映画『悪魔祓い、聖なる儀式』 © MIR Cinematografica – Operà Films 2016
シチリアで古くから行われている悪魔祓いの現場を収めたドキュメンタリー映画『悪魔祓い、聖なる儀式』が11月18日(土)より公開。webDICEではフェデリカ・ディ・ジャコモ監督のインタビューを掲載する。
ジャコモ監督は、シチリア島の有名なエクソシスト(悪魔祓い)、カタルド神父に密着し、実際の儀式に潜入。悪魔に取り憑かれたと信じる人々が神父の前に列をなす様子や、そうした人々の日常、ひとりひとりに熱心に対応する神父の姿を、ときにはユーモアさえも感じさせるタッチで描いている。
「私はカトリック信者ではないし、カトリック信者が言う意味での悪魔の存在は信じていません。ただ私は何年も瞑想をやっているので、その中で悪というものはあると思っていて、それは外から来るものではなく、それぞれの存在の中にあるものだと理解しています」(フェデリカ・ディ・ジャコモ監督)
撮っているものに善悪の判断を下すのではなく、
近づきその世界を受け入れる
──“エクソシズム”というテーマを選んだきっかけを教えてください。
シチリアでエクソシズムを行う神父の養成講座があるという記事を新聞で読んだことがきっかけです。エクソシズムは中世の過去のものだと思っていたのに、それが現代的な「養成講座」というものと組み合わさっていたので、興味を抱きました。当時シチリアに住んでいたのですが、シチリアはエクソシストの数が多いということもあり、調査を始めました。
映画『悪魔祓い、聖なる儀式』撮影中のフェデリカ・ディ・ジャコモ監督(左) © MIR Cinematografica – Operà Films 2016
──どのようにしてここまでの映像を撮ったのだろう?と驚くような場面が多くありました。本作の撮影にあたり、入念なリサーチや撮影交渉など、大変な苦労が多かったのではないでしょうか?一番苦労したことや、撮影中の印象的なエピソードがあれば教えてください。
初めはビデオカメラを持って、教会に入ることも難しい状態でした。当然司教の許可を取ることも必要でした。そのために、私は共同脚本家のアンドレア・サングィニと何度もミサに参加して、時間をかけて徐々になじんで信用を得ていきました。撮影には3年の年月がかかりました。また、撮影対象に対して適切な視点を保つということもとても難しいことでした。撮っているものに対してこちらから善悪の判断を下すのではなく、その世界に近づきその世界を受け入れるということに苦労しました。
映画『悪魔祓い、聖なる儀式』 © MIR Cinematografica – Operà Films 2016
──特に、神父の元を訪れる信者の人々の切実な姿に心を掴まれました。
今回びっくりしたのは、エクソシストを求めてくる人たちというのは、必ずしも敬虔なカトリック信者だけではないということです。教会にはたまにミサに来るという程度の信者が多かったのです。エクソシストを求めてやって来る人々は、治療を求めて魔術師など色々な場所を訪れ、結局何も改善されず、最後の砂浜(可能性)として神父の元にやってくるような人々でした。
カトリック側からの反応は良い
──イタリア本国、ヴァチカンからの本作への反応はどのようなものでしたか?
公式にヴァチカンから言ってきたということはないのですが、カトリック関係のメディアからは、特に好評価をもらっています。ただ、国際エクソシスト協会から一つだけ批判的な意見をもらいました。「映画としては良いのだが、映画に映されているエクソシスト神父の行動の中には、自分たちが教えているものとは必ずしもマッチしないものがある。実際のエクソシストの神父が行わなければならない儀式と違うところがある。」という批判はありました。
私自身も、国際エクソシスト協会が開いている養成講座を訪れて話をした時に、多くの神父の方々からは、実際に自分たちが行っている現実を見せてくれてありがとう、と感謝の言葉をいただきました。今の所カトリック側からの反応は良いと言っていいと思います。
映画『悪魔祓い、聖なる儀式』 © MIR Cinematografica – Operà Films 2016
──多くのドキュメンタリー映画を手掛けていますが、今まで手掛けてきた作品を通じて普遍的なテーマというものはありますか?
社会の底辺、淵に住んでいる人々は自分が生存するためのストラテジーを働かせて、個人個人が工夫して社会で生き抜く方法を見つけています。最初のドキュメンタリー映画では観光産業について注目しました。2番目は、自分の家を占拠して自分の居場所を守る人々に注目しました。他人にとっては過激な解決策ではあるかもしれないけれど、そういった個人のストラテジーを編み出し、苦しむ人たちも世界の片隅で生きていこうとする、固有の世界を作り上げようとするところに興味があり、テーマとしています。
映画『悪魔祓い、聖なる儀式』 © MIR Cinematografica – Operà Films 2016
行動から物語が滲み出てくる映画を作りたい
──日本では、映画『エクソシスト』の人気は高いですが、現代でもエクソシストの需要がこんなにも高いということは、ほとんどの人が知りません。試写会では、本作にユーモアを感じて観ながら笑ってしまう人、衝撃の映像に驚いて怖がる人など、反応は様々です。日本の観客にどんなことを感じてもらいたいですか?
イタリアでも、エクソシズムがまだあるなんてビックリしています。そんな中、日本でこの作品が配給されることはとても嬉しいです。なぜなら日本の精神文化はとても素晴らしいものだと思っているからです。この映画を見た人たちがどのように感じるのかとても楽しみです。例えば、こういったエクソシズムを行う人々の身体を使った表現方法とか、自分の苦しみを体を使って表す姿を、日本の人たちにどう受け取られるのかとても興味があります。
映画『悪魔祓い、聖なる儀式』 © MIR Cinematografica – Operà Films 2016
──監督自身はカトリックですか?また、悪魔の存在を信じていますか?
私はカトリック信者ではないし、カトリック信者が言う意味での悪魔の存在は信じていません。ただ私は何年も瞑想をやっているので、その中で悪というものはあると思っていて、それは外から来るものではなく、それぞれの存在の中にあるものだと理解しています。
──ナレーションを一切使用しない事は、本作製作にあたりどの段階で決まっていたのでしょうか?
この映画だけではなく、今まで製作した全ての映画にナレーションを入れていません。私はそういった映画を「職業俳優でない人たちの映画」と呼び、それが好きです。彼らがやっていることから何かが生まれてくる。彼らの言っていることではなく、行動から物語が滲み出てくるような映画を作りたいと思っています。色々な意味が1つのテーマの背景に積み重なっているのですが、それはかならずしも合理的なものではなく、身体の動きや雰囲気とかそういうものから出てくるようにしたいのです。監督として、命題を提示したくはありません。私は何かを理解したくて撮っているので、命題を最初から決めてしまったら、自分が何かを求めた答えを放棄したことになると思います。
映画『悪魔祓い、聖なる儀式』 © MIR Cinematografica – Operà Films 2016
──本作を観て、ワイズマンの作品や、ゲリン監督の『工事中』を思い出したという意見が聞かれました。ドキュメンタリーを撮影するにあたり、影響を受けた映画監督やアーティストがいれば教えてください。
ワイズマンやゲリンはもちろんですが、ロシアのドキュメンタリー監督ヴィクター・コッサコフスキや、カナダのドキュメンタリー監督ピーター・メットラーも好きです。
映画『悪魔祓い、聖なる儀式』 © MIR Cinematografica – Operà Films 2016
──撮影中、何か霊的なものを感じられたことはありますか?
これまでエクソシズムを見たことがなかったので、初めて儀式を見た時はとても怖かったですが、段々見ていくうちに、怖さは薄らいでいきました。儀式を行う間教会の中は、エクソシズムを受けている人の苦しみが溢れているので、何か苦しい嫌なものというのは感じました。儀式を受けている人の目の中に異様な気配というものは感じましたね。
(オフィシャル・インタビューより)
フェデリカ・ディ・ジャコモ(Federica Di Giacomo) プロフィール
ラ・スペツィア生まれ。フィレンツェ大学を卒業、人類学を学ぶ。ホアキン・ホルダの「Monos como Becky」(99)とホセ・ルイス・ゲリンの『工事中』(01)に脚本家アシスタントとして参加、バルセロナのポンペウ・ファブラ大学でドキュメンタリー制作の修士を取得。2000年、スペインBTV放送のドキュメンタリー「Los colores de la trance」を撮影。2001年以降、Raisat Cinemaなど放送局のドキュメンタリーを制作。また、2つの短編映画「Close Up」(01)「Suicidio perfetto」(03)を監督。2006年、プロデューサー、脚本、監督を務めた初長編ドキュメンタリー「Il lato grottesco della vita」でトリノ国際映画祭CIPPUTI賞とAvanti賞を受賞。Rai cinemaとB&B Filmが制作したドキュメンタリー「Housing」(09)では、ロカルノ、トリノ、コペンハーゲン、トロントなど数多くの映画祭に出品。現在、ナンニ・モレッティのSacher filmsと共同ドキュメンタリーを製作中。また、ヨーロッパ・デザイン学院でドキュメンタリー制作の教鞭をとり、ローマ・ラ・サピエンツァ大学ではドキュメンタリー制作の修士課程において講師を務めた。本作は、2014年ソリナス賞最優秀ドキュメンタリー脚本賞を共同脚本家アンドレア・サングィニと共に受賞、第73回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門最優秀作品賞を受賞した。
映画『悪魔祓い、聖なる儀式』
11月18日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:フェデリカ・ディ・ジャコモ
原題:LIBERAMI/2016年/イタリア・フランス/94分
日本語字幕:比嘉世津子
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル