骰子の眼

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東京都 渋谷区

2018-04-13 17:00


「今、シリアは第三次世界大戦のような状態」映画『ラッカは静かに虐殺されている』

学生たちによる市民ジャーナリスト集団RBSSメンバーへのインタビュー
「今、シリアは第三次世界大戦のような状態」映画『ラッカは静かに虐殺されている』
映画『ラッカは静かに虐殺されている』より ©2017 A&E Television Networks, LLC | Our Time Projects, LLC

アカデミー賞ノミネート『カルテル・ランド』のマシュー・ハイネマン監督による最新作『ラッカは静かに虐殺されている』が、4月14日(土)から公開される。

本作は、戦闘が激化し混迷を極めるシリア内戦で結成された市民ジャーナリスト集団RBSS(Raqqa is Being Slaughtered Silently/ラッカは静かに虐殺されている)と「イスラム国」(IS)とのSNSを駆使した情報戦を、壮絶な緊迫感で捉えたドキュメンタリー映画である。

去る4月6日(金)、早稲田大学の「ドキュメンタリー論」授業内にて先行上映が行われ、Skype中継を通じて登壇したRBSSのメンバーの一人、ハッサン・イーサに学生たちがインタビューした。以下にその模様をレポートする。

『ラッカは静かに虐殺されている』先行上映会2018.4.6@早稲田大学
『ラッカは静かに虐殺されている』上映後に、RBSSのハッサン・イーサがSkypeで登壇し、学生からの質問に答えた。

──RBSSのメンバーは映画の中でISから殺害予告などの脅迫を受け、シリア国外に亡命していても常に命を狙われています。そういったリスクを背負いながら活動されていますが、顔と名前を公表することについて反対するメンバーはいませんでしたか?

RBSSの中から特に大きな反対意見はあがりませんでした。活動当初はアラビア語で情報を発信していたのですが、国際社会にIS支配下のラッカの悲惨な状況を伝えるためには何が必要かを議論する中で、英語で情報を発信することや、「フェイクニュースではないか?」「ISの活動の一つではないか?」という外からの声を打開するために、シリアから出て活動をするメンバーが顔と実名を公表するという結論に至ったのです。

ただ、顔と実名を明らかにすることは、公表したメンバーの命だけではなく、ラッカに残っている家族の命が狙われるという大きなリスクを伴うものです。映画の中でも出てきますが、ISはRBSSのメンバーのハムードの父親を拘束・殺害し、後にその映像を公開しています。更に彼の兄弟の一人も殺害され、もう一人は行方不明になっています。これが、実名と顔を公表しての活動をする上での一番の悩みです。

『ラッカは静かに虐殺されている』先行上映会2018.4.6@早稲田大学
Skypeで学生たちのインタビューに答えるRBSSのメンバー、ハッサン・イーサ。

──RBSSの活動を止めればISから命を狙われる危険性はなくなると思われますが、なぜ活動を続けるのですか?

活動を止めれば命が狙われるという事はありません。RBSSがISについての報道を始めた2014年の春、ISはメンバーの一人を誘拐・殺害しました。そこから現在に至るまで、ISは私たちの命を狙い続けています。そして、米軍・有志連合の空爆援護を受けたクルド人主導のシリア民主軍(SDF)がラッカを陥落し、いわば彼らに敗北したISの復讐の矛先は、RBSSのような弱い集団に向かっているのです。

──SNSの発信に対する反応で印象に残っているものは?

1つはISに入った兵士のお母さんとのやり取りです。「家庭の中にISに通じるような背景が全くないのに、自分の息子がなぜISに洗脳されてしまったのか分からない。息子が人を殺してしまったかもしれない」と泣きながら感情的に謝罪してきました。彼女とのやり取りが非常に印象に残っています。

『ラッカは静かに虐殺されている』
映画『ラッカは静かに虐殺されている』より ©2017 A&E Television Networks, LLC | Our Time Projects, LLC

──RBSSの情報を受け取った日本人に何を望みますか?

とても簡単なことです。ISの思想との闘いに参加してほしいです。ISの思想との闘いは、私たちシリア人だけの問題ではなく、全人類の問題です。シリア人もあなたたち日本人も同じ人間なのです。

私たちは、この映画でお分かりのとおり、ひどく残酷な状況の中であっても活動することができました。日本の皆さんには私たちより、もっと行動する手段があると思います。例えばRBSSようなジャーナリスト団体と交流するなど、日本社会の中でも、一人一人の人間を大切にしない思想と戦うことが大事だと思います。

──RBSSの目指すゴール、何が終焉なのか教えてください。

私たちの活動の目的はシリアという国家の民主化です。RBSSの活動の原点はシリア革命にあります。2011年の春、ラッカではアサド政権の退陣を求める市民デモが始まり、アサド政権は軍と治安部隊を出動させてデモ隊を弾圧したのです。我々はアサド政権及びシリア政府による弾圧に抵抗し、「自由と民主主義」のために活動を始めたのです。現在も自由と民主主義を求めるという目的に変わりはありません。

ISのやり方は宗教に忠誠的であるなど手段は独特でしたが、アクターが独裁政権からISに変わっただけで、ラッカが破壊されていることに変わりはありませんでした。私たちにとってラッカは家族がいる街ですから、その町を守ることについては何も違いがないのです。

『ラッカは静かに虐殺されている』
映画『ラッカは静かに虐殺されている』より ©2017 A&E Television Networks, LLC | Our Time Projects, LLC

──シリアの現状と展望を教えてください。

皆さんご存知のとおり、多くの国が介入しているため、第三次世界大戦のような状況です。シリアの内戦は代理戦争であり複雑な状況で、すぐに解決するとは思いません。現在の段階では希望が見えません。

2017年10月に米軍・有志連合の空爆援護を受けたクルド人主導のシリア民主軍(SDF)がラッカを陥落させISが撤退しましたが、現在のラッカは市民に主食のパンが潤沢に行き渡らなかったり、ISが残した地雷による二次被害が多発しています。また、瓦礫の中に埋まっている死体が腐敗し感染症が蔓延するなど、衛生状況は劣悪な環境にあります。暗殺も続いていて、この暗殺が誰による暗殺なのか分からず、人々は誰に監視されているのか不安な状況で生活しています。

教育も大きな問題です。ISに占拠されていた間、子供たちはまともな教育を受けていないのです。そのため、私たちは現在、若手講師の教育プロジェクトなどの形でラッカのコミュニティを支援する手段を考えています。




映画『ラッカは静かに虐殺されている』

映画『ラッカは静かに虐殺されている』
4月14日(土)アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開

次々と殺されていく仲間や家族。そして自らにも忍び寄る暗殺の魔の手—。ドキュメンタリー史上、最も緊迫した90分

監督・製作・撮影・編集:マシュー・ハイネマン(『カルテル・ランド』)/ 製作総指揮:アレックス・ギブニー(アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞『「闇」へ』監督)/配給:アップリンク
(2017/アメリカ/92分/英語・アラビア語/2.35:1/5.1ch/DCP)

映画『ラッカは静かに虐殺されている』公式サイト

◇公開記念トークショー開催◇


4/14 日(土)
会場:アップリンク渋谷
時間:13:25の回上映後
ゲスト:ナジーブ・エルカシュ(シリア人ジャーナリスト)、岡崎弘樹(アラブ思想・シリア文化研究者)

4/15(日)
会場:ポレポレ東中野
時間:12:20の回上映後
ゲスト:黒井文太郎(軍事ジャーナリスト)、常岡浩介(ジャー ナリスト)

4/15(日)
会場:アップリンク渋谷
時間:15:05の回上映後
ゲスト:磯部涼(ライター)、石田昌隆(写真家)、鍵和田啓介(映画評論家・編集者)

4/21(土)
会場:アップリンク渋谷
時間:昼の回上映後(※時間詳細は近日発表)
ゲスト:白川優子(国境なき医師団)、横田徹(ジャーナリスト)

4/22(日)
会場:アップリンク渋谷
時間:昼の回上映後(※時間詳細は近日発表)
ゲスト:安田菜津紀(ジャーナリスト)、望月優大(ライター・編集者)


▼映画『ラッカは静かに虐殺されている』予告編

キーワード:

ドキュメンタリー


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