骰子の眼

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東京都 渋谷区

2018-09-28 18:00


岡本太郎の残した「太陽の塔」の意味を改めて世に問いかける映画『太陽の塔』

日本人は社会のシステムに対する“疑い”がない―関根光才監督インタビュー
岡本太郎の残した「太陽の塔」の意味を改めて世に問いかける映画『太陽の塔』
映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会

岡本太郎の“太陽の塔”の魅力と謎に迫るドキュメンタリー映画『太陽の塔』が9月29日(土)より公開。 webDICEでは関根光才監督のインタビューを掲載する。

岡本太郎が日本の高度成長期になぜこのような巨大モニュメントを作り上げたのか。関根監督は当時の資料映像糸井重里、Chim↑Pom、赤坂憲雄、安藤礼二など総勢29名へインタビューを縦横無尽に織り交ぜ構成。「自発的隷従」「贈与」「縄文」といったキーワードを散りばめ、さらには3.11の震災以降の日本のありかたにまで言及。とりわけ興味深いのが、岡本が人類学者マルセル・モースに師事し民俗学を深く学んだことが太陽の塔に強く影響を与えていることや、粘菌の研究で知られる博物学者・南方熊楠と岡本との共鳴を指摘する点だ。関根監督はナレーションを廃し、織田梨沙扮する「縄文の少女」をもの言わぬ語り部、そして岡本太郎の思考と歴史を繋ぐ存在として登場させ、岡本太郎が太陽の塔に込めたメッセージを解き明かそうと試みている。


「この映画の企画コンセプトは、日本と芸術であったり、日本人というものや現代の日本が失ったものについて考えたいと思いました。日本人は、社会のシステムに対する“疑い”がないから立ち上がる人もいない。それは不安になりたくないから信じたいという気持ちからだと思いますが、それは続かないんですね」(関根光才監督)


ドキュメンタリーにはルールがないと思っていた

──関根監督は1973年生まれ、万博世代ではありませんが、「太陽の塔」「岡本太郎」の最初の印象は?

当初は「太陽の塔」には漠然とした印象しかもっていませんでした。岡本太郎のこともよく知らなかったです。ただ、万博公園で塔を見たときに、まずその大きさに驚きましたし、裏にある黒い太陽の冷酷な顔も印象的で、「国民的な事業の中であえてこんなものを作るからには、作り手には相当言いたいことがあるんだ」と感じたのは覚えていました。

映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会
映画『太陽の塔』関根光才監督 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会

──映画に登場される人物(インタビューイー)の、選考基準はどのようなものでしたか?

例えば、赤坂憲雄さんは「現代日本に対する疑念と憤り」、植田昌吾さんと奈良利男さんは「塔設計の実体験」、岡本太郎美術館の大杉さんと佐藤さんは「太郎のヒストリー」、小林達雄さんは「縄文文化」、椹木野衣さんは「太郎と万博/日本のアート」、シェーラブ・オーセル師は「曼荼羅とトルマ」、Justin Jestyは「海外から見た太郎/日本の問題」、菅原小春さんは「表現の本質」、春原史寛さんは「太郎の世界観」、Chim↑Pomさん、土屋敏男さん、糸井重里さんには「明日の神話」、中沢新一さんは「ユニークな思想・視点」、並河進さんは「気づき」、西谷修さんは「太郎の社会への疑問」、平野暁臣さんは「映画の中心」といった要素を与えてくれる存在でした。

映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会
映画『太陽の塔』ダンサーの菅原小春 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会

──これまで広告映像やミュージックビデオを多数てがけられてきましたが、長編ドキュメンタリーの製作については?

長編映画の経験はありませんでしたが、ドキュメンタリーにはルールがないと思っていましたので、不安はありませんでした。ただ、まず勉強した方がいいと思って、岡本太郎について半年ほど学んで、2ヶ月でプロットを書き上げました。自分というフィルターを通して、うまく作品に仕上げることができたと思います。

映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会
映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会

最初のトリートメント(プロットをまとめたもの)のときまでに、インタビューで構成するということはできていて、一方的な解釈にしないために、ナレーションは入れることは考えませんでした。それから、いろんな方に話を聞きたいと思い、インタビューイーをリストアップして取材をしました。粗編集が終わったのが2017年の秋頃です。スタッフについては、意識が近い人と組もうと、前々から心の中でチームは決めていました。

映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会
映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会

インタビューを切り刻んで曼荼羅みたいにしたかった

──企画コンセプトについてはどのように考えていましたか?

日本と芸術であったり、日本人というものや現代の日本が失ったものについて考えたいと思いました。それは、私がNOddINという活動もしていて、3.11の震災後に、アーティストたちが集まって、社会的なメッセージを発信する作品制作をしているのですが、その哲学として「疑問を持つ」というものがあります。日本人は、社会のシステムに対する“疑い”がないから立ち上がる人もいない。それは不安になりたくないから信じたいという気持ちからだと思いますが、それは続かないんですね。

映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会
映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会

──映画の中に、フィクション/ドラマシーンを入れた理由は?

縄文の少女(織田梨沙)というのは直感的でしたが、インタビューの中で数名の方が「太陽の塔の周りに何も無くなってしまった時代」の話をされて、偶然つながっていったのが印象的でした。また、インタビューばかりの映像の中に、アクセントとして少女の話を入れると、そのリズムがいい意味で壊されると思ったからです。観客に対しても、やわらかくなるかなと。はじめは入れるかどうか迷っていましたが、インタビューを取り始めて大丈夫だろうと思い、入れました。

映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会
映画『太陽の塔』織田梨沙演じる縄文の少女と太陽の塔 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会

──インタビューを細かくつなぎ合わせる構成にした理由は?

インタビューした内容を切り刻んで、並び替えて曼荼羅みたいにしたいと考えました。そうすることで、発言している内容もより鮮明化すると思ったからです。大量のインタビュー映像をつなぎ合わせるのは非常に苦労しましたが、最初はロジカルに始まり、どんどん直観的につながっていく感じで。インタビューイーの方々には、ある程度つないだところで御覧頂き、ご確認頂くという作業もしました。

──最期に、観客にどのように感じてもらいたいですか?

太陽の塔や岡本太郎を知らなくても見てもらえるものにしたいと思いましたし、一見、自分に関係のないもののようで、関係がある=自分についての話だと、見ている人に感じて欲しいと思います。

(オフィシャル・インタビューより)



関根光才 プロフィール

1976年4月25日生まれ。東京都出身。上智大学文学部哲学科卒業後、CM制作会社ハット在籍中の2005年に短編映画『RIGHT PLACE』を初監督し、翌年カンヌライオンズ(カンヌ国際広告祭)のヤング・ディレクターズ・アワードにてグランプリを受賞、同年SHOTSの発表する新人監督ランキングで世界1位となり、国際的にも認知される日本人監督となる。2008年に独立して以降、Nike、Adidas、TOYOTA、資生堂など数多くの広告映像や、Mr. Children、The Fin.、Young Juvenile Youthなどのミュージックビデオを演出し、2012年には短編オムニバス映画『BUNGO~ささやかな欲望~』にて岡本かの子原作『鮨」を監督。2014年の広告作品HONDA Internavi『Ayrton Senna 1989』ではカンヌライオンズで日本人初となるチタニウム部門グランプリ、フィルム部門ゴールド等多数の賞を受賞。本作が初の長編ドキュメンタリー映画となり、2018年秋には長編劇場映画初監督作品「生きてるだけで、愛。」も公開となる。現在は国内・国外で映画監督・映像作家としての活動を行う傍ら、東日本大震災以降に発足した、表現で社会や政治に向き合うアートプロジェクト「NOddIN(ノディン)」などでも創作活動を続けている。




映画『太陽の塔』 ©2018 映画『太陽の塔』製作委員会

映画『太陽の塔』
9月29日(土)、渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、
シネ・リーブル梅田ほか全国公開

監督:関根光才
製作:井上肇、大桑仁、清水井敏夫、掛川治男
エクゼクティブプロデューサー:平野暁臣
プロデューサー:曽根祥子、菅原直太、鈴木南美、倉森京子、桝本孝浩、後藤哲也
ラインプロデューサー:佐野大
プロダクションマネージャー:西野静香
撮影:上野千蔵
照明:西田まさちお
録音:清水天務仁
編集:本田吉孝
本編集:木村仁
カラリスト:Toshiki Kamei
CGチーフディレクター:尹 剛志
アニメーションディレクター:牧野惇
音響効果:笠松広司
音楽:JEMAPUR
製作:映画『太陽の塔』製作委員会(パルコ、スプーン、岡本太郎記念現代芸術振興財団、NHKエデュケーショナル)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
企画:パルコ
制作:スプーン
配給:パルコ
©2018映画『太陽の塔』製作委員会
2018/日本/日本語・英語・チベット語/112分/シネスコ/5.1ch

公式サイト


▼映画『太陽の塔』予告編

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