骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2017-10-30 15:15


投獄された弟を救い出せ!サフディ兄弟による最高にクールな犯罪映画『グッド・タイム』

ロバート・パティンソンがNY最下層生まれの銀行強盗を熱演
投獄された弟を救い出せ!サフディ兄弟による最高にクールな犯罪映画『グッド・タイム』

『神様なんかくそくらえ』で2014年の東京国際映画祭でグランプリを受賞したジョシュ&ベニー・サフディ兄弟の新作『グッド・タイム』が11月3日(金・祝)より公開。webDICEではサフディ兄弟のインタビューを掲載する。

前作『神様なんかくそくらえ』でニューヨーク・マンハッタンのストリートに生きる麻薬中毒の少女の彷徨いを描いたサフディ兄弟。ニューヨークの最下層に生きる青年コニーを主人公に、刑務所から病院に移送された知的障害を持つ弟ニックを助け出すために奔走。ふたりがどんづまりの生活から這い上がろうとする顛末がスピード感溢れる演出で描かれている。コニーを『コズモポリス』『ディーン、君がいた瞬間』のロバート・パティンソン、そして弟ニックをベニー・サフディ監督自身が熱演。ポップ・ミュージックの世界だけでなく、実験音楽や現代音楽シーンからも注目を集めるワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが、不穏なブルックリンの夜に映える音楽を担当。エンディング曲「The Pure and the Damned」にはイギー・ポップがフィーチャーされている。

「イギー・ポップが歌詞を書いたエンディング曲「The Pure and the Damned」で、イギーは兄コニーを罪深い者(damned)、弟ニックを純粋な者(pure)としました。彼は“純粋”な人だけでなく“罪深い”人も、愛ゆえに行動を起こすということを示唆しています」(ジョシュ&ベニー・サフディ兄弟)


リアリティ番組に出てくるような犯罪者をイメージ

──どのようにしてロバート・パティンソンが主人公の青年コニーを演じることが決まったのですか?

ジョシュ・サフディ(以下、ジョシュ):私たちが電話でロバート・パティンソンと話したところ、彼はこう言いました「どんな作品でもいい。あなた達の次の映画に関わりたい。どこにでも好きな所へついていくから」とね。彼が演じるコニーは、リアリティ番組「全米警察24時 コップス」に出てくるような低レベルの犯罪者をイメージしました。コニーの中にある切望やもろさに私はとても心惹かれますが、それはロバート・パティンソンが本来持っているものでもあると思います。ロバートはロンドンの郊外出身ですが、NYクイーンズの荒々しい世界に溶け込む必要がありました。だから彼は誰よりも苦労していましたよ。なのでロバートは脚本を書き始める前に何ヵ月もかけて、コニーという人物を作っていきました。

映画『グッド・タイム』サフディ監督 © BRIGITTE LACOMB
映画『グッド・タイム』ジョシュ・サフディ監督(左)ベニー・サフディ監督(右) © BRIGITTE LACOMB

大切なのは、私たちが登場人物を大好きでいることです。登場人物のコニーやニックは常にヒーローで、人生の現状維持を拒否し、成功するために全力を尽くします。ロバートと私たちがたどり着いたのは、とてもチャーミングで好感を持てるけれど、驚くほど矛盾した側面のある男です。ロバートは、自分もつながりたいと必死なよそ者の、まさに電気のヒューズのようなものを創ることができたのです。誰かのために物語を書くとき、その俳優自身が持つ要素もキャラクターに反映させなければなりません。

映画『グッド・タイム』 ©2017 Hercules Film Investments SARL
映画『グッド・タイム』ロバート・パティンソン ©2017 Hercules Film Investments SARL

ベニー・サフディ監督(以下、ベニー):本作に出てくるコニーとニックのどこまでもとことん兄弟を守りたいという気持ちは、十分理解できます。この考えは、子どものころから私たちの頭に叩き込まれていましたから。子ども時代はとても騒々しく劇的状況に満ちていて、私たちは互いの人生で唯一変わらずそこにいる存在だったのです。

映画『グッド・タイム』 ©2017 Hercules Film Investments SARL
映画『グッド・タイム』 ©2017 Hercules Film Investments SARL

──青年コニーの生い立ちなどは劇中描かれませんが、どのようにしてキャラクターを創り上げていったのですか?

ジョシュ:コニーの生い立ちについては、刑務所に入ったことで兄弟は離れ離れになり、多くの受刑者と同様にコニーも、どこで道を誤ったのかと考え始めます。そして出所後、弟に償いをすることだけが彼の人生の目的となるのです。ふたりの自由を確保し、役所の調査や最低賃金労働、その他の落とし穴に満ちた希望のない世界から、弟を連れて抜け出す方法を探していたのです。皆、クイーンズ出身であることを誇りにして語るけれど、クイーンズを出て大都会に住もうと努力しているのも事実。決してカッコいい場所ではないのです。『グッド・タイム』は「うまくいかない一夜」を描いた作品ではあるけれど、純粋に登場人物と彼らが置かれた状況から生まれたものです。私たちは、100分ある上映時間のうち1分1分の登場人物たちの行動すべてにこだわりました。

映画『グッド・タイム』 ©2017 Hercules Film Investments SARL
映画『グッド・タイム』 ©2017 Hercules Film Investments SARL

音楽は作品のもうひとりの登場人物

──そしてベニー監督自身が弟ニック役を演じています。

ベニー:私がニック役を演じると決まってから、創作プロセスはスピードを上げて進み出しました。ロバート・パティンソンと私はコニーとニックとして何週間も文通を続け、兄弟になりきって人生について語り合いました。互いに役立つ深い物語を作りましたよ。ロバートにとっては、コニーの過去の話をより深く創り上げることができ、私はニックが取る行動の動機をより理解することができました。ニックはどんな状況でも、邪魔されずひとりでいられる限り機嫌がいいのです。周りの人々に立ち向かうこともできますが、刑務所に入ってしまうと自分の限界が分からなくなってしまいます。行動が引き起こす結果というものを、理解できないのです。

映画『グッド・タイム』 ©2017 Hercules Film Investments SARL
映画『グッド・タイム』ニックを演じたベニー・サフディ監督 ©2017 Hercules Film Investments SARL

ニック役はとても苦労しました。役に入った状態で共同監督としての仕事もこなしていましたから。ある種の感情がなく、発せられない言葉もあるという役柄でしたからね。スクリーンテストをして初めて、カメラに映る自分の肉体が力強いことに気がつきました。模索中だった別の役のためにボクシングを始めており、体重も増えていました。今こそこの肉体を使うときだと思いましたね。ニックの特徴は、その存在感に表れます。押し倒したり、無視したりできるような相手ではない。だからこそ彼の気性は激しく複雑なのです。自分の力強さを認識してはいるけれど、それを使うタイミングを完全にコントロールすることができないのです。

映画『グッド・タイム』 ©2017 Hercules Film Investments SARL
映画『グッド・タイム』 ©2017 Hercules Film Investments SARL

──ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーによる音楽も印象的です。

ジョシュ:映像で見える要素のすべてに、“それぞれの音”があり、コニーがあるシーンで着ているオレンジのパーカーにも音があります。音楽は、作品のもうひとりの登場人物なのです。

イギー・ポップが歌詞を書いたエンディング曲「The Pure and the Damned」で、イギーは兄コニーを罪深い者(damned)、弟ニックを純粋な者(pure)としました。彼は“純粋”な人だけでなく“罪深い”人も、愛ゆえに行動を起こすということを示唆しています。イギーの「もつれた紐から自分自身をほどく」という歌詞を聞いて、分かり始めたことがあります。コニーは、ただその紐に絡まっているだけなのだと。銀行強盗は、弟を元気づけ、純粋に人生を味わわせるための方法だった。彼には目標とする兄弟の理想像があり、それはただ、楽しみたい(have a Good Time)ということだった。どれだけ多くの人に邪魔されようとね。

(オフィシャル・インタビューより)



ジョシュ&ベニー・サフディ(Josh & Benny Safdie) プロフィール

兄のジョシュは1984年、弟のベニーは1986年生れ。ニューヨーク、クイーンズ出身。兄弟共にボストン大学で学び、在学中に映像制作団体Red Bucket Filmを設立。ニューヨークを舞台に、盗癖のある女性の孤独な人生を描いた『The Pleasure of Being Robbed』(08・未)で長編監督デビュー。自然な手法で仕上げた貧困街を描く作品群をベースに、サフディ兄弟は愛すべきニューヨークの社会的弱者、中毒者、犯罪者、負け犬といった登場人物を扱い、無鉄砲に今を生きる彼らの自由を描き出してきた。自身の幼少時代をテーマにした『Daddy Longlegs』(09・未)でインディペンデント・スピリット賞のジョン・カサヴェテス賞に輝く。その後、初のドキュメンタリー『Lenny Cooke』(13・未)を監督する。『神様なんかくそくらえ』(15)では、ニューヨークに暮らすストリートガールの破滅的な恋を鮮烈な映像とみずみずしい感性で描き出し、第27回東京国際映画祭グランプリと最優秀監督賞のW受賞を果たす。長編監督5作目となる『グッド・タイム』は、世界中から数多くの作品が応募されるなか、第70回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門作品に選ばれ、彼らにとってカンヌ初コンペ作品となった。弟のベニーは、監督と兼任で知的障害者の弟ニック役で出演している。2018年製作予定に、マーティン・スコセッシをエグゼプティブ・プロデューサーに迎えたスリラー『UNCUT GEMS(原題)』が控えている。




映画『グッド・タイム』

映画『グッド・タイム』
11月3日(祝・金)より、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

 

ニューヨークの最下層で生きるコニーと弟ニック。ふたりは銀行強盗を行うが、弟だけ捕まり投獄されてしまう。コニーは言葉巧みに周りを巻き込み、夜のうちに金を払って弟を保釈するよう奔走する。しかしニックは獄中で暴れ病院送りになっていた。それを聞いたコニーは、病院へ忍び込み警察が監視するなか弟を取り返そうとするが……。

出演:ロバート・パティンソン、ジェニファー・ジェイソン・リー、ベニー・サフディ(監督兼任)、バーカッド・アブディ
監督:ジョシュ&ベニー・サフディ
脚本:ロナルド・ブロンスタイン&ジョシュ・サフディ
音楽:ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
配給:ファインフィルムズ
2017年/アメリカ/カラー/英語/100分

公式サイト


▼映画『グッド・タイム』予告編

レビュー(0)


コメント(0)