『ラヤルの三千夜』より
イスラームの文化が根づく国や地域を舞台にした映画を紹介する映画祭『イスラーム映画祭3』が、2015年の第1回、2017年の第2回に続き、3月17日(土)から渋谷ユーロスペース、3月31日(土)から名古屋シネマテーク、4月28日(土)から神戸・元町映画館にて開催される。
3回目の開催となる今回は、今年2018年が多くのパレスチナ人が難民となったイスラエル建国(1948年)から70年の節目にあたる年ということで、世界で絶賛された日本未公開のパレスチナ映画を初上映。他にも、エジプト、インド、インドネシア、アフガニスタン、タジキスタン、イラン、クルディスタン、シリア、モロッコなど、過去最多の13作品を取り上げ、渋谷ではバラエティ豊かなゲストを迎えてトークセッションも11回開催する。webDICEでは、映画祭スタッフの藤本高之さんに上映全13作品を解説してもらった。
「今から70年前の1948年にパレスチナの地にイスラエルが建国され、70万人以上のパレスチナ人が故郷を追われて難民となりました。今もイスラエルによる武力占領は続いています。『ラヤルの三千夜』は、まるでパレスチナの縮図のような牢獄の中で我が子を育てる主人公と女性たちの抵抗の物語が、かすかな希望を見せてくれます」(イスラーム映画祭・藤本高之さん)
日本初公開
『ラヤルの三千夜』
虚偽の罪でイスラエルの刑務所に投獄され、塀の中で出産したパレスチナ人女性の実話をモチーフに、長年続く彼の地の現実を描いた社会派ドラマです。今から70年前の1948年にパレスチナの地にイスラエルが建国され、70万人以上のパレスチナ人が故郷を追われて難民となりました。今もイスラエルによる武力占領は続いています。本作は、ある方を通じてメイ・マスリ監督から直接オファーを受け上映を決めました。子どもをテーマにしたドキュメンタリーで培った作劇は力強く、まるでパレスチナの縮図のような牢獄の中で我が子を育てる主人公と女性たちの抵抗の物語が、かすかな希望を見せてくれます。ヘビーな内容ですが胸の熱くなる作品です。
監督:メイ・マスリ
2015年/パレスチナ=フランス=ヨルダン=レバノン=カタール=UAE/103分/アラビア語、ヘブライ語
▼トーク情報
3月17日(土) 11時の回上映後
ゲスト:高橋真樹(ノンフィクションライター)
日本初公開
『エクスキューズ・マイ・フレンチ』
父親を急に亡くしたコプト教徒の少年が、経済的な理由から無償の公立校に転入するものの、周りが全員ムスリムのため素性を隠して通学することになるという内容の学園コメディです。完全アウェイな環境で持ち前のバイタリティを発揮し、傷つき悩みながら少しずつ成長してゆく主人公の姿は普遍的な青春像です。コプト教徒とは単性論派のキリスト教徒のことで、ムスリムが多数派のエジプト社会に10%ほど存在すると言われています。言いにくい話を切り出す際の表現である原題の「ラー・ムアーハザ」どおり、見た目は子ども映画でありながらエジプト社会のデリケートな問題に切り込んだ、躍進著しい近年のエジプト映画の勢いを感じさせる作品です。
監督:アムル・サラーマ
2014年/エジプト/93分/アラビア語
▼トーク情報
3月17日(土) 14時の回上映後
ゲスト:勝畑冬実(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所Jr.フェロー)
日本初公開
『アブ、アダムの息子』
ムスリムの人々にとって最大の義務とされる、イスラーム最大の聖地マッカへの巡礼の中でも、ヒジュラ暦第十二月の8日から10日の巡礼は“ハッジ”と呼ばれ区別されています。本作は、アラビア海に臨むケーララ州の村で慎ましく暮らしながら、ハッジへ旅立とうとするムスリムの老夫婦を主人公にした物語です。ケーララはインドで識字率が最も高く、様々な宗教が比較的平穏に共存する独特の州として知られています。劇中でも夫婦と善意ある人々との交流が温かく描かれ、真の信仰とは何かが謳われます。映像や音楽も美しい、ロシアのタタールスタン共和国の首都カザンで毎年開かれる「カザン国際ムスリム映画祭」でグランプリを受賞した秀作です。
監督:サリーム・アフマド
2011年/インド/101分/マラヤーラム語
▼トーク情報
3月18日(日) 13時の回上映後
ゲスト:サリーム・アフマド(映画監督/プロデューサー)※通訳:松下由美
『熱風』
現在のインドとパキスタンは、1947年にイギリスの200年におよぶ植民地支配からそれぞれ分離独立を果たしました。しかし、そこから始まったヒンドゥー教徒とムスリムの大移動は各地で憎悪と殺戮の嵐を呼び、その禍根は今も両国の社会に暗い陰を落としています……。本作は、その印パ分離独立を題材にしたインド映画に名を残す文芸ドラマの名作です。古都アーグラを舞台に、あるムスリム一家がインドに留まったがために苦悩する姿を描いています。同じく印パ問題をテーマにした今のインド映画を観る目が変わる重厚感あふれる傑作です。語
監督:M・S・サティユー
1973年/インド/138分/ウルドゥー語、ヒンディー語
▼トーク情報
3月22日(木) 13時30分の回上映後
ゲスト:麻田豊(ウルドゥー語学文学、インド・イスラーム文化研究者)
日本初公開
『イクロ クルアーンと星空』
イクロ(Iqro)とは、もともとアラビア語起源の「詠め」という命令形の動詞ですが、インドネシアではクルアーンをアラビア語で詠む練習法を指します。本作は、インドネシアの理系の最高学府バンドゥン工科大学のサルマン・モスクが、“イスラームと科学”をテーマに製作した言うなれば“イスラーム的教科書映画”です。科学は大好きだけど宗教には興味がない女の子が、天文学者であるおじいさんに観測所の大望遠鏡で星を見せてもらう代わりにクルアーンの勉強をするというお話です。子どもたちの学びと成長が温かく描かれ、天文学がかつてイスラーム世界で発展した歴史を彷彿とさせてくれます。ちょっと真面目だけど夢のある可愛い作品です。
監督:イクバル・アルファジリ
2017年/インドネシア/97分/インドネシア語、アラビア語
▼トーク情報
3月19日(月) 13時の回上映後
ゲスト:野中葉(慶応義塾大学総合政策学部 専任講師)
『ボクシング・フォー・フリーダム』
女性のスポーツ参加がいまだ難しいアフガニスタンで、ボクシングに打ち込む一人の少女を追いかけたドキュメンタリーです。かつてイランに難民として逃れていたサダフ・ラヒミは、故郷に戻ったのちにアフガニスタン初の女子ボクシングチームに姉とともに参加します。そしてめきめき頭角を表した彼女は、2012年のロンドン五輪出場を目指し学業と練習の両立に励むようになりますが、世間はそんな彼女に心ない非難を浴びせるのです。礼拝を欠かさず、アフガン女性の新しい生き方を示そうと、境遇に立ち向かう少女の姿が印象的な作品です。
監督:シルビア・ベネガス、ホアン・アントニオ・モレノ 2015年/スペイン=アフガニスタン/74分/ダリー語、英語
▼トーク情報
3月20日(火) 11時の回上映後
ゲスト:古居みずえ(ジャーナリスト/映画監督)
『モーターラマ』
アフガニスタンのドキュメンタリーをもう1本、『ボクシング・フォー・フリーダム』とともに2本立で上映します。2010年ヘラート、2009年カブール、2011年マザリシャリフ。アフガニスタンの3つの街で、権利を求めて声を上げる女性たちを記録した作品です。宗教以前に保守的な男性優位社会における女性の困難が描かれます。しかし、性被害を訴えた女性が逆に激しいバッシングを受けるこの国の社会のメンタルとさほどの違いがあるでしょうか…?モーターラマとは女性の呼称として使われる、尊敬の意が込められた口語表現です。
監督:ディアナ・サケブ、マレク・シャフィイ
2012年/アフガニスタン/60分/ダリー語
▼トーク情報
3月20日(火) 11時の回上映後
ゲスト:古居みずえ(ジャーナリスト/映画監督)
『トゥルー・ヌーン』
ソ連崩壊からの独立後、18年目にして初めて製作されたタジキスタン映画です。タジキスタンを含む中央アジアにも大きくイスラームが広まっていますが、その歴史はイスラーム史上最初の王朝であるウマイヤ朝の時代にまでさかのぼります。映画は、上の村と下の村の人々が仲良く暮らす地にある日突然国境ができ、人々の往来が遮られてしまうことから始まる騒動を描きます。トゥルー・ヌーンとは、太陽が真上に来て影がなくなり、人と太陽が一つになる平等な時のことを表します。人の営みを分ける国境の意味について考えさせられる作品です。
監督:ノシール・サイードフ
2009年/タジキスタン/83分/タジク語、ロシア語
『花嫁と角砂糖』
昨年の東京国際映画祭に審査員として参加された、イラン映画の名匠レザ・ミルキャリミ監督の作品の中でも人気の高い1本です。とある五人姉妹の末っ子の婚約式の準備に集まった、大家族の悲喜こもごもが群像劇として描かれます。様々な人生を背負った人々の胸のうちが丁寧にすくいとられ、生きるも死ぬも、人の営みは神しだいというイスラーム圏の世界観がそれを緩やかに包み込んで深い余韻を残します。イランの伝統的な家屋や家庭料理など、豊かな色彩にもため息が出る逸品です。観たあとはきっと角砂糖と熱いお茶がほしくなるでしょう。
監督:レザ・ミルキャリミ
2011年/イラン/114分/ペルシャ語
『遺灰の顔』
2014年の東京国際映画祭で好評だった作品です。イラン・イラク戦争を背景に、ムスリムとキリスト教徒の遺体の取り違えから起こる騒動が味わい深いコメディタッチで描かれます。イスラームでは死後、神の前で最後の審判を受ける際に肉体が必要とされることから火葬は禁じられており、タイトルには、にもかかわらず人間を一瞬で灰にしてしまう戦争への静かな怒りが込められています。本作についてはFacebookでシャフワーン・イドレス監督を見つけ、直接上映の許可を得ました。個人で映画を上映するにはこういう方法もあります。
監督:シャフワーン・イドレス
2014年/クルディスタン=イラク/87分/クルド語、アラビア語
▼トーク情報
3月17日(土) 16時30分の回上映後
ゲスト:綿井健陽(映像ジャーナリスト/映画監督)
日本初公開
『私の舌は回らない』
ドイツ・ベルリン派の旗手であるトーマス・アルスラン監督の作品など、女優としても活躍している移民二世のセルピル・トゥルハン監督が、自らの家族をテーマにしたドキュメンタリー映画です。監督の両親は、1973年にトルコ東部の村で結婚し、その後ベルリンに移住しました。ある日、監督の祖母は自分たちが実はトルコ系ではなくクルドであることを明かします。監督は祖父母がなぜそれを隠していたのかを知るためにカメラを回し始め、そこから長年秘めてきた祖父母の人生や、クルドのアイデンティティーが優しく掘り下げられてゆきます。日本に伝わってくる移民のニュースからは決して見えない、欧州に暮らすある移民一家のポートレートです。
監督:セルピル・トゥルハン
2013年/ドイツ/92分/トルコ語、クルド語、ドイツ語
▼トーク情報
3月21日(水) 16時15分の回上映後
3月23日(金) 13時30分の回上映後
ゲスト:渋谷哲也(東京国際大学/ドイツ映画研究者)
『ラジオのリクエスト』
アラブの春を発端に始まったシリア内戦以降、シリアが舞台の映画といえば難民をめぐるドキュメンタリーが主流となった感がありますが、もともとシリアで映画は国営産業であり、数は少ないながらにこうした純国産の映画が作られてきました。本作は、緑美しい山村を舞台にした反戦悲喜劇です。にぎやかな人間模様の中に、神の名の下で分け隔てなく暮らす人々の営みを踏みにじる戦争への批判が込められています。しかし国営ということは映画の立場は実は政権側であり、その途轍もない皮肉が内戦前のシリアの美しさをより際立たせるのです…。
監督:アブドゥルラティフ・アブドゥルハミド
2003年/シリア/89分/アラビア語
▼トーク情報
3月21日(水) 13時30の回上映後
ゲスト:白川優子(国境なき医師団・看護師)
『女房の夫を探して』
もとは戦争未亡人救済の措置である“一夫多妻”を題材にしたコメディです。些細なことを理由に3人目の妻と三度目の離婚をした中年男性が、彼女と再々々婚しようとします。しかしそのためには彼女が一度誰かと結婚して別れねばならず、そこで男性は女房の夫探しを始めるから驚きです。一夫多妻を面白おかしく皮肉りながら、映画はルールにふり回される男とは対照的に、人生を楽しむ若い女性の姿を活き活きと描きヒネリを見せます。ノスタルジックな古都フェズの風情も旅情を煽る、90年代にモロッコで大ヒットした今回一のレアものです!
監督:ムハンマド・アブデッラハマーン・タージ
1993年/モロッコ/88分/アラビア語
▼トーク情報
3月20日(火) 14時30分の回上映後
ゲスト:後藤絵美(東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク 特任准教授)
イスラーム映画祭公式ガイドブック
3月15日(木)発売決定!
「映画で旅するイスラーム 知られざる世界へ」
藤本高之・金子遊/編
体裁:四六版並製、192頁
本体:1,600円+税
ISBN978-4-8460-1692-0 C0074(映画)
全世界17億人
アジアからアフリカまで
国境、民族、言語を越えて広がるイスラームの世界
30カ国以上からよりすぐりの70本
映画を楽しみ、多様性を知る
論創社刊
http://ronso.co.jp/
『イスラーム映画祭3』
この映画祭は、アップリンクが行なう「配給サポート・ワークショップ」の参加者が2011年に立ち上げた北欧映画祭『トーキョーノーザンライツフェスティバル』のスタッフである藤本高之さんがスピンアウトして企画。
【東京】
会期 : 2018年3月17日(土)~23日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペース
【名古屋】
会期 : 3月31日(土)~4月6日(金)
会場 : 名古屋シネマテーク
【神戸】
会期 : 4月28日(土)~5月4日(金)
会場 : 神戸・元町映画館
主催:イスラーム映画祭実行委員会