映画『ラスト・オブ・イングランド』より、ティルダ・スウィントン
アップリンクがパルコと共同で運営する新しい映画館「アップリンク吉祥寺」が2018年12月オープン。現在、いち早く「アップリンク会員」になり、映画館作りを応援してくださる方を募集するクラウドファンディングを実施している。このクラウドファンディングの応援イベントが9月24日に開催された。この日はアップリンクの原点的作品であるデレク・ジャーマン監督の『BLUE ブルー』を上映後、吉祥寺バウスシアターの元番組編成・西村協さんとアップリンク代表浅井隆が登壇。80年代のバウスシアターをめぐるエピソードやミニシアターの現状、そして映画館の未来についてトークセッションが交わされた。
バウスはごちゃまぜカルチャーの拠点だった
浅井:アップリンクは1987年に設立しましたが、ここにパンフレットを持ってきている『エンジェリック・カンヴァセーション』が最初の配給作品で、バウスシアターで上映したんです。
僕は寺山修司の劇団、天井桟敷の研究生になった時は西荻窪に住んでいたので、バウスにはよく歩いて観にいっていました。西村さんがまだ入る前ですね(西村さんは85年入社)。
西村:当時はムサシノ映画劇場という名前で、1984年3月に吉祥寺バウスシアターと名称が変わりました。普通の映画館は配給会社さんが次の作品を提案してくれることで、順繰りに興行がつながっていくけれど、映画の上映の間にライブや芝居など実験的なことをやっていたので、変わった配給会社しかお付き合いしてくれなかったんです(笑)。浅井さんが最初に持ち込んでくれた『エンジェリック・カンヴァセーション』も、相当実験的でした。
9月24日、アップリンク渋谷にて 西村協さん(左)、浅井隆(右)
浅井:なぜバウスを上映館に選んだかというと、自分の原点がアムステルダムのミルキーウェイという場所で、バウスは演劇もライブもやっていて、ミルキーウェイに近いイメージがあったから。でも考えてみると、当時の渋谷もジァン・ジァンや天井桟敷館も多目的ホールとして運営していて、映画や演劇、詩の朗読など、インターネットがない時代で、1ヵ所に様々なカルチャーが混在していた。故・如月小春さんのNOISEもやっていたよね。
西村:パパ・タラフマラや月蝕歌劇団、万有引力もやっていました。
浅井:インターネットの時代になって自分の好きなことを検索して深く掘っていくことで、分断化されてタコ壺化現象が起きている。当時のカルチャー状況のほうがごちゃまぜだった。そんなバウスでデレク・ジャーマンの作品をぜひやってもらいたいなと思ったんです。
西村:分からないものも分からないままで、好きなものを勝手に自分で掘り下げていく、僕はそのタイプでした。
映画『エンジェリック・カンヴァセーション』
浅井:35ミリのプリントも1本しかなかく、字幕を入れるお金もがなかったので、ナレーションの日本語訳をコピーして来場者に渡していました。それでもパンフレットはハードカバーで作って、浅田彰さんや大場正明さんに執筆していただきました。
演劇の宣伝手法と同じく、チラシを撒くのとポスターを貼るというふたつ。新聞や大手メディアは関係なく、チラシの隅に穴を開けて紐で吊るせるようにして、とにかく街に撒いた。ゴールデン街が情報収集・発信の機能をまだ持っていたし、ジャズ喫茶やロック喫茶が情報を所得する場所だった。それが現在では、日比谷のTOHOシネマズのように、チラシを一切置かないというポリシーの場所もありますよね。
西村:当時は「風呂張り」といって銭湯ではプロレスと映画のポスターが横並びで貼ってありました。
浅井:僕らも吉祥寺にクラウドファンディングのチラシを撒きに行ったら、銭湯の人に「ポスターあったら貼ってあげるよ」と言われたそうで、いい話だなと思いました。
吉祥寺バウスシアター ©Dick Thomas Johnson
デレク・ジャーマン、ティルダ・スウィントン、ホドロフスキーが来館
西村:『ラスト・オブ・イングランド』を上映したときに、デレク・ジャーマン監督とティルダ・スウィントンが来館してくれました。
浅井:『ラスト・オブ・イングランド』は1987年の第2回東京国際映画祭で上映して、その後アップリンクの配給により日本で公開したんです。
西村:記者会見を行うにあたり、劇場の下の「すえひろ5」というファミレスで、デレク・ジャーマン監督とティルダ・スウィントンと浅井さんと僕で安いコーヒーを飲んだのを覚えています(笑)。いまはアカデミー女優になって、もう信じられないですね。
浅井:僕が知っている外国の人で、いちばんの有名人です。最近では、アレハンドロ・ホドロフスキー監督を連れていきました。
西村:2014年のクロージングイベント「THE LAST BAUS~さよならバウスシアター、最後の宴」のときですね。実は『ホドロフスキーのDUNE』をメイン館として上映しようと打ち合わせをしていたのですが、閉館が決まってしまったので実現しなかったんです。そのときに浅井さんに閉館について電話したら「僕が買いたいので社長に合わせてくれ」と。
浅井:社長の本田さんに会って「お金はないけど、引き継ぎたい」と言ったんです、実現しなかったけれど。
2014年「THE LAST BAUS~さよならバウスシアター、最後の宴」で登壇したアレハンドロ・ホドロフスキー監督 写真:西岡浩記
2014年「THE LAST BAUS~さよならバウスシアター、最後の宴」 写真:西岡浩記
今の時代にあったミニシアターのスタイルを
浅井:もっと未来の話をしていきましょう。いろんな取材で「ミニシアターが減少して大変ですね」と聞かれるけれど、言っておきたいのは、動員減が閉館の理由ではないということ。ひとつひとつ検証していけば分かります。
考えていかなければいけないのは、今の時代にあったミニシアターのスタイル。80年代にできたミニシアターは100席前後が基本でしたが、時代とともにそれが大きすぎるようになった。今年オープンした日比谷のTOHOシネマズは11スクリーンですが、そのうち7スクリーンがユーロスペース(92席/145席)よりキャパが小さいんです。言ってみればシネコンを作ったのではなく、ユーロスペースを7スクリーン分作り、ハリウッドなどのエンタメ作品を上映しているので、常に満席になるのです。動員が落ちてきたらカットしていく。アップリンク渋谷はその2番館の存在になっています。
西村:それは正解だと思います。都内のファーストラン(ロードショーの最初の上映期間)が終わっても吉祥寺や中央線沿線にお客さんが残っている場合、入場料金を下げて吉祥寺で上映するとお客さんが来てくれることが分かりました。下高井戸シネマさんもそうだと思いますが、都内のファーストランの劇場がどんどん上映を打ち切っていくなかで、「まだ観れていない」作品がどんどん増えて、「バウスでやるまで待とう」というお客さんが増えてきたんです。名画座にいく前の大事なパートなんじゃないかと感じていました。
浅井:名画座は基本的に1週間数万円のフラットの賃貸料で上映してもらうんですが、2番館はファーストランと同じ興行収入の歩合で払っていく。例えばアップリンク渋谷で上映している『君の名前で僕を呼んで』は渋谷としては3番館なのに11週もロングランしていて、配給会社の人からも喜んでもらっています。
西村:配給会社は上映が途切れずに続いていくこということを大事にしているし、上映後のパッケージの売上にも影響してくるんじゃないでしょうか。
浅井:アップリンクではリピーターも多くて、好きな作品を5回、6回、10回と観てくれる。それはとても大切なお客さんです。
西村:応援上映も熱狂的で、映画の観方が変わってきていますよね。
浅井:ミニシアターという概念が変わってきて、小さい映画館で観る面白さを発見した人も増えています。
映画を観にいく楽しみを提供したい
西村:映画館に来る人の年齢層は変わりましたか?
浅井:これも業界の人は「若い人が映画館に来ていない」と誤解している。けれど、『君の名は。』は若い人を中心に一世を風靡した。10年くらい前はミニシアターが「シネフィルのためのもの」というおしゃれじゃないイメージがあったけれど、それをどうやって変えていくか、戦略的に考えてきました。アップリンク渋谷はカフェを併設していますが、それ以外にも劇場の壁の色を変えたり、物販のスペースをポップな内装にしたり、映画を観にいく楽しみを提供したい。ミニシアターを作った第一世代の人はそこを怠ってきたと思う。
西村:それまでの映画館がいろんなものを売っていたので、第一期ミニシアターはそれと差別化して飲食を限定したり、飲み物も高かったりしましたね。
工事中のアップリンク吉祥寺(吉祥寺パルコ地下2階)
浅井:最初のミニシアター「シネマスクエアとうきゅう」(1981年オープン、2014年閉館)に観にいったときに、外でドリンクを買って劇場に入って席に座ったら、スタッフが忍者のように床を這ってきて「お預かりします」と飲み物を取られたことがあります。必死で取り返そうとしたけれど、負けてしまった(笑)。今でもBunkamuraル・シネマはキャップのついた飲み物しか持ち込めない。でも、ロビーではコーヒーを売っているんですけどね。
この前映画ジャーナリストの立田敦子さんが主宰するFAN'S VOICEの取材を受けたのですが、“エンドロールが終わるまでスマホの画面をつけてはいけない”“ガサガサと飲食の音を立ててはいけない”“荷物は全て床の下に置いて姿勢を正して観る”「ストイック上映」というのがあったら、スタッフの人は、3,000円でも観たいという意見をもらいました。
西村:アップリンク吉祥寺ではドリンクの持ち込みは?
浅井:そこまでストイックには考えていないです。シネコン全体の売上の3割がコンセッションと言われていますから、吉祥寺でも力を入れていきたいと思っています。
西村:最期に、現在実施しているクラウドファンディングでは、どのプランがおすすめですか?
PLAN GOプロジェクト・ページより
浅井:劇場レンタルもあるけど、「アップリンク・クラウド視聴クーポン」はどうでしょう。アップリンク配給作品50本を1年間視聴できます、アップリンク社内でも全作観ているスタッフは少ない、個人的にいちばんお得だと思います。
(構成・文:駒井憲嗣)
【PLAN GO】新しく作る映画館『アップリンク吉祥寺』を応援する
http://plango.uplink.co.jp/project/s/project_id/74