骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2017-11-12 15:10


日本映画として成立させようと製作し、洋画として完成した―阪本順治監督『エルネスト』

日本・キューバ合作、ゲバラと共に戦った日系人の物語 アップリンク渋谷にて上映中
日本映画として成立させようと製作し、洋画として完成した―阪本順治監督『エルネスト』
映画『エルネスト』阪本順治監督 ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.

阪本順治監督がオダギリジョーを主演に迎え、キューバの革命家チェ・ゲバラと共に戦い、彼のファーストネーム「エルネスト」を授けられた日系人青年、フレディ前村を描く映画『エルネスト』アップリンク渋谷にて上映中。webDICEでは、日本・キューバ合作でこの作品を完成させた阪本順治監督のインタビューを掲載する。


「商品性と作家性のバランスをいつも考えるんですが、どうせ異国の文化にまみれるなら、僕なりの色を出したいなと思ったのは確かですね。当然、娯楽として成立させなければいけないけど、型にはめないでやろうと」(阪本順治監督)


チェ・ゲバラは孤高の人、
そしてちゃんと癖のある人だった

──この映画を製作しようとしたきっかけを教えてください。

四年前に考えていた別の企画で、ボリビア日系二世のフレディ前村という人が、チェ・ゲバラと一緒に戦って死んだということを知り、プロデューサーに話したところ、やりましょうとなりました。

彼についてリサーチをするためにキューバに留学してからのご学友の方々に取材したり、ご家族が書かれた「革命の侍」という本を読みました。

──フレディ役にあえて日本人のオダギリジョーさんを起用した理由を教えてください。

取材したみなさんが言うには、フレディの印象は、寡黙で限りなく誠実ということ。それをどういう風に魅力的にするかが今回のテーマだったし、それに見合う役者って誰かなと思った時に、以前から知っているオダギリ君の普段からの佇まいを思い出して選びました。スペイン語圏の俳優を抜擢することは考えていませんでした。あくまで、日本人の監督以下映画人が、まずは日本映画として成立させようとしていたので。

でも、出来上がってみたら、これ、キューバ映画でもあるし、洋画ですね。

映画『エルネスト』 ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.
映画『エルネスト』オダギリジョー ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.

──監督自身チェ・ゲバラをどう思われていますか。そのゲバラをこの映画でどう描きたいと思いましたか。

日本ではわずかな資料でしか彼の事を知ることができないですが、自分の命と引き換えに、自国のアルゼンチンのみならず、圧政にあえぐすべての国々の解放に人生を捧げようとした桁外れの人だと思います。

彼の魅力は、孤高の人であること。ちゃんと癖のある人だったし。

自身言っているようにある種の夢想家であり、不可能なことに臨む人であり、そういう一筋な人の孤高みたいなものを描ければと思いました。それに、フレディがどう感化されたのかを。

東京でゴリゴリ書いた脚本が、
壊れていくのも、やっぱり楽しい

──ゲバラ役の配役についてキューバの俳優を抜擢した理由と、そのゲバラ役のホワン・M・バレロさんに決めた理由を教えてください。

チェ・ゲバラ自身はアルゼンチンの人だったけど、日本とキューバの合作でやる以上、キューバの俳優さんでやるべきだと思いました。

ホワンは、控室で寡黙にオーディションの出番を待っていたその姿が、その肩を落としてうつむいている姿が、僕の思い描く孤高のゲバラの印象に似ていたというか、演技の上手い下手ではなかったですね。何度も、別の人を面接したけど、早い時期のオーディションで会った彼が、結果、忘れられなくて、決めました。

映画『エルネスト』 ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.
映画『エルネスト』ゲバラ役のホワン・M・バレロ(左) ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.

──オダギリジョーさんの役作りについて、全編スペイン語での役柄ですが、いかがでしたでしょうか。

彼も何十回と海外の作品に出て色んな言語を喋っているから、その体得の仕方は信頼していました。本人は、言語を覚えることよりも、覚えたその先の心配をしていました。つまり、他国の言語で感情をどう表現するか、です。が、見事に、チェと会話する場面でも、フィデル、ルイサたち学友と会話する場面でも互いの気持ちの行き交いが成り立っていたので、安心しました。彼しかできない仕事だったと思います。

──長期間滞在でのキューバロケはいかがでしたか。思い通りに撮影できましたか。

外国に来て映画撮れば、文化も習慣も違うし、物づくりの姿勢は一緒だけれども、やはりどこかに差があるんですよ。でもその差をいかせばいい。その時に東京でゴリゴリ書いた脚本が、壊れていくのも、やっぱり楽しいですよ。

ここはキューバの人間から見たら、おかしいって言われて壊れても全然いいですよ。

壊れることによって、次の殻が破られて、何かが生まれる。しんどいですけど、結果それが面白いんですよ。

映画『エルネスト』 ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.
映画『エルネスト』 ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.

──今回の撮影方法についての狙いを教えてください。

商品性と作家性のバランスをいつも考えるんですが、どうせ異国の文化にまみれるなら、僕なりの色を出したいなと思ったのは確かですね。

当然、娯楽として成立させなければいけないけど、型にはめないでやろうと。

台本を書いている時のト書きで、ここは大事だと思っていても、撮りながらそれよりももっと力を注ぐべきところを見つけたり、自分の台本を信じる部分と、一回棄てようという部分で、往復運動してましたね。それがカメラワークにも現れたし、やっぱり人を撮りに来ているわけだから、スティデカムを多用しつつも、カメラワークは目立ってはいけない。そこだけ間違えたくないなっていうのはありました。

映画『エルネスト』 ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.
映画『エルネスト』 ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.

──ハバナ市街での群衆シーンについては?

台本上では、あのような導入にはなっていなかったんです。キューバ国歌を歌う集団が現れるような。撮りながら、あぁ、オレなんで、この時代のそれも他国キューバの群衆を演出してるんだろうと、不思議な気持ちになりました。

でもどうせ俺が撮るんだったら、自分の好きなケレンをやりたいなと。結果、とってもきれいなシーンになったし、キューバのスタッフからも「グラシアス」と言われました(笑)。

──キューバ俳優・スタッフとの共同作業はいかがでしたか。

異国での撮影を何度も経験していますが、どうしても、最初はぎこちなくなるんです。が、彼らの熱に当てられたというか、日本人スタッフが、ラテンの血に染まったのか、あんなにキツい現場であったにも拘らず、12時間労働という制約もあったにも拘らず、なんでか、早い時期からひとつになれたというか。加えて、日本の映画人として悔しいなと思ったのは、映画人は画家や彫刻家や音楽家と同様、芸術家として、認められていることです。日本じゃ、使い捨てですからね。

(オフィシャル・インタビューより)



阪本順治 プロフィール

1958年生まれ、大阪府出身。大学在学中より、石井聰亙(現:岳龍)、井筒和幸、川島透といった“邦画ニューウェイブ”の一翼を担う監督たちの現場にスタッフとして参加する。89年、赤井英和主演の『どついたるねん』で監督デビューし、芸術推奨文部大臣新人賞、日本映画監督協会新人賞、ブルーリボン賞最優秀作品賞ほか数々の映画賞を受賞。満を持して実現した藤山直美主演の『顔』(00)では、日本アカデミー賞最優秀監督賞や毎日映画コンクール日本映画大賞・監督賞などを受賞、確固たる地位を築き、以降もジャンルを問わず刺激的な作品をコンスタントに撮り続けている。昨年は斬新なSFコメディ『団地』(16)で藤山直美と16年ぶりに再タッグを組み、第19回上海国際映画祭にて金爵賞最優秀女優賞をもたらした。その他の主な作品は、『KT』(02)、『亡国のイージス』(05)、『魂萌え!』(07)、『闇の子供たち』(08)、『座頭市THE LAST』(10)、『大鹿村騒動記』(11)、『北のカナリアたち』(12)、『人類資金』(13) 、『ジョーのあした -辰吉丈一郎との20年-』(16)などがある。




映画『エルネスト』 ©2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.
映画『エルネスト』 c2017 "ERNESTO" FILM PARTNERS.

映画『エルネスト』
アップリンク渋谷にて上映中

脚本・監督:阪本順治
出演:オダギリジョー、永山絢斗、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、アレクシス・ディアス・デ・ビジェガス他
配給:キノフィルムズ/木下グループ
2017年/日本・キューバ合作/スペイン語・日本語/124分/ビスタ/カラー/DCP

公式サイト

アップリンク渋谷公式サイト


▼映画『エルネスト』予告編

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