骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2018-10-27 12:00


アップリンクの映画館の歴史を振り返り、「アップリンク吉祥寺」の可能性を探る

12月14日オープンの映画館「アップリンク吉祥寺パルコ(通称:アップリンク吉祥寺)」は現在新規会員募集と様々なコースで映画館作りを支援するクラウドファンディングを「PLAN GO」にて実施しています。
10月31日の支援募集終了を目前に控えた10月22日、DOMMUNEにて特別番組「early history of UPLINK」が緊急配信されました。

出演:浅井隆(アップリンク社長)、岸野雄一(スタディスト)、ANANYA(SONIC PLATE)、中原昌也(音楽家)
声の出演:宇川直宏(DOMMUNE)

1987年に、映画の配給会社としてスタートしたアップリンク。1993年には、雑誌『骰子』を刊行し、その後、映画の配給に留まらず、映画の製作や、テレビ・ドキュメンタリー、連続テレビドラマなどを手がけてきました。そして1995年、「アップリンク渋谷」の前身となる「UPLINK FACTORY」を渋谷区神南のファイアー通りに、映画の上映、イベントなどを行うスペースとしてオープン。

「UPLINK FACTORY」で働いていた岸野雄一さんとANANYAさん、そしてそのライブに出演していたという中原昌也さんと共に、アップリンク代表・浅井隆がアップリンクの映画館の歴史を振り返りつつ、新しい映画館「アップリンク吉祥寺」の可能性について語った。


数々のレジェンドなライブが行われた「UPLINK FACTORY」を振り返る

浅井:アップリンクが神南にあった頃、16mmの映写機に加えて、DVDやVHSで上映するような、なんちゃって映画館だった。映画の上映もしていたけど、結構ライブもしていて、中原君にも出てもらったね。

岸野:中里君(中里丈人/DUB SONIC etc...)が働いていたということが、すごく大きい。当時の音楽シーンの面白い人たちが集まってきて、数々のレジェンドなライブがここで行われていた。

「early history of UPLINK」
「UPLINK FACTORY」で行われた「DUB SONIC ARKESTRA」のライブの様子(写真提供:永田一直)

ANANYA:『骰子』と連動していたことも大きかった。当時、連載していたメルツバウの秋田さんや、いろんな方にライブに出てもらったり、逆にFACTORYのイベントを『骰子』でレポートしたり。中原くんも、岸野さんのユニット“ヒゲの未亡人”も、最初はアップリンクのライブで初めて見ました。印象的なのは山口富士夫さんに出ていただいたこと。あれは感無量だった。

岸野:中原君もよく遊びに来てくれたよね。ロスアプソンのイベントとか、虹釜(太郎)君のイベントとかね。

浅井:虹釜君も中原君も『骰子』連載執筆陣だったんだよね。僕は現場主義だから、評論家とかでなく、現場にいる人たちの声を届けたかった。今ここに集まっている初期アップリンクのメンバーは、どちらかというと、映画というより音楽畑だよね。

岸野:でも僕、映画の上映いっぱい企画しましたよ! 60年代女優列伝や神代辰巳特集、市川崑や鈴木清順の特集も企画して、中原君にコメント頼んだりもしたよね。増村保造の特集は、人がいっぱい入った。10年ぐらい上映していないものを上映したりすると、人が入ったり。名画座ファンはちゃんと来てくれる。

「early history of UPLINK」
岸野さんがデザインも手掛けたという増村保造特集のチラシ

宇川:実は僕、UPLINK FACTORYができた95年の翌年にはアメリカにいたから、初期アップリンクを知らないんですよ。だから戻ってきたタイミングで、よく遊びに行った。その後、浅井さんとCSの番組をアップリンク経由でやることになって、何本かやっているけど、『スキャニング・オブ・モジュレーション』という作品をアップリンクでリリースした。これは丈ちゃん(中里丈人)が企画、中原君もメルツバウ秋田さん、EYEちゃん、インキャパシタンツが出たライブの音を使ってEDITして映像をつけた作品。これはアートDVDの初期だよね。僕のDVDが売れたから、傾きそうになっていたアップリンクが救われたって聞いたけど、本当?

浅井:そうだと思う!(笑)話題になったね。中原君は、もともとシネ・ヴィヴァンで映写していたんだっけ?

中原:いやいや、もぎりですよ。佐々木(敦)さんもいました。

浅井:アップリンクの歴史で言えば、シネ・ヴィヴァンで何本も上映したし、デレク・ジャーマンの遺作『BLUE』(1993)もそこで上映した。

宇川:アップリンクを知ったのは、ジャーマンの『エンジェリック・カンヴァセーション』(1987)。その頃、香川に住んでいて、田舎のレンタルビデオ屋にジャーマンの作品が入っていて、初めてジャーマンに触れた。

「アップリンク吉祥寺」の可能性

浅井:アップリンク吉祥寺で何かやってほしいことはある?

岸野:吉祥寺は住民が多いから、そこに住んでいる人が何かできることをバックアップですることができればと思いますね。

中原:映画祭とかやってほしいですね。

ANANYA:UPLINK FACTORYで開催した、毎晩9時から始まるアメリカのアンダーグラウンドフィルムの特集が本当に良くて。今、レイトショーは当たり前になっちゃっているけど、吉祥寺のUPLINKはデパートの中だし、夜に人がデパートに少しずつ集まってきてアンダーグラウンドな映画を観るというのも面白いかもしれない。その場のシチュエーションを楽しむ見せ方というか。

中原:クラシック映画も上映していてほしい。それこそ原点に戻って、デレク・ジャーマンの作品を全部まとめて上映するとか。

浅井:これまでデレク・ジャーマンの4作品を共同製作しているから、それはやろうと思っている。

宇川:『ヴィトゲンシュタイン』(1993)とか、改めて見たいよね。

浅井:今、フェルメール展が話題になっているけど、絵画って死んで何百年も経った人の作品が評価され、人が集まる。映画も、新しい表現もあっていいと思うけど、クラシックな映画をちゃんと再評価する。クラシック映画をちゃんと観る習慣があると良いなとは思う。

中原:午前十時の映画祭とか、朝の10時からしか上映しないのは不健全ですよね。映画自体の首を絞めていますよ。

「early history of UPLINK」
左から浅井隆、ANANYAさん、岸野さん、中原さん

劇場があれば、ダイレクトに作り手の思いを発信できると思う。

浅井:映画館って、社会の一部で、そこに入り込むのが面白い。他の人と自分との違いを認識できるよね。映画館から発信できることって、アンダーグラウンドな映画を上映するとか、世界でどんどん面白い映画ができているから、興行的には難しくても、どんどん紹介していきたい。

岸野:短編アニメーションって、面白いものがいっぱいあって、世界中のアニメーション映画祭で上映されるけど、その後スクリーンにかからない。それをちゃんとキュレーションして、短編アニメーションで一時間半のプログラムを作って、それを専門にするシアターがあっても良いかなと思う。

宇川:今、土居伸彰さんと一緒に取り組んでいるプロジェクトがあって、中原君にも出てもらって。最初がフランク・ザッパのPVをアニメーションでつくったブルース・ビッグフォードを呼んで、彼の作品の上映をしながら、そこにミュージシャンが音をつけていくパフォーマンスを、恵比寿LIQUIDROOMと渋谷WWWでやった。そういうことがアップリンクでできるなら良いですよね。ライブハウスではなくて、あえて劇場でやるのもありですよね。

浅井:ブルース・ビッグフォードは、プロデュースしたいんだよね。あのアニメーションはすごい。新作をつくってほしい。彼の作品をちゃんと応援して、支援して、作品を作って、公開したい。劇場があれば、ダイレクトに作り手の思いを発信できると思う。

映画館体験をどう面白くさせるか、その仕掛けを作っていかないと

岸野:昔だったら中里君がいて、めちゃくちゃやっていたのを、いろんな人が何とかフォローして、まとめて形にしていた。そういったチームワークが大事で、みんなでフォローしていくことが大事。そういった面で、とにかく“人”ありきだと思う。

浅井:そういえば、チガちゃん(小川チガさん/GOLD FINGERプロデューサー)を呼んでトークイベントを行ったとき、『骰子』はLGBTをフラットにカルチャーとして扱ってくれていたからシンパシーを感じたって言ってくれて、一方では、今日集まったメンバーたちと、音楽のイベントを開催したり、そういう意味で、何かひとつがアップリンクではない。これまで関わってくれた人たちが、アップリンクを作ってきてくれたと、改めて実感している。

岸野:映画館で映画を観るとき、できるだけ瞬きをしないようにする。何も逃さず全ての情報を捕えようとする。その時の集中力が、映画を解析する力に結び付いていると思う。今、いつでも巻き戻せると思って家で見る映画と、映画館でみる映画では、集中力は全くちがう。

浅井:現場で映画館をつくる身としては、そこをわかったうえで、今のお客さんを引っ張り込まなくてはダメだと思っている。映画館体験をどう面白くさせるか、その仕掛けを作っていかないと。そのためには、やっぱり“人”だと思う。ハコはとにかく面白いものは作るから、そのハコをどう面白く使うか、クレイジーなアイディアを持ったひとがバンバン来て、企画を持ち込んでほしい。


【PLAN GO】新しく作る映画館『アップリンク吉祥寺』を応援する
http://plango.uplink.co.jp/project/s/project_id/74

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