骰子の眼

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東京都 渋谷区

2018-10-11 22:30


LA探偵映画の系譜を受け継ぐネオノワール・サスペンス『アンダー・ザ・シルバーレイク』

ミッチェル監督「一回目は娯楽として、二回目以降は疑問そのものの美しさを楽しんで」
LA探偵映画の系譜を受け継ぐネオノワール・サスペンス『アンダー・ザ・シルバーレイク』
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督 © 2017 Under the LL Sea, LLC

『イット・フォローズ』のデビッド・ロバート・ミッチェル監督の新作『アンダー・ザ・シルバーレイク』が10月13日(土)よりアップリンク渋谷、新宿バルト9ほかにて上映される。webDICEでは、ミッチェル監督のインタビューを掲載する。

主演のアンドリュー・ガーフィールドが演じるのは、主人公はテレビゲームを愛し、日々身の回りの広告などに潜むサブリミナル・メッセージを探すことに執着する青年サム。隣に住む美女サラが失踪したことをきっかけに、街の裏側に潜んでいた悪夢のような世界を覗き見ることになる。子どもの頃、「自分は誰かが作った物語の登場人物でしかない」と感じたことはないだろうか。この映画はそうした無邪気な妄想をハリウッドのきらびやかな世界とを舞台に映像化した作品と言えるだろう。

荒唐無稽かつ『ロング・グッドバイ』『インヒアレント・ヴァイス』といったロサンゼルスを舞台とする探偵映画の系譜を受け継ぐストーリーに、『ラ・ラ・ランド』(同じグリフィス天文台が登場)やヒッチコック監督作品、そして『第七天国』などハリウッドの黄金時代と呼ばれる20年代~30年代の作品など、幅広い年代の映画作品へのオマージュをプラス。さらに任天堂をはじめとするテレビゲームへの愛情、そしてニルヴァーナやR.E.M.などオルタナティヴ・ロックへのリスペクトも色濃く現れている。物語後半の“あるミュージシャン”とサムとの掛け合いには、「こんなやり方でロックの歴史を表現できるのか!」と驚くはず。ミッチェル監督が語っているように、何度も観ることで、頭に湧き上がってくる疑問をひとつずつ答え合わせしていく快感を味わえる作品となっている。

なおアップリンク渋谷では公開を記念し『デヴィッド・ロバート・ミッチェルの世界』と題し、ミッチェル監督の過去作『アメリカン・スリープオーバー』『イット・フォローズ』を上映する。


「ロサンゼルスのロケーションやロサンゼルスが舞台となっている謎には長い伝統があって、この作品はその中にぴったりと収まるんだ。ロサンゼルスを舞台とするミステリー探偵映画の歴史にこの作品が貢献するっていうことも楽しいね。僕はミシガン州で育ったんだけれど、ロサンゼルスに住むようになってもう何年にもなる。だからミシガンも僕にとっては故郷だし、ロサンゼルスも故郷なんだ」(デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督)


取り憑かれたように書いた脚本

──何がきっかけでこの物語を書いたのですか?

僕は何となく自分を追い立てていた。書きまくっていて、もう脚本を何本も書いていたんだ。考えがいっぱい頭に浮かんできて、それをどんどん書いていきたくなる時が僕の人生にはあるんだよ。ちょうど一つの脚本を書き終わった時で、でもあんまりそれに満足していなかった。何かを一生懸命にやり過ぎる感じだったんだ。だからある種の自由を渇望していたんだよ。

映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC

僕がちょうどその脚本の完成に近づいていた時、ハリウッドの丘の上にある豪邸では実際にどんなことが起こってるのかなあなんて妻と話していたんだ。一体何が起こっているんだろうってね。どんな奇妙なことが起こるんだろう。どんな可能性があるかについてただしゃべっていた。そして謎があるよねってことも話していたんだ。そこで、このストーリーについてのイメージや考えが瞬く間に頭に浮かんだんだよ。そしてそれから1日2日経った後、僕はもう一つの脚本を書いていたんだけど、先に進めなかった。こんなことはあまり無いんだけれど、作曲家も、映画の中の他の様々な要素も頭に浮かんできた。とにかく自然に頭に浮かんできて、僕はそこで文字通り、座って急いでそれらを書き留めたんだ。

『アンダー・ザ・シルバーレイク』の脚本は、取り憑かれたように書いたよ。普段はそんな状態にはならないんだけど、とにかく猛烈に書いたんだ。コーヒーも飲みまくり。いくらか書いたらそれを妻に見せた。その日に書いたものは彼女に見せたんだよ。それで僕が書いた内容について二人で笑ったりして楽しかった。僕たちは二人とも、よくできていると思った。楽しい内容だと思ったんだ。僕はとても楽しんで書いた。「自分が書きたいものを何でも書いちゃえ!」なんて思っていたからね。だからこそあれが書けたんだよ。完成させた時はとても満足だった。

でも、これを完成したところで、どうすることもできないってことに気づいていなかった。これは、『イット・フォローズ』を作る前で、それまでの僕の作品は、『アメリカン・スリープオーバー』だけだったんだよ。個性的な脚本をいくつも書いてあったんだけど、それまでの作品が『アメリカン・スリープオーバー』だけっていうことは、僕が書いた脚本をどうすればいいかわかる人なんて誰もいないことはわかっていた。『アメリカン・スリープオーバー』から『アンダー・ザ・シルバーレイク』に行くなんて想像できる?

映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC

──登場人物について書く中で、自伝的な要素もあったんですか?丘の上にある豪邸について想像を巡らせたとおっしゃいましたが、それは、この世界にある謎についてあなた自身が個人的によく考えるということから発しているのでしょうか?

確かに、自分の周りの世界にある要素を持ってきて、この狂気じみた人生を描き出したんだ。でも、主人公は僕じゃないよ。映画の中には僕の個人的な要素が確かに入っているけど、それらは僕の行動でも僕の世界観でもない。僕はただ、僕が知っているひとつの世界に対するとても歪んだ見方を想像したんだ。ある意味では個人的であって、反個人的だね。僕の部分部分は入っているけど、それはサムだけでなく、男女関係なく多くの登場人物に入っているんだ。うまく説明できないけどね。

ロサンゼルスを舞台とする探偵映画の系譜

──最近はロサンゼルスで映画の撮影が行われることは稀ですね。少なくとも、以前よりは稀になりました。あなたの前作は2本とも舞台がミシガンでした。今回はなぜロサンゼルスなのですか?

ロサンゼルスのロケーションやロサンゼルスが舞台となっている謎には長い伝統があって、この作品はその中にぴったりと収まるんだ。僕はロサンゼルスに引っ越して来る前からロサンゼルスが舞台の映画で、辺りの風景や、有名な建物を見るのが大好きだった。引っ越して来て、実際にその場所はどんな場所なのかを肌で感じてから、その楽しみはさらに増したよ。ロサンゼルスを舞台とするミステリー探偵映画の歴史にこの作品が貢献するっていうことも楽しいね。僕はミシガン州で育ったんだけれど、ロサンゼルスに住むようになってもう何年にもなる。だからミシガンも僕にとっては故郷だし、ロサンゼルスも故郷なんだ。

映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC

──映画の中のパズルピースの一つ一つの解明をご自分でも楽しみましたか?

すごく手間がかかった。本当にすごく。全てを前もって計画しなければいけなかったからね。どうやったら全てが可能になるか、いろいろな人やいろいろな組織と打ち合わせをしなければいけなかった。過去の作品よりも予算は多くあったけれど、スムーズに事を運ぶのには少々足りなかったね。全てのことを事細かく準備した。小さいことでもそれをするためにはどうやってそれを可能にするか、長い時間をかけて話し合わなければならなかった。

また多くのものが互いと繋がっているんだ。例えばあるひとつのものがあるとしたら、それはまた別のものとつながっている。だからその最初のものは、ある一定の形でなければならない。もうひとつの方に影響するからね。そのために全てを機能させる上でややこしかったんだ。地図は実際の地図と一致させるし、もしニンテンドウ・パワー・マガジン(アメリカで1988年から発行されていた雑誌)の創刊号を持っていたとしたら、その折り込みの付録でついていた地図は、僕らが映画で使った地図で一致するはずだよ。

──主人公のサムが謎を解くために使うニンテンドウ・パワー・マガジンの地図でさえ偽物を使わなかったんですか?

第一号には折り込みが入っていて、そこに地図があった。映画の中で主人公がたどっていく手がかりは、全部実際のものなんだ。

映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC

何度か観た後に、繋がりが見えてくるようなデザイン

──音楽に関して、『イット・フォローズ』でもタッグを組んだリッチ・ブリーラントとはどんな話をしましたか?

最初はどんな音楽を作っていいか分からなかった。でもリッチと話していく内に、「オーケストラをもっとプッシュしたものを作りたいね」とか「1930年代後半~50年代の映画の音楽の雰囲気が欲しい」「もっとクラシックな、オーケストラを多用したハリウッドのこの時代の音楽のようなものを作りたい」等と徐々に方向性が見えてきたんだ。

実はリッチは、オーケストラの曲の作曲はしたことがなかったみたいなんだけど、あっという間に独学で勉強して、すぐに曲がかけるようになっていたんだ。彼はすごく才能があるので、彼の曲を聞いて僕もすごくスリリングに思ったよ。50年代のオーケストラ音楽っぽい要素プラス、現代の音楽のちょっと変わった部分、それに電子音楽が混ざったようなものができたと思う。

映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC

──カンヌ映画祭の質疑応答で「本作をいくつもの解釈ができるように意図的に作った」と語られた一方で、「2回以上は見ないと全部は分からない」と発言されたと伺いました。1回目と2回目の鑑賞では、それぞれどんなことに注目して観るのが、本作を最大限楽しむ秘訣ですか?

あくまで僕の願いだけど、一回目は純粋に娯楽として楽しんでほしい、そして二回目以降「これとこれが繋がるんじゃないか」というようなミステリーの意味付けをしながら楽しんで欲しい。

一回目は、純粋に楽しみながらも何か疑問が残るというようにわざと作り、何度か観た後に、繋がりが見えてくるようなデザインをしたつもりなんだ。大抵ミステリー作品は、最初に色々な疑問が沸いて、最後の10分位ですべて解決する作りが多いけど、本作はその疑問と解決の繋がりを、はっきり分からないように仕上げている。ミステリーがあること、疑問そのものの美しさ、というものを楽しんでもらいたいね。

──サム役にアンドリュー・ガーフィールドを選んだ経緯は?

彼はとにかく素晴らしい俳優だと思うんだ。だから彼と一緒に働けるっていうことがとても嬉しかった。彼が演じるサムは素晴らしくなると感じたんだよ。ある種の魅力とカリスマ性があって、人に好かれるタイプだけれども、陰では恐ろしいことをしている役柄を演じることができる俳優が必要だった。そしてその意味で観客を引き込むような俳優だ。彼にはそれができると思ったんだよ。

映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』サム役のアンドリュー・ガーフィールド © 2017 Under the LL Sea, LLC

──あなたにとってはこの映画は第3作目で、3つ目のジャンルです。あなたにとっては様々なジャンルの映画を作ることが重要なのですか?

僕はいろいろなことを試してみるのが好きなんだ。またそのいろいろなことを繋ぐ糸のようなものが必ずあると思いたい。その僕が作る作品なわけだから、人がそれぞれの作品を見たら、その繋ぎの要素が見えると思うよ。

いろいろなジャンルを試してみるのは楽しい。第1作目の『アメリカン・スリープオーバー』は若者が成長する姿を描いた優しさに溢れた作品で、その次の『イット・フォローズ』も若者が主人公なんだけれど、奇妙で衝撃的なホラー映画なんだよね。そしてこの3作目の『アンダー・ザ・シルバーレイク』が何なのかはあえてはっきりとは言わないけれど、ミステリーものだよ。

僕はいろいろなことを書くんだ。様々なジャンルの脚本をたくさん書いてあって、さらに探求しながらいろいろな種類の映画を作りたいと思う。『アメリカン・スリープオーバー』を見た人が、次に『イット・フォローズ』を見て少し驚くなんてことがあったらいいなと僕は思うんだよ。そして『イット・フォローズ』を見た人が『アンダー・ザ・シルバーレイク』を見て少し驚く、なんていうようにね。できる限りそんな感じで続けて行きたいと思う。

だからと言って、以前やったことと同じようなことをやらないというわけではないよ。立ち返ってもみたいけど、時間を置いてからだね。ある時点では、写実的な作品をまた作るかもしれない。またホラー映画を作るかもしれない。ミステリーもね。映画にして語りたいストーリーがたくさんあるんだ。

僕は概して映画の大ファンなんだ。映画の歴史の中に存在する様々な種類の映画が大好きなんだよ。僕の喜びの源泉はそこだね。映画の歴史から少しずついろいろなものを持ってきて、アレンジし直して、別の目的を作って、そこに僕自身の考えを加えて新しいものを作るんだ。独自のものを作る。でなければ僕にとっては面白くないんだよ。

(オフィシャル・インタビューより)



デヴィッド・ロバート・ミッチェル(David Robert Mitchell) プロフィール

1974年、アメリカ・ミシガン州デトロイト生まれ。現在はロサンゼルス在住。監督・脚本を務めた映画デビュー作『アメリカン・スリープオーバー』(10)はその年のサウス・バイ・サウス・ウエストでプレミア上映され、審査員特別賞を受賞。また、カンヌ国際映画祭国際批評家週間で世界プレミア上映、ドーヴィル・アメリカン映画祭審査員賞、ミュンヘン国際映画祭アメリカ・インディーズ新人賞など数々の賞を受賞。熱狂的に評論家たちに支持され、アメリカのテレビ番組「エバート・プレゼンツ・アット・ザ・ムーヴィーズ」でその年のトップ5に選出される。そして長編2作目のホラー映画『イット・フォローズ』(14)はカンヌ国際映画祭国際批評家週間でプレミア上映され、インディペンデント・スピリット賞4部門ノミネート。映画批評サイトRottenTomatoesでは、驚異の96%という数字をたたきだすなど辛口批評家から絶賛され、全米では急遽拡大公開となり、3週にわたりTOP10にランクイン、世界的大ヒットを収める。




映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』 © 2017 Under the LL Sea, LLC

映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』
10月13日(土)より、全国ロードショー

“大物”になる夢を抱いて、L.A.の<シルバーレイク>へ出てきたはずが、気がつけば仕事もなく、家賃まで滞納しているサム。ある日、向かいに越してきた美女サラにひと目惚れし、何とかデートの約束を取り付けるが、彼女は忽然と消えてしまう。もぬけの殻になった部屋を訪ねたサムは、壁に書かれた奇妙な記号を見つけ、陰謀の匂いをかぎ取る。折しも、大富豪や映画プロデューサーらの失踪や謎の死が続き、真夜中になると犬殺しが出没し、街を操る謎の裏組織の存在が噂されていた。暗号にサブリミナルメッセージ、都市伝説や陰謀論をこよなく愛するサムは、無敵のオタク知識を総動員して、シルバーレイクの下にうごめく闇へと迫るのだが──。

監督・脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオ他
配給:ギャガ
(2018年/アメリカ/140分/カラー/シネスコ/5.1ch/字幕翻訳:松浦美奈/原題:UNDER THE SILVER LAKE)

公式サイト


▼映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』予告編

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