骰子の眼

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東京都 渋谷区

2018-01-18 18:25


ジャン=ピエール・レオーが子供たちに映画作りの楽しさ伝える老優に『ライオンは今夜死ぬ』

諏訪敦彦監督作、死の演技に苦悩する名優が生きる歓びを取り戻すまでを描く
ジャン=ピエール・レオーが子供たちに映画作りの楽しさ伝える老優に『ライオンは今夜死ぬ』
映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

ヌーヴェルヴァーグを代表する名優ジャン=ピエール・レオーを主演に迎え、『M/OTHER』『不完全なふたり』の諏訪敦彦監督が『ユキとニナ』から8年ぶりに発表する新作『ライオンは今夜死ぬ』が、1月20日(土)より公開。webDICEでは諏訪敦彦監督のインタビューを掲載する。

南フランスのコート・ダジュールを舞台に、ロケでこの地を訪れたベテラン俳優のジャン。幽霊となって現れたかつての恋人ジュリエットとの再会、そして自主映画制作を行う地元の子どもたちの交流を通して、過去の記憶といかに向き合っていくか、そして日常のなかに死は内在するということを描いている。子どもたちのための映画ワークショップを行う子どもたちの自主性を大切に映画を撮るプロセス、そして共同作業の楽しさを伝えている諏訪監督だが、この作品でもそうした子どもたちの生き生きとした姿と、ジャン=ピエール・レオーの姿をともに収めることで、「生と死」というテーマを軽やかに伝えることに成功している。


「台詞でもあるように、『生と死は同伴している』という、どちらか一方があるわけではなくて、死があっての生であり、生があっての死がある。そういう意味で言うと、死というものが映画の中で強く意識されているというところはありつつも、深刻に死を語るということではなくて、むしろ生きるということをイメージしていたんじゃないかと思うんです。」(諏訪敦彦監督)


「この人を撮りたい」という欲望

──ジャン=ピエール・レオーとの出会いについて教えてください。

ジャン=ピエールと初めて会ったのは、2012年のラ・ロシュ・シュル・ヨン映画祭です。そこで偶然私のレトロスペクティブとジャン=ピエールの特集上映があって、そこで私の作品を観て気に入ってくれました。特に「不完全なふたり」が彼にとってはヌーヴェルヴァーグを引き継いだ作品に思えたようです。彼の方からぜひ会いましょうという申し入れがあって、私は思ってもみなかったので喜んで会いました。いつか一緒に映画を作るという希望がないわけではなかったのですが、実際にお会いして彼の存在を目の当たりにした時に、非常に映画的なポエジーを、彼の身体や話し方に感じました。その時、どんな映画を作るかというイメージはできていませんでしたが、「この人を撮りたい」という欲望からこの映画はスタートしました。

映画『ライオンは今夜死ぬ』諏訪敦彦監督 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES  PRODUCTIONS  BAL THAZAR-BITTERS END
映画『ライオンは今夜死ぬ』諏訪敦彦監督(中央)とジャン=ピエール・レオー(右) © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

──力強い光の設計、撮影については?

撮影監督のトム・アラリのプランは素晴らしかったです。トムの光の設計はすごく大胆で、恐れ知らず。現場で何度も驚きました。それはとても嬉しい喜びでした。私は具体的に光をこうしてほしいとは言っていません。ただ自然主義的なナチュラルな光ではなくて、この映画が持つ幻想的な部分、非現実的な部分と日常的な部分が混在するような世界というイメージは共有していました。その上で、トムが自由に設計していった光です。もちろん、実際のロケーションが南仏で行われたということも、強くこの映画のトーンと光のトーンというのを作り出した大きな要因だと思います。この映画には、そういう輝くような光が必要だったんじゃないかと思います。

映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES  PRODUCTIONS  BAL THAZAR-BITTERS END
映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

子どもたちが沢山集まって、好き勝手に話している姿

──出演した子どもたちについては、どのように演技指導したのですか?

私はこの数年間、日本で小中学生と一緒に映画を作るワークショップを何回か行ってきました。3日間で、子どもたちが映画を考えて撮影して編集して上映するというプログラムです。子どもたちの撮影に立ち会っていく中で、彼らが映画を発見していくプロセスが面白いなと思いました。『ユキとニナ』でも子どもは出てきましたが、今回は、物語をこちらが考えてシナリオを書くのではなく、実際に映画の中で子どもたちが映画を作るプロセスを取り入れられないかと思ったわけです。

撮影の1年以上前から3回くらい、20人ほどの子どもたちを集めました。単に映画に出たいだけでなく、映画製作に興味がある子どもたちとワークショップをやり、そこから映画に参加する子どもたちを選びました。映画の中では一人一人の子どもが、単にこちらが与えた役を演じるのではなくて、自分から映画の中で行動していくという風にできたらいいなと思いました。子どもたちが沢山集まって、好き勝手に話している姿が、私はとても好きでした。彼らは、もちろん演技はしているのだけど、映画のことを一生懸命考えて、自分から行動して発言していてとても嬉しかった。非常に面白い経験でした。

映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES  PRODUCTIONS  BAL THAZAR-BITTERS END
映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

──そのほかのキャスティングについては?

映画にはジャン=ピエールと、もう一人女性がいるというイメージがありました。その女性は現実にはもう存在しておらず、幽霊という設定です。ジャン=ピエールに出会った時に、彼が私の映画にもし出演するとしたら、均衡・バランス・緊張関係などを考えると、普通の人ではなくてもっと違う存在がいるのではないかと思いました。自然な日常の存在だけでは、あのジャン=ピエール・レオ―というポエティックな存在感と釣り合わないと思ったからです。

映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES  PRODUCTIONS  BAL THAZAR-BITTERS END
映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

それで何人かの女優さんに会うなかで、ポーリーヌを見たときにジュリエットの役は彼女しかいないと思いました。幽霊らしからぬ、もっと生き生きとしていて純真で。実際に撮影に入った時も、彼女の演技はやはり素晴らしく、こういう光のようなジュリエットの存在があるんだということを発見できました。難しい存在だと思うのですが、とても革新的で的確で豊かなジュリエットがそこにいました。また、冒頭でジャン=ピエールが会う昔の恋人役は、イザベル・ヴェンガルテンにお願いしました。彼女は以前「不完全なふたり」のスチルマンとして現場に来てくれたことがありました。長い間演技をしていなかったのですが、ジャン=ピエールとは『ママと娼婦』で共演していましたし、直感でこの役を演じてもらいたいなと思ったのです。

映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES  PRODUCTIONS  BAL THAZAR-BITTERS END
映画『ライオンは今夜死ぬ』昔の恋人ジュリエット役のポーリーヌ・エチエンヌ © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

「生と死は同伴している」

──ジャンとジュリエットのダイアローグについては?

劇中でジャン=ピエールとジュリエットが歩くシーンがあります。そのダイアローグは非常にポエティックかつ印象的です。これは私が書いたダイアローグではなくて、ジャン=ピエールの父ピエール=レオーが書いた戯曲です。これは、ジャン=ピエールとの雑談の中の思いつきで生まれました。それは男女のダイアローグで進行する舞台だったそうで、ジャン=ピエールにとっては、それが父と母の日常的なやり取りを想起させたそうです。女優と作家の両親ですから、かなり激しいやり取りが家庭の中でもあったようです。その戯曲をぜひ読んでみたいなと思い、探して翻訳してもらいました。そして、これを映画の中にダイレクトに引用してみました。

私の今まで撮ってきた映画は、ほとんどダイアローグがありません。ただ、ジャンとジュリエットのシーンというのは、ダイアローグをちゃんと決めて、ある意味演劇的に演じることで、この映画に別の次元をもたらすと思いました。なので、ジャン=ピエールは、自分の父親の書いた台詞を映画の中で演じているわけです。

映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES  PRODUCTIONS  BAL THAZAR-BITTERS END
映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

──トーケンズの1961年のヒット曲からとられた「ライオンは今夜死ぬ」というタイトルについては?

映画の準備をしているときに、私はジャン=ピエールに、劇中で歌を歌ってほしいと直感的に思っていました。ある時、ジャン=ピエールが日本に来る機会があり京都で会ったときに、「好きな歌はありますか?」と尋ねました。そしたら「ライオンは今夜死ぬ」を歌ってくれました。とてもスローペースでオリジナルな歌になっていて。ぱっと聞いた時にはこの歌だとすぐには分からなかったのですが、その歌い方がすごく良くて、この歌を歌ってもらおうと思いました。そして根拠はないんですけど、「ライオンは今夜死ぬ」というタイトルも、この映画にふさわしいのではないか、そこから何かスタートできるのではないかと思いました。内容が決まる前に、タイトルと歌は最初に決まりました。論理的に、物語的な必要性でこれが決まったというよりは、この歌からすべてが始まったという感じです。

──「生と死」というテーマについて、監督はどのようにお考えですか?

劇中では、ジャン=ピエールはいくつかの死についての台詞を言っています。死というのは出会いなんだと。それをじっと見つめるということが大事だと。これは、私が書いた台詞ではなく、ジャン=ピエールの死に対する考えです。あるいは、死を演じるということにおいての話かもしれないですが。彼が、年齢や死に対して抱いているイメージ。それを映画の中では、彼が即興的に表現しています。撮影がはじまる前に、彼と何度も会って話をした中で出てきた話でもあります。死をめぐって、この映画ではいくつかのイメージや言葉が出てきますが、最初から死をテーマにしようとしてたわけではないです。どちらかというと、ジャン=ピエールと話していた時に出てきた主題というのは、死についてというよりは「生」について。つまり生きていることはいかに素晴らしいということか、ということでした。

映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES  PRODUCTIONS  BAL THAZAR-BITTERS END
映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

台詞でもあるように、「生と死は同伴している」という、どちらか一方があるわけではなくて、死があっての生であり、生があっての死がある。そういう意味で言うと、死というものが映画の中で強く意識されているというところはありつつも、深刻に死を語るということではなくて、むしろ生きるということをイメージしていたんじゃないかと思うんです。「ライオンは今夜死ぬ」の歌も、ライオンが死んだという歌詞ですが、それを非常に元気よく歌います。歌は「生」の側のものだと思うのです。そのアンビバレンツな関係がすごく面白いなと感じました。

(オフィシャル・インタビューより[第28回マルセイユ国際映画祭 製作発表会見にて])



諏訪敦彦(Nobuhiro Suwa) プロフィール

1960年、広島県生まれ。大学卒業後、長崎俊一、山本政志、石井聰亙(岳龍)などの作品に参加する一方で、『はなされるGANG』(84年/8ミリ)などの作品を発表。テレビドキュメンタリーの演出を手掛けた後、97年『2/デュオ』で監督デビュー。定型のシナリオなしで撮影されたその作品の完成度の高さが、国内外で絶賛され、ロッテルダム国際映画祭でNETPAC賞を受賞する。2作目の『M/OTHER』では三浦友和を主演に起用、99年カンヌ国際映画祭監督週間に出品され、国際批評家連盟賞を受賞。アラン・レネ監督の『二十四時間の情事』をリメイクした、3作目『H Story』は主演に『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』でその名を知られるベアトリス・ダルを起用、01年カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品される。ヨーロッパでの評価は圧倒的であり、ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ(サルコジ仏大統領の妻カーラ・ブルーニの実姉)を起用した、4年ぶりの長編作品『不完全なふたり』はロカルノ国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、フランスでの上映もロングランヒットを記録した。オムニバス映画『パリ・ジュテーム』では唯一の日本人監督として「ヴィクトワール広場」を制作、主演にジュリエット・ビノシュを起用。その際に出演していた、イポリット・ジラルドと共同監督をした『ユキとニナ』を09年に発表。09年カンヌ国際映画祭監督週間に出品された。08年から13年まで、東京造形大学の学長職を務め、現在は東京藝術大学大学院教授を務めている。 また、小中学生の子どもたちへ映画制作を教えるワークショップの講師としても参加している。




映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES  PRODUCTIONS  BAL THAZAR-BITTERS END
映画『ライオンは今夜死ぬ』 © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

映画『ライオンは今夜死ぬ』 1月20日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

南仏コート・ダジュール。死を演じられないと悩む、年老いた俳優ジャン。過去に囚われ、かつて愛した女性ジュリエットの住んでいた古い屋敷を訪ねると、幽霊の姿となってジュリエットが彼の前に現れる。さらに、地元の子ど もたちが屋敷に忍び込んできて……子どもたちからの誘いで突然はじまった映画撮影。撮り進めるうちに過去の記憶と向き合い、残された時間、ジャンの心に生きる歓びの明かりがふたたび灯されていく。

監督・脚本:諏訪敦彦
出演:ジャン=ピエール・レオー、ポーリーヌ・エチエンヌ、イザベル・ヴェンガルテン
2017年/フランス=日本/103分
配給:ビターズ・エンド

公式サイト


▼映画『ライオンは今夜死ぬ』予告編

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