当の意味で語ることはできないと思っています。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』ガザのハーンユーニス地区 ©️2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.
──芸術家として、そして映画監督として、人間性がもたらすものについてどのようにお考えですか?
芸術家として、私はいつも人間性というものを信じています。私と難民たちは、話す言語が違うかもしれないし、信念も全く違うかもしれませんが、私は彼らを理解できます。人間は、誰かに困難が降りかかった時や危機が差し迫った時、自分のことのように実感する必要があります。人間同士にそのような信頼がなければ、隔たりや境界線を感じて互いに誤解し合うでしょう。そんなものが作りだす未来に、決して光はありません。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』レバノンの難民キャンプ、アイン・エルヒルウェ ©️2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.
──世界の劇的な変化に対して、芸術は追いついていると思いますか?
芸術の定義は、この100年で劇的に変わり続けています。現在のグローバリゼーションの世界では、インターネットやソーシャル・メディアが古い形式から芸術を解放しています。これだけの可能性を持てる私たちはとても幸運です。社会が目まぐるしく変化し、古い形式ではあっという間に対応しきれなくなる世界では、芸術家たちも変わり続ける責任があります。世界中で起きている出来事や人間の葛藤に、感覚を研ぎ澄ます必要があるのです。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』ギリシャ・イドメニの難民キャンプ近く ©️2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.
──難民をめぐる問題について、国際社会はどう責任を果たすべきでしょうか?
難民たちが私たちとなんら変わらない人々であるということを知ってもらうために、努力しなければいけないと感じています。難民はテロリストではなく、そういう考えがテロリスト的です。彼らは普通の人間に過ぎず、痛み、喜び、安心感や正義感は私たちのものと全く変わりません。世界中のどの政権も共通して1つの目標を持つべきです。それは、人類を守るという目標です。政治家が基本的な価値観や人権を忘れてしまったら、様々な危機は起こり続けるでしょう。今こそ、国際社会は難民問題にどのように取り組んでいくべきか、広範囲な議論を進めて行くべきなのです。
(オフィシャル・インタビューより)
アイ・ウェイウェイ(艾未未) プロフィール
1957年、北京生まれ。現代美術家、建築家、キュレーター、文化評論家、社会評論家など多数の肩書きを持つ。建築からインスタレーション、SNSからドキュメンタリーに至るまで多種多様な媒体を表現手段に用いて、社会とその価値観に対する新たな視点を観客に与え続けている。
08年、北京オリンピックのメインスタジアム「鳥の巣」の設計に参加し、一躍その名が世界に知れ渡った。アメリカ、イスラエル、イタリア、オランダ、オーストリア、イギリスなど世界各地で展覧会を開催、09年に森美術館で開催された日本初の個展“アイ・ウェイウェイ展-何に因って?”には46万人もの来場者が訪れた。11年に、米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出。
人権活動にもひときわ力を入れ、08年の四川大地震で死亡した児童らの当局への責任追及によって、11年に北京の自宅で軟禁された。12年には監視下の中でアーティストとして生きる日々に密着したドキュメンタリー映画『アイ・ウェイウェイは謝らない』(アリソン・クレイマン監督)が公開。15年には、ベルリンへ移り住み、ベルリン芸術大学のアインシュタイン客員教授に就任。同年アムネスティ・インターナショナルより「良心の大使賞」を受賞。16年には難民のライフジャケットを用いた大規模インスタレーションを発表、ヨーロッパへ向かう途中で命を落とした難民の惨状を訴えた。
社会や政治問題に関する多くのドキュメンタリーを制作しており、各国の映画祭で賞を受賞している。主な作品は『Disturbing the Peace』『One Recluse』『So Sorry』『Ordos 100』『Ai Weiwei’s Appeal \15,229.910.50』など。
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』ギリシャのイドメニ ©️2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.
映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』
2019年1月12日(土)、
シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督・製作:アイ・ウェイウェイ
製作:ダイアン・ワイアーマン
編集:ニルス・ペー・アンデルセン
原題:HUMAN FLOW
2017年/ドイツ/ビスタ/5.1ch/2時間20分
日本語字幕:チオキ真理
配給:キノフィルムズ