映画『30年後の同窓会』のリチャード・リンクレイター監督
ベトナム戦争退役軍人の中年トリオ30年ぶりの再会と再生を描くロードムービー『30年後の同窓会』が、6月8日(金)より公開される。以下にリチャード・リンクレイター監督のインタビューを掲載する。
『ビフォア』三部作や『6才のボクが、大人になるまで。』など、時の流れをテーマにした代表作が多いリンクレイター監督だが、今作の主人公たちが向き合うのはベトナム戦争からイラク戦争までの30年間。『さらば冬のかもめ』で知られる作家ダリル・ポニックサンの原作小説を読んで以来、リンクレイター監督はこの企画を12年間温め続けていたという。同じ心の傷を抱えた男たちの旅はユーモアと悲劇が並列し、「人生をダークコメディーだと考えている」というリンクレーター監督のテイストを存分に味わえる作品となっている。
「私はうまくいくことに興味はありません。それよりも、俳優たちと一緒に時間を投じて何か新しいものを見つけたいのです。明日のほうがもっといいアイデアが出るかもしれない。誰かがいいアイデアを出すかもしれない。そういうプロセスが私は好きだし、私はプロセス指向の人間なのです」(リチャード・リンクレイター監督)
特別で完璧だった3人の俳優
──本作の実現に長い時間を要したのは本当ですか?
そうです。私たちが脚色したのは10年以上前の話です。イラク戦争はその当時、傷口が開くほど、新しい記憶でした。だから、誰もこの話題に触れたいとは思わなかったのです。これが伝統的な戦争映画でなくても、まだ何かを引きずっていました。でも、そういうものは決して消え去ることはないのです。このキャラクターたちと、彼らが経験したことへの私の愛情は、ずっと私の心に留まっていました。この作品は後回しになりましたが、私は忘れませんでした。私は原作のダリル・ポニックサンと話し合うようになりました。そして「映画を作れる日は必ず来る」と言いました。彼は「まあどうなるか見てみよう」という感じでしたね。案の定、戻ってきました。条件が見事に揃った特別な瞬間でした。創案に10年を要する強みは、頭の中で映画を作る時間があるということです。時が熟すまでに、全部頭に入っている。それに、ありがたいことに映画を作る環境も整っていました。だからこそ、特別な作品になったのです。
映画『30年後の同窓会』より、ミューラー役のローレンス・フィッシュバーン(左)、ドク役のスティーブ・カレル(中央)、サル役のブライアン・クランストン。 © 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
──キャストについて聞かせてください。
ローレンス・フィッシュバーン、ブライアン・クランストン、そしてスティーヴ・カレルが主人公です。彼らは一緒にいると、特別で、完璧でした。本当に尊敬し合っていました。彼らとの仕事はとても楽しかった。彼らがトップの俳優たちだということを実感しました。本当に非常に高いレベルで仕事をしている感覚でした。この映画はとても私的な、キャラクターベースの映画です。でも共鳴させ、うまくいかせるためには、彼らの役への強い思い入れが必要でした。
スティーヴ(カレル)は、物凄いキャリアだし、彼とは何度か会ったことがあり、彼が発する活力が好きです。とても思慮深い人だとわかっているし、「彼がドクかもしれない」と思いました。脚本を送って、「カレルが話したいらしい」と返事がきました。私は「素晴らしい。ぜひ話しましょう」と答えました。それから私たちはドクというキャラクターを通して自分たちの感情を見るようになりました。私がすべての答えをもっているわけではありません。たとえばスティーヴから「なぜドクは彼らを訪ねるのか? ずいぶん経っているのに」と聞かれた時も、私にはこれといった答えはなかった。ただ「わからない。ドクは自分でもなぜそうするのか、何をするのか、わかっていないかもしれない」と答えました。すると彼は「それは面白い。いいですね!」と言いました。
映画『30年後の同窓会』より © 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
自分の旧友との再会を果たしているように感じて欲しい
──絆を作るプロセスにとってリハーサル期間は不可欠でしたか?
リハーサルは彼らが互いを知る貴重な時間になりました。皆、一緒に仕事をしたことがなかった。全員、一緒の仕事を楽しみにし、お互いを本当に尊敬していましたが、リズムをつかむには、時間が必要だったのです。良い俳優はごまかすこともできます。セットに入って、誰かと会って、想像する。でも私はそこで生きている感覚、リアルな感覚がほしかったのです。彼ら自身のユーモアやテーマがほしかった。彼らが昔からの友人だというリアルな感覚がほしかった。そうすれば、観客もそれを信じられる。彼らはとても深い絆で結ばれていたと思います。
映画『30年後の同窓会』より © 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
──この旧友たちを再び集めたのはある特別な理由でしたが、彼らの再会にはどこか普遍的なものがあります。
そう願っています。彼らは彼ら自身の再会を果たしますが、映画自体の力はとても大きい。ですから、観客は、観客自身の旧友との再会を果たしているように感じて欲しいですね。
──初めてではないですが、監督は男同士の会話にとても興味があるようですね。このテーマに戻ってきたのはどうしてですか?
それは、群れの心理とか、男の絆とか、男らしさとか、男のつながりの持ち方のようなものです。それは時代を超越しているし、そこには何かがある。特別な何かが。男は家庭に休息を求めるから、家庭のことについて座って話したりしたくないのです。男たちは、若い時、特に軍隊にいたり、従軍して協力し合ったことがあると、男の絆が自然に蘇ってくる。年を取れば取るほど、絆をもつことは難しくなる。何となく消えてしまうのです。
映画『30年後の同窓会』より © 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
──常にリハーサルはおこないますか?
ええ、それは映画をうまくいかせる鍵のようなものです。セットでの撮影前に場面をやってみることができる。俳優はちゃんと準備ができている。セリフも覚えているし、監督が俳優のために用意した場所です。だから、リハは役に立ちます。当たり前のことですが、私はうまくいくことに興味はありません。それよりも、俳優たちと一緒に時間を投じて何か新しいものを見つけたいのです。アルフレッド・ヒッチコックのような監督が、リハを必要としなかったのもうなずけます。映画はあらかじめ決められていますから、もうすでにイメージされているものを表現するだけなら、リハーサルは時間の無駄です。撮影だけすればいい。でも私のように一歩下がってみたい場合、「エンディングがうまくいくかわからない。でも予感がする。この時点ではこれが精いっぱいだが、これでいいのか、これがこの映画の望むことなのか、わからない」となる。だから、俳優を通して何かにつながったり、私と俳優のために新しいものを見つけようとすることが、私のやり方なのです。常にいい方向に向かいます。明日のほうがもっといいアイデアが出るかもしれない。私は映画製作を通してそういう方法をとります。誰かがいいアイデアを出すかもしれない。わからないけれど、そういうプロセスが私は好きだし、私はプロセス指向の人間なのです。
(オフィシャル・インタビューより)
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映画『30年後の同窓会』
6月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他、全国ロードショー
男一人、酒浸りになりながらバーを営むサル(ブライアン・クランストン)と、破天荒だった過去を捨て今は牧師となったミューラー (ローレンス・フィッシュバーン)の元に、30年間音信不通だった旧友のドク(スティーヴ・カレル)が突然現れる。2人にドクは、1年前に妻に先立たれたこと、そして2日前に遠い地で息子が戦死したことを2人に打ち明け、亡くなった息子を故郷に連れ帰る旅への同行を依頼する。バージニア州ノーフォークから出発した彼らの旅は、時にテロリストに間違われ得るなどのトラブルに見舞われながら、故郷のポーツマスへと向かうーー。30年前に起きた“ある事件”をきっかけに、大きく人生が変わってしまった3人の男たち。仲間に起きた悲しい出来事をきっかけに出た再会の旅。語り合い、笑い合って悩みを打ち明ける旅路で、3人の人生が再び輝き出す。
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
原作・脚本:ダリル・ポニックサン「LAST FLAG FLYING」
主題歌:ボブ・ディラン「Not Dark Yet」
出演:スティーヴ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーン
原題:Last Flag Flying
2017年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/125分/5.1chデジタル/字幕翻訳:稲田嵯裕里/主題歌翻訳:多摩ディラン
配給:ショウゲート