webDICEを運営する有限会社アップリンク(東京都渋谷区、代表取締役社長:浅井隆)は、株式会社パルコ(本部:東京都渋谷区、代表執行役社長:牧山浩三)と吉祥寺パルコ(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-5-1)地下2階に5スクリーン、計300席の映画館「アップリンク吉祥寺パルコ(通称:アップリンク吉祥寺)」を2018年冬に開業する。
映画配給をはじめ、映画館/ギャラリー/カフェレストランを一ヵ所に集めた総合施設「アップリンク渋谷」、動画配信サービス「アップリンク・クラウド」そしてwebDICEを運営してきたアップリンクと、幅広い分野のカルチャーを牽引してきたパルコが吉祥寺の新たな映画文化の拠点として共同でつくり出す「アップリンク吉祥寺」。これまでアップリンクとパルコは共同で映画作品の配給宣伝を行ってきたが、映画館運営は初の共同事業となる。
5つのスクリーンでは、世界の映画祭で話題の作品をはじめ、アート系作品、インディーズ作品など現在「アップリンク渋谷」で映画ファンに楽しんでいただいている作品のほか、地域の方々にも楽しんでいただけるファミリー向け作品も上映する。
「アップリンク吉祥寺」は、世界の多様な価値観を知ることができ、世界の人々の感情を共有できる映画というメディアを通して、観客と世界とを繋げる窓となる映画館を目指す。
【「アップリンク吉祥寺」施設概要】
所在地:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-5-1吉祥寺パルコ地下2階
共同事業者:株式会社パルコ、有限会社アップリンク
運営:有限会社アップリンク、株式会社アップリンク・エスコルハ
スクリーン数:5スクリーン
座席数:計300席[最大スクリーン97席、最小スクリーン31席(予定)]
オープン予定:2018年冬
設計:アビエルタ建築・都市北嶋祥浩
未来のミニシアター・コンプレックスのスタンダードを作る
文/浅井隆(アップリンク代表、未来の映画館プロデューサー)
■なぜ、吉祥寺にパルコと共同で映画館を作るのか
5年ほど前から、渋谷以外の街にもマイクロミニサイズの映画館を作りたいと考え、場所探しを行なっていました。閉館するという映画館の噂を聞きつければ、引き継げないかと駆けつけ話をしに行っていました。当初から横浜と吉祥寺が具体的な候補地でしたが、なかなかいい物件に出会うことがありませんでした。
アップリンクとしては、「吉祥寺」と「パルコ」には特別な思いがあります。1987年の創立時、最初に配給した作品がデレク・ジャーマン監督の『エンジェリック・カンヴァセーション』で、劇場は吉祥寺バウスシアターでした。その後、デレクの作品『デレク・ジャーマン短編集』『ラスト・オブ・イングランド』『ザ・ガーデン』を上映した劇場は渋谷パルコ・スペース・パート3(後のシネクイント)でした。
▲アップリンク配給作品 左より『エンジェリック・カンヴァセーション』『ラスト・オブ・イングランド』『ザ・ガーデン』
僕はかつて演劇実験室天井桟敷の舞台監督をしていたので、70年代の西武劇場(後のPARCO劇場)で『中国の不思議な役人』『青ひげ公の城』などの公演をしたり、『映写技師を撃て』というタイトルで寺山修司の実験映画上映会を開催したりといった関わりもあります。
▲寺山修司の作品 左より『中国の不思議な役人』『青ひげ公の城』『映写技師を撃て』
そして最近では、パルコとの共同配給作品『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』が多くの観客の支持を得てヒットしました。
▲アップリンクとパルコの共同配給作品 左より『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』『リアリティのダンス』『ホドロフスキーのDUNE』『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』
■新しい映画館は5スクリーンのミニシアター
現在、渋谷の宇田川町にある「アップリンク渋谷」の前身は、神南のファイヤーストリートで1999年にオープンした「アップリンク・ファクトリー」です。当時はDVCamと民生用のプロジェクター、そして16ミリの映写機で上映を行なっていました。宇田川町には2005年に引っ越してきて、最初は1スクリーンでのスタートでしたが、その後、段階的に2スクリーンをオープンし、2012年には3スクリーン体制となりました。機材は、DCPサーバーと民生用のプロジェクターというハイブリッド仕様で上映を行なっています。
各スクリーンの座席数は41席、45席、58席で、ミニシアターよりも小さいマイクロミニシアターです。ただ、小さいことは大きな利点でもあります。世界中で多様な価値観による映画作品が多くつくられています。アップリンクではドラマ以外にも、世界のドキュメンタリーを多く配給してきています。多様であることとは何か。突き詰めると、それは多数の人ではなく少数の人に支持されるということであり、作品によっては100席前後のミニシアターでも大きすぎるケースがあります。小さなスクリーンが3つあれば、より多様な作品をロングラン上映できます。さらに現在のアップリンク渋谷は、いったん他の劇場でロードショーが終わった作品を引き続き上映する、いわゆる二番館としての役割も果たしており、多くの映画ファンに支持される映画館になったのではないかと思います。二番館の場合もキャパが小さいことは有利に働いています。
▲58席の「アップリンク渋谷ファクトリー」(左上)45席の「アップリンク渋谷エックス」(右上)41席の「アップリンク渋谷ルーム」(左下)併設されている「アップリンク渋谷マーケット」(右下)
「アップリンク吉祥寺」は「アップリンク渋谷」をさらにバージョンアップさせたものです。31席から97席の5スクリーンがあり、合計300席です。渋谷より小さいスクリーンがある一方で、大きなスクリーンも作ることができました。編成する内容はインディペンデント系の作品やドキュメンタリー作品、そしてミニシアター系の二番館としての上映や、ミニシアター系の都内複数館公開の場合のサポート館としての上映を考えています。吉祥寺の機材は、DCPサーバー、プロジェクターともにDCI準拠のプロ仕様です。一つ一つの劇場のサイズが小さく爆音上映には適していませんが、オリジナルのスピーカーシステムを導入し、音質にこだわった音響設計を考えています。渋谷のように映画館に併設したカフェはありませんが、コンセッションでの飲食の販売は充実させる予定です。また、映画の上映が定着し運営が慣れてきた時点で、渋谷でも行なっているライブイベント、パフォーマンス、落語、トークショーなども企画開催していく予定です。
■映画の世界の多様性を確保するために
アップリンクは日本全国で映画配給も行なっているので、地方の映画館ビジネスが大変だということはよくわかっています。その原因はひとえに人口の減少にあります。ただし、人口推移の統計を見ると首都圏、特に東京は戦後より人口が右肩上がりで伸びています。シネコンがこれから新宿や池袋に建設されていくならば、いわゆるアート系の作品を観ることのできる映画館もまだ需要があると思います。グローバリズムと経済優先の波が押し寄せ世界が均質化されるのに抗い、映画の世界の多様性を確保するためにも、アップリンク渋谷やアップリンク吉祥寺のような映画館は必要だと信じています。ビジネス的に見ても、首都圏と全国の大都市にはミニシアター・コンプレックスを作り運営していける可能性があります。アップリンクとしては「アップリンク吉祥寺」を、既存のビルの中でも映画館がつくれる一つのスタンダード・モデルとして、今後もこのようなミニシアター・コンプレックスを作っていきたいと考えています。映画館を作ることに興味がある企業や個人の方がいらっしゃれば、ぜひお問い合わせください。
■不寛容な現代社会こそ、映画というメディアの役割が重要
映画は、アート系作品に限らずエンターテインメント作品でも世界を知ることができるメディアです。書籍はテキストにより論理的に世界を捉えることができます。絵画や音楽は感情に訴えかけてきます。映画はその両方を兼ね備え、言葉がなくてもスクリーンに映っている人物の表情から言語以外の感情を読み取り、そのことが自分の中で言語化できなくとも、心に小さな塊としていつまでも残ります。自分と違う価値観に不寛容であり、自分が属する社会から異物を追い出そうとする傾向が強まっている時代だからこそ、多様な価値観の文化を頭と心で理解し感じられる映画というメディアの可能性は、より重要だと思います。「アップリンク吉祥寺」はミニシアターが5スクリーンある映画館です。多様な世界の映画を上映するには、スクリーン数を多くする必要があります。3スクリーンの「アップリンク渋谷」で毎日10作品前後を上映しているので、5スクリーンの「アップリンク吉祥寺」は、毎日15作品前後を編成する予定です。新しく吉祥寺に作る映画館を観客の皆さんと一緒に育てていければと思います。今後、アップリンクでは映画館の設備や内装を充実させるために、クラウドファンディングも行なう予定です。アップリンク吉祥寺のオープンは1年後の2018年冬になります。応援をよろしくお願いします。