映画『ヴァンサンへの手紙』を買い付けた牧原依里さん(右)とクラウドファンディング担当の宮本匡崇さん(左)
映画『ヴァンサンへの手紙』の配給宣伝費を募るクラウドファンディングが開始から折り返し地点を迎えた。本プランの起案者である牧原依里さんと担当の宮本匡崇さんに話を聞いた。
【PLAN GO:映画『ヴァンサンへの手紙』日本公開にご協力ください!】
http://plango.uplink.co.jp/project/s/project_id/70
『ヴァンサンへの手紙』 は監督である聴者のレティシア・カートンが、ある日突然命を絶ってしまったろう者の友人・ヴァンサンへ10年間の想いを綴った書簡形式のドキュメンタリー。牧原さんが「ヴァンサンはわたしだ」と表現するほど衝撃を受けたという本作が、聴者とろう者が繋がるきっかけの一つになることを目指し、バリアフリー上映や、上映イベントの際の手話通訳や文字での情報保障を全国の劇場で展開するための費用を募る。
複雑な「ろうの世界」を知ることができる作品
──クラウドファンディングが6月27日の時点で達成率80パーセント・802,000円の支援が集まっていて、順調ですね。
牧原:2年前に私が共同監督した『LISTEN リッスン』で本当にたくさんの方々に応援してもらって、感謝の気持ちでいっぱいだったので、これでクラウドファンディングは終わり、もう二度とやらないと思っていました(笑)。ありがたいことに滑り出し順調だけど、目標金額を達成しないとゼロになってしまうプランなので、気が抜けません。
宮本:予想していたよりも高額支援してくださる方が多いです。「クラウド」ファンディングらしく、少額でもよいのでより多くの人たちへの支援をこれから呼び掛けていきたいと思っています。
映画『ヴァンサンへの手紙』を買い付けた牧原依里さん(右)とクラウドファンディング担当の宮本匡崇さん(左)
──再びクラウドファンディングを実施した理由は?
牧原:『LISTEN リッスン』の経験を経て、本来であれば、公開までの予算をきちんと立てて自力で準備すべきだと思っているんです。でも今回、準備が整う前に自己資金で買い付けてしまって。全国で公開するには資金が切実に足りないんです。
──個人で買い付けることになった経緯はこちらにも書いていますが、思い切りましたね。
牧原:当初は昨年開催した「東京ろう映画祭」で上映するだけのつもりでした。ところが予想を上回る反響があり、これは、日本でもっと多くの方たちに観てもらわなければという思いが強くなりました。最初は日本で配給してくれる会社を探したのですが難航し、だったら個人で買ったほうが早いのかなと。アップリンク代表の浅井さんが「牧原さんが買付するなら応援する」と背中を押してくれたこともあり踏み切りました。全国の劇場へのブッキングなど配給はアップリンクが共同で行ってくれています。
宮本:「PLAN GO」で支援してくれている方のなかにも、すでに「東京ろう映画祭」などで本作品をご覧になった方がいて驚いています。「より多くの人に観てもらいたい」という僕らの思いと同じ気持ちで応援してくれているんだなと、作品の力を感じています。
──クラウドファンディングを含めて、公開にむけた宣伝チーム編成は?
牧原:コアメンバーは5人です。買い付けた私、クラウドファンディング担当の宮本、そのほか宣伝全般を担当するリガードの西を中心にSNS担当、ライティング担当がいます。それぞれ強みがあって、得意なことをどんどんこなしてくれる頼りになる存在。たまたま私だけが聾ですが、特に問題なく活動しています。
──宮本さんは『LISTEN』に続き参加していますね。
宮本:2015年に公開されたウクライナの『ザ・トライブ』という作品のレビューを書いたときに、ちょうどアップリンク主催のワークショップに牧原も自分も参加していて、感想を色々聞いたのが知り合うきっかけでした。それ以来の友人です。牧原がやるなら、というかんじでクラウドファンディング運営を中心に参加しています。
映画『ヴァンサンへの手紙』
──宮本さんからみた『ヴァンサンへの手紙』の魅力は?
牧原:複雑な「ろうの世界」を知ることができる作品?
宮本:そうそう。 友人である牧原が「何回見ても涙を流してしまう」という作品に単純に興味を持ちました。でも僕は、この作品は「ろうコミュニティ」にとどまらず、共に社会に生きている隣人について考えるきっかけをくれる作品だと思っています。
僕自身は、日本に生まれた聴者で、サラリーマンの核家族の家庭で育って4年制の大学を出た、ヘテロセクシャルな男性。いわゆる多数派から存在を否定されたような経験がないんです。そういう人間って往々にしてマイノリティについての想像力が乏しくなりがちなのかなと思うことが多くて、この作品はそういった自分の身近に生きている隣人について知る、考えるきっかけを与えてくれるんです。
だからこそ多数派といわれるクラスタに届けたいです。福祉とか社会貢献という文脈じゃなく、ひとつの作品として全国の劇場で一般公開されることに意味があるし、この作品はそのポテンシャルが高いと思っています。
──レティシア監督も間もなく来日します。
牧原:「東京ろう映画祭」の時にも来日しましたが、聡明で芯が強く、それでいて人の話をじっくり聞き決して頭から否定したりしない、とても素敵な方です。7月4日(水)に監督を招いた試写会を開催します。PLANGOで7月3日(火)までに支援いただいた方を招待するので、ぜひそれまでに応募いただけたら嬉しいです。
映画『ヴァンサンへの手紙』レティシア・カートン監督
『LISTEN』無音上映会@日本橋映画祭 in サイボウズBar
サイボウズ(株)が社内部活動の一環として定期的に開催している「日本橋映画祭」にて、『ヴァンサンへの手紙』応援企画として、映画『LISTEN』の上映会が 6月23日(土)に開催された。
約50名の参加者は事前に配られた耳栓を装着し、聾者の奏でる無音の「音楽」を体感。上映後には共同監督の牧原さん、雫境さんも加わり、トークと懇親会を開催した。『LISTEN』でも語られていた聾教育の実態や、手話ポエムのパフォーマンスは、『ヴァンサンへの手紙』でも見ることができる。2作品の共通点や聾者の音楽について、歓談が続いた。
『LISTEN』無音上映会@日本橋映画祭 in サイボウズBarの様子
『LISTEN』無音上映会@日本橋映画祭 in サイボウズBarの様子
映画『ヴァンサンへの手紙』
映画『ヴァンサンへの手紙』
2018年10月、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
友人のヴァンサンが突然に命を絶った。彼の不在を埋めるかのように、レティシア監督はろうコミュニティでカメラを回しはじめる。美しく豊かな手話と、優しく力強いろう文化。それは彼が教えてくれた、もう一つの世界。共に手話で語り、喜びや痛みをわかちあう中で、レティシア監督はろう者たちの内面に、ヴァンサンが抱えていたのと同じ、複雑な感情が閉じ込められているのを見出す。
「ろう者の存在を知らせたい」というヴァンサンの遺志を継ぎ、レティシア監督はろう者の心の声に目を澄ます。社会から抑圧され続けてきた怒り、ろう教育のあり方、手話との出会い、家族への愛と葛藤…。現代に生きるろう者の立場に徹底して寄り添いながら、時に優しく、時に鋭く、静かに、鮮やかに、この世界のありようを映し出す。
監督:レティシア・カートン
音楽:カミーユ(『レミーのおいしいレストラン』主題歌)
編集:ロドルフ・モラ
共同配給:アップリンク、聾の鳥プロダクション
宣伝:リガード
ドキュメンタリー/112分/DCP/2015年/フランス/フランス語・フランス手話