『エンドレス・ポエトリー』主演&音楽担当のアダン・ホドロフスキー(写真:荒牧耕司)
アレハンドロ・ホドロフスキー監督の最新作『エンドレス・ポエトリー』が11月18日(土)より公開。主演と音楽を手掛けたアダン・ホドロフスキーが映画の公開に合わせて来日し、インタビューに応えた。
ホドロフスキー監督は自身の少年時代を描いた前作『リアリティのダンス』に続き、この『エンドレス・ポエトリー』では青年期を映画化。家族・恋人との出会いと別れ、夢を求め芸術を志す若者の青春を、強烈な色彩と祝祭性溢れる世界観で描いている。今回のインタビューでは、鬼才と称されるホドロフスキー監督の一家に生まれ、早くからアーティストを目指していたアダンの口から、子供時代のエピソードやホドロフスキー監督のアートに対する情熱が語られた。
「ずっと僕は俳優になりたかった。というのもスターになって自分のエゴを満足させたかったからだ。でも時が経つにつれて、そして自分が父親になり、様々な演技をしてツアーをして映画を作ったら、有名人たちの世界は恐ろしい世界だと気づいた。そこにはエゴしかない。彼らの望みはエゴを満足させること、ただそれだけだ。僕はそんな世界の一部にはなりたくない。今、僕は映画で卑劣な役を演じても気にかけないよ。芸術を生み出すこと、世界のために何か有益なものを生み出すことに関心がある」(アダン・ホドロフスキー)
父アレハンドロは何かを癒やさなければならなかった
──お父様のアレハンドロと仕事をした経験について、ぜひお聞かせください。この役はあなたにとってどのような意味がありましたか?
多くの意味があったよ。僕は父を演じるに当たり、撮影のためにまず10キロ減量しなければならなかった。というのも父は当時、とても痩せてたからね。そして僕は長い間、演技をしてなかったから、再びセリフを覚えることから学ばなければならなかった。でも撮影は時系列だったから、最初は素朴な青年が、数週間して精神的に安定し、最終的に心を開いた人物へと変化していく。父も最初はとてもシャイで、徐々に心を開いていくから、物語としても完璧だった。強烈な体験だったよ。父は何かを癒やさなければならなかったからだ。父は彼の父親と一緒に何かを癒やさなければならなかった。そして、僕が父を演じたことで父の癒しに貢献できたことで、僕自身も癒されたんだ。
映画を撮った後、僕は別人になった。事実、僕は髪を剃り、アタカマ砂漠に行き、髪を砂漠に埋めた。それから多くの儀式を行うようになり、子供も生まれた。僕の人生は完全に変わったんだ。アーティストとしての名前は、以前はアダノフスキーだったけど、今はまたアダン・ホドロフスキーだよ。ありのままの自分を受け入れたんだ。
映画『エンドレス・ポエトリー』より ©Pascale Montandon-Jodorowsky
世界のために何か有益なものを生み出すことに関心がある
──成功者になるよりも、偉大なアートを作る方がすばらしいという考え方について、どう思いますか?
その考えはとても重要だ。創作する時、成功の目的があるとしよう。例えば、成功し金を手に入れ、大きな夢を叶えた後は何が残る?君は何者だ?前と同じ人物だから、別のことに取り組む必要があるだろう?人は成長しなければならないし、意識も発達させなくてはならない。世界の種、宇宙の種になる必要がある。僕は自分が種だと感じるし、みんな種だと思う。だからこそ僕らは生きている。芽を出して成長し、意識を高めるために存在している。
ずっと僕は俳優になりたかった。というのもスターになって自分のエゴを満足させたかったからだ。でも時が経つにつれて、そして自分が父親になり、様々な演技をしてツアーをして映画を作ったら、有名人たちの世界は恐ろしい世界だと気づいた。そこにはエゴしかない。彼らの望みはエゴを満足させること、ただそれだけだ。僕はそんな世界の一部にはなりたくない。今、僕は映画で卑劣な役を演じても気にかけないよ。芸術を生み出すこと、世界のために何か有益なものを生み出すことに関心がある。以前のような夢はもう持っていない。
映画『エンドレス・ポエトリー』より ©Pascale Montandon-Jodorowsky
──子供のころから俳優になりたかったのですか?今、子供が生まれて、自分の子供にもアーティストの道を進んでほしいと思いますか?
僕は父の創作活動をずっと見ていた。父が午前11時から午後9時まで一日中、執筆しているのを見ていた。ずっとそんな生活だったから、僕は芸術に夢中なんだ。すばらしい手本がいたからね。俳優に限らず、アーティストになるのが当たり前だと思っていたんだ。学生の頃、「何になりたい?」と聞かれると、僕は「詩人になりたい!作家になりたい!俳優になりたい!」と答えていた。だから父が「『サンタ・サングレ/聖なる血』に出たいか?」と言った時、僕は「うん」と答えたんだ。
息子のアリオンには、好きに生きてほしいと思っているよ。でも、僕らの家にはギター、ベース、ドラム、ピアノなど色々な楽器があるし、彼は古い映画なんかも大好きでよく観ているんだ。だから色々なことに興味を持って、彼が良いと思う道を歩んでほしいよ。
「突然のハプニングに巻き込まれる」ホドロフスキー家
──あなたが子供のころのエピソードをもう少し教えて下さい。
紫色のカーペットが敷いてある瞑想部屋があって、いつもそこで父と瞑想をしていたんだ。そのころ父は服も車もベッドカバーも全てを紫にしていたんだけど、それを父から瞑想を学んでいる人たちもマネし始めたから、なんかのセクトみたいになって(笑)。それで紫はやめたみたいだ。あと、子供の頃、母が泣きながらピアノを弾いていたことがあった。その時は何故泣いているのかわからなかったんだけど、その少し後に両親が離婚したんだ。僕は父と一緒に暮らすことになったんだけど、母のピアノだけが残っていた。僕はそのピアノを見るたびに悲しくなってしまうから、それは良くないと思って、ある日友達に手伝ってもらって庭に穴を掘ってそのピアノを埋めて、そこにさくらんのぼ木を植えたんだ。大人になった今、あの家に行ってその音符みたいなさくらんぼを食べたいと思っているよ。
映画『エンドレス・ポエトリー』より ©Pascale Montandon-Jodorowsky
──ホドロフスキー家に生まれるというのはどういうことなんでしょう?
普通ではないよね(笑)。ホドロフスキー家に生まれるというのは、つねに「突然のハプニングに巻き込まれる」ということ。夕食時に私たち兄弟がそれぞれ椅子の上に立たって詩を朗読させられたり、鼻くそでゾウの絵を描いたり、日本が大好きな父から忍者の修行をさせられたこともある。「歩く時には絶対に音を立てるな!」と怒られたり。瞑想のクラスや、セラピーのクラスもあったので、お弟子さんもたくさん出入していたし、朝起きたらピーター・ガブリエルがうちで朝食を食べていたこともあった(笑)。毎日がパーティのようでした。僕自身はその状況を楽しんでいたし、なにより、父は酒もタバコもドラッグもやらないし、いつも哲学的な話をしていた。僕らの精神性を高めるような教育をしてくれたことをとても感謝しているよ。
映画『エンドレス・ポエトリー』より ©Pascale Montandon-Jodorowsky
ジョージ・ハリスンがコードを書いてくれた紙を捨ててしまった
──メインテーマが印象的で、ずっと頭の中に流れています。本作の音楽パート制作で大変だったことはありますか?
ありがとう。あの曲は、当時サティの「ジムノペディ」をよく聴いていてインスピレーションを受けて作った曲なんだ。大変だったのは……劇中、母役のパメラのセリフは全て即興で歌っているんだ。それに後で伴奏を入れているんだけど、前作『リアリティのダンス』の時はパメラの唄のテンポにばらつきがあって、音楽を合わせるのにとても苦労したんだ!だから今回は、最初からパメラにテンポを保ってもらうようお願いして、音程も事前に音叉でとってもらったから、とてもスムーズに音楽を付けることができた。あと今回は主演だったから、演技をしながら頭でメロディーを奏でて、後でスタジオでそれを再現した。
▼メキシコではミュージシャンとして高い人気を誇るアダン・ホドロフスキー。来年リリースが予定されているニューアルバムからの新曲「Vivir con valor」
──あなたの音楽的なルーツを教えて下さい。ジョージ・ハリスンにギターを教えてもらったというのは本当ですか?
父はほとんど音楽を聴かないのだけど、僕の母はピアノを弾いていたし、クラシックが大好きだったんだ。だから母の影響が大きいね。ラテン音楽は妻からの影響かな。ティーンエイジャーの頃はパンクバンドをやっていたし、ロックもファンクもフォークも好きだ。色々な音楽を聴くよ。
ジョージ・ハリスンからギターを教わった経緯は父親とジョージが友達だったから。『ホーリー・マウンテン』でジョージに泥棒役をオファーしていたけど、お尻の穴を洗うシーンが嫌だということで実現しなかった。ある日、父親に連れられジョージの家に行ったら壁にギターが飾られていて、3つのコード(E.A.B)を教わった。でも、なんとなくギターを触っているうちに弾けるようになったから、ジョージがコードを書いてくれた紙を捨ててしまったんだ。今となってとても後悔しているよ。
──ホドロフスキー監督の次回作にもあなたが出演するのでしょうか?
もちろんだよ!父は既に脚本を書き始めてる。『エッセンシャル・トリップ』というタイトルになるようだよ。ブルトンやマルソーに会ったり、とても刺激的なパートだからね。かならず傑作になると思うよ。僕も心の準備はできてる。父がもしこの作品の製作を止めるようなことがあっても、大丈夫!僕が続きを作るから。
アダン・ホドロフスキー(Adan Jodorowsky) プロフィール
1979年、フランス生まれ。ホドロフスキーの末の息子。『サンタ・サングレ/聖なる血』(1989年)で映画初出演。その後多くの短編を監督する一方で、ジャック・バラティエ監督の『Rien, voilà l'ordre』(2003年)、ジュリー・デルピー監督の『パリ、恋人たちの2日間』(2007年)など、様々な作品に出演。また、ミュージシャン「Adanowsky」としても活躍しており、『リアリティのダンス』(2013年)や本作のオリジナル・サウンドトラックを作曲している。
映画『エンドレス・ポエトリー』
2017年11月18日(土)より、新宿シネマカリテ、
ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
撮影:クリストファー・ドイル
出演:アダン・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、ブロンティス・ホドロフスキー、レアンドロ・ターブ、イェレミアス・ハースコヴィッツ
配給:アップリンク
2016年/フランス、チリ、日本/128分/スペイン語/1:1.85/5.1ch/DCP
【初日トークイベント開催】
東佳苗(縷縷夢兎 デザイナー/アートディレクター)×ゆっきゅん(電影と少年CQ /@guilty_kyun)
日程:2017年11月18日(土)
時間:15:00の回 上映終了後トークイベントスタート
会場:新宿シネマカリテ【初日来場者特典】
11月18日(土)先着
ホドロフスキーのポエトリー付き特製カード
対象劇場:新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷、立川シネマシティ、109シネマズ川崎、シネマ・ジャック&ベティ、千葉劇場