骰子の眼

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東京都 渋谷区

2008-07-05 15:47


「チカーノファッションの店をやって最初は1年で2500万円の赤字を出して大変だった」KEI

日本人でありながらチカーノたちに認められたKEI。7月7日(月)アップリンク・ファクトリーでトークショーが行われる。
「チカーノファッションの店をやって最初は1年で2500万円の赤字を出して大変だった」KEI
(写真)チカーノになった日本人、KEIさん
chicano_ja

この7月に、東京キララ社より『チカーノギャングスタ』という一枚のDVDが発売される。現在進行形のチカーノギャングたちの実態を追った映像によるルポタージュである本作は、アメリカの刑務所で囚人として10年以上を過ごす中で、日本人でありながらチカーノ(メキシコ系アメリカ人)たちに認められ、出所後の現在も彼らと家族同然の交流を続けているKEIのプロデュースのもと制作された。
本作は、現地の人間でさえ入ることの出来ない危険な地域(コンプトン、18thストリートなど)や、チカーノのコミュニティ内で起こる事件、そして彼らが本音で語る言葉の数々が映像に記録された、現在のチカーノたちが生きる世界を俯瞰することの出来る、非常に資料価値の高い内容となっている。

(写真)DVD『チカーノギャングスタ』

KEI_book

しかしKEIは、アメリカの刑務所での壮絶な日々とチカーノたちとの交流を文章にまとめた自著『KEI チカーノになった日本人』の中でも“人生は自分で考えて自分で決めればいいし、そういう世界に入ったことも含めて自分であることを分かって欲しい。(中略)だから、あくまでもこの本は、何かを考えるきっかけになるだけでいい”と書いているように、この『チカーノギャングスタ』も、観る人の判断に委ねたいという考えを持っているようだ。

(写真)書籍『KEI ─ チカーノになった日本人』

長い前置きになったが、チカーノカルチャーについてのこれ以上の話は、7月7日(月)にアップリンク・ファクトリーで行われるイベント『映像で(しか)観る(ことのできない)チカーノカルチャーの現在』でのトークショーでじっくり聞かせてもらうとして、ここでは“チカーノになった日本人”の現在について、その御本人に語って頂こう。KEIが神奈川県の寒川町で営む店『HOMIE』へお邪魔し、話を訊いた。


── このお店『HOMIE』もそうですし、昨年は自身の半生をまとめた本を出されて、今度はDVDが出ますよね。チカーノカルチャーを実際に現場で体験されてきたKEIさんが、それを日本で紹介するということはどういうことなのか、ということをお聞きしたかったんです。

「例えば、日本でもチカーノの服を売っているお店があちこちにあるんですけど、自分から言わせるととんでもなく高い。でもアメリカでは、洋服の中で一番安い部類のものを、アイロンをかけたりしてどれだけ清潔感があるようにキレイにかっこ良く着るかというのが、チカーノファッションなわけです」

── それがまた粋ということですよね。

「ええ。アメリカでは11、12歳の子供でも買える金額で、そういう服を売ってるわけですよ。だから日本ではウチが安く売ろうと思ったんです。日本では今まで“これチカーノの服装だよ、このTシャツ9800円だよ”って売ってたわけじゃないですか。でもウチは、それよりも生地やプリントの良いものを4000~5000円で売るし、お客さんが中学生だったら、更に二割、三割引いてあげるわけです。このHOMIEのお店を始めて今年で5年経つんですけど、その間にウチが今までの相場を崩しちゃったと思いますね」

── 良心的ですよね。

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「中学生が一万円のものを買うとしたら、お小遣いも少ないから結局、親の金を盗んで買うか、何か悪さして買う。だったら、自分の持ってるお金の範囲で買える服装をウチで作ってあげれば、悪いことしないでも買えて、着られるわけじゃないですか。それを自分は提供したくて始めたと思うんです。
(少し沈黙した後)とりあえず最初は一年で2500万円くらい赤字を出して大変だったんですよ。それでもやっぱり、本物のチカーノがどういう服を着てるのかっていうのを、知ってほしいんですね。例えばアメリカからチカーノの友達が来た時も店に連れて来て、お客さんたちに本場のチカーノの話を聞かせてあげることができるわけです。そういう機会も作りつつ、なるべく安くてかっこいいもので、質の良い物が買えれば…ベストなんじゃないですかね。それを…やっぱり自分も生活があるんで(笑)、どうにか続けられれば良いと思ってます」


── 5年目にして、手応えはありますか?

「お陰様でこの辺りの人だけでなく日本全国に通販のお客さんがたくさんいて、中には修学旅行の途中で買いに来るお客さんもいるんですよ。だから、大分良くなってきましたね。服を全然買わない子でも…例えばよそで買った服の写真をメールで送ってきて“この格好でもおかしくないですか?”っていう質問だけの子にもウチは対応してるんで」

── そういったお客さんに対するアドバイスとか、いわゆる押し付けがましい教育という形じゃなくて、ここ『HOMIE』は話を聞いてあげて、それにちゃんと答えてあげるというコミュニケーションの場になっているんですね。

「そうですね。だから、ウチに来るお客さんで服を全然買えない子でも、毎日来て皆と話をしてるだけの子もいますよ。ウチはそういうの全然問題ないんで」

── 実際、それを続ける事で「変わってきたな」と感じることや、見えてきたものはありますか?

「この辺りの地元の中学生とかいっぱい出入りしてて、万引きしたりだとかあちこち行って悪さして、しょっちゅう補導されてた子もいるわけです。でもウチに来て、ここで遊んでる分には悪さをしないわけじゃないですか。それだけでも自分は全然良いと思います」

── 今回出るDVD『チカーノギャングスタ』もKEIさんのプロデュースですよね。こういったKEIさんプロデュースによる「作品」は、これからも出る可能性があるんでしょうか?

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「東京キララ社から本の第二弾を年内に出してくれるっていうのと、このDVDの後にチカーノの写真集が出ます。日本ではチカーノのことをよく分かってないのに、やっちゃってる子もいるわけじゃないですか。映像や写真集とかを見て、向こうの奴が言ってることとか、“チカーノっていうのはこういうのなんだ”っていうのがわかってもらえるだけで嬉しいですね」


── DVD『チカーノギャングスタ』には、素直に「面白い」って言っちゃいけないような雰囲気があるというか…ハードな現場ばかり映ってますよね。

「撮影中は、いろんなトラブルが起こると思ってたんですよ。自分が向こうにいた時に、もっと酷いことを経験してきたわけですから。実際、撮影中にアクシデントがいくつかあったんですけど、それは逆にあれだけで済んで本当に良かったと思います。コンプトンと18thストリートを撮影する時は向こうの奴でさえ“そこだけは撮影しない方が良いんじゃない?”って言ってたんですよ。でも結局、何の事件もなく映像も撮れたし、本当に良かったと思います。多分、コンプトンと18thストリートは、観光でも行ったことのある日本人はいないと思うんですよ。18thストリートはチカーノが80%くらいいる街じゃないですか。日本人が絶対入れない場所を映像に残せたんで、それだけでも日本人が見れば勉強になると思います」

── 本の中でも書かれてましたけど、格好だけマネすることに対して、若い子たちが見よう見まねで間違ったことをするという現状がある中、KEIさんはきちんと本物を紹介したいという純粋な動機が大きいですか?

「そうですね。例えば、日本ではチカーノファッションがただのファッションになってるじゃないですか。ファッションだけを真似するのは全然良いことだと思うんですよ。でも、その服を着たからってケンカしたり暴力的になる必要はまったくないんです。アメリカでは、ギャング同士で自分の縄張りを守るために殺し合いをしたりケンカしてるわけですけど、日本人はその服を着たからってそういうことをする必要がない。それを、もうちょっと理解してもらいたいと思ってます。折角チカーノカルチャーのブームが来てるのに、“チカーノの服着てるからあいつら悪いよ”って思われるのも良くないし。二年ほど前からいろんなイベントに呼ばれて行くんですけど、来てるお客さん達が『HOMIE』の服を着てくれてるんですよ。例えば200人来てたら、半分がウチの服を着てくれたりして嬉しいです。それだけ『HOMIE』が広まっているということに対して…本当に皆に感謝しています」

(インタビュー・文:倉持政晴/協力:中村保夫[東京キララ社])

■KEI PROFILE

1961年、東京・中野生まれ。少年期は阿佐ヶ谷と八王子で過ごす。その後は暴走族を経て、ヤクザの道へと進む。ヤクザ時代にハワイでFBIのおとり捜査にはまり、10年以上、ロスを始めサンフランシスコ、オレゴンなどの米刑務所で過ごす。刑務所内で知り合ったチカーノと呼ばれるメキシコ系アメリカ人との交流から、人生における大切なものを学ぶ。帰国後はその経験を生かし、カウンセリングやイベントを通し、若者と触れ合う。現在は神奈川県・寒川にて『HOMIE』というチカーノ系ブランドを経営し、本場のチカーノカルチャーを広めている。

HOMIE公式ホームページ


映像で(しか)知る(ことのできない)チカーノカルチャーの現在。─KEIプロデュースDVD『チカーノギャングスタ』完成記念イベント

ドキュメンタリー『チカーノギャングスタ』のDVD発売を記念して、取材クルーによるトークショー付き先行上映会を開催。
7月7日(月) 開場19:00/開演19:30
会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
料金:1,800円(1ドリンク付) *予約特典あり(先着20名様)
ゲスト:KEI、名越啓介(写真家)
聞き手:YASUO-ANGEL(DVD『チカーノギャングスタ』監督)
★DVD『チカーノギャングスタ』先行発売あり

【チケット予約方法】
下記項目を明記の上、件名を『チカーノギャングスタ完成記念イベント予約』とし、メールにてお申込みください。
(1)お名前 (2)予約人数(3名様まで) (3)電話番号 (4)ご住所
factory@uplink.co.jp
※予約された方先着20名様にKEIさんのお店『HOMIE』からのプレゼントあり!
※予約者数が定員に達し次第、受付を締め切りますので予めご了承ください

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