アレハンドロ・ホドロフスキー監督(左)、ダーレン・アロノフスキー監督(右)
11月18日(土)より新作『エンドレス・ポエトリー』が日本公開となるアレハンドロ・ホドロフスキー監督(88歳)と、『π(パイ)』『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督(44歳)の対談が今年の7月、映画や音楽などの様々なクリエイターを紹介するサイト「TALK HOUSE」のポッドキャストで実現した。webDICEでは、タロット研究者でもあるホドロフスキー監督にアロノフスキー監督がタロットリーディングも受けた、その対談の全容を掲載する。
アロノフスキー監督は、ジェニファー・ローレンス主演の最新作『マザー!』が2018年1月19日(金)に東和ピクチャーズ配給により日本公開が予定されていたものの、アメリカのスタジオ、パラマウント・ピクチャーズの意向により日本公開が中止となることが11月1日に発表された。
この対談の時点ではアメリカ公開前だった『マザー!』は、9月15日より全米で公開。初週は2,368館で公開され、現在まで1,780万ドルという成績だった。ちなみにアロノフスキー監督の『ノア 約束の舟』(2014年)は 1億120万ドル、『ブラック・スワン』(2011年)は1億695万ドルだった。インタビュー中、ホドロフスキー監督が質問している『マザー!』の予算は、IMDBによると推定3,300万ドルとされている。
僕が君を絶賛するのは、
君が新しい道を切り開いているからだよ
(ホドロフスキー)
アレハンドロ・ホドロフスキー(以下、ホドロフスキー):なぜ私にインタビューを?有名な監督がなぜ私に?
ダーレン・アロノフスキー(以下、アロノフスキー):それは……。
ホドロフスキー:君はすごい監督じゃないか。なぜ私なんだ?
アロノフスキー:本当はインタビューされる側かと(笑)。いや実は、僕は若い頃からずっとあなたの映画のファンだったんです。ものすごく影響を受けて、それからあなたの映画を全部見始めました。だから会うことができて本当に光栄です。何年か前に一度お会いしましたよね?たしか2006年のシッチェス映画祭で。覚えてますか?
ホドロフスキー:君の映画を覚えているよ。すべてね。
アロノフスキー:そう、あれは映画の上映後でした。あなたを見かけて駆け寄りました。ただ、とても感謝していたから。『ファウンテン 永遠につづく愛』はあなたの影響を大きく受けた作品だったので。
ホドロフスキー:でも君は僕が尊敬する監督の一人なんだよ。君の一作目の『π』を見てわかったんだ。君が求めているのは魂の真髄だってことをね。とても大きな魂の探求だということを。
アロノフスキー:ありがとうございます(スペイン語で)。
ホドロフスキー:それに君はよく商業映画と闘っている。ハリウッドには君の作品のようなものは他にないと思う。
そして『レスラー』のようなさらに力強い映画を発表した。僕が君を絶賛するのは、君が新しい道を切り開いているからだよ。『ブラックスワン』にも、とてもひき込まれた。そして思ったんだ、「彼ならこの汚い映画界をサバイブできる。ハリウッドを!」と。
アロノフスキー:どうかな?ハリウッドには映画好きな人がたくさんいるけど、少し背伸びをして違うことに挑戦するのは難しいですね。時に最初の意図から離れてしまうこともあるし。
映画『エンドレス・ポエトリー』 © Pascale Montandon-Jodorowsky
ホドロフスキー:最初は簡単なんだ。金がほしくて金をゴールにする。そして金のために働く。そうなると意味が変わってくる。自分や仕事に投資できなくなってしまうんだ。本当は作品を作ることに集中すべきなのに。
アロノフスキー:そうですね。
ホドロフスキー:作品は金を反映する栄誉となる。
アロノフスキー:でもハリウッドが輩出した素晴らしい芸術をどう説明しますか?偉大な映画はたくさんあります。
ホドロフスキー:芸術はまた別のものだよね。
アロノフスキー:はい。
ホドロフスキー:これは「美」と呼ぶ。
アロノフスキー:「美」ですね。なるほど。しかしチャーリー・チャップリンやバスター・キートンなど、長く愛されている美しい映画たちがありますよね。
ホドロフスキー:要するに、理解し難いかもしれないが、映画はネガティブなんだ。美しさだけじゃない。真実を描くことや親切さを感じることができなければいけない。世界を救うために映画を作るのさ。エゴから抜け出して、人間とはなにかを考えることが必要で、最終的に人間について問うことが大切なんだ。でもどうだ?ただ楽しいだけのショーは?犯罪者がいて、戦争があって。そうじゃないだろう。
チャップリンは社会派だ。社会性のある映画を作ったミリオネアだね。今と同じことだよ。ハリウッドやすべてのシステムから抜け出すなら、社会問題のドキュメンタリーを作るんだ。そしてカンヌで上映する。でもそれを見るのは誰だ?ペンギンみたいな格好をしてガーガーうるさいやつだったり、長い髪をたらしたプリンセス気取りのやつらさ。レッドカーペットは血だよ。血にまみれてる。社会問題を取り上げることができないのは最悪だね。そして別のアクションとして次は政治的なものに移行する。芸術じゃなくてね。
アロノフスキー:なるほど。
ホドロフスキー:芸術にはゴールがあるんだ。芸術のゴールとは何か?表現者は何を求めているのか?自分の価値を見出して、それを人前で見せることだ。人々が味わったことのない感覚とともに。でもハリウッドはそんなことしない。ただビジネスを生み出すだけだ。君だから話してるんだよ。他の人だったらこんな風に話さない。世界はひどい状況にある。わたしたちが変えていかなくちゃいけない。
アロノフスキー:そうですね。
ホドロフスキー:どうやって世界を変える?ひとつの方法として精神性が必要だ。今はうまく機能しなくなった精神がね。そこを変えなくちゃならない。でも人はちっぽけな存在だ。どうやって世界を変える?私はまず自分を変えることから始める。
アロノフスキー:興味深いです。
映画『エンドレス・ポエトリー』 © Pascale Montandon-Jodorowsky
ホドロフスキー:私は金のために映画を作らない。金を「失う」ために映画を作るんだ。私が言いたいのは、もし神が金を与えたなら、それは私が頼んだからではないということだ。ただ神が与えただけだよ。私は空を飛ぶ車や大きな家や恋人がほしいわけじゃない。仕事を続けるために金をつかうんだ。前進するにはどうやって観客に与えるかを学ばなければならない。それは自分が自分に与えることでもある。でも私は観客に与えることができなければ何もいらない。なぜ限られた人たちだけが金を手にするんだ。全く持っていない人はたくさんいるのに。言わせてやりたいよ。「私たちは金の奴隷です」とね。映画業界は泥棒の寄せ集めさ。みんな金を吸い取っていく。これが現実さ。すべては金のせいだ。でもこのシステムを変えなきゃいけない。金の連鎖を断ち切るんだ。
アロノフスキー:あなたが何年も映画を撮っていないのはそれが理由ですか?
ホドロフスキー:そうだよ。映画を作るために立ち止まった。泥棒にとられずに資金ぐりをするためにね。
アロノフスキー:なるほど。
ホドロフスキー:誰も「ああしろこうしろ」「あれをするなこれをするな」などとはいわない。私は私の撮りたいものを撮るんだ!どんなものでも作る。
アロノフスキー:最初のいくつかの作品はそんな風に作ったのですか?完全に自分の支配下で?
ホドロフスキー:ああ、そうだよ。
アロノフスキー:『ホーリー・マウンテン』は完全にあなたの映画?
ホドロフスキー:そうさ。『リアリティのダンス』や『エンドレス・ポエトリー』もだ。
アロノフスキー:でももちろん制限はありましたよね?ある時点で「もう制作費がない」「時間がない」といわれたのでは?
ホドロフスキー:まさか。私は自由に撮るために根回しをしたんだ。
アロノフスキー:なるほど。
映画『エンドレス・ポエトリー』 © Pascale Montandon-Jodorowsky
ホドロフスキー:舞台セットも作ったからずっと働いていたよ。妻は衣装を作り、息子を出演させて、撮影場所もいいところを選んだ。みんな協力してくれたよ。どこか心の琴線に響いたんだろう。若人はみな停滞している状況に飽きていて、共に製作することで得られる新しい何かを求めている。私はというと、人生も残り12年ぐらいのものだからね。
アロノフスキー:12年!
ホドロフスキー:88年生きたんだ。
この先12年の間にあなたが5本以上の映画を
撮ってくれることを期待してます
(アロノフスキー)
アロノフスキー:次作は自伝ものですか?それとも別のもの?
ホドロフスキー:3部作になる。『リアリティのダンス』『エンドレスポエトリー』の次の作品さ。若いころアートに触れるためにパリやメキシコに行きたかった。それが始まりだよ。
アロノフスキー:わかります。
ホドロフスキー:あとサイコマジックのドキュメンタリーを撮る。「サイコマジック」とは私が作ったセラピーの言葉だ。
アロノフスキー:どこで撮る予定ですか?
ホドロフスキー:チリやメキシコ、パリ、どこだっていいさ。
アロノフスキー:素敵ですね。
ホドロフスキー:ああ。それから、『エル・トポ』の続編『エル・トポの息子』を作る。もう何年も取り掛かっていないが。
アロノフスキー:ワオ。
ホドロフスキー:しかし金がない。とても高い制作費になるだろう。それからアニメを作ることにした。天才的なアニメ作家を見つけたんだ。彼が書く絵とともに3シリーズで映画を作る予定だよ。
アロノフスキー:ファンとしては、この先12年の間にあなたが5本以上の映画を撮ってくれることを期待してますよ。
ホドロフスキー:そうだね。
アロノフスキー:撮り続けてください。2年に1本ですね。
ホドロフスキー:撮り続ける、じゃなくて生き続ける、だろう?(笑)
アロノフスキー:確かに(笑)。早く私の新作も見てもらいたいです。まだ終わってなくて……。あと2ヵ月かかります。
ホドロフスキー:タイトルは?
アロノフスキー:『マザー!』です。
映画『マザー!』© 2017 Paramount Pictures. All rights reserved.
ホドロフスキー:ああ、そうか!
アロノフスキー:はい。どこかのタイミングでフランスでお見せします。
ホドロフスキー:素晴らしい。ハリウッドがついてるのかな?
アロノフスキー:はい、ハリウッドでの制作です。
ホドロフスキー:よかったね。
アロノフスキー:でも自分の映画をつくらないと。
ホドロフスキー:自由ではいられないよ。
アロノフスキー:実は完全に自由にさせてくれてはいるんです。予算をかけていないので。
ホドロフスキー:いくらぐらい?
アロノフスキー:お金の話はちょっと……(笑)。
ホドロフスキー:2000万ドル?
アロノフスキー:マイクがオフになってから話しましょう(笑)。
ホドロフスキー:言ってみて。
アロノフスキー:後で話しましょう。
ホドロフスキー:後でね。2,000万ドルかな?
アロノフスキー:いずれにせよ、今夜のディナーでまた会いましょう。
ホドロフスキー:わかった。ハリウッドで少ない予算とはいくらぐらいなのか知りたい。私は無一文だから(笑)2,000万ドルあったら、10本映画を作れる。
【ホドロフスキーによるタロットリーディング】
アロノフスキー:実はあなたにタロットで占ってもらうのが夢だったんです。
ホドロフスキー:未来は読まないんだが、望むならやるよ。通常は順番があるんだが、今日はカードを混ぜるよ。私の主観でカードを読むからね。すべてのタロットカードには無限の解釈があるから、主観を使ってその意味を取り出すんだ。次に私から君にカードを渡す。ここにこうして置く。私が動きをつけたら、君も動く。共同作業だ。
アロノフスキー:わかりました。
ホドロフスキー:そうしたら、カードを混ぜて。返したら質問を言って。
アロノフスキー:質問を今ここで言わなきゃダメですか?
ホドロフスキー:言いたくなければ言わなくていい。
アロノフスキー:じゃあ思い浮かべるようにします(カードを返す)。
ホドロフスキー:最上のエネルギーがここに宿り告げている。タロットカードはここに始まって世界に広がり終わる。世界に行け。それがカードの意味だ。素晴らしいね。いいかい。そして、射手が「月をもらう」といった。
アロノフスキー:で、射った。
ホドロフスキー:そう。皆が笑った。「ははは。月を射るなんてできっこないさ」でも彼はやめなかった。結局、月は手に入らなかったが、世界一の射手となった。それは手に入らないかもしれないけど、でも君は素晴らしいものをすでに持っている。
(次のカードを引きながら)これは世界での活動についてだ。君は今世界に羽ばたいてとても高いゴールへ向かっている。太陽がそこへ導いてくれる。太陽は勇気のシンボルなんだ。才能とパッションを持つことだ。そして、変化を受け入れること。過去を流す。新しい現実を成長させるために。君は意気込むと突然革命が起こったように自由になれる。必要なこと、やりたいことをやればいい。仲間と一緒にね。でも考え方を変えなければ、窮地に陥ったままだ。世界は変容しているんから可能だよ。
アロノフスキー:物事は変化している。
ホドロフスキー:私たちにも君にも想いがある。世界は君を待っている。これが君の質問への答えだよ。
アロノフスキー:とても良い答えでした。
映画『エンドレス・ポエトリー』
2017年11月18日(土)より、新宿シネマカリテ、
ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
撮影:クリストファー・ドイル
出演:アダン・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、ブロンティス・ホドロフスキー、レアンドロ・ターブ、イェレミアス・ハースコヴィッツ
配給:アップリンク
2016年/フランス、チリ、日本/128分/スペイン語/1:1.85/5.1ch/DCP