映画『ビジランテ』 ©2017「ビジランテ」製作委員
『SR サイタマノラッパー』の入江悠監督が大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太という3人の俳優を迎えた新作『ビジランテ』が12月9日(土)より公開。webDICEでは入江悠監督のインタビューを掲載する。
入江監督の原点である埼玉県深谷を舞台に、幼い頃に失踪した長男・一郎。市議会議員の次男・二郎。デリヘルの雇われ店長を務める三男・三郎という、父親の死を契機に再会した3兄弟をめぐる愛憎劇をオリジナル脚本で完成させた。アウトレットモール建設計画を推進しようとする街で自警団を結成し、不法滞在する外国人労働者を排斥しようとする街で、政治と金の問題、そして裏社会の抗争も加わり大きな渦となっていく過程を入江監督は凄惨な暴力描写も交えスリリングに描いている。
「地方都市は一枚岩のように昔から脈々と続いた人々が生きているのかと思いきや、意外と流動的で移民問題もすぐそばにあるもの。ヘイトスピーチや排他的な空気感は日本だけではなく、世界共通の問題として、海外の映画ではごく当たり前に描かれることが多いですが、日本映画ではほとんど触れられていません。それをきちんと映画の中に取り入れてみたかった。舞台が深谷というだけで、実は世界中のどこにでもあるような普遍的な物語ともいえます」(入江悠監督)
ゼロから作り上げていく感覚
──今作は『SR サイタマノラッパー』以来のオリジナルオリジナル企画となります。どのようにこのプロジェクトが立ち上がったのか、教えてください。
地元・埼玉県深谷市を出発点とした『SR サイタマノラッパー』の3部作が終わり、メジャーな映画をやってきたのが一区切りついたような気がして、自分の中でようやく次に撮りたいジャンルが明確に見えてきたことが始まりです。これまでのオリジナル作品ではコメディー色の強いものを作って来ましたが、大人の映画を撮りたいという思いがあり、ノワール感のあるものをと考えた時に、地元に一度戻って地方性をテーマにした3兄弟の話にしようと決めました。
映画『ビジランテ』入江悠監督
男兄弟というのは歳をとっていくと関係性が変わり、社会でのポジションや仕事が生まれる中で、ライバル関係にもなる。そんな彼らが地方都市で蠢き、陰謀に巻き込まれ、それぞれの思惑と欲望が絡み合っていく。撮影中に感じた産みの苦しみやゼロから作り上げていく感覚は久々のものでした。
原点を見つめる作業で必要な時間
──作り上げるまでの期間、どんな思いでしたか。
『SR サイタマノラッパー』は20代の時に無知に作った映画で、表層的なところだけで地元を舞台にしている部分がありました。それから自分も社会人となり、社会の中で生きる人々が抱える複雑な問題について実感を持ち、アンテナを張って掘り下げていく中で、ようやく地元の良いところも悪いところもすべて描き出していきたいと思うようになったんです。
映画『ビジランテ』 ©2017「ビジランテ」製作委員
10代を過ごした深谷に対しては郷土愛もないし、住んでいた当時は「ここから早く出なければ!」という気持ちしかなかったけれど、それでも自分にとってはよりどころであり、定期的に戻らなければいけない原点。オリジナルのこの映画を地元で作り上げるまでにかかった10年の月日は、原点を見つめる作業で必要な時間でした。
映画『ビジランテ』三男・三郎役の桐谷健太 ©2017「ビジランテ」製作委員
映画が公開されるまで自分の中で完結しない
──入江監督の目には、現在の地方都市はどのように映りますか。
この10年で地方都市もショッピングモールの建設などで画一化され、今作の風景は日本のどの場所であっても当てはまる気がします。地方都市は一枚岩のように昔から脈々と続いた人々が生きているのかと思いきや、意外と流動的で移民問題もすぐそばにあるもの。ヘイトスピーチや排他的な空気感は日本だけではなく、世界共通の問題として、海外の映画ではごく当たり前に描かれることが多いですが、日本映画では“エンターテインメントだから”というような理由で、実際的な問題にはほとんど触れられていません。劇中で描かれているような外国人との争いや問題点は顕在化していないだけで、地方都市にでも普通にある話しで、それをきちんと映画の中に取り入れてみたかった。舞台が深谷というだけで、実は世界中のどこにでもあるような普遍的な物語ともいえます。
映画『ビジランテ』次男の次郎を演じる鈴木浩介(左)妻役の篠田麻里子(右) ©2017「ビジランテ」製作委員
──制作中はプレッシャーを感じませんでしたか。
『SR サイタマノラッパー』を撮っていた時は映画監督として認知されておらず、映画自体も劇場公開の予定すらありませんでした。誰にも求められていない分、期待もプレッシャーもありませんでした。しかしそれからメジャーで色々と映画を撮るようになり、映画監督としての認知度も上がって来たなかで、今の自分が考えていることをぶち込んだ久々のオリジナル企画をやるということは、自主映画時代とは意味合いがまったく違います。
映画『ビジランテ』長男・一郎を演じる大森南朋(右) ©2017「ビジランテ」製作委員
すべての責任は自分にのしかかってくるし、これまでで一番覚悟を問われている作品ともいえます。わかりやすい映画が好まれている今の時代に、社会的な問題提起、人間の醜い部分や弱さ、暴力とセックスなどの荒々しい部分をゴッタ煮状態で詰め込んだ125分。お客さんがどこに反応してくれるのかまったく未知数なので、公開が怖くもあり、楽しみでもあります。そういった意味で、映画が公開されるまで自分の中で『ビジランテ』は完結しないのだと思います。
(オフィシャル・インタビューより)
入江悠 プロフィール
1979年11月25日、埼玉県出身。日本大学藝術学部映画学科在籍時から自主製作映画界で注目を集め、映画『JAPONICA VIRUS ジャポニカ・ウイルス』(2006)で長編映画監督デビュー。埼玉の田舎町に生きるラッパーのほろ苦い日々を描いた長編映画2作目となる『SR サイタマノラッパー』(2009)が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009オフシアター・コンペティション部門でのグランプリをはじめ、国内外の映画祭で高い評価を得る。同作で第50回日本映画監督協会新人賞を受賞。2本の続編が製作されたほか、深夜枠の連続ドラマとして『SR サイタマノラッパー ~マイクの細道~』(2017)が放送された。『ジョーカー・ゲーム』(2015)、『日々ロック』(2014)などのメジャー作品も手掛け、韓国映画『殺人の告白』(2012)をリメイクした『22年目の告白-私が殺人犯です-』(2017)を3週連続興収1位に導いた。
映画『ビジランテ』 ©2017「ビジランテ」製作委員
映画『ビジランテ』
2017年12月9日(土)より テアトル新宿ほか全国ロードショー
幼い頃に失踪した長男・一郎。市議会議員の次男・二郎。デリヘル業雇われ店長の三男・三郎。別々の道、世界を生きてきた三兄弟が、父親の死をきっかけに、再会し―。深く刻まれた、逃れられない三兄弟の運命は再び交錯し、欲望、野心、プライドがぶつかり合い、事態は凄惨な方向へ向かっていく――。
脚本・監督:入江悠
出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作、間宮夕貴、吉村界人、菅田俊
音楽:海田庄吾
配給:東京テアトル
2017年/日本/125分