骰子の眼

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2018-01-19 16:05


"ホラーの貴公子"最新作!とびきりエモーショナルな寓話『ルイの9番目の人生』

「ヒッチコック的なスリラーを自分の世界観でつくりたい」アレクサンドル・アジャ監督
"ホラーの貴公子"最新作!とびきりエモーショナルな寓話『ルイの9番目の人生』
映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

イギリス人作家リズ・ジェンセンの世界的ベストセラー小説を俳優・脚本家のマックス・ミンゲラがプロデュースと脚本を担当し映画化した『ルイの9番目の人生』が1月20日(土)より公開。webDICEでは、これまで『ホーンズ 容疑者と告白の角』などを手がけてきたフランスのアレクサンドル・アジャ監督のインタビューを掲載する。

主人公は、9歳の誕生日に崖から転落し昏睡状態となった少年ルイ。彼はこれまで8年間で8度も死にかける大事故に見舞われていた。彼の父・ピーターは行方不明となっており、ピーターが転落事故の鍵を握っていると警察が捜査を始めるなかで、ルイを溺愛する母親のナタリーとピーターそしてルイの3人の家族の真実の関係、そしてルイの心の闇が明らかになっていく。夢見がちな少年を巡るファンタジーという冒頭のイメージから、彼の謎を探るミステリーと、昏睡状態にあるルイの独白を交錯させ、親子のいびつな愛情、児童虐待といった問題を盛り込んだ、ビターな後味を残す物語になっている。

「僕はいつも、毎回全然違うものを作りたいと思っているんだ。でも僕のすべての作品には共通点がある。それは“人間的な寓話”であるということだ。最初からこの映画は『ヒッチコック的な、ゆがんだ、ひねりのあるスリラー』を自分の世界観の中でやりたいと思っていたんだ」(アレクサンドル・アジャ監督)

主演エイダンの瞳の奥を見ているだけで、 なにか特別な思いを問いかけてくるような気がする

──リズ・ジェンセンの原作「ルイの9番目の人生」の印象を教えてください。

先に脚本を読んだんだ。だから、僕にとってはそっちの印象が強い。もちろん、脚本が素晴らしかったから、原作がすばらしいものなのはわかっているけど。

映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.
映画『ルイの9番目の人生』アレクサンドル・アジャ監督 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

──マックス・ミンゲラの脚本についての印象はいかがでしたか?マックスとは『ホーンズ 容疑者と告白の角』から続いてタッグを組んでいますね。

『ホーンズ』の制作中に、マックスが「読んでみてくれないか?」と言って僕に脚本をくれたんだ。最初は「プロの脚本家が書いたものではないし」と思って正直期待していなかったぶん、軽い気持ちで読んだら、心に訴えるものがあった。視覚的にもビジュアルが浮かぶし、マックスと父親(アンソニー・ミンゲラ)とのパーソナルな関係性を盛り込んだ脚色がみてとれた。そして、何よりもルイの少年像に惚れ込んだんだ。次回作はこれをやるべきだと思ったよ。

──ルイを演じたエイダン・ロングワースに、監督はどんなことを求めましたか?

エイダンは、他の候補の子供たちに比べて役者のトレーニングを積んでいたわけではなかったが、彼がもう、ルイそのものだった、彼の瞳の奥を見ているだけで、早熟な、なにか特別な思いを問いかけてくるような気がするんだ。オーディションで洞窟のシーンを演じてもらったんだけど、セットもない場所なのに、そこにルイがいるようで、みんなそれを見て涙を流していた。演出面では、彼自身にとって居心地の良い場所を作ること、たくさんコミュニケーションをとることを心がけた。もともと僕は子供を演出するのが大好きなんだ。子役はモチベーションが高いし、遊び心がたくさんある。意識しないで演じてもらえばそれだけで強い演者になっていく。エイダンは今までで最高の子役だったよ! 彼自身もこの作品の出来栄えに満足してくれているみたいだ。

映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.
映画『ルイの9番目の人生』ルイ役のエイダン・ロングワース(右)父親ルイ役のアーロン・ポール(左) ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

──ルイの謎を探る医師パスカル役のジェイミー・ドーナン、ルイの父親ピーター役のアーロン・ポール、そして、ルイの母親ナタリーを演じたサラ・ガドンのキャスティング、演出について教えて下さい。

脚本って、エージェントがクライアントに見せるまで普通はすっごく時間がかかるんだ。でも今回は脚本がエモーショナルでオリジナルでユニークだから、スルっと役者まで脚本が行き、スルっとOKをもらえたんだ。

ジェイミー・ドーナンは、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』があったので契約上きっと無理だとみんなに言われたよ。最初、ロンドンで会ったんだ。ジェイミーは脚本を思い出しながら涙を浮かべていたんだ。ジェイミーは父親がお医者さまなのでなにか感じるところがあったのかもしれないな。あと『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』があったから、普通の、人間的な役を演じたい、という気持ちもあったのかもしれない。人柄も本当にいいやつなんだ。

映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.
映画『ルイの9番目の人生』ジェイミー・ドーナン(右) ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

アーロン・ポールは、以前から一緒に仕事をしたいとずっと熱望していて『ホーンズ』のときにも話をしたくらいだ。「ブレイキング・バッド」以前から彼の大ファンだったし、彼が「ブレイキング・バッド」で大ブレイクしてからも大ファンだ。脚本を読んで、なんといってもキャラクターを理解して気持ちの上で繋がりを感じてくれたようだった。父親ピーターも他のキャラクターと同様に多層構造だし、最初に警察から疑われるし、最終的に全く違う人物像が明かされる部分をすごく理解してくれていた。僕はアーロンの演じた「父親」というキャラクターが持つエモーションと観客が感じるエモーションがイコールで、この映画では一番感動につながるんじゃないかと思っている。普通モンスター映画のクリーチャーは付録的な部分を担うことが多いけれど、この映画はクリーチャー自体がエモーショナルな存在になっていて、それはアーロンのおかげだ。この先も一緒に仕事をしたい。大好きだ。

映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.
映画『ルイの9番目の人生』父ピーター役のアーロン・ポール(中央) ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

サラ・ガドンは、本作の母親ナタリーは光と闇が同居していなければならないキャラクターだ。つまり表向きは光り輝いているが、中身は違う面を併せ持っている、という部分をしっかりと表現してもらわなければならない。それができるのはサラだと思った。Netflixのドラマ「またの名をグレイス」も素晴らしいが、実は『もしも君に恋したら』という作品で共演していたダニエル・ラドクリフから、サラがいいんじゃない?と言われて、会いにいって、脚本を読んでもらったんだ。この役は、誰もが知っている役者じゃないほうがいいと思っていたんだ。すごく有名な役者さんだと、彼女がどういう役回りなのか劇中で説明しなければならなくなるし、それを求められる。そして、それはネタバレにつながってしまうからね。

映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.
映画『ルイの9番目の人生』母ナタリーを演じるサラ・ガドン ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

複雑な多層構造になっているし、モンスター映画でもあるし、 子供の物語でもありながら大人の話でもある

──ルイの夢に現れるシー・モンスターの造形について教えてください。

ネタバレにならない範囲でしか言えないが……姿がああなのは理由がある。デザインのポイントとしては、「キモい」「グロい」造形をめざしていない。視覚的に詩的な要素を目指したんだ。少年が彼に助けを求められるようなクリーチャー、『パンズ・ラビリンス』のようなクリーチャー、モンスターではあるけれど自分になにか方向性を見せてくれるような、旅を手助けしてくれるような存在でなければならない。造形はグレッグ・ニコテロのデザインチームに制作を依頼したが、最初のビジュアルはフランス人のコンセプトアーティスト、Julien Morteveilleがデザインしている。クリーチャーは原作の小説には出てこないが、脚本を書いたマックス・ミンゲラが「すべてをつなぐ鍵」として登場させたキャラクターなんだ。

映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.
映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

──ジャンル・ムービーを多く手がけられていましたが、本作は『ホーンズ 容疑者と告白の角』に続き、ファンタジー/サスペンス的な要素のある作品です。監督にとって本作はチャレンジングなものでしたか?

ずっと同じタイプの映画を撮り続ける人もいるけど、僕はいつも、毎回全然違うものを作りたいと思っているんだ。でも僕のすべての作品には共通点がある。それは「人間的な寓話」であるということだ。最初からこの映画は「ヒッチコック的な、ゆがんだ、ひねりのあるスリラー」を自分の世界観の中でやりたいと思っていたんだ。

映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.
映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

──あなたが次に手がける予定の『コブラ』実写化の話はどうなっているのでしょうか。

まだ諦めていないし、いつかやりとげてみせる。『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』や『スターウォーズ』が出てきてしまうと、どうしても低予算でこういった映画を撮るのが難しくなってきているのが現状だけど、まだギブアップしていないよ。

──2017年のベスト映画はなんでしたか?

『シェイプ・オブ・ウォーター』だね!モンスタームービーとして、感情面で感動させてくれたから。

──一緒に仕事をしてみたい俳優は?

ジェフ・ブリッジス!あとはまた一緒に再タッグを組みたい役者はいっぱいいるよ。アーロン・ポール、ダニエル・ラドクリフ、イライジャ・ウッド、サラ・ガドン……みんな役者としても素晴らしいが、人として最高だ。彼らはシェイプシフター(色々な姿に変身する妖怪)みたいに形状が変わる。だから今回とは別のキャラクターになりきることができる人たちだから、繰り返し一緒に仕事ができるんだ。

映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.
映画『ルイの9番目の人生』 ©2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

──今後、作ってみたい作品があれば教えて下さい。

まだ発表はできないが、次回作ではとてもとても怖い作品に再びたち戻れることにワクワクしている。ほか、別の作品として『The Marquis』という、ルイ14世から妻を取り返そうとする夫の話が進んでいる。世紀が違うけど、『ホーンズ』みたいな話なんだよ。有名なエピソードなんだ。

全ての作品が、人間的なものであったり一つの寓話であることは、これからも変わらない。いろんな状況があってもそういったことを問いかける作品は、没入できるんだ。

──日本では監督は「ホラーの貴公子」と呼ばれていますが、それについてはどう思われますか?

最高だね、LOVE! 次の作品はホラー回帰だからその王冠はいただいたままにしておくよ!なんとなくだが、『ルイの9番目の人生』は日本の観客に理解してもらえる作品じゃないかと思っている。複雑な多層構造になっているし、モンスター映画でもあるし、子供の物語でもありながら大人の話でもある。他のヨーロッパやアメリカでは理解してもらえなかったところを日本では理解してもらえるような気がするんだ。他の国以上に、響くんじゃないかと期待している。闇の中を、光を求めて旅していく少年の話を、感動を持って見てもらえたら嬉しい。

(オフィシャル・インタビューより)



アレクサンドル・アジャ(Alexandre Aja) プロフィール

1978年8月7日、フランス・パリ出身。映画監督の両親を持ち、幼少期には父親の映画に端役として出演も果たしている。97年に『Over the Rainbow』で監督デビュー。本作はカンヌ国際映画祭で上映され、短編部門のパルムドールにノミネートされた。その後『ヒルズ・ハブ・アイズ』(07)で弱冠28歳にしてハリウッドデビューを果たす。その後も『ミラーズ』(08)、『ピラニア3D』(11)、『ホーンズ 容疑者と告白の角』(15)と意欲的に製作を続けると同時に、寺沢武一原作のSFアクション漫画「コブラ」のハリウッド映画化を進めている。




映画『ルイの9番目の人生』
1月20日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか
全国ロードショー

監督:アレクサンドル・アジャ
脚本:マックス・ミンゲラ
出演:ジェイミー・ドーナン、サラ・ガドン、エイダン・ロングワース、アーロン・ポール
原題:THE NINTH LIFE OF LOUIS DRAX
2015年/カナダ・イギリス/英語/108分/DCP/カラー
日本語字幕:牧野琴子
後援:カナダ大使館 ブリティッシュ・カウンシル
配給:松竹

公式サイト


▼映画『ルイの9番目の人生』予告編

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