映画『希望のかなた』より © SPUTNIK OY, 2017
フィンランドのアキ・カウリスマキ監督の新作『希望のかなた』が12月2日(土)より公開。webDICEではカウリスマキ監督のインタビューを掲載する。
内戦が続くシリアのアレッポからフィンランドのヘルシンキにたどり着いた 青年カリード。ヨーロッパを移動する途中で生き別れた妹を捜す彼と、人生をやり直そうとストラン経営に乗り出した初老の男ビクストロムとの交流が描かれる。今回のインタビューでは、前作『ル・アーヴルの靴みがき』に続き難民をテーマにしたカウリスマキ監督の、この問題への切実な思いが語られている。
「私がこの映画で目指したのは、難民のことを哀れな犠牲者か、さもなければ社会に侵入しては仕事や妻や車をかすめ取る、ずうずうしい経済移民だと決めつけるヨーロッパの風潮を打ち砕くことだ」(アキ・カウリスマキ監督)
「港町3部作」から「難民3部作」へ
──前作の『ル・アーヴルの靴みがき』の際になぜ「港町3部作」を作ると宣言されたのでしょうか?
それは……私がとにかく怠け者だから、何かを作るためには3部作という設定が必要だったんだ。でも「港町3部作」は突然、「難民3部作」になった。3本目はハッピーなコメディーになるといいんだが。
映画『希望のかなた』アキ・カウリスマキ監督
──では、その「難民3部作」となっての第2作であるこの『希望のかなた』で目指そうとしたことは、どんなことでしょうか?
私がこの映画で目指したのは、難民のことを哀れな犠牲者か、さもなければ社会に侵入しては仕事や妻や車をかすめ取る、ずうずうしい経済移民だと決めつけるヨーロッパの風潮を打ち砕くことだ。
ヨーロッパでは歴史的に、ステレオタイプな偏見が広まると、そこには不穏な共鳴が生まれる。臆せずに言えば『希望のかなた』はある意味で、観客の感情を操り、彼らの意見や見解を疑いもなく感化しようとするいわゆる傾向映画(※)だ。
そんな企みはたいてい失敗に終わるので、その後に残るものがユーモアに彩られた、正直で少しばかりメランコリックな物語であることを願う。一方でこの映画は、今この世界のどこかで生きている人々の現実を描いている。
(※傾向映画とは=1920年代にドイツおよび日本でおこった、商業映画の中で階級社会、および資本主義社会の矛盾を暴露、批判した左翼的思想内容をもつプロレタリア映画のこと)
映画『希望のかなた』より © SPUTNIK OY, 2017
明日はあなたが難民になるかもしれない
──観客の意識を変えるために、この映画を作ったのですか?
私はとても謙虚なので、観客ではなくて、世界を変えたかったんだよ。だけど、人を感化するような力もないから、まずヨーロッパに的を絞った。手はじめに、ヨーロッパのような狭い所から様子を見ようと思ったんだ。ヨーロッパを変えたら、次はアジアかな。
ジャン・ルノワールは『大いなる幻影』で第二次世界大戦を止めようとした。私にそれができなかったのは、ただの失敗だよ。映画にそんな影響力はない。だけど正直に言えば、世の中に3人くらいにこの映画を見せて、みんな同じ人間だと分かってもらいたかった。今日は“彼”や“彼女”が難民だけど、明日はあなたが難民になるかもしれないんだ。
映画『希望のかなた』より © SPUTNIK OY, 2017
──この映画に限らず、俳優に求めるものはどんなことですか?
俳優に求めることは、あまり動きすぎずに、風車みたいに手を振りまわさないでほしいということだけだ。もちろん彼らを選んだのは、ハンサムだったからだけど…。それと演技力。演技ができれば、俳優にとってカメラは友だちだが、できなければ敵になるんだ。
映画『希望のかなた』より © SPUTNIK OY, 2017
──印象的なサウンドトラックについて教えてください。
ごく普通に……セリフとそこにつけた音楽だよ。風が吹いているように聞こえれば、それが風の音になる。録音のテロ・マルムバリの仕事だ。
──『希望のかなた』(THE OTHER SIDE OF HOPE)というタイトルはどういう意味ですか?
今まで人生で何かを意味したことはないんだが……。ワーキングタイトルは「難民(REFUGEE)」で、このタイトルは明解だがいかんせん詩的ではなかった。そうしたら友人が2000年も前のギリシャの詩の中に「The Other side of Hope」という言葉を見つけたんだ。フィンランド語、ドイツ語、英語で少しずつ意味が違ってくるがその自由さもいいだろうと、これでいこうとなったんだ。
[オフィシャル・インタビューより(ベルリン国際映画祭公式記者会見より抜粋)]
アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki) プロフィール
1957年4月4日フィンランド、オリマティラ生まれ。大学でコミュニケーション論を学ぶ。映画評論家としてキャリアをスタートさせるが、評論だけにはとどまらずシナリオ作家、俳優、助監督など数々の仕事に携わる。1981年には兄のミカとともに映画会社<ヴィレアルファ>を設立。また<センソ・フィルム>という配給会社も所有し、ヘルシンキ中心部で<アンドラ・カルチャー・コンプレックス>という映画館を一時期運営していた。 1983年に初長編監督作品『罪と罰』を発表。86年には『パラダイスの夕暮れ』がカンヌ映画祭監督週間をはじめ各国の映画祭に招待され、世界の映画人の注目を集める。日本では90年に『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』で注目されて以降、全ての監督作が公開され、とりわけ『浮き雲』、『過去のない男』、『ル・アーヴルの靴みがき』などは大ヒットを記録した。新作公開の度に熱狂的なファンを増やし続けている。
映画『希望のかなた』より © SPUTNIK OY, 2017
映画『希望のかなた』
12月2日(土)渋谷・ユーロスペース、
新宿ピカデリー他にて 全国順次公開
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン
原題:TOIVON TUOLLA PUOLEN/英語題:THE OTHER SIDE OF HOPE
2017年/フィンランド/98分/フィンランド語・英語・アラビア語/DCP・35㎜/カラー
配給:ユーロスペース