首藤匠と市瀬陽子による日本舞踊とバロックダンスのコラボレーション アンサンブル室町10周年記念公演 @新宿FACE
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日本と西洋の古楽器で現代音楽を演奏し、ジャンルを超えたパフォーマーとのコラボレーションを行うなど、常に新しいことにチャレンジしてきたアンサンブル室町。結成10周年を祝う公演が、新宿FACEで開催された。
webDICEでは、公演レポートとともに終演後のテシュネ氏のコメントを掲載する。
「サーカスのような」会場
年の瀬も近づいた金曜日の夜。1年の疲れを開放しようと多くの人で溢れかえった新宿の街。アンサンブル室町の結成10周年を祝う公演は、そんな歌舞伎町の一角にある、新宿FACEで開催された。
新宿FACE外観
エレベーターホールで観客を迎える案内の女性たち
開場時刻を過ぎ、エレベーターに続々と乗り込んでいく人々。受付を済ませるとコンセッションで受け取ったドリンクを片手に会場へと戻っていく。いつものコンサートホールでは見られない光景だ。
ロビーを行き交う観客
ステージは会場の一番低い位置にセッティングされ、最前列の観客とは何の境界もない。四方をぐるりと取り囲むように設置された座席は、まるでリングのように見えなくもない。座席はアンサンブルの背後、一段高くなったパフォーマンス用ステージの上にまで及んでいて、開演が近づくに連れてどんどんと埋まっていく。 公演後、座席配置についてテシュネ氏に尋ねると「サーカスのようだったでしょう」と、その狙いを明かされた。
ステージ後方座席から見た会場の全容
ドリンクとプログラムを片手に開演を待つ人々
10周年への祝辞と過去作品へのオマージュ
「このたびは、10周年おめでとうございます」。斎藤説成の声明が会場内に響き渡る。この日のために新たにつくられた委嘱作品『声明と口笛のための「祝辞」』(伊東光介作)でこの日の舞台は幕を開けた。
伊藤キムと斎藤説成によるコラボレーション
プログラムは、アンサンブル室町が結成された2007年から2016年までに演奏された過去作品を時系列で追い、そのなかに新たな委嘱作品が盛り込まれていくという構成で、新作はもちろんすべて世界初演となる。
続いて2007年の委嘱作品から抜粋された数曲を演奏、さらに今回初演となる新たな委嘱作品が披露される、といった具合に過去と現在の作品を行き来する。そこに多彩なパフォーマンスが絡み、アンサンブル室町独自のスタイルでプログラムが展開していく。『源氏物語』(2012年12月公演)では蛍を思わせるようなジャグリングが、作品の世界観を演奏とともに描き出していくというように。
ステージを取り囲む観客の中での演奏
第一部では『東方奇譚』(2013年10月公演)からの抜粋曲までが演奏され、10分の休憩をはさんで第二部が開演。どちらかというと東洋的印象の強かった第一部から少し趣が変わる。『オルフェオとエウリディーチェ』(2014年12月公演)から18世紀ドイツオペラの楽曲や『メリークリスマス エリック・サティ!』(2016年12月公演)からの楽曲など西洋の音楽的要素が加わり、チェンバロの軽やかな音色がアクセントを添える。
プログラムが進むにつれ、音楽とパフォーマンス、演奏者と観客、そして音と身体の境界さえも曖昧になっていくような不思議な感覚を覚えた。
船木こころと山本裕によるダンスとのコラボレーション
楽器と音の多様性
楽器の編成は、向かって右側に箏や尺八、笙に篳篥、三味線、琵琶といった和楽器、左側にバロックヴァイオリンやバロックチェロ、オルガンやチェンバロ、そのほかにも管楽器や打楽器など西洋の古楽器が並ぶ配置で、なかには「テオルボ」など珍しい楽器もあり目をひく。
和楽器
西洋の古楽器。前列左が「テオルボ」
そして多様なのは楽器の種類だけではない。ひとつの楽器がメロディーを奏で、和音を響かせ、さらにリズムを弾く。作品の世界を表現するため自在に繰り出される様々な表現。楽器の使い方ひとつにすら決めつけはないのだと、ここにもアンサンブル室町ならではのメッセージが隠されているようだ。
同時進行するパフォーマンス
プログラムでは、現代舞踏、バロックダンス、ジャグリング、日本舞踊、声明、詩や和歌の朗読と多種多様なパフォーマンスが同時に進行する。会場の四方から現れるパフォーマーは、観客との距離を縮める存在ともなる。
なかでも存在感を示したのは伊藤キムとアレッシオ・シルヴェストリンだろう。現代舞踏の伊藤とバレエのシルヴェストリン。どちらも自らの身体のみを駆使する表現者である。伊藤キムの力強い動きとシルヴェストリンのしなやかな動きはまるで異なるが、ともに身体から発するエネルギーで刹那の空間をつくりだしていく。アンサンブル室町にパフォーマンスが不可欠であることを物語るものであった。
アレッシオ・シルヴェストリンと斎藤説成によるコラボレーション
萬浪大輔と中山マリによる朗読劇が観客の目の前で展開される
KAZによるマジックとのコラボレーション
静寂にも潜む表現
10年にわたって続けられてきた公演を凝縮し、短い小品を連作として仕上げられた本公演。新たに委嘱された作品の中には、能の「高砂」が織り込まれていたり、年末恒例となったクラシックのあの旋律が織り込まれていたり、作者からアンサンブル室町に宛てた祝祭の気持ちが散りばめられていたようだ。2時間半に及んだ公演は、最後には出演者全員が集合し、観客を巻き込んでの華やかな光とダンスの中で幕を閉じた。
いわゆる西洋音階では表現できない音と音の間に存在する無限の音。さらには音のない間合いにまで表現が潜み、静寂をも取り込んだかのような楽曲。そこにこそ、異なる歴史を歩みつつも東西の古典が融合する鍵が隠されているのかもしれない。アンサンブル室町が持つ可能性の大きさを感じさせる公演であった。
出演者と観客に向け拍手を送る指揮・鷹羽弘晃
終演を迎えた出演者総出のパフォーマンス
「場所には必ず意味がある」新たな発想への手応えも
公演終了後、テシュネ氏に“新宿でパーティーを”開いた感想を聞いた。
「(新宿FACEは)ポピュラーな場所ですが、場所には必ず意味がある。歌舞伎町では初めて行われた現代音楽とパフォーマンスの公演だが、音楽はどこの場所にもあり、それ自体がとても意味のあること。私にとっても大変嬉しい公演となりました」。会場については、「響きも悪くなかったし、形も自由に決められた」また、「私も勉強になったし、いろいろ考えが浮かんできた」と語るテシュネ氏。すでに新たな発想への手ごたえを感じているようであった。
終演後のローラン・テシュネ芸術監督
(取材・文:中川郷子)
アンサンブル室町
公式ホームページ:https://www.ensemblemuromachi.or.jp
※2017公演ページに作品解説が掲載されています。
お問合せ(事務局): office@ensemblemuromachi.or.jp