コンペティション『見えるもの、見えざるもの』より
アジアを中心とした世界から話題作・新作を集める「第18回東京フィルメックス」が2017年11月18日(土)から11月26日(日)まで有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇にて開催される。
今年はコンペティションに9作品が出品され、原一男監督を審査委員長に、國實瑞惠氏(プロデューサー)、エレン・キム氏(韓国/映画祭プログラマー、映画プロデューサー)、ミレーナ・グレゴール氏(ドイツ/アルセナール芸術監督)、クラレンス・ツィ氏(香港 /映画評論家)による国際審査員が「最優秀作品賞」と「審査員特別賞」を選ぶ。そのほか、3名の学生審査員による「学生審査員賞」、クロージング作品とクラシックを除く作品を対象に観客の投票により「観客賞」も選ばれる。期間中はコンペ作のほか、特別招待作品が8作品、特別招待作品「フィルメックス・クラシック」が2作品、「特集上映【ジャック・ターナー】」2作品が上映される。
webDICEでは、市山尚三プログラム・ディレクターと、林加奈子ディレクターの寄稿による、今年の見どころを掲載する。
東南アジア映画の活性化を象徴する
インドネシア映画2作
文:市山尚三(プログラム・ディレクター)2000年以降のアジア映画に起こった大きな変化の一つは、東南アジア映画の活性化だ。もちろん、娯楽映画の伝統を持つフィリピンやタイのように、それまで東南アジアに映画産業がなかったわけではない。だが、大概の娯楽映画は国際映画祭に選ばれるようなクオリティを備えていたとは言い難く、東南アジアの映画が上映される機会は決して多くなかった。フィリピンなどでは商業映画が強力であることが災いし、作家性を持つ映画を作ることが困難という状態が続いていた。
2000年代中盤以降に東南アジアの映画が国際映画祭を賑わせることになったのには幾つかの理由があるが、最大の原因は、デジタルによる映画製作が主流となり、低予算でも映画を作ることができるようになったことだ。これにより、フィリピンなどでは商業映画界とは完全に一線を画したインディペンデント映画が続々と登場した。こうして登場した映画監督の中には後進の育成に力を注ぐ監督たちも少なくない。タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン、フィリピンのブリランテ・メンドーサらがその代表である。
今年のフィルメックスでは、18年の歴史上初めてインドネシア映画がコンペティションに選ばれた。しかも、2作品とも女性監督の映画だ。タイやフィリピンと比較するとインドネシアにはかつては映画産業そのものが存在しなかったと言っていい。その中で1990年代初頭から孤軍奮闘で作品を発表し続けていたのがガリン・ヌグロホだ。フィルメックスで上映される2作品にはこのヌグロホが大きく関わっている。『殺人者マルリナ』はヌグロホの原案をこれが監督第3作となるモーリー・スリヤが映画化した作品だ。一方、『見えるもの、見えざるもの』はヌグロホの娘であるカミラ・アンディニの監督第2作で、ヌグロホ本人もプロデューサーを務めている。インドネシアで何かが起こりつつあることを予感させてくれるこの2作品、是非ともこの機会に見ていただきたい。
作り手と見る側、双方の映画の自由を応援
文:林加奈子(東京フィルメックス・ディレクター)ドキュメンタリーとフィクションの違いは何か。そもそも違いがあるのか。今年のフィルメックスはそんな事を提起するプログラムとなりました。『ファンさん』を監督したワン・ビンは、脚本を書くそうですし、ドキュメンタリーの父、フラハティ監督の『モアナ』に、娘が現地に戻ってサウンドを付けたバージョンは、照明や演出にも、かなり工夫が凝らされている事が一目瞭然です。中国の『とんぼの眼』は、街やビルに設置されている監視カメラ映像を編集して物語るユニークな作品。『泳ぎすぎた夜』も一見、男の子の様子を静かにカメラが観察するドキュドラマのように見えながら、実はかなり時間を掛けて演出していると聞きました。リアルとナチュラル。映画でそれらを伝えようとするには相応の演出の技が必要なのだと感服しています。
インドネシア、フィリピン、タイ、シンガポールでは、若手作家たちのネットワークを作りながらの台頭が目覚しく、中国では独立系の作家達が果敢に社会に向き合っている切実な視線と動きにも目が離せません。フィルメックスは、<映画の未来へ>をキャッチコピーにして、積極的に海外に発信するアジアの若手たちを、引続き応援して参ります。
初期から<新しい流れを提案したい>とヴィジョンを固めて進めていますが、運営面も含め、オリジナルな事がスタンダードになって来ている手ごたえがあります。作品でも例えば1943年の映画『私はゾンビと歩いた!』は、タイトルからの印象とは違い、決してゾンビホラーものではなく、美しい映像美に酔いしれられる傑作。フィルメックスでしか見られない貴重な上映となる園子温監督の『東京ヴァンパイアホテル 映画版』も、吸血鬼のバイオレンス映画というより、私には映画愛に満ちた大爆笑のエンタメに見えます。固定観念を覆したい。頭を柔らかくして、もっと映画を楽しみたい。フィルメックスは、作り手も見る側も双方の映画の自由を応援し続けます。
コンペティション
『殺人者マルリナ』
インドネシアの僻村。強盗団に襲われ、彼らを殺害したマルリナは、自らの正当性を証明するため、はるか離れた町の警察署に向かうが…。西部劇を彷彿とさせる風景を舞台に、ガリン・ヌグロホの原案を新鋭モーリー・スリヤが映画化。カンヌ映画祭監督週間で上映。
監督:モーリー・スリヤ
英題:Marlina the Murderer in Four Acts
インドネシア、フランス、マレーシア、タイ/2017年/95分
http://filmex.net/2017/program/competition/fc03
コンペティション
『見えるもの、見えざるもの』
脳障害により病院のベッドに寝たきりの双子のきょうだいを看病する10歳の少女タントリ。そんな彼女の心は真夜中に解放される。ガリン・ヌグロホの娘カミラ・アンディニがバリ島の伝説をモチーフに作り上げた幻想譚。現実と幻想が混淆した神話的な世界が美しい。
監督:カミラ・アンディニ
英題:The Seen and Unseen
インドネシア、オランダ、オーストラリア、カタール/2017年/86分
http://filmex.net/2017/program/competition/fc02
特別招待作品
『ファンさん』
本年のロカルノ映画祭で金豹賞を受賞したワン・ビンの最新作。アルツハイマー病で寝たきりになり、ほとんど表情にも変化が見られない老女と周囲の人々をとらえ続ける。一つの死の記録にとどまらず、見る者に様々な問題を投げかけてくる挑戦的な傑作。
監督:ワン・ビン
英題:Mrs. Fang
香港、フランス、ドイツ/2017年/87分
http://filmex.net/2017/program/specialscreenings/ss06
特別招待作品 フィルメックス・クラシック
『モアナ(サウンド版)』
「ドキュメンタリーの父」ロバート・フラハティが妻と共同監督で南太平洋サモアの生活を描いたサイレント映画の傑作。今回は、製作から50年後、島を再訪した娘モニカの尽力によって完成したサウンド版を基に、2014年に甦った貴重なデジタル復元版の日本初上映。
監督:ロバート・J・フラハティ、フランシス・H・フラハティ、モニカ・フラハティ
英題:Moana with Sound
アメリカ/1926年、1980年/98分
配給:グループ現代
http://filmex.net/2017/program/specialscreenings/ssc09
コンペティション
『とんぼの眼』
尼僧になる修行をやめ、俗世間に戻った若い女性チンティン。やがて彼女を一方的に愛していた若者クーファンはインターネットの動画サイトで活躍するアイドルがチンティンなのではないかと思い始める……。中国の現代美術界の旗手、シュー・ビンの初監督作品。
監督:シュー・ビン
英題:Dragonfly Eyes
中国 /2017年/82分
http://filmex.net/2017/program/competition/fc06
コンペティション
『泳ぎすぎた夜』
©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD
雪に覆われた冬の青森。早朝の魚市場で仕事をする父親に絵を届けるため、6歳の少年は通学路を外れ、小さな冒険を始める。2014年のロカルノ映画祭で出会った二人の新鋭監督がその3年後に生み出した共同監督作品。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映された。
監督:五十嵐耕平、ダミアン・マニヴェル
英題:The Night I Swam
日本/2017年/79分
配給:コピアポア・フィルム、NOBO
http://filmex.net/2017/program/competition/fc09
特別招待作品
『東京ヴァンパイアホテル 映画版』
新宿で想像を絶する大量殺人に遭遇するマナミ。やがて彼女は吸血鬼の一族がある目的をもって建設したホテルに監禁されてしまう。Amazonプライムの連続ドラマ作品の特別編集版。常識を超えたバイオレンスがカラフルな美術セットの中で炸裂する異形の傑作。
監督:園子温
英題:TOKYO VAMPIRE HOTEL
日本/2017年/142分
製作:日活
http://filmex.net/2017/program/specialscreenings/ss08
特集上映【ジャック・ターナー】
『私はゾンビと歩いた!』
裕福なホランド家の専属看護婦となったベッツィ。そこで彼女が見たのは、夜、夢遊病者のように館を徘徊する奥方ジェシカの異様な姿だった…。『キャット・ピープル』の大ヒットを受けてジャック・ターナーが同じRKO社で監督、再び成功を収めた傑作怪奇映画。
監督:ジャック・ターナー
英題:I walked with a Zombie
アメリカ/1943年/68分
http://filmex.net/2017/program/sp1/sp01
第18回 東京フィルメックス
2017年11月18日(土)~ 11月26日(日)
会場:有楽町朝日ホール[有楽町マリオン11階][地図を表示]
TOHOシネマズ 日劇[有楽町マリオン9F][地図を表示]
※上映時間・料金などの詳細につきましては、
東京フィルメックス公式サイトをご覧ください。