『音楽とともに生きて』より
第31回東京国際映画祭が2018年10月25日(木)から11月3日(土)までの10日間、六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区)を中心に開催される。コンペティションは、フィリピンのブリランテ・メンドーサ審査委員長を中心とする国際審査委員5名によって東京グランプリ/東京都知事賞ほか各賞が選ばれることになっている。
webDICEでは、アップリンクが運営する「配給サポート・ワークショップ」に参加する6名の参加者によるセレクトにより、注目すべき25作品を紹介する。
特別招待作品
『華氏119』
©2018 Midwestern Films LLC 2018 cPaul Morigi / gettyimages
トランプ大統領が当選した11月9日をタイトルに使用している事からも、その政権批判を打ち出していることは明らかである。予告編も悪役然としたトランプ大統領の映像の連続でマイケル・ムーア監督対トランプ大統領というイメージに拍車を掛ける。しかし、ムーアの作品の刺激的な主張は作品を受け止め易くするための手段であり、常に本来のテーマは彼の生まれ故郷ミシガン州フリントの、アメリカの貧困問題である。話題性のある問題を掲げ、そこから本当に訴えたい貧困問題へ繋げてみせるムーアの口上は名人芸と言って差し支えない。動画配信サイトが日常になり映像の消費が激しい現在、更なる磨きがかかったであろうその名人芸を堪能したい。
(大槻圭紀)
監督:マイケル・ムーア
キャスト:ドナルド・トランプ
配給:ギャガ株式会社
130分/カラー/英語/日本語字幕/2018年/アメリカ
特別招待作品
『パッドマン 5億人の女性を救った男』
ボリウッドが誇る大大大スター、アクシャイ・クマールの作品がついに日本で本格上映で
す!マッチョなエスコートから軍服姿の渋いおじ様まで、何を演じても素敵なアッキー(
アクシャイ)。米フォーブス誌「世界で最も稼いだ俳優ランキング」にも毎年ランクイン
する人気者。ちなみに武道の達人でもあります。包容力あふれるその笑顔に日本の老若男
女も魅了されることでしょう。共演はボリウッド随一のお洒落セレブ、ソーナム・カプー
ル。さらに出演作目白押しの人気女優ラーディカー・アープテー。この三人をスクリーン
で観られるだけでも大興奮です。12月の劇場公開まで待ちきれません!映画祭でいち早く
観たい一作です。
(エリ)
「パッドマン……?」とトレーラーをポチりと再生すると、「アメリカにはスーパーマンがいる、スパイダーマンがいる。だがインドには……パッドマンがいる! 」ってなんだこりゃ!! 興味津々、心鷲掴み。「インドで生理用ナプキンに人生に捧げた男の実話」 って、わあ。これ全女子が気になる映画じゃないですか。テーマがテーマだけに男性もおやっと思いませんか。
インドでは生理そのものが「穢れ」と思われているそう。だからこそ、どのようなドラマがあったのか。
主演は“インドのジョージ・クルーニー”と呼ばれるアクシャイ・クマール。イケメン好きとしては、ジョージ・クルーニー度がどれだけ高いのかもチェックさせていただきたいと思います。
(加藤彩乃)
監督:R.バールキ
キャスト:アクシャイ・クマール、ソーナム・カプール、ラーディカー・アープテー
137分/カラー/ヒンドゥー語、英語/英語・日本語字幕/2018年/インド
配給:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
特別招待作品
『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰 & Case.2 First Guardian』
©サイコパス製作委員会
近未来の警察組織を描くSFアニメは数多いが、「サイコパス」シリーズは人の心理を数値化したシビュラシステムという設定が卓越している。このシステムにより人は人生を管理されるだけではなく、犯罪係数が一定値を超えると罪を犯さずとも拘束・処刑の対象となる。その法を執行する公安局メンバー達の、現行システムの是非とそこから逸脱する事への葛藤というテーマは現在の我々にも十分当てはまる。劇場版前作ではそのレッテル貼りがいかに実態とかけ離れているかという事を失踪した公安局の執行官とそれを追う監視官のドラマの妙で見せた。別の公安局員を主役に据えた新作ではシステムと対峙する人間のどんなドラマを見せてくれるだろうか。
(大槻圭紀)
監督:塩谷直義
キャスト:佐倉綾音、野島健児、東地宏樹
120分/日本語/英語字幕/2019年/日本
配給:東宝株式会社
特別招待作品
『女王陛下のお気に入り』
@2018 Twentieth Century Fox
人が表面的に尊重しているルールがその下で蠢いている実態により蝕まれていく様、特にその際強いられる選択についての苦悩を描く事においてヨルゴス・ランティモスは一つのスタイルを確立している。タイトルが示す通りこの作品においても選択が重要な要素で、それが女王とその側近の女性二人の三角関係の中で展開されるとなれば期待せずにはいられない。ランティモス監督作品の特徴である独特の居心地悪さが歴史劇というフィルターを通した時、どのような映像が出来上がるだろうか。主演三人の女優の実力は申し分なく、ヴェネツィア映画祭での評判も上々である。実在の人物というルール付けとフィクションという題材がこれ以上無い程魅力的だ。
(大槻圭紀)
奇想天外、だけれどその世界に脳みそまるっとヤラれてしまった『ロブスター』。その鬼才、ヨルゴス・ランティモス監督の最新作が『女王陛下のお気に入り』。早く見せてくれ~!とうずうずしていたところに、特別招待作品としていざ東京へ。(アメリカでの劇場公開よりも早いんです!これも映画祭の魅力!)ヴェネツィア国際映画祭では銀獅子賞を受賞しており、その期待は高まるばかり。18世紀イギリス王室を舞台に繰り広げられるこの作品はエマ・ストーンをはじめ、オリヴィア・コールマン、レイチェル・ワイズが出演。キャストはもちろん宮廷衣装も気になりすぎて、スクリーンのガン見が予想されます。(豪華だと言いたい。)
いざヨルゴスワールドへ。
(加藤彩乃)
監督:ヨルゴス・ランティモス
キャスト:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ
120分/カラー/英語/日本語字幕/2018年/アイルランド、イギリス、アメリカ
配給:20世紀フォックス映画
特別招待作品
『ROMA/ローマ』
宇宙はとんでもねえ!と世界を震撼させ、アカデミー賞総なめだった『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督。あれから5年、今回は70年代のメキシコシティのローマを舞台に中流階級家族の1年間を描きました。もちろん監督、メキシコシティのご出身。自伝的要素が強く、彼の過去最高傑作との声も。
わたしの中のメキシコ映画といえば、キュアロン監督の『天国の口、終りの楽園。』(当時、高校生だったわたしにはディエゴ・ルナのお尻が頭から離れなかった)あの空気を描ききった監督がまたメキシコを見せてくれるのね!と、胸は高まります。Netflixオリジナルですが、大きなスクリーンで観られるのも映画祭の魅力。
(加藤彩乃)
監督アルフォンソ・キュアロン
キャスト:ヤリャッツァ・アパリシオ、マリーナ・デ・タビラ、マルコ・グラフ
135分/スペイン語、ミシュテカ語/英語・日本語字幕/メキシコ
配給:Netflix. K. K.
コンペティション
『ホワイト・クロウ(原題)』
名優レイフ・ファインズの監督3作目。1961年海外公演の途中に亡命し、その後パリ・オペラ座の監督として名を馳せたルドルフ・ヌレエフの物語。映画は貧しい幼年時代、バレエダンサーとして成長する青年時代、そして亡命時代の3つの時代が同時に描かれていくとか。レイフ・ファインズは、ルドルフの指導者として出演。監督と俳優、二足のわらじで成功している俳優は数少ないが、演技で見せる緻密さが、どう作品に表現されているのか、その手腕に期待が膨らむ。
もちろん、本物のバレエ競演も見逃せない。ルドルフのライバルであり、後に悲劇的な最期を遂げるユーリ・ソロヴィヨフ役に『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』のセルゲイ・ポルーニンが出演。主人公のルドルフ役を現役プリンシプルのオレグ・イヴェンコが演じている。セルゲイは本作をきっかけに『ダンサー』を撮影することになったという。
(佐藤純子)
監督:レイフ・ファインズ
キャスト:オレグ・イヴェンコ、アデル・エグザルホプロス、ラファエル・ペルソナ 127分/カラー/英語/日本語字幕/2018年/イギリス
コンペティション
『アマンダ(原題)』
フランスのミカエル・アース監督は、MyFrenchFilmFestival2017で『サマー・フィーリング』(2014)を見て魅了された。突然彼女を亡くした男性と彼女の妹が、時間をかけてゆっくり普段の日常を取り戻していく姿を、繊細でデリケートに、そして情緒豊かに描かれていた。
本作でも、パリの日常が舞台。20代前半のダヴィッドがシングルマザーである姉の娘、姪のアマンダをたまに世話し、便利屋の仕事をしながら気ままに楽しんで暮らしている。そんな中、パリをある悲劇が襲う。ダヴィッドはアマンダとふたり、取り残されてしまう。美しい街の中で、悲しみと向き合う人々の心情を、丁寧に優しく描いていく。何でもない心落ち着く普段の習慣に身を置くことで救われることがあると共感。今回も、監督の優しいまなざしとパリの街並みに浸り、そして勇気づけられたい。
(佐藤純子)
ポスタービジュアルの鮮やかな青にハッとさせられて。まだ幼い女の子はどこへ行くのか。青年と少女、夏のパリ、そこにある家族の愛。覗いてみたい世界がそこにあるなと直感的に。主演は、ヴァンサン・ラコストと子役のイゾール・ミュルトゥリエ。『ニンフォマニアック』で強烈な印象を残したステイシー・マーティンも出演。フレッシュなイメージがどんどん駆り立てられています。上映後には監督と脚本を手がけたミカエル・アースが登壇予定とのこと。Q&Aの時間が設けられているのも、映画祭ならでは。足を運びたくなります。
(加藤彩乃)
監督:ミカエル・アース
キャスト:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトゥリエ、ステイシー・マーティン
107分/カラー/フランス語/英語・日本語字幕/2018年/フランス
コンペティション
『ブラ物語』
デジタル技術によって様々デコレーションされる昨今、あえて「外した」手法は思いがけない新鮮味を与えてくれる。第84回アカデミー賞で作品賞を受賞した『アーティスト』では、サイレントの手法が効果的に使われ評価された。昨年公開された『リュミエール!』では飾らない50秒間の作品群が、映画表現の原点として再評価されている。現代に生きる私たちが映画に期待することは、複雑なことではないのかもしれない。本作もまた、ビジュアル、ストーリーともにシンプル。電車運転士が電車に引っかかったブラジャーの持ち主を探す旅に出る物語。全編セリフ字幕なしとのこと。言語を「外した」本作でブラという記号がどのような効果を生むのか楽しみ。
(SSS)
監督:ファイト・ヘルマー
キャスト:ミキ・マノイロヴィッチ、パス・ヴェガ、チュルパン・ハマートヴァ
90分/カラー/セリフなし/字幕なし/2018年/ドイツ/アゼルバイジャン
コンペティション
『ザ・リバー』
カザフスタンの田舎に住む家族。厳格な父の元で暮らす5人の兄弟。彼らの日常をカザフスタン注目の監督エミール・バイガジンが描く。少年たちの雄大な川で優雅に泳ぐ様子は、観ているこちらの心もおだやなか気持ちにさせてくれた。しかし、彼らの平和な日々も長くは続かない。突然都会からやってきた少年の存在が、彼らの日常を大きく変えてしまう。「幸せ」とは何か、「豊かさ」とはどういうことなのか。そんな問いを自分にも問いかけながら、川のようにゆっくり過ぎていく本作品を味わいたい。
(藤保眞弥)
監督:エミール・バイガジン
キャスト:ジャルガス・クラノフ、ジャスラン・ウセルバエフ、ルスラン・ウセルバエフ
113分/カラー/カザフ語/英語・日本語字幕/2018年/カザフスタン、ポーランド、ノルウェー
コンペティション
『堕ちた希望』
人は、どんなに冷酷なことでも、「他人事」や「仕事だから」と捉えることで、多くの責務を果たすことが出来てしまう。そして、その事実に麻痺し、慣れてしまう。しかし、それが「自分事」となったときに、今まで自分が犯してきた罪の重大さに気づくのだろう。この映画のヒロインも罪の重大さに気づいた一人だ。妊娠した娼婦を人身売買組織に引き渡すのが、彼女の仕事。彼女の絶望から這い上がる様子は、ナポリ北西部に位置する、荒廃した海沿いの町で繰り広げられる。この町の様子がより一層物語のストーリーを引き立てている。彼女の心の葛藤と心境の変化に注目したい。
(藤保眞弥)
監督:エドアルド・デ・アンジェリス
キャスト:ピーナ・トゥルコ、マッシミリアーノ・ロッシ、マリーナ・コンファローネ
100分/カラー/イタリア語/英語・日本語字幕/2018年/イタリア
ワールド・フォーカス
『ノン・フィクション』
フランス映画祭2015に『アクトレス~女たちの舞台~』(2014)をもって来日していたオリヴィエ・アサイヤスは、ジュリエット・ビノシュとは親しい友人関係を築いていると語っていた。本作は脚本作品を含め、5度目のタッグとなる。
作家と編集者は出版業界の新しい慣行に圧倒され、妻たちの要求に応えられず、自分の居場所を見つけるために日々戦っている。描かれているのは、中年の危機、新しく変化する環境、夫婦の小さな亀裂だ。どれもこれもパリの出版界に限られたことではない。理想と現実、内側の欲求と外の世界、慣れ親しんだ習慣と新しい慣習、それらの相反するものの間で内外の人生を調和させることはすごくむずかしい。「ノン・フィクション」のサブタイトルは「Doubles vies」=「二重生活」。みんな相反するものの狭間で、二重生活を送っているのである。
(佐藤純子)
オリヴィエ・アサヤス監督の最新作。2014年『アクトレス~女たちの舞台~』ではベテラン女優がマネージャーとの交流を通じ、世代交代を受け入れるまでの心象を描いた。2016年「パーソナル・ショッパー」ではセレブのパーソナルショッパーが見えない送り主とのテキストメッセージを通じ、現実と妄想を行き交うホラーサスペンスを描いた。2018年、本作では小説家と編集者とのやり取りを主軸に、ネットと既存メディアの移り変わりを題材に物語られるという。前2作から継承されるであろうテーマが本作でどう扱われるのか興味深い。また同監督作として一作ぶりにジュリエット・ビノシュが主演する。年齢を重ねるごとに魅力を増していく彼女の演技も楽しみ。
(SSS)
監督:オリヴィエ・アサイヤス
キャスト:ジュリエット・ビノシュ、ギョーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュ
107分/カラー/フランス語/英語・日本語字幕/2018年/フランス
ワールド・フォーカス
『トゥー・ダスト』
愛した人との別れは辛い。忘れたいのに忘れられない、思い出したくないのに思い出してしまう空白を、人はどうすれば受け入れられるのだろう。本作は先立った妻への思いを消化しようとする男の物語だ。「自然な心情」から生まれる「異常な行動」にすれ違ったとき、人はただ「笑う」ことしかできないのかもしれない。それはコメディと言えるのだろうか。本作はトライベッカ国際映画祭で観客賞を受賞した。同映画祭は9・11をきっかけにニューヨークの復興を目的として始められた比較的新しい映画祭だ。2018年の日本は自然災害のニュースが途切れない。3・11の復興も現在進行形だ。日本人の観客として、本作の結末を見守りたい。
(SSS)
大切な人の死をいかに乗り越えるか。そんなテーマの映画は星の数ほどありそうです。しかしこの作品では遺体の腐敗を通して主人公の癒しが語られるとのこと。さらに奇想天外なコメディらしいです。そんな映画聞いたことがありません。俄然興味をそそられます。主人公を助ける科学講師を演じるのはマシュー・ブロデリック。「プロデューサーズ」でのブラックな演技が大好きなので今回も期待大です。ハーバード大学で宗教を学び、NYUで映画を学んだというショーン・スナイダー監督。亡くなった母親への弔いを、初めて監督を務めた今作に託したとのこと。故人の偲び方を型にはめる必要はない、そんな映画かもしれません。
(エリ)
監督:ショーン・スナイダー
キャスト:ゲザ・レーリヒ、マシュー・ブロデリック、サミー・フォイト
92分/カラー/英語/日本語字幕/2018年/アメリカ
ワールド・フォーカス
『それぞれの道のり』
昨年日本で公開されたフィリピン映画2作品は新鮮だった。ブリランテ・メンドーサ監督の『ローサは密告された』は、ドキュメンタリー調のカメラワークがこれまでにない生々しさを生み出し、終始緊張感を共有できる作品だった。ラヴ・ディアス監督の『立ち去った女』は長尺228分が効果的に働き、観客と劇中舞台との距離感を縮める不思議な作品だった。本作では、ここにもう一人、個人映画作家として定評のあるキドラット・タヒミック監督が加わり、オムニバス映画として新たな化学反応を起こそうとしている。それぞれの「道のり」が交差する先に何が待っているのか、期待せずにはいられない。
(SSS)
監督:ブリランテ・メンドーサ、ラヴ・ディアス、キドラット・タヒミック
118分/フィリピン語/英語・日本語字幕/2018年/フィリピン
ワールド・フォーカス イスラエル映画の現在 2018
『彼が愛したケーキ職人』
「普通」、私たちはこの漠然かつ曖昧な言葉に頼り、根拠のない納得感に流されてはいないか。私たちの「普通」は育った環境や生きる時代によって形成される。定常的な日々の中で、そのことに気づくことは難しい。映画はそういった「普通」から一歩踏み出すきっかけになってくれる。近年、LGBTセクシュアル・マイノリティを題材にした作品に触れる機会が増えた。自分自身の「普通」の所在について考えさせられるだけでなく、映画製作や配給の流れとしても変化を感じている。本作は交通事故で夫を亡くした妻と、その夫を愛したケーキ職人の物語。一人の男性を愛した男女の想いは、愛することの意味をそのままに考えるきっかけになるかもしれない。
(SSS)
監督:オフィル・ラウル・グレイツァ
キャスト:ティム・カルクオフ、サラ・アドラー、ロイ・ミラー
109分/カラー/ヘブライ語、ドイツ語、英語/英語・日本語字幕/2017年/イスラエル、ドイツ
配給:エスパース・サロウ
ワールド・フォーカス
『ある誠実な男』
俳優のルイ・ガレルが監督、主演を務め、ファンと公言する著名な脚本家と組んだ本作は、男性と女性についての映画を作りたかったと話しているように、男女のロマンスを描いている。
夫が心臓発作で突然亡くなり、息子と残されたマリアンヌは、かつてボーイフレンドだった主人公アベルと再会。忘れたと思っていた彼女への愛が再燃する。しかし、息子や夫の妹も絡み合い、一筋縄ではいかない。ヒロインに彼の妻のスーパーモデル、レティシア・カスタを起用し、夫婦初共演作としても話題。
そういえば、ルイの父、フィリップ・ガレル監督も同じ脚本家と組んで「つかのまの愛人」(2017)で哲学教師、教え子の恋人、娘(実の娘のエステール・ガレルが演じる)の奇妙な三角関係を描いていた。自分の幸せを求めてさまよいたゆたう、魅力的な作品だった。
ガレル一家が愛してやまないフランスの恋愛模様。若きルイ監督の愛のアンサンブルを楽しみたい。
(佐藤純子)
監督:ルイ・ガレル
キャスト:ルイ・ガレル、レティシア・カスタ、リリー=ローズ・デップ
75分/カラー/フランス語/英語・日本語字幕/2018年/フランス
ワールド・フォーカス
『彼ら』
シルヴィオ・ベルルスコーニ氏は、9年間にわたりイタリアの首相に就任。企業家として建設業と放送事業で財を成し、イタリアのメディア王と呼ばれた。汚職疑惑や性的スキャンダルに対する追及を受け、未成年者売春罪と職権乱用罪で起訴される。スキャンダルまみれの彼だが、イタリア人の見方はちょっと違う。男性にとっては、富豪にのし上がりセクシーな女性に囲まれる人生の夢を実現した憧れの象徴であり、女性にとっては、巨万の富やメディアへの影響力を操る手腕を持ちながら見た目がかわいい憎めないチョイワルおやじなのだ。
イタリア人の監督だからか、批判する作品ではなく、彼を定義付けることになった政治人生とスキャンダルが描かれているとか。監督の数々の作品で主役を演じてきた名優トニ・セルヴィッロが、本作でも主役。きっと愛される男としてチャーミングに演じているに違いない。
(佐藤純子)
監督:パオロ・ソレンティーノ
キャスト:トニ・セルヴィッロ、エレナ・ソフィア・リッチ、リッカルド・スカマルチョ
151分/イタリア語/英語・日本語字幕/2018年/イタリア
ワールド・フォーカス
『世界はリズムで満ちている』
日本でも公開された「ムトゥ踊るマハラジャ」「ロボット」「命ある限り」をはじめ、南北問わずインド映画に無くてはならないA・R・ラフマーンの音楽。「ディル・セ 心から」の「Chaiyya Chaiyya」は古今東西のミュージカルシーンの中でもマイベストな一曲です。今回の作品では南インドの伝統音楽の世界を舞台に一体どんな楽曲が展開されるのでしょうか。とても楽しみです。主演のG・V・プラカーシュ・クマールはA・R・ラフマーンの甥で、役者兼音楽家という新しい逸材。既存の社会規範と個人の自由な意志との葛藤はインド映画で常に描かれるテーマです。主人公はどう道を切り開き折り合いをつけていくのでしょうか。
(エリ)
監督:ラージーヴ・メーナン
キャスト:G・V・プラカーシュ・クマール、ネドゥムディ・ヴェーヌ、アパルナー・バーラムラリ
131分/タミル語/英語・日本語字幕/2018年/インド
アジアの未来
『はじめての別れ』
「僕にとって、怖いことは何もない。お母さんがいなくなっちゃうこと以外はね。」と語るのは、ムスリムの少年アイサ。学校へ通いながら、聾唖の母の世話と農作業を手伝っている。母が話せるようになることを祈る姿が印象的であった。しかし、ある日事態は一変する。なぜ、不幸は時に重なってしまうのか。彼の心に深く刻まれた傷は、癒されることがあるのだろうか。「別れ」はいつだって苦しいものだが、特に幼少期に体験する「別れ」は大人になって思い出しても胸を痛めるものばかり。アイサのことを、暖かく見届けたい。
(藤保眞弥)
監督:リナ・ワン
キャスト:アイサ・ヤセン、カリビヌール・ラハマティ、アリナズ・ラハマティ
86分/カラー/ウイグル語、北京語/英語・日本語字幕/2018年/中国
アジアの未来
『冷たい汗』
夫の許可が下りないばかりに念願の国際試合に参加できない女性アスリート。何それ、そんな状況最悪すぎる!専業主婦だった私の母は、少し値の張る買い物やちょっとした外出にも父の許可が必要でした。娘の私も父の意向と自分の意思とのすり合わせに疲弊する毎日でした。この主人公の物語も他人事とは思えません。モデルとなった実在の選手は結局ナショナルチームから外れ、黙々と後進の指導にあたっているとのこと。ソヘイル・ペイラギ監督は彼女の悔しさを代弁することができるのでしょうか。女性の自由な自己実現を阻む社会にいかに挑むのか、興味津々です。
(エリ)
監督:ソヘイル・ベイラギ
キャスト:バラン・コーサリ、アミル・ジャディディ、サハル・ドラトシャヒ
88分/カラー/ペルシャ語/英語・日本語字幕/2018年/イラン
国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA #05 ラララ 東南アジア
『音楽とともに生きて』
カンボジアを旅して一番印象に残ったのは、田園に浮かぶ大きな太陽と朝焼けや夕焼けの燃えるような赤さでした。今作の予告編で映し出されるのも、そんな風景が放つ独特の光や湿度。悲惨な過去をはらみながらも淡々と暮らす人々の人生について、この映画は教えてくれる気がします。流れてくるのは日本人の耳にもどこか懐かしく聞こえる音楽。美しい風景、美しい音楽、美しさとは対極の歴史。映像で表すのが困難であろう集団的トラウマ体験をいかに描くのか、それが物語や音楽といかに重なりあうのか、大変興味深いです。
監督:ヴィサル・ソック、ケイリー・ソー
キャスト:ヴァンダリス・ペム、スレイナン・チア、ソウナ・カニカ
91分/カラー/クメール語、英語/英語・日本語字幕/2018年/カンボジア
ユース TIFFティーンズ
『ジェリーフィッシュ』
15歳といえば、一般的には義務教育真っ只中の中学3年生として、部活動に打ち込んだり、友達と元気よく遊びに行ったり、高校受験の勉強をしている年齢。そんな若さで、自分の自由な時間もなく、家族の世話やアルバイトに忙しい毎日を送るサラ。大人の世界の中で、孤立しながらも、前を向いて生きていく様子に心を打たれることは間違いないだろう。そんな彼女は、ある日「お笑い芸人」としての道を選択する。今までの生活とは違った苦労・困難が予想されるが、その結末は?
(藤保眞弥)
監督:ジェームズ・ガードナー
キャスト:リヴ・ヒル、シニード・マシューズ、シリル・ヌリ
101分/カラー/英語/日本語字幕/2018年/イギリス
ユース TIFFティーンズ
『蛍はいなくなった』
小さい町は面白くない。みんな一緒でつまらない。刺激的なことに出会いたい。面白い人に出会いたい。田舎で思春期を過ごした中高生なら、誰もが一度に思うことだろう。そうして、より大きい町へ進学を志したりする。ヒロインのレオニーも、もれなくそのうちの一人だが、ある日、バーで一人の男性に出会った。彼に会って、ギターも始めた。彼の存在がレオニーの日々を大きく変えたように、人を大きく変えるのは、人との出会いであることに気づかされる。高校卒業を目前に、自分の将来を考えていないことに対して親とも衝突したレオニーだが、彼女が選んだ将来の選択に期待です。
(藤保眞弥)
監督:セバスチャン・ピロット
キャスト:カレル・トレンブレイ、ピエール=リュック・ブリラント、フランソワ・パピノー
96分/カラー/フランス語/英語・日本語字幕/2018年/カナダ
日本映画スプラッシュ 特別上映
『21世紀の女の子』
2018年の東京には、個性豊かな「映画の女の子」たちが生きています。と、言われたら、わたしはぼんやりと想像をしてしまうのです。その子たちは、何を思い、どう生きているんだろう。
こちらの映画は山戸結希が企画とプロデュースをしたオムニバス映画。80年代後半~90年代生まれの新進女性映画監督が集結し、あるひとつのテーマ”をそれぞれの視点から描く作品になるとのこと。仮にもまだまだ「女の子」でいる(つもり)のわたしには、何がここに詰まっているのかワクワクしています。
「21世紀は、必ず女の子の映画の世紀となります。」こう断言する山戸結希がいるからには、日本映画の未来も明るいな、と思っています。
(加藤彩乃)
企画・プロデュース:山戸結希
監督:監督:山中瑶子、加藤綾佳、金子由里奈、枝 優花、東 佳苗、井樫 彩、竹内里紗、ふくだももこ、安川有果 首藤 凜、夏都愛未、坂本ユカリ、松本花奈、山戸結希、玉川 桜
エグゼクティブ・プロデューサー:平沢克祥、長井 龍
コプロデューサー:小野光輔、平林 勉、三谷一夫
製作:21世紀の女の子製作委員会(ABCライツビジネス、Vap)
製作・配給協力:映画24区、和エンタテインメント
ミッドナイト・フィルム・フェス!『アリー/ スター誕生』オープニング記念 歌姫たちの夜
『ストリート・オブ・ファイヤー』
©1984 Universal Studios.All Rights Reserved.
日本ではヒットしたが本国での評価はそれほどでもなかったというこの作品。確かにロック、恋愛、ファイトといった実にアメリカ映画的な記号が文字通りに描写されるその構成は、地元では当たり前すぎのものであったろう。それだけにアメリカ文化へのあこがれが元にある、音楽・アニメ・漫画などのポップカルチャーが隆盛であった80年代の日本において熱狂的に受け入れられる事になる。しかし当時、最新の映像スタイルであったMV的手法を果敢に映画に組み込んだW・ヒルの演出、M・パレ、D・レイン、W・デフォーのビジュアル重視が故のストイックな演技は、今見ても革新的だ。その魅力を“時”を経た今こそ感じてほしい。
(大槻圭紀)
監督:ウォルター・ヒル
キャスト:マイケル・パレ、ダイアン・レイン、リック・モラニス
94分/カラー/英語/1984年/アメリカ
トリビュート・トゥ・コメディ
『スペースボール』
Images courtesy of Park Circus/MGM Studios
コテコテ喜劇の帝王メル・ブルックスがパワー全開で挑んだ『スター・ウォーズ』の大パロディームービー。御年90歳を超えても、なお現役でアニメの声優などをこなすブルックスが監督主演を兼ねて制作したこの作品は『スター・ウォーズ』を始め、あらゆる有名SF作品をネタに盛り込んでいる。元々彼の作風はベタギャグが売りとは言え、風刺がテーマのしっかりしたストーリーが存在する。しかし今作ではおとぎ話を基本に、数々の予算をかけたギャグシーンを連続させる作りが潔い。80年代にお馴染みだったリック・モラニスやジョン・キャンディが、手作り感あふれるVFXを背景に大活躍!この贅沢なコメディーショーをお楽しみあれ!
(大槻圭紀)
監督:メル・ブルックス
キャスト:メル・ブルックス、ジョン・キャンディ、リック・モラニス
96分/英語/日本語字幕/1987年/アメリカ
【執筆者プロフィール】
大槻圭紀
宮城県出身、東京在住。自主映画監督、元WEBディレクター。北海道、東京の映画祭で作品を上映。
加藤彩乃
5月生まれのふたご座。木曜日うまれ。埼玉県の山育ち。自然あふれる環境にいながら、もっぱらインドアな少女時代を過ごす。都内で会社員をしながら、日々映画とセレブゴシップチェックは欠かさない。夢は、ヨーロッパの電車旅で意気投合した男性と1年後に会う約束をすること。
SSS(ペンネーム)
映画はネット配信よりも映画館で観たい人。引きこもりを捨てて、町に出たい。
エリ
子どもの頃ディズニー映画にはまって以来のミュージカル好き。最近は観る映画の9割がインド映画。
藤保眞弥
北海道旭川市出身、東京在住。多様な世界観・価値観を見せてくれるので、昔から映画が好き。「つくる」側ではなく、「支える」側としての映画業界に興味があり、今期から配給ワークショップに参加しています。
佐藤純子
東京生まれ。渋谷区在住。国民性や個性、価値観といったさまざまな違いを意識しながら、テーマやエピソード、会話などに共感や共通点を見出す、そんな映画やヒトとの出会いが日々の原動力。
第31回東京国際映画祭
2018年10月25日(木)~11月3日(土)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区)ほか
公式サイト