映画『長江 愛の詩』ガオ・チュン役のチン・ハオ©Ray Production Limited, Lemon Tree Media Company Limited.
中国のヤン・チャオ監督が、ホウ・シャオシェンやウォン・カーウァイ作品で知られるリー・ピンビンを撮影監督に、そして『スプリング・フィーバー』『ブラインド・マッサージ』のチン・ハオを主演に迎えた映画『長江 愛の詩』が2月17日（土）より公開。webDICEでではチャオ監督のインタビューを掲載する。
チン・ハオが演じるのは、貨物船の船長ガオ・チュン。亡き父が持っていた船を使い、長江を上流まで辿って貨物を運ぶ仕事を請け負う。その旅の行く先々でアン・ルーという女性に出会い、父が書き残した詩集との関連を探ろうと試みる。撮影スタッフは、実際に船で生活しながらロケを行い、現実と虚構が溶け合う物語と雄大な長江の流れを収めている。インタビューでも触れられているように、主人公が過去に父がどのような思いで長江を渡ったのか突き止めようとするミステリーであると同時に、自然に翻弄される人間の存在を詩的に描いた作品とも言えるだろう。この作品は2016年の第66回ベルリン映画祭で銀熊賞（芸術貢献賞）を受賞した。
「自分にとって、シン・ジーレイが演じるアン・ルーというキャラクターはリアルに存在する女性であり、放浪者でもある。水の精霊でもあるし、山の亡霊でもある。長江を進んでいくと、彼女の人生も次第に明かされてくる。そんな構成がミステリアスな部分と複雑さを増強しているのだと考えます。ゲーテは「永遠の女性は人間の発展に繋がる」と言っています。この作品では永遠の女性が、人間を上流へと導いていくのです」（ヤン・チャオ監督）
長江の美しさに捧げたい
──長江を讃えるポエムのような作品ですが、インスピレーションはどこから？
私は淮河近くの信陽市で生まれました。子供の頃、大自然に初めて接したのが長江でした。その姿を目にしたときの衝撃は忘れられません。もともと川や船が好きで、未知の要素に満ちた水や空といったものに魅了されます。第1作目『Passages』（04）でも、長江で2場面を撮影しました。それでは満足できなくて、結局作品1本を長江の美しさに捧げたいと思ったのです。
映画『長江 愛の詩』ヤン・チャオ監督
──企画が立ち上がったのが2008年、それから完成までのプロセスを聞かせてください。
脚本には3年かけています。大きな変更を含んだ改稿が7回あり、小さな変更を含めると数え切れないぐらいの改稿を重ねています。問題だったのは、自分自身が水上生活をしたことがなかったので、シナハンを6回ほど敢行して、何度も旅をして経験を重ねました。色々な情報だけでなく、イメージやアイディアを膨らませていったのです。長江も大きく変わりました。私がかつて訪れた場所も、今では観光客がたくさん訪れるようになりました。
映画『長江 愛の詩』©Ray Production Limited, Lemon Tree Media Company Limited.
日が暮れて暗くなったときにだけ、かつて長江が持っていた壮大な神秘が蘇ります。自分自身で旅をしたときも、真夜中に船首に立って川を見つめながら、あたかもそこが天の川であるように感じたことが多くありました。そこから龍が現れても不思議ではないぐらいの神秘さに満ちていました。
映画『長江 愛の詩』©Ray Production Limited, Lemon Tree Media Company Limited.
撮影はフィルム、デジタル変換には4Kスキャンを使用
──撮影が素晴らしいですが、リー・ピンビンとはどのようにコラボレーションしたのですか？
自然の流れで彼を選びました。彼は光と影の魔術師であるだけでなく、伝統文化や詩の知識にも非常に長けています。この作品には完璧でした。オファーしたときの反応も、自然なものでした。彼はこれを重要な使命だと考えてくれていたようです。一緒にイメージを作り上げていくパートナーとして、川をどのようにして捉えていくのか、それがお互いの課題でした。そこで撮影も当然フィルムという選択肢を選び、デジタル変換には4Kスキャンを使用しました。長江の壮大な勇姿は、今まで中国国内の大きなスクリーンに映し出されたことはなかったんです。
映画『長江 愛の詩』アン・ルー役のシン・ジーレイ ©Ray Production Limited, Lemon Tree Media Company Limited.
──水上での撮影はどうでしたか？
本作は中国映画においても珍しいスタイルで撮影されています。キャスト・スタッフともに、ボートで水上生活しながら、小道具などの専門ボートも幾つかありました。撮影隊のボートは常に3艇で、場合によっては5艇使用していたときもあったので、まるで艦隊のようでした。そして上海から宜賓市まで実際に上流を進んでいきながら撮影しました。それでも時間は充分にはなかった。船を動かすのには時間がかかるので、リテイクの場合にかなり時間がかかりました。でもリー・ピンビンは長江で撮影するなら辛抱強くいなければいけないと忠告してくれました。充分理解していたつもりでしたが、やはり不安になったときもありました。60日の撮影期間の間、40日は水上での撮影だったので、かなり厳しい条件だったと思います。まるで時間の流れに身を任せたような気分にもなりました。
映画『長江 愛の詩』©Ray Production Limited, Lemon Tree Media Company Limited.
あと寒さにも悩まされました。冷たい雨の中、ボートで川を上っていくのは辛い経験でした。俳優陣は寒い中、川に飛び込む場面もあって、かなり堪えたと思います。長い場面の間、ずっと素足で演じ続けなければいけない時もありました。実際に撮影した時期も、最も寒さが厳しい時期で、寝るときもヒーターをつけて寝たつもりが、節約のためにプロデューサーが消してしまったときも何度かありました。
映画『長江 愛の詩』©Ray Production Limited, Lemon Tree Media Company Limited.
──シン・ジーレイ演じるアン・ルーというキャラクターが長江そのものという解釈を監督はそうではないと否定しました。男性を操る女性像という意味ではフェミニスト的な観点もあるのではないかとの視点もありましたが如何でしょう？
女性が長江の象徴だという解釈が間違っていると指摘したつもりはありません。ただそれは一番簡単な解釈であると思います。映画には色々な解釈があっていいと思います。自分にとって、彼女のキャラクターはリアルに存在する女性であり、放浪者でもある。水の精霊でもあるし、山の亡霊でもある。長江を進んでいくと、彼女の人生も次第に明かされてくる。そんな構成がミステリアスな部分と複雑さを増強しているのだと考えます。ゲーテは「永遠の女性は人間の発展に繋がる」と言っています。この作品では永遠の女性が、人間を上流へと導いていくのです。
（オフィシャル・インタビューより）
ヤン・チャオ（楊超） プロフィール
1974年1月6日、河南省出身。2001年に発表した短編映画『RUN AWAY』(未)が第54回カンヌ国際映画祭でヤングディレクターアワードを受賞する。その後、長編一作目の『Passages』(未／04)が第57回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」カメラドール スペシャルメンション受賞をはじめ、第4回クァンジュ国際映画祭にて審査員賞を受賞するほか、第7回バルセロナ・アジア映画祭でも審査員特別賞を受賞するなど、数々の賞に輝き世界のアートシーンで注目されるようになる。また、2015年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭にて上映された台湾映画界を描くドキュメンタリー映画『Flowers of Taipei－Taiwan New Cinema』(14)では出演もしている。『長江 愛の詩』は2005年から脚本に着手し、実際に長江で水上生活を送りシナハンも何度も繰り返すなど、製作に10年以上の時間をかけた。
映画『長江 愛の詩』©Ray Production Limited, Lemon Tree Media Company Limited.
映画『長江 愛の詩』
2月17日（土）よりシネマート新宿、YEBISU GARDEN CINNEMA（4K上映）、シネマ・ジャック＆ベティほか全国順次公開
監督・脚本：ヤン・チャオ
撮影：リー・ピンビン『珈琲時光』『ノルウェイの森』
出演：チン・ハオ『スプリング・フィーバー』『二重生活』、シン・ジーレイ、ワン・ホンウェイ『長江哀歌』『罪の手ざわり』
2016／中国／北京語／スコープサイズ／カラー／DCP／115分
原題『長江図』／英題『Crosscurrent』
配給：エスピーオー
