映画『幸福城市』より
アジアを中心とした世界から独創的な作品を集める映画祭、第19回東京フィルメックスが2018年11月17日(土)から11月25日(日)まで有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日比谷、有楽町スバル座にて開催される。
フィルメックスは今年より木下グループが運営協力および特別協賛として支援。コンペティションにはアジアの新進作家が2017年から2018年にかけて製作した作品の中から10作品が出品され、ウェイン・ワン監督を審査委員長に、モーリー・スリヤ監督、エドツワキ氏(イラストレーター、アートディレクター)、ジーン・ノ氏 (ジャーナリスト)、西澤彰弘氏 (東京テアトル株式会社・映画興行部長)という4人の国際審査員が「最優秀作品賞」と「審査員特別賞」を選ぶ。そのほか、3名の学生審査員による「学生審査員賞」、観客の投票により「観客賞」も選ばれる。期間中はコンペ作のほか、気鋭の監督たちの新作と旧作のデジタルリマスター版など特別招待作品が16作品が上映、そしてアミール・ナデリ監督の特集上映、親子で楽しめる作品の上映と聴覚障がい者向け日本語字幕つき上映を行う「映画の時間プラス」も実施される。
webDICEでは、アップリンクが運営する「配給サポート・ワークショップ」に参加する大槻圭紀さん、田邊彩樹さん、反町和宏さん、反町弘子さんよるセレクトにより、注目すべき13作品を紹介する。
コンペティション
『幸福城市』
近未来、2056年の台北を舞台にした刑事の物語がまず描かれ、第2部で刑事の青年期が、第3部で少年期が描かれるという、ホー・ウィディンの意欲作。トロント映画祭の「プラットホーム」部門で上映され、最優秀作品賞を受賞した。
監督:ホー・ウィディン
City of Last Things/台湾、中国、アメリカ、フランス/2018年/107分
ホー・ウィディン監督は『ピノイ・サンデー』を見ています。けっこうシリアスな社会問題を扱いながらファンタジックな面もありいい印象がありました。その後けっこう長いブランクがありましたが去年『美好的意外』を撮り今年は今作と1年に1本ペース。そんな勢いのある作家の作品を見てみたいというのがまず見てみたい動機。それと近未来ものであるということ。このジャンルはアジアではほとんど成功した作品がありません。そのチャレンジ精神に期待しています。
(反町和宏)
近未来の台北はどんな都市に描かれているのだろう。日本では台湾はノスタルジーとともに語られることも多いけれど、そんなイメージを覆す、現実的で、残酷で、でも希望も残されている台北の風景を楽しみにしている。タイトルから幸せそうな映画を想像していたら、そうでもないらしい。近未来から始まって、過去へと遡るストーリー。人生の中で、もしあのとき、ああしていたら…という思いは誰の心にもあると思う。そう思わないで幸福に生きるためにはどうしたらいいのか、そもそも幸福とは何なのか……となんだか深みにはまりそうな予感がする。五月天(メイデイ)のストーンもゲスト出演しているとのことで、そちらも楽しみ。
(反町弘子)
異なる時間軸の物語が平行して進む映画は珍しくない。しかし、この作品では主人公の三つの時代のエピソードが過去に遡っていく順番で構成され、少年期のシーンがクライマックスになるという野心的な試みがなされている。さらにそれぞれの時代に関わった女性との、人生を変えることになる関係を描くことが各エピソードの基本構造になっている。これは、男性にとっては共感を覚え易いところではないだろうか。ホー監督は台湾で活躍する俊英で「一方向ではない物語の伝え方に興味がある」「幸福城市は幻想でありそれを探し続ける人々を描いた」と語っている。記憶や郷愁、過去の決断という馴染み深いテーマを新たな切り口で見せてくれるだろう。
(大槻圭紀)
本作は、刑事である主人公の現在、過去を通して、傷つけあう人々、情愛、葛藤を、重く美しく描く。近未来を舞台にしてはいるが、トレーラー映像からは、ハリウッド大作に良くみられる明るい近未来とは全く違う、テクノロジーとスラム感、台湾版レトロフューチャーとでも言うべき世界観が垣間見えそうだ。人は過去を忘れ人生の記録を再構築するが、現在・青年期・少年期を切り取ったこの男のドラマを通して引きずり出される、自分が忘れていた強い感情を楽しみに観たいと思う。
(田邊彩樹)
コンペティション
『シベル』
村を脅かす狼を狩ることで自分の存在意義を証明しようとする少女が、ある日山小屋の中に潜伏する若い男と出会うが…。独特の口笛で自分の意思を表現する少女を演じたダルニア・センメズが強烈な印象を残す。ロカルノ映画祭で上映された。
監督:チャーラ・ゼンジルジ、ギヨーム・ジョヴァネッティ
Sibel/フランス、ドイツ、ルクセンブルク、トルコ/2018年/95分
ハンターは映画において魅力的なキャラクターの一つだ。特定の獲物を追い求める姿は様々なドラマを想像させ、あらゆる物語に登場する存在と言える。それが森で狼を狩る女性となれば、とても魅力的な寓話になるだろう。狼は明らかに“男”のメタファーであり、主人公シベルは、実際にある逃亡者の男に出会う事になる。また、シベルは口が利けず特有の口笛言語で意思疎通を行う。これは、米バラエティ誌の記事でも評価されている通りその音色が美しく、映画の象徴性を高め大きな特色になっている。監督の二人は前作『人間』においても寓話的な物語によって一人の人間を描いて見せた。今作の興味深い要素がどのようなおとぎ話になっているだろうか。
(大槻圭紀)
コンペティション
『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』
フィルム・ノワールと、約1時間にわたって展開されるワンカットの3D映像の驚くべき融合。映画的冒険に満ち溢れた『凱里ブルース』(15)で彗星のごとく現れたビー・ガンの待望の新作。カンヌ映画祭「ある視点」で上映。
監督:ビー・ガン
Long Day's Journey into Night/中国、フランス/2018年/140分
配給: リアリーライクフィルムズ/ガチンコ・フィルム/シネフィル
ヒチコックの『ロープ』の昔から1ショットの映画というのは映画製作者の夢のひとつであったようです。そして現在、デジタル撮影になって以来フィルム交換から開放されたことにより『ロープ』のような擬似1ショットではなく本当に切れ目なしの映画がいくつも作られて来ました。ビー・ガンの前作『凱里ブルース』では全編1ショットではありませんが移動距離としては記録的な1ショットカットがありました。そして今回は1時間。全編でなく、ここぞというところで使うというやり方もムリがない気がして期待が高まります。そして今回のチャレンジは3D。今時メジャーの大作以外で3Dに取り組んでいるということは本当に3Dがやりたいという人しかいないと思います(笑)。どんな立体効果を見せてくれるのか本当にワクワクしています。
(反町和宏)
3D上映なるか!?というのが気になっていましたがやってくれました、FILMeX。TOHOシネマズ日比谷で3D上映、これは観に行くしかありません。配給は決定しているとは言え、公開時には3D版か分からないですし。ビー・ガン(畢贛)といえば『凱里ブルース』の長回しが話題になりましたが、本作も1時間にわたるワンカットシーンがあるとのこと。しかし今回は3Dの導入に加えてタン・ウェイ(湯唯)、シルヴィア・チャン(張艾嘉)といった豪華キャストの面々。単なる前作からの踏襲ではない新たな一面が見られそうで楽しみです。
(反町弘子)
コンペティション
『象は静かに座っている』
中国北部の地方都市に暮らす4人の登場人物たちの1日を4時間弱の長尺で描き、世界を驚かせた作品。ベルリン映画祭フォーラム部門で上映されて国際批評家連盟賞を受賞したが、監督のフー・ボーは本作を撮り終えた後に自ら命を絶った。
監督:フー・ボー
An Elephant Sitting Still/中国/2018年/234分
約4時間という長尺、商業性とは一線を画すテーマ、いずれも周囲の理解を得られず、それでも自らの姿勢を崩さず妥協を拒絶しながら撮り終えた作品である。中国は飛躍的な経済成長を遂げ、いまやハリウッド映画の中でも中国の影響は随所に見られるようになった。ひょっとして、初めからヒットを狙って行けばチャンスが掴めることもあるのかもしれない。でも監督が撮ったのは、どうにもならない現実から逃げだしたいと願いながら象を見に行く4人の人々の鬱屈した心情だった。行き場がなく、誰からも注目されない市井の人々の姿は、表面的な繁栄に目を向けがちな私たちを現実に戻してくれるのではないだろうか。この作品が、監督の死というセンセーショナルな話題によってではなく、作品の本質によって多くの人々の記憶に残ることを願いながら鑑賞したい。
(反町弘子)
何故人は物事の裏側を見てみたいと思うのだろう。目まぐるしい経済成長と華やかな成功者達が取りざたされる、大国・中国。一方で、地方都市には貧しく、乾いた生活がある。地方都市に暮らす、4人の登場人物たちの鬱屈とした想い、虚無感が、”The world is wasteland.”というメッセージと共に淡々と表現されているという。29歳の監督フー・ポーは、本作が初めての、そして最後の監督作品となった。静かな闇と彼を切り裂いた心の叫びを、映画を通して全身で受け取りたい。
(田邊彩樹)
コンペティション
『自由行』
中国から香港に移住して活動を続けるイン・リャンが自己の境遇を投影した作品。創作の自由のために自主亡命せざるを得なかった映画作家の葛藤が見る者の胸に突き刺さる。ロカルノ映画祭で上映された。
監督:イン・リャン
A Family Tour/台湾、香港、シンガポール、マレーシア/2018年/107分
以前中国インディペンデント映画祭で上映されたのをきっかけに知ったイン・リャン(応亮)監督。その映画祭では、彼の映画をはじめ、あらゆる意味でチャレンジングな作品の数々に「こんな中国映画があるのか」と驚いた。その後、彼は『私には言いたいことがある』で政治的なタブーに触れたことで中国には住めなくなってしまった。現在も香港滞在を余儀なくされているが、今回の作品はまさにそんな監督自身の境遇を題材にしているという。中国から香港への移住、そして離れ離れになった母との再会の場所は台湾であるらしい。複雑に絡み合う中華圏の各地域を背景に、政治、家族との繋がり、それらに翻弄されながらも映画を撮り続けることが、どのように描かれるのか期待している。
(反町弘子)
コンペティション
『夜明け』
© 2019「夜明け」製作委員会
地方の町で木工所を営む哲郎は河辺で倒れていた青年を助ける。青年は木工所で働き始めるが、やがて青年の過去が明らかになる……。是枝裕和、西川美和の監督助手をつとめた広瀬奈々子が柳楽優弥を主演に迎えた監督デビュー作。
監督:広瀬奈々子
His Lost Name/日本/2018年/113分
配給:マジックアワー
中年男から発せられる「俺にはお前が必要なんだよ」という、叫びにも似た言葉、中々エモーショナルである。素性を語らない青年と中年男の、家族のような家族じゃなんかない関係を描く本作では、是枝裕和、西川美和が組織する制作者集団「分福」のメンバー、広瀬奈々子が監督をつとめた。家族を描くプロ集団とでも言えようか。その上、何と青年役は柳楽優弥だと言われれば、期待せずにはいられない。家族の形が多様化し、人間関係に対する価値観も日々変化する現代に突き刺さるメッセージに心して挑みたい。
(田邊彩樹)
特別招待作品
『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)』
© 2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France Cinéma
ヤクザな稼業で金を稼いでいるビンと、その愛人チャオ。裏社会に生きる男女の18年間にわたる関係を山西省、長江流域、さらに新疆にまで至る壮大なスケールで描いた作品。これまでのジャ・ジャンクー作品の集大成とも言える傑作。
監督:ジャ・ジャンクー
Ash Is Purest White/中国、フランス/2018年/141分
配給:ビターズ・エンド
ジャ・ジャンクー監督が映画という表現形式そのものを愛していることは、時折作品に登場するシュールなシーンからも明らかである。もちろん、現代中国社会と地方の変容、それらに翻弄される男女というテーマを、真摯に映像に構成するその実力は、既に巨匠として世界的な評価を得ている。しかし、そのシリアスなドラマに突如登場するUFOやアニメ、アクション映画的な殺陣等は映画の娯楽性を忘れずにいるという監督の意思表示に見える。今作は前作のような年代記がより自身の作品史的なものになっているようだ。それは常連ミューズのチャオ・タオが初期作『青の稲妻』と同じ姿で登場していることからも明らかである。監督の“遊び”が楽しみだ。
(大槻圭紀)
特別招待作品
『8人の女と1つの舞台』
舞台復帰をめざすかつてのスターと、同じ舞台で初出演となる人気女優など、8人の女性たちが演技合戦を繰り広げる華麗なバックステージもの。香港、中国のスター女優たちが女性映画の名匠スタンリー・クワンの下に集結した。
監督:スタンリー・クワン
First Night Nerves/香港、中国/2018年/100分
スタンリー・クワンの作品は『フルムーン・イン・ニューヨーク』『ロアン・リンユィ 阮玲玉』『赤い薔薇 白い薔薇』などを見たことがあります。香港映画は昔から好きでしたが女性が主人公でアクションやコメディじゃない香港映画はあまり公開されず珍しかった記憶があります。2000年代に入っても数は多くないですが監督作品があり2005年の『長恨歌』はフィルメックスで上映されました。私はこの時は見ることができず、かなり好評でもあったようですがその後公開されることなく、したがって見る機会のないまま現在に至りかなり悔しい思いをしました。今回はこういう後悔しないようなんとか見に行きたいと思ってます。あと主演がジジ・リヨンなのも見たい理由です。ファンなんです。
(反町和宏)
人の感情や欲望が入り乱れるバックステージものは、題材が映画に出演している役者達の情況とダイレクトにシンクロする。それを女性ばかり8人のメンバーでそれぞれのドラマを展開する必要があるとすると、監督に要求される整理力は並大抵のものではないだろう。スタンリー・クワン監督は『ルージュ』において一時代前の芸妓の一途な恋愛感情を考察し、『ロアン・リンユィ』において一人の実在した女優の肖像をメタ現実的なドキュメンタリー手法で描いた。今作では年長の重量級のキャストで、現代を舞台にコメディタッチの作品になっている。その重さと軽さのバランスと現代的な要素に、前作で見せたセンスがどのように生かされているだろうか。
(大槻圭紀)
特別招待作品
『共想』
東京都内の新興住宅地で暮らす幼馴染みの珠子と善美。だが、2011年3月11日、珠子の誕生日に起きた大震災をきっかけに、ふたりの間に小さな齟齬が生まれる。『あれから』『SHARING』につづいて篠崎誠が東日本大震災を見つめた最新作。
監督:篠崎誠
Wish we were here/日本/2018年/76分
製作:コムテッグ
篠崎誠監督の忘れられない作品に『浅草キッドの浅草キッド』というドラマ作品がある。漫才修行時代のツービートをたけし軍団の浅草キッドが演じた作品で、ラストの師匠深見千三郎との別れのシーンが非常に余韻の残る演出になっていた。別離の瞬間を迎えつつもその後お互いを意識することは続くであろう事を思わせる構成は『東京島』の男女の別れのシーンにも見られる。その人と人の間に物理的、精神的な別れが生じつつも何らかの形で通じ合う部分が継続する事を描くことは監督のテーマの一つと思われる。今作では前二作品に続き東日本大震災を背景に女性二人のすれ違いが描かれるという。震災とそれに関係して描かれる独自のテーマに期待したい。
(大槻圭紀)
特別招待作品
『川沿いのホテル』
漢江を望む閑静なホテルで、老詩人と二人の息子、傷心を癒すために宿泊した女性たちが繰り広げる何気ない会話の中に人生の機微、家族、老いといったテーマが投げかけられるホン・サンスの傑作。本年度ロカルノ映画祭で最優秀男優賞を受賞した。
監督:ホン・サンス
Hotel By The River/韓国/2018年/96分
今年のフィルメックスはホン・サンスの作品が2本も上映されます。ホン・サンス好きとしてはとてもうれしい。ファンにとってはどんな内容なのかなんて問題じゃなく新作だというだけで無条件に見たくなる。それがホン・サンスです。でもこれじゃ見てない人に勧めることにならないか…そうですね、鋭い人間観察とそのなかに可笑しさを見いだす姿勢がまずは特色でしょうか。しょっちゅう笑えます。日常スケッチの積み重ねだけで映画が成り立ってしまうのにも感心しますし、それが時々逸脱する自由さも楽しい。そして映画に対する純粋さ。これも感じます。映画ってなんて不思議なんだろうと常に思っているじゃないかという気がします。わが道を行くって感じの作風ですが実はけっこう映画ファンなのかもしれないですね。例えば『夜の浜辺にひとり』はホン・サンス版『イット・フォローズ』でした。
(反町和宏)
韓国の名匠ホン・サンスが監督をつとめた本作は、ホテルを舞台に、そこに宿泊する人々の会話を中心に構成されている。全編モノクロ映像だというが、逆に会話を軸に展開されていくシナリオを”彩っている”のではないだろうか。会話とは不思議なもので、その抑揚、言葉選び、間を通して、話す人の人生の背景や人間関係まで浮き彫りになることがある。「他人の人生を体感する」という映画そのものの醍醐味を、「会話」を主軸により深堀りした作品になっていることを期待している。
(田邊彩樹)
特別招待作品
『空の瞳とカタツムリ』
カタツムリは交尾の際「恋矢(れんし)」と呼ばれる生殖器官を互いに突き刺しあうという。男でも女でもない雌雄同体の心を持てあましながらカタツムリのように絡みあう4人の若者を抒情的に描く。新進脚本家・荒井美早のオリジナル脚本を齋藤久志が映画化。
監督:斎藤久志
Love Dart/日本/2018年/120分
配給:太秦
なんと爽やかなタイトルだ(子供との交流物語か何かかな)と思った。英語題『Love Dart』を調べてみると、「カタツムリが交尾の際に突き刺す恋矢。恋矢は相手の生殖能力を低下させ、寿命を縮める」とのこと。違った、全然爽やかではなかった。4人の若者の”カタツムリ”のような関係をシナリオにしたのは、『深夜食堂』でデビューした荒井美早。父は『やわらかい生活』『さよなら歌舞伎町』で知られる荒井晴彦。今後活躍が期待される、荒井美早の初映画シナリオを見届け、映画ファンとして彼女を先物買いしたいと思う。
(田邊彩樹)
特別招待作品
『名前のない墓』
多彩な文学作品を引用しつつ、クメール・ルージュの支配がいかに無軌道であったかが語られていく、リティ・パンの表現の現在における到達点とも言うべき作品。ヴェネチア映画祭の「ヴェニス・デイズ」部門のオープニング作品として上映された。
監督:リティ・パン
Graves Without A Name/フランス、カンボジア/2018年/115分
ドキュメンタリー映画です。ポル・ポト政権下を生き延びたリティ・パン監督にとってクメールルージュについての映画をとることはライフワークのようです。クメールルージュ私はフィクションで大量虐殺を描く映画はどれも実際に行われた事実に迫っているのかという疑問をいだいていて、それはリティ・パンもおなじなのかなという気がしています。前作の『消えた画』は映画はこのような悲劇を描けるかという試みを模索した作品だと思います。実は監督が書いた『消去』の方がよかったと思っていて、今回の作品は映画でなにができるかという監督の再挑戦ではないかと思い、期待しています。
(反町和宏)
特別招待作品
『あなたの顔』
12人の人々、それぞれの顔がその人の生きてきた時間を映像の中に象徴的にあぶり出していく。本年度のヴェネチア映画祭でワールドプレミアを飾った、ツァイ・ミンリャン監督待望の最新作。音楽を坂本龍一が担当。
監督:ツァイ・ミンリャン
Your Face/台湾/2018年/76分
商業映画から離れて新たな挑戦を続けるツァイ・ミンリャン監督。なんと今回撮ったのは老齢の人々の大写しの顔・顔・顔。前回の『西遊』もびっくりしたけど、今回はどんな驚きが待っているのか?「消費されない映画を作りたい」という言葉と共に新しい道を進み始めた監督。映画の中で老人たちは何を語るのか(あるいは語らないのか)注目している。もちろん今回もリー・カンションも出演しており、出演者の中では彼が一番若いらしい。
(反町弘子)
【執筆者プロフィール】
大槻圭紀
宮城県出身、東京在住。自主映画監督、元WEBディレクター。北海道、東京の映画祭で作品を上映。現在、小樽紹介アニメーション動画シリーズ「想いめぐる町」を配信中。
田邊彩樹
エンタメ系企業勤務のOL。幼少期より映画をはじめとるするエンターテインメントを愛し、エンタメビジネスの知見を広げる為、アップリンクの配給ワークショップに参加。得意分野は、アニメ映画と、おっさん主人公モノ。
反町和宏
IMAX、3Dや4Dなどが好きです。映画館で見た映画で一番古い記憶は東映まんがまつりの『飛び出す人造人間キカイダー』ギミック映画好きはこのころから(笑)。
反町弘子
かつて通訳や翻訳の勉強をしていたころ、通訳者の仕事現場を見るために映画祭に通い始めたのをきっかけに映画を観るように。今では映画を観ることの方がメインになりました。
第19回 東京フィルメックス
2018年11月17日(土)~ 11月25日(日)
会場:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日比谷、有楽町スバル座
※上映時間・料金などの詳細につきましては、
東京フィルメックス公式サイトをご覧ください。