骰子の眼

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2017-11-28 19:15


パンク少年と美少女エイリアンのロマンス『パーティで女の子に話しかけるには』

1977年ロンドン郊外が舞台!JCミッチェル監督×E・ファニング×N・キッドマン
パンク少年と美少女エイリアンのロマンス『パーティで女の子に話しかけるには』

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督の新作『パーティで女の子に話しかけるには』が12月1日(金)より公開。webDICEではミッチェル監督のインタビューを掲載する。

ミッチェル監督は、SF作家ニール・ゲイマンの原作をベースに、1977年ロンドン郊外の街クロイドン舞台に、遠い惑星からやってきた美しいエイリアンの少女とパンク少年が惹かれあうさまをファンタジックに描いている。エル・ファニングが演じる勝ち気な性格のエイリアンのザンの行動力に、若手演技派アレックス・シャープ扮する少年エンが翻弄されながらも自分自身を開放していく過程に胸がすく。劇中曲をニコ・ミューリー、Xiu Xiuのジェイミー・スチュワート、マトモスといったアヴァンギャルドなアーティストが手がけていることからも明らかなように、物語を彩る音楽やファッションも、単に70年代のトレースではなく、現代的でエクスペリメンタルな要素が加えられている点が興味深い。

「70年代より今の方がパンク魂みたいなのを必要としてるんじゃないかな。現代の方が闇とか厳しさとか破滅みたいなものがすぐ目の前にあるような感覚があるからね。パンクで好きなのは、暴力的な喜びであるところで、排他性とは対極なところにあり、包括的。パンクとは、はみ出し者をうけいれてくれる、僕にとって欠かせないもの。国籍、ジェンダーなど関係ない」(ジョン・キャメロン・ミッチェル監督)

70年代より今の方がパンク魂みたいなのを必要としてる

──本作に参加することになった経緯について教えてください。

『ショートバス』を僕と共同製作したハワード・ガートラーが原作の短編を好きで、僕に話を持ってきたんだ。フィリッパ・ゴスレットっていう腕利きの脚本家も参加が決まっていて、原作者のニール・ゲイマンと構想を練っていた。ハワードに「興味あるかい?」と聞かれて、「うーん、そうだな……」みたいに答えた。僕は最初から自分の頭で考えるのが好きだからね。でも何かわからないけど、何かが引っかかったんだよ。すぐにそれがパンクだってわかったね。これがカギだよ。ロンドン近郊のクロイドンに暮らすパンクな若者を描くということのね。

映画『パーティで女の子に話しかけるには』ジョン・キャメロン・ミッチェル監督
映画『パーティで女の子に話しかけるには』ジョン・キャメロン・ミッチェル監督

──ニール・ゲイマンによる原作の短編をどのように膨らませていきましたか?

最初のドラフトを書き終えて、「自分の頭から生まれたオリジナルじゃなくても、これなら行ける」って思ったよ。映画冒頭の短いシーンから書き始めた。原作は一度きりしか読まないって決めたんだ。何度も読み返すことはしないって。面白かったね。今日もう一度見たんだけど、原作から映画に残ったものと残らなかったものを確認するのは面白かった。哲学的だね。僕がすっかり忘れていた原作の一部なんかが残っているから、感慨深いよ。

物語は何の変哲も無い郊外の日常から始まる。少年はその年頃の少年がすることを、少女はその年頃の少女がすることをやってる。そして、普通じゃありえないことが起こる。間違ったパーティーに行ってしまうんだ。最初は、10代のアメリカ人旅行グループかなって感じで、若者の一部で受けてるちょっと特殊なニュアンスのグループかなって思うんだ。結局女の子たちは宇宙を旅行中のエイリアンであることがわかる。ロンドンでホテルを取るのを忘れてて、女王の記念祭と重なったものだから部屋が取れなかったんだ。それでクロイドンで立ち往生したわけ。

主人公は、アレックス・シャープが演じたエンとエル・ファニングが演じたザンの二人。エンの目を通してストーリーは語られるんだ。彼は駆け出しのアーティストで、グラフィックノベルを書いている。賢いんだけど、イマイチ自分の居場所がわからない。そしてちょっとしたパンク魂を持っている。完全なパンクではないけど、無我の境地に達したいアーティストだからね。イギー・ポップの境地っていうか、それよりエンはボウイっぽい頭脳を持った少年かな。

映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016
映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016

──なぜいまパンク・スピリットについて描こうと思ったのでしょう?

70年代より今の方がパンク魂みたいなのを必要としてるんじゃないかな。現代の方が闇とか厳しさとか破滅みたいなものがすぐ目の前にあるような感覚があるからね。パンクで好きなのは、暴力的な喜びであるところで、排他性とは対極なところにあり、包括的。パンクとは、はみ出し者をうけいれてくれる、僕にとって欠かせないもの。国籍、ジェンダーなど関係ない。

今の若い人は受け身になってしまっている。パンクは自分にとって逃避できる場所だったから、この映画が自分をはみ出し者と感じているティーンにとって大切な映画になると嬉しい。ひとつの考えに右に倣えになるのでは魂がやせ細ってしまう。

それからこれは若者のラブストーリーでもある。パンク少年と宇宙人の本物のロマンス。カルチャーもサブカルチャーも混在してる。パンクも宇宙人も、正常な世界の端っこにいる異端者みたいなものだからね。つまりクロイドンっていうグレーな世界にいる異端者さ。

映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016
映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016

──パンク・カルチャーについては当時から興味があったのですか?

ポップとパンクの融合は好きだね。ブリンク182とは違うんだけど、ダムドやラモーンズに近いかな。ワイヤーもそうだね。ある意味ちょっとポップなんだよ。パンクとはこうあるべきもの、って言うんじゃなくてね。ニール・ゲイマンは77年、ティーンエイジャーの頃、パンク・ミュージシャンとしてレコード会社と契約するところだったんだ。でも叔父さんが契約内容がひどいからサインするなって止めたんだよ。契約してたらどうなってたかな。だから、これはニールがパンク少年だった自分を取り戻しに行った作品とも言える。パンク・スターになっていたかもしれない自分をね。

エル・ファニングは映画史に名を残すようトップ俳優の一人になるだろう

──主人公の少年エンにアレックス・シャープを起用した理由は?

トニー賞がらみのプレス向けイベントで初めて会った。彼のことは知っていたけど、彼はなぜかオーディションを受けなかったんだ。もしかしたら年齢がちょっと上だったから外したのかもしれない。そのあと、英国全土を足で歩いてキャスティングをしたんだけど、エンにぴったりの役者に会うことができず、誰もいないどうしよう……と悩んでいたところで彼に会って、その後彼の『夜中に犬に起こった奇妙な事件』を観に行ったら、素晴らしかったんだ。そのあとにオーディションに来てもらったら、ぴったりだったんだよね。その後、僕も彼もトニー賞を受賞(いずれも2015年度に受賞)をすることになったので、運命ではないかと(笑) 現場で「僕、トニー賞受賞者なんだけど!」って言われても、「僕もトニー賞受賞してるから!」と対抗できるし(笑)

映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016
映画『パーティで女の子に話しかけるには』アレックス・シャープ(右)とエル・ファニング(左) © COLONY FILMS LIMITED 2016

アレックス・シャープはこれが初めての映画出演だけど、素晴らしかったね。初日は、最初に撮るシーンを込み入ったものにはしたくなかった。それで、廊下を歩いているだけというものにしたんだけど、「できない。どうやったらいい?」と僕に聞いてきた。最初は舞台と違って自分の演技が完全にコントロールできないことにちょっとショックを受けていたけどね。でも、僕は俳優出身だし、役者に何が必要なのかは分かっているから、エンがその時抱いている感情を伝えた上で、その気持ちになってみてと伝えたら、すぐ理解してくれてリラックスできたみたい。舞台では役者は自分の演技を監修できるけど、映画では監督を信頼しなくちゃならない。映画は切ったりつなげたりして、初めて一つのピースにまとまるんだ。だから最初から完璧である必要はない。

舞台出身の俳優はリハーサルに慣れているから、映像作品だと何テイクか撮ってからじゃないと演じられないことが多い。逆に、子供の時から映像作品に出ているエルの場合は、カメラのことがよく分かっているから、アレックスをうまくリードしてくれた。

──エンの親友ヴィックとジョンの配役については?

ヴィックを演じたA.J.ルイスは、突然我々の前に現れたんだ。役者経験は一度だけで、映画は初めてだった。サウス・ロンドン出身だよ。ところが彼は僕らが「絶対まぐれに違いない」って思うような演技をするんだよ。「もう一回やって見せてくれるかな?」それで何度やっても毎回できるんだよ。だから何の経験もない彼に賭けてみることにした。みんな満足したよ。

映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016
映画『パーティで女の子に話しかけるには』エン役のアレックス・シャープ(中央)、ヴィック役のA.J.ルイス(左)、ジョン役のイーサン・ローレンス(右) © COLONY FILMS LIMITED 2016

ジョンを演じたイーサン・ローレンスは、経験のある俳優だからね。イギリスでシリーズものに出たことがある。面白い子で、二人はすぐに仲良くなったよ。今じゃ一緒に旅行する仲さ。それぞれが互いに刺激し合えるってわかっていたよ。本当に仲がいいんだ。

──エル・ファニングが演じたエイリアンの少女ザンはどんなキャラクターですか?

ザンは彼女が住む世界、宇宙人グループの中ではちょっとしたパンク気質のある子だよ。反骨精神があるからね。パンク少年と逃げ出しちゃうような子さ。ザンは理解したくて質問を浴びせる。「パンクって何なの?」「もっと私にパンクしてみて。どうやったらパンクに近づけるの?パンクって?」ってね。これが映画の根底に一貫して流れるおもしろみなんだ。ザンは自分の「パンク」を見つけようとしている。そしてエンはザンとの繋がりを見つけようとしている。そして、その間で思いもよらなかった何かを二人で作り上げるんだ。

映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016
映画『パーティで女の子に話しかけるには』エル・ファニング © COLONY FILMS LIMITED 2016

──エル・ファニングのパフォーマンスについてはいかがでしたか?

エルはただ者じゃないよ。現場の最年少で撮影中は17歳、キャラクターと同い年だった。エルには美しくてキラキラした輝きがある。周りの人の気持ちを上げて、いつもニコニコさせてくれるようなね。近づきがたさとか、うっとりさせる魅力とはまた違うんだ。彼女を見てると嬉しくなるんだ。動きにウソがないんだよ。どんなシーンもリアル感が半端なくて、毎回少しだけ違う演技を見せてくれるんだ。

エルはトップ俳優の一人になるだろうね。文字通り、映画史に名を残すようなね。もうすでにすごい子だけど、この役は彼女の持っている全てを要求したね。ショックでさえある。みんなからリスペクトされて、いつもいい仕事をしているけど、この作品には彼女のAからZまで全てが網羅されているよ。違った一面が見られると思う。これから偉大な存在になると思う。

映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016
映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016

──ニコール・キッドマンとの仕事はいかがでしたか?彼女は元ヴィヴィアン・ウエストウッドで働いていたという、若きパンクロッカーたちを仕切るボス的存在の女性、ボディシーアを演じました。

ニコール・キッドマンがこんな役を演じるのは僕も見たことがないね。彼女が“ディーヴァ”をやったのは見たけど、不快で汚い感じになるのは見たことないよ。手を洗った試しがないようなキャラクターを演じるのは。リハーサルをやった時、彼女も参加してて、休憩中に彼女が言ったんだよ、「ジョンだったらこの役をどんなふうに演じるかやって見せて」って。それで僕はブーディカ風にちょっと女装した感じで、酔っ払って怒ったみたいに、味気ない感じの演技をして見せたんだよ。ニコールは、「続けて、続けて!」って。それが彼女なんだ。ただ僕の言うことを聞いて、「これは一番手っ取り早い役作りの方法だわ」って言ったよ。僕だったらそんなふうに演じただろうって思ったから、やって見せたんだけどね。

映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016
映画『パーティで女の子に話しかけるには』ニコール・キッドマン © COLONY FILMS LIMITED 2016

撮影中、実は、クラブのシーンで、ギターで頭をぶつけられて、あと、パンクのバンドのボーカルが歌のスタイルのせいで、彼女の顔につばを吐き続けてしまったことにニコールが結構怒ってしまったことがあった。そして、キレたニコールが平手打ちをお見舞いしたんだけど、あまりにもそれが良かったからそれを実際に使ったんだ。そのシーンはあまり時間がない中、数台のカメラを回しながら撮っていて、パンクの子たちがあちこち跳んでいて、アナーキー状態にもなっていることが逆にシーンの役に立ったのかな。

映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016
映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016

──撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

この映画にはたくさんの少年少女が登場する。その子達をまとめながら、楽しくやりたいと思った。自由で笑い声が絶えなくて、自発性や即興性っていうパンク・エネルギーも維持したかった。中にはアドリブが嫌いな俳優もいて、僕はそういうタイプにはアドリブをやるよう励ますんだ。またセリフを台本通りに言うのを嫌う俳優もいる。僕はそういうタイプには台本通りにセリフを言ってもらうよ。そしてその中間を取るんだ。彼らはどうやったら楽しく撮影できるのか、その方法を自分たちで見つけ出したよ。スタッフが楽しんでいることも重要だった。チームとしての一体感さ。全員が全員の名前を覚えたよ。イギリス人スタッフたちは僕がハグすることに慣れてなかったけど、アメリカ人スタッフがやってきて、ハグを始めたら、一週間後に僕がハグしないと、文句が出てきたよ。「ハグしてくれないのか」ってね。

(オフィシャル・インタビューより)



ジョン・キャメロン・ミッチェル(John Cameron Mitchell) プロフィール

1963年、アメリカ、テキサス州生まれ。原作戯曲・主演を務めた舞台「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」が、1997年にオフ・ブロードウェイで初上演されるや大ブームを巻き起こしてロングランを記録、オビー賞、ドラマ・リーグ賞など数々の賞を受賞する。2001年、同舞台を脚本・監督・主演を務めて自ら映画化すると、さらに熱狂の輪は全世界へと広まっていく。批評家からの評価も高く、ゴールデン・グローブ賞、インディペンデント・スピリット賞にノミネートされ、サンダンス映画祭観客賞と監督賞をW受賞という快挙を成し遂げる。2014年には、舞台はリバイバル作品としてブロードウェイに進出、トニー賞4部門に輝く。続く2015年には、ミッチェルが再び主演を飾り、トニー賞名誉賞を受賞する。そして2017年10月、オリジナル版の日本初上演を果たす。 その他の監督作品は、『ショートバス』(06)、インディペンデント・スピリット賞にノミネートされた、ニコール・キッドマン主演の『ラビット・ホール』(10)、TVシリーズ「ナース・ジャッキー5」(13)など。最近では、アニメ「ユーリ!!! on ICE」のヴィクトルのモデルとなったことでも話題になる。




映画『パーティで女の子に話しかけるには』 © COLONY FILMS LIMITED 2016

映画『パーティで女の子に話しかけるには』
12月1日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次ロードショー

1977年、ロンドン郊外。パンクなのに内気な少年エンは、偶然もぐりこんだパーティで、反抗的な瞳が美しい少女ザンと出会う。大好きなセックス・ピストルズやパンク・ファッションの話に共感してくれるザンと、たちまち恋におちるエン。だが、ふたりに許された自由時間は48時間。彼女は遠い惑星へと帰らなければならないのだ。大人たちが決めたルールに反発したふたりは、危険で大胆な逃避行に出るのだが──。

監督・脚本:ジョン・キャメロン・ミッチェル
原作:ニール・ゲイマン「パーティで女の子に話しかけるには」
衣装:サンディ・パウエル
出演:エル・ファニング、アレックス・シャープ、ニコール・キッドマン
配給:ギャガ
原題:How to Talk to Girls at Parties
2017/イギリス、アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/103分

公式サイト


▼映画『パーティで女の子に話しかけるには』予告編

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