骰子の眼

cinema

2018-11-17 13:00


“普通”じゃないアイデンティティをありのまま受け入れる『いろとりどりの親子』

レイチェル・ドレッツィン監督が語る、多様性を祝福すること
“普通”じゃないアイデンティティをありのまま受け入れる『いろとりどりの親子』
レイチェル・ドレッツィン監督

世界24か国語に翻訳され大ベストセラーとなった、作家アンドリュー・ソロモン著「FAR FROM THE TREE」を原作にしたドキュメンタリー映画『いろとりどりの親子』が、11月17日(土)新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開される。

亡き母にゲイである自分を拒絶された苦しみを長年抱いていたソロモンは、他の“普通とは違う”子供がいる家庭では、どうやって親子関係が築かれているのか知りたいと考えた。そこで10年かけて身体障害や発達障害など、さまざまな“違い”を抱える子を持つ300以上の家族を取材し、一冊にまとめたのがノンフィクション本「FAR FROM THE TREE」である。そして、これまで数々の社会派ドキュメンタリー作品を手掛けてきたレイチェル・ドレッツィン監督が、本書に深い感銘を受け映画化した。

「FAR FROM THE TREE(木から遠い)」とは、“The apple doesn't fall far from the tree(リンゴは木から遠いところへは落ちない=親子は似るもの)”という諺から取られているそうだ。つまり、「いやいや、必ずしも子は親に似るわけじゃないですよ」と言っているわけである。映画には、ダウン症、低身長症、自閉症の子がいる家族などが登場する。自分とは異質な我が子に戸惑いながらも、親たちはその子の輝きに触れ「普通じゃない=不幸」という自らの偏見に気づく。映画の中で原作者ソロモンは、この本を書いたことで狭い考えから解放されたと語るが、この映画を観るわれわれも“社会通念”といったような狭量さから解き放たれる。それほどに、スクリーンに映るひとりひとりの人間が美しい。以下にドレッツィン監督のインタビューを掲載する。

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映画『いろとりどりの親子』より。自身の父親と語らう原作者のアンドリュー・ソロモン(写真右)。(c)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

「私の願いは、本作が人種は“多様性”と“違い”によって豊かになる、ということを明白にすることです。“私たちのよう”ではない人の存在が私たちを人間として豊かで成熟させるのです」──レイチェル・ドレッツィン監督



スクリーンを飛び出して観客とコミュニケートできるような家族を探した

──とても近い距離感で、自然体の表情を捉えている映像が印象的です。

私は映画に登場する家族と親密な関係を築くために、大きな尊敬と、好意の気持ちを持って接しました。それが信頼を築く大切な第一歩になると考えているからです。信頼を築くのに時間がかかった家族もありました。撮影が始まる前から頻繁に会いに出掛け、数ヶ月かけて友情を築いたのです。彼らに、人間としての私を知ってもらうことが重要だと考え、自分自身の人生についてオープンに話をしました。人生のもっとも深い部分をオープンにしてほしいと頼むなら、私のことを信用してもらう必要があったのです。

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映画『いろとりどりの親子』より (c)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

──原作では300家族に取材していますが、本作では6家族が映されています。この6組の家族に取材しようとした決め手はあったのでしょうか?

最初に、原作に登場する家族は登場させないということを決めました。キングスレー親子を除き、映画に登場する家族は原作と関連がありません。なぜなら10年をかけて執筆された原作はすでに出版されていて、登場する家族の多くは人生の異なるステージに進んでいたからです。映画の中で経過を追うことのできる家族を探しました。

次に、焦点を当てたい「アイデンティティー」を絞り込みました。少なくとも1組は、行動面で“違う”子どもを持つ家族、そして知的障がい・身体的障がいを抱える家族を、原作とは異なるテーマについて取り上げました。映画を有機的に感じてもらえるように、各ストーリーがお互いに会話し合い、ぶつかり合うのが理想です。すでにキャスティングされた家族とどう引き立て合うか、スクリーンを飛び出して観客とコミュニケートできるような家族を探したいと願い、それができたと思っています。

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映画『いろとりどりの親子』より (c)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

──加害者家族のストーリーを取り入れることについて、悩まれた点をお聞かせください。

リース一家のストーリーは、本作の中で最も難しかったのは間違いありません。当然のことですが、彼らが私たちを信用し、痛ましい経験の詳細を共有するまでに時間がかかりました。数ヶ月かけてインタビューをし、少しずつ関係を作りました。他よりも暗いトーンを持つ物語を、映画の一部として溶け込ませるのも大きなチャレンジでした。そして、なぜトレヴァーが犯罪を起こしたかではなく、起きたことに対処する家族の努力について描くよう、細心の注意を払いました。このパートは、観客がもっとも辛い思いをする時間ですが、それも、このストーリーを入れることが重要だと考えた多くの理由のうちのひとつです。

──制作する過程で、お子さんやご両親との関係について、ご自身の中で変化したことはありますか?

私は三人の子どもがいます。男の子二人と、女の子一人、皆ティーンエイジャーです。私は普段はおおらかな親ですが、親がすべき最善のことは子どもを自分のベストなイメージに形作るのではなく、ありのままでいさせることだと再認識できました。コントロールしたいという願望を手放せば、気持ちがスッキリします。本作はそれを手助けしてくれました。

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映画『いろとりどりの親子』より (c)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

最も大切なのは多様性を祝福し、その価値を認めること

──ヨ・ラ・テンゴとニコ・ミューリーの音楽が、本作を一層エモーショナルな素晴らしいものにしていますね。音楽を彼らに決めた理由を教えてください。

音楽をニコ・ミューリーとヨ・ラ・テンゴに担当してもらえて光栄です。最初に、原作の「Prodigy」(=神童、天才の意味)の章に登場するニコが決まりました。彼の手がける音楽は素晴らしく、人生経験は題材へのつながりが強いと感じました。原作と、映画でやろうとしていることをよく理解してくれて、それが音楽にも反映されています。

ヨ・ラ・テンゴの関わりは、実は少しサプライズでした。私は彼らの大ファンで、1曲を映画に使用するためにまず連絡をとりました。でもアイラ・カプランから映画に興味を持っていると電話をもらって、気づいたらこのプロジェクトについて長く話し込んでいました。コラボレーションが実現したことは、自分のキャリアの中でもとても誇らしいことです。

アイラ、ジョージア・ハブレイ、ジェームズ・マクニューの三人は素晴らしい人柄の持ち主で、彼らとの仕事は最高でした。最大の貢献は、映画に音楽を使いすぎないよう忠告してくれたことです。彼らの仕事はとても繊細で、音楽が作品を故意に盛り上げるのではなく、ストーリーの瞬間をシンプルに強調するようにしていました。

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映画『いろとりどりの親子』より (c)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

──日本では2020年のパラリンピックへ向けて、“多様性”がキーワードとして多く使われるようになっています。この映画を通して日本の観客に伝えたいメッセージをお願いします。

私たちは矛盾する時代に生きています。テクノロジーや社会的勢力のお陰で、違いのせいで非難を受ける人が互いにつながり、かつては存在しなかったコミュニティを形成しています。一方で、科学的進歩が違いを取り除くことをより簡単にし、ダウン症と診断されれば妊娠を中絶する、ろうの子どもには人工内耳を施す、低身長の原因となる遺伝子を攻撃する薬を飲ませる、ということが起きています。

私の願いは、本作が人種は「多様性」と「違い」によって豊かになる、ということを明白にすることです。私たちの多くは、全く違う外見・行動をする人が近くにいると、最初は不快さと気まずさを感じます。でも彼らをよく知るチャンスがあれば、想像していたよりもたくさんの共通点を持っていること、“私たちのよう”ではない人の存在が私たちを人間として豊かで成熟させるということに気づくはずです。街で見かけたら同情を感じるような人々でも、貴重で有意義で、誇り高く幸せな人生を生きています。彼らは別の何者かに変わりたいと望んではいないのです。私は多様性を祝福し、その価値を認めることが最も大切だと思っています。『いろとりどりの親子』は行動の呼びかけなのです。

(オフィシャル・インタビューより)
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映画『いろとりどりの親子』より (c)2017 FAR FROM THE TREE, LLC



レイチェル・ドレッツィン Rachel Dretzin

1965年生まれ、現在53歳。イェール大学卒。長年にわたり、アメリカの公共放送サービスPBSで放送されている有名なドキュメンタリーシリーズ「Frontline」を制作。エミー賞、ピーボディ賞、デュポン・コロンビア賞、ロバート・F・ケネディ・ジャーナリズム賞などのドキュメンタリー映画賞を多数受賞。彼女の夫であり映画製作者のバラク・グッドマンと、ブルックリンを拠点とする制作会社Ark Media を共同で設立し、エミー賞、ピーボディ賞、デュポン・コロンビア賞受賞作品「The African Americans」などを含む、PBSの4本の主要シリーズのシニアプロデューサーを務める。ヒラリー・クリントンと同級生のウェイズリー大学を卒業した女性たちを取材した「Hillary’s Class」や、中年期のセクシャリティを扱った「ニューヨークタイムズ」紙のショートフィルム『Naked』など、時事性の高い社会派の作品を多く手がけており、本作が長編映画デビューとなる。現在、彼女はマンハッタンの4年制美術学校「スクール・オブ・ヴィジュアル・アーツ」で、講師としてソーシャルドキュメンタリー・プログラムを担当。ブルックリンに在住し、3人の子を持つ母親でもある。




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映画『いろとりどりの親子』
2018年11月17日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督:レイチェル・ドレッツィン
原作:アンドリュー・ソロモン著「FAR FROM THE TREE Parents, Children and the Search for Identity」
音楽:ヨ・ラ・テンゴ、ニコ・ミューリー
日本語字幕:髙内朝子
提供:バップ、ロングライド
配給:ロングライド
2018年/アメリカ/英語/93分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/原題:Far from the Tree
東京都推奨映画 文部科学省特別選定(青年、成人、家庭向き) 文部科学省選定(少年向き)
(c)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

映画公式サイト



▼映画『いろとりどりの親子』予告編

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