映画『ローガン・ラッキー』©2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
2013年に映画監督業を退くことを発表したスティーヴン・ソダーバーグがダニエル・クレイグ、アダム・ドライバー、チャニング・テイタムらを迎え完成させた映画復帰作『ローガン・ラッキー』が11月18日(土)より公開。webDICEではソダーバーグ監督が復帰の理由やキャスティングについて語ったインタビューを掲載する。
仕事と家族を失った男ジミー・ローガンがアメリカ最大のモーターカーイベント、NASCARレース中に大金を盗み出そうとするという、ソダーバーグ監督の代表作『オーシャンズ』シリーズを彷彿とさせる設定ながら、タッグを組む弟や妹、そして服役中の爆破のプロまで、計画に参加する人すべてが悪運に見舞われ続けてしまう。スリリングな強奪作戦の爽快感だけでなく、ツキに見放されながらも奮闘する家族思いのジミーの人間くささに心をつかまれる作品だ。
「脚本を読んで、完成した映像がすぐに見えた。それはまるでオーシャンズ・シリーズの従兄弟のようでいて、多くの点で違った作品だった。私がまた映画を作り始めるするならば、楽しみながら作れる映画がいいと思っていた。シリアスなドラマで復帰する気はなかった。だから、まるでお告げのような感じだった」(スティーヴン・ソダーバーグ監督)
他の誰かに任せるのは嫌だ。自分で監督したい
──まずは映画監督の引退発表後、本作が生まれたきっかけを教えてください。
引退してから2年後くらい……『マジック・マイク XXL』を撮影していた時に、妻の友人経由で私の元に脚本が来た。監督を探すのを手伝ってくれと頼まれたんだ。読んでみたら、とても気に入った。誰が監督に相応しいと思うかと数週間後に聞かれて、私はこう答えた「他の誰かに任せるのは嫌だ。自分で監督したい」とね。
映画『ローガン・ラッキー』スティーヴン・ソダーバーグ監督
その日のうちにセットへ行き、チャニングに会った。「脚本を読んで気に入ったから、監督業に復帰するつもりだ。一緒にやるか?」と聞くと、彼も脚本を読んで賛同したのが始まりだ。
──引退宣言を撤回することに葛藤はありましたか?
あれほど堂々と引退を宣言したので、撤回すれば笑われるだろうとは思っていた。しかし話が進んで、監督復帰が公になった。私は本作をアメリカで配給する際に新しいモデルを採用すると説明した。映画業界に対して私が抱いていた不満の多くを軽減してくれるモデルだ。それで人々の理解を得られたと思う。
(編集部注:この作品はソダーバーグ監督の会社フィンガープリント・リリーシングによる制作。ハリウッドのスタジオの干渉をなくし、作品のクリエイティブ・コントロールのために、事前に海外の配給権を売ることで予算を用意した。海外へのプレセールスで2,900万ドルを獲得。さらにHBOやNetflixなどのチャンネル、VODやテレビ、飛行機での上映の権利といった「映画館での上映以外の全て」を売却することで、映画のプリント代と宣伝費を確保するという計画だった)
──他人に渡したくないと思うほど本作に強く惹かれたポイントは何ですか?
脚本には大きく2種類ある。読み始めるとすぐに映像が見えてくるものと、映像が浮かばず、ただ文章を読んでいるだけのものだ。本作の場合は、完成した映像がすぐに見えた。それはまるでオーシャンズシリーズの従兄弟のようでいて、多くの点で違った作品だった。
それに、もし私がまた映画を作り始めるするならば、楽しみながら作れる映画がいいと思っていた。シリアスなドラマで復帰する気はなかった。だから、まるでお告げのような感じだった。そういうサインが現われた時は気にするタイプなんだ。
トントン拍子に事が運んだこともある。キャスティングも製作費もすんなり集まった。それら全てが確信を与えてくれた。「これは先に進めるべきプロジェクトなんだ」とね。
映画『ローガン・ラッキー』©2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
彼らは社会から忘れ去られた、真のはみ出し者たちなんだ
──オーシャンズ・シリーズの従兄弟のようで多くの点で違うとはどういうことでしょうか?
オーシャンズ・シリーズとの大きな違いはいくつかある。1つは主人公たちが最初から泥棒ではないことだ。だから盗みを働く前に仕事の仕方を学ぶ必要がある。そして、それが本作の面白さでもある。強盗に何が必要か分からず失敗を繰り返す。もう1つは主人公たちの生活環境だ。
彼らにはお金も技術もない。彼らは問題に直面するたびに、その場で臨機応変に解決策を練らねばならない。そこが面白い対比になっていると思ったんだ。ゴージャスでグラマラスな風格を持つオーシャンズ・シリーズとのね。オーシャンズには不可欠な部分だ。
私がこの物語を気に入ったのは、全員が完璧じゃないところだ。こんな質問を受けたことがあるんだ。「ウェストバージニアで暮らす主人公たちのような人は、自分たちの状況を政治的に主張するようになると思うか?」私はこう答えた。ウェストバージニアの人々には誰が大統領でも与党がどこでも関係ない。誰も彼らに手を差し伸べない。今までもそうだったし、これからも変わらない。彼らは社会から忘れ去られた、真のはみ出し者たちなんだ。だから彼らを描くのに必要なのは、目の前の状況と、それにどう対処するかだけだ。それが本作の脚本のもう1つの魅力だ。現実がフレームの外から染み出てくるが、物語の中心ではないんだ。
映画『ローガン・ラッキー』©2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
──物語の概略について解説してください。
『ローガン・ラッキー』は、ウェストバージニアの「呪われた」家族の物語だ。物語は考えられないないほど悲惨な状況から始まる。彼らは一発逆転をかけてカーレース場から大金を盗む計画に着手する。
浅はかな計画と言えるかもしれない。しかし、それが自分たちの陥っている状況から抜け出す唯一のチャンスだと感じている。
──脚本家のレベッカについて憶測が広がっています。あなたの妻、ジュールス・アズナーの変名だとの噂もありますが、何か話せることはありますか?
レベッカはレベッカだよ。この騒動を注意深く見守ってる。表に出ることには全く興味がないと思う。
──表には出ない?
そうだ、私も理解している。映画の話題の中心に自分が置かれることを彼女は望んでいない。彼女はすばらしい脚本を書き、一歩引いたところから事の成り行きを見守っている。彼女は次の作品に取り掛かっているので、宣伝活動で邪魔するつもりはない。どこかのタイミングで姿を現し、語ってくれるだろう。
──次の作品があると聞いて、うれしく思います。最初に連絡した相手はチャニング・テイタムとのことでしたが、彼と仕事するのは何回目?
4回目……?だと思う。製作総指揮を務めた『マジック・マイク XXL』を入れれば4.5回目だ。
──そうでしたね。彼を何度も起用する理由は何ですか?また、本作起用の理由は?レベッカが出したコメントによると、チャニングの生い立ちから着想を得たとのことでした。そのことについては?
主人公のジミー・ローガンは、レベッカの頭の中では、今とは違う人生を歩んだもう1人のチャニングだ。フットボール選手として道がケガによって断たれ、彼は生きていくための別の道を模索した。そして大成功を収めた。ストリッパーやモデルとしてね。レベッカはパラレルワールドを想像したんだと思う。「もしチャニングがアラバマに戻っていたら?」「高校時代からの恋人と結婚し、子どもを授かったが、大学1年までがピークだった、何もない人生を送っている」それと組み合わせたのが、レース場で起こった陥没の実際の顛末だ。炭鉱夫たちを連れてきて、コースの内野を補強した事実がある。チャニングを知ってるからこそ、すぐに分かったんだ。このパラレルワールドの中のもう1人の自分を、彼なら簡単に理解し、役に入り込めるだろうとね。
映画『ローガン・ラッキー』ジミー役のチャニング・テイタム ©2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
ジミーを演じる人物に必要なのは、自分の価値観を持っていること。自分のルールに従って生きていること。友達や自分の仲間に対して忠実な人物であること。そして、本物の誠実さを持っていること。チャニングは全てに当てはまる人間だ。それらは、カメラの前で偽るのが難しい素質だと思う。不可能ではないが、非常に難しい。だが、チャニングがジミーを演じる場合、元から同じ資質を持っている。役についてチャニングと話し合ったことと言えば、見た目に関することだけだ。「髭を剃るのをやめて、たくさん食べろ」、撮影初日にそう伝えた。
映画『ローガン・ラッキー』©2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
──本当に?
それを聞いて喜んでたよ。なにせ『マジック・マイク XXL』は食事制限が大変な作品だった。野菜ジュースだけとか、本当に気の毒だった。あの肉体を維持するのが実に大変なんだ。今回はそれがない。
──ピザも食べ放題ですね。
運が悪いことに追加撮影が必要になったんだが、数ヵ月経っていたのですでに体重を落としていた。
ダニエル・クレイグに「ジェームズ・ボンドとは真逆の役だ」とオファーした
──アダム・ドライバーとチャニング・テイタムは完璧な兄弟でしたよね。アダムを起用した理由は?
アダムを選んだのは、クライドに必要な内面性があったからだ。直情型のジミーに対して、クライドはかなりの慎重派だ。アダムはとても穏やかでありながら、それと同時に観客を完全に魅了できる。私が求めていたのは物静かで、思慮に富んだ素質の持ち主だ。外交的でエネルギッシュなジミーと正反対のね。『GIRLS/ガールズ』で彼を知って、ずっと観ていた。そのあと彼の出演作を全て観て、「この子はいい。きっと成功する」と思った。アダムを見れば誰もが思うはずだ。「いつか大きな賞を受賞するだろうな」ってね。
映画『ローガン・ラッキー』兄ジミー役のチャニング・テイタム(左)と弟クライド役のアダム・ドライバー(右) ©2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
──片手でカクテルを作れるようになるまでどれくらい?
アダムは相当、懸命に練習してたと思うよ。物語の中ではちょっとした逸話だがね。たまに練習風景の写真を送ってくれたよ。いよいよカクテルシーンの撮影の日が来て、彼に指示を出して撮影が始まった。一発で完璧にやってのけ、皆を驚かせたよ。
──ダニエル・クレイグもジョー・バング役で出ています。物語におけるジョーの役割についてと、金髪で囚人服を着たダニエルを見た時のリアクションを教えてください。
まずキャスティングの経緯だが、ダニエルとは非公式に仕事で会ったことがあった。私が製作を務めた『ジャケット』という映画で、監督のジョン・メイブリーを介して会った。わずかな時間だったが、その時に彼がユーモアのセンスの持ち主で、楽しい人だと知った。だが、彼のそうした一面を引き出している人が少ないことに気づいた。ジョー・バングという人物は、ローマ花火のように観客の目をくぎ付けにする。言うこと成すこと全て笑えるキャラクターだ。ダニエルは人柄的にもキャリア的にもこの役にピッタリだと思ったんだ。ただ勝手気ままに面白い言動をするだけ、見た目は気にしなくていい。気に入るかと思って脚本を送った。
映画『ローガン・ラッキー』左からダニエル・クレイグ、チャニング・テイタム、アダム・ドライバー ©2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
ダニエルが興味があると言うので、私はこう説明した。「カッコよさは求めてない。ジェームズ・ボンドとは真逆の役だ。君にとっては未知の役だが、いいか?」彼は「ありがたい」と答えた。しばらくして、彼からEメールが送られてきた。金髪角刈りの写真と一緒に「こんな感じでどう?」とね。入れ墨もあって、全てが完璧だった。彼は楽しんでやってたと思う。映画全体を背負わなくていいから気が楽なんだ。
映画『ローガン・ラッキー』©2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
──楽しさがポイントだったとおっしゃいましたが、トップスピードで走る車など、難しい撮影もありました。スターにとっては緊張する撮影だったのでは?
一番大変だったのは、自動車レースに関わる撮影だ。実際のレース中に複数のカメラを連携させて撮影を行った。3つのロケーションを1つにつなげるために必要なピースを全てそろえる必要がある。キャラクターをA地点からB地点へ歩かせ、さらにC地点へ降りて行かせる。同時刻、同じ場所に見えるようレース中に撮影する。だが、それは事前計画と撮影の連携の問題に過ぎない。
レースシーンは興味深かった。近距離からの車の撮影は当然、後日に別で撮影した。シャーロット・モーター・スピードウェイでは、平均で時速300キロ以上のスピードが出る。我々が撮影した時は、時速170キロほどで走らせた。私は撮影車両の中でモニターを見ながら「速すぎる!近すぎる!」としか考えられなかった。
レンズとマシンの距離は30センチ以下しかなかった。撮影車両に乗ってるだけで怖かったのに、あの2倍のスピードで運転するなんて想像もできない。スタントドライバーは見事だった。マシンがスピンして、クラッシュするシーンがある。壁にぶつかってスピンし、2台が人を避けて逆方向に行くんだ。6テイク撮り終えて斜面の上から見たら、6回分のタイヤのスリップ痕が完全に一致していた。驚くほど正確なんだ。毎回、人の横スレスレを車が通り過ぎていたよ。
(オフィシャル・インタビューより)
スティーヴン・ソダーバーグ(Steven Soderbergh) プロフィール
1963年1月14日、アメリカ ジョージア州アトランタ生まれ。脚本家、監督、プロデューサー、撮影監督および編集者として活躍。最近では、2シーズンにわたってCinemaxのシリーズ番組「The Knick/ザ・ニック」の製作総指揮と監督を務めた。2000年には監督作『トラフィック』でアカデミー賞を獲得したほか、『エリン・ブロコビッチ』でも同賞にノミネートされた。それ以前には、監督デビュー作となった『セックスと嘘とビデオテープ』でアカデミー脚本賞にノミネート。さらに、1989年カンヌ国際映画史でパルムドールの栄誉に輝いた。その他、『サイド・エフェクト』、『マジック・マイク』、『エージェント・マロリー』、『コンテイジョン』、“And Everything is Going Fine”、『ガールフレンド・エクスペリエンス』、『インフォーマント!』、『チェ』、『オーシャンズ』3部作、『さらば、ベルリン』、『Bubble/バブル』、『リベリオン』、『ソラリス』、『フル・フロンタル』、『イギリスから来た男』、 『アウト・オブ・サイト』、『グレイズ・アナトミー』、『スキゾポリス』、『蒼い記憶』、『わが街 セントルイス』、『KAFKA/迷宮の悪夢』などに携わる。2013年エミー賞の監督賞を受賞したテレビ映画『恋するリベラーチェ』は、同年5月にHBOで初放映された。2009年にはシドニー・シアター・カンパニーのために戯曲“Tot Mom”を企画、演出した。シドニー滞在中に、映画“The Last Time I Saw Michael Gregg”を監督。2014年4月には、ニューヨークのパブリック劇場で世界初演されたスコット・バーンズの“The Library”を演出した。現在はHBO作品“Mosaic”に携わっている。
映画『ローガン・ラッキー』
11月18日(土)TOHOシネマズ 日劇ほかにて全国ロードショー
足が不自由で仕事を失い、家族にも逃げられ失意の人生を送る炭鉱夫ジミー・ローガンにはある企みがあった。それは、まもなく開催される全米最大のモーターカーイベントNASCARのレース中に大金を盗み出すという<前代未聞の強奪計画>―。早速、戦争で片腕を失った元軍人で冴えないバーテンダーの弟クライドと、美容師でカーマニアの妹メリーを仲間に加えたジミーだったが、ツキに見放されてきたローガン一家だけでは頼りがない。そこで、この大胆な犯行を成功させるため、爆破のプロで現在服役中の変人ジョー・バングに協力を仰ぐ。彼を脱獄させてレース場の金庫を爆破した後、看守が彼の不在に気づかないうちに刑務所に戻すという作戦だ。レース当日、ローガン一味は、何百万ドルもの売上金を運ぶ気送管設備があるサーキットの地下に侵入。全米犯罪史上最も驚くべき強盗事件は成功したかのように見えた…しかしFBI捜査官の執念深い捜査の手がすぐそこまで迫っていた――。
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:チャニング・テイタム、アダム・ドライヴァー、ダニエル・クレイグ、ヒラリー・スワンク、ライリー・キーオ、セバスチャン・スタン
脚本:レベッカ・ブラント
119分/カラー/英語/2017年/アメリカ
提供:東北新社
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/STAR CHANNEL MOVIES