骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2017-10-19 21:10


ラップで運命を変える!難民少女は強制される結婚に立ち向かう『ソニータ』

監督語る「私は取材対象であるソニータの人生を変えたが、私自身も変わりました」
ラップで運命を変える!難民少女は強制される結婚に立ち向かう『ソニータ』
映画『ソニータ』より

ラッパーになることを夢見る、イランで難民生活を送るアフガニスタン出身の少女を描くドキュメンタリー映画『ソニータ』が10月21日(土)よりアップリンク渋谷 にて公開。webDICEでは監督のロクサレ・ガエム・マガミのインタビューを掲載する。

主人公はイランに難民としてやってきたアフガニスタンの少女ソニータ。アフガンにいる母が、金のために彼女を9,000ドルである男の嫁としてに売ろうとする。ソニータをカメラで追い続けるロクサレ・ガエム・マガミ監督は、彼女を助けるためにミュージックビデオを撮り、夢を叶えようとする。インタビューでも語られているように、彼女の人生と映画がシンクロしていく過程、そして自身の苦境をそのまま言葉にするソニータのラップが胸に迫る。


「本作で初めて誰かの人生を変える経験をしたのですが、私自身も変わりました。こんなに長期に誰かの人生をサポートすることはなかったので、子を授かった気持ちでした。また、夢の力の凄さを知ることになりました。ソニータの夢は最初、非現実的で不可能と思えました。しかし、彼女には夢を見る権利があるのです。この事は、私の人生に対する態度を変えました」(ロクサレ・ガエム・マガミ監督)


彼女がどのように夢を追いかけていくのか興味があった

──ソニータとはどのように出会ったのでしょうか?

ソニータとは従兄弟がソーシャルワーカーとして働く、子ども支援団体で出会いました。従兄弟がソニータに会い、何かしてあげられないかと頼んできたのです。ソニータは将来歌手になる夢を持つとても才能ある少女でした。ソニータに興味を持った私は、私の友人を紹介し、その友人が私の家でソニータに音楽の基礎やギターを教え始めました。何回かのレッスン後に、私はますます野心的なソニータに興味を持ち、彼女の映画を作ることにしたのです。ラッパーになることを夢見るソニータに、私は明るい将来が想像出来ませんでした。彼女は滞在許可証もありませんので、旅もできません。彼女を取り巻く全てが彼女の夢を妨害するような状況で、彼女には何も出来ないと思いました。そんな彼女がどのように夢を追いかけていくのか興味があったのです。

映画『ソニータ』ロクサレ・ガエム・マガミ監督
映画『ソニータ』ロクサレ・ガエム・マガミ監督

──その団体は具体的にはどのような団体なのでしょうか?

この団体「Tehran-Society for Protection of Working and Street Children」は、教育を受けられない子どもたちをサポートするための機関です。通っている子どもたちの多くが児童労働をしていて、アフガニスタンからの移民もいます。彼らは公的機関が発行する身分証明書や帯在許可書を持たないため、教育が受けられません。そして貧しいために多くが働かなければなりません。この団体は教育や医療を提供し、そして子どもたちが、少しでも子どもらしい時間が過ごせるように子どもたちをサポートしています。

映画『ソニータ』
映画『ソニータ』より

──ソニータはなぜアフガニスタンからイランに逃れてきたのでしょうか?

彼女のお兄さんがタリバンに撃たれたためです。彼は怪我をしたものの無事でしたが、ソニータの家族がタリバンのターゲットになっていることを知り、イランに逃れたのです。

──撮影に費やした時間はどれぐらいでしょうか?その当時、ソニータは何歳だったのでしょうか?

2年半です。ソニータは、誕生時から公的な書類で誕生の記録が存在しません。そのため正確な年齢は分かりませんが、撮影している期間は16歳から18歳だったのではないかと思います。

ドキュメンタリーは取材対象との関係を隠さず見せなければならない

──このドキュメンタリー映画で、あなた自身が映画に巻き込まれて行きました。何が起きたのでしょうか?

ソニータの母親がソニータをアフガニスタンに連れ戻しにイランにやってきた時、映画監督としては、これでやっと良いストーリーが撮れると喜びました。映画監督としての私はそう喜んだのですが、一方で一人の人間としての私は、ソニータがこの先どうなってしまうのだろうかと心配で悲しくなりました。ドキュメンタリー監督として感情に流され、彼女を助けるべきではないなど、たくさんの考えが脳裏に浮かびましたが、時間が限られていたため、素早く決断を下さねばならなかったのです。

映画『ソニータ』
映画『ソニータ』より

──一般にドキュメンタリー映画監督は常に客観的であるべきで、取材対象の人生には介入すべきでないと考えていますか?

介入してもしなくても、そのことを隠さず見せなければならないと思います。嘘をつかず、真実に忠実であることが重要です。誰かを助け、物事を変えることが容易にできるタイミングがある場合、行動に出るべきと私は考えます。ソニータのケースでは、ソニータと共にアフガニスタンに戻り、強制結婚を撮影することも出来ましたが、そうやってソニータを置き去りにすることは出来ませんでした。彼女のように助けられないケースもあります。以前、精神分裂症の薬物中毒者を追っていましたが、彼を助けることは出来ませんでした。

──どのようにミュージックビデオ「brides for sale」を制作したのか、その経緯を教えてください。

彼女の母親がアフガニスタンに去った後に一緒に作りました。共にストーリーやイメージを考え、完成したミュージックビデオをYouTubeにアップロードしたら口コミが広がったのです。

映画『ソニータ』
映画『ソニータ』より

──ソニータは音楽家なのか、活動家なのか、あなた自身はどう見ていますか?

ソニータは音楽家よりも活動家だと私は思います。彼女自身もそう言っています。強制結婚をなくすための活動に音楽を道具として使っているのです。

──あなたはソニータの人生を完全に変えました。あなた自身も映画制作を通じて人生が変わった点はありますか?

はい。本作で初めて誰かの人生を変える経験をしたのですが、私自身も変わりました。こんなに長期に誰かの人生をサポートすることはなかったので、子を授かった気持ちでした。また、夢の力の凄さを知ることになりました。ソニータの夢は最初、非現実的で不可能と思えました。しかし、彼女には夢を見る権利があるのです。この事は、私の人生に対する態度を変えました。

(オフィシャル・インタビューより)



クサレ・ガエム・マガミ(Rokhsareh Ghaem Maghami) プロフィール

テヘランで生まれテヘラン芸術大学で映画制作とアニメーションを学ぶ。これまでに『Pigeon Fanciers』(2000年)『A Loud Solitude』(2010年)『Born 20 Minutes Late』(2010年)『Going Up the Stairs』(2011年)そしてアニメドキュメンタリー『Cyanosis』(2007年)を制作している。




映画『ソニータ』

映画『ソニータ』
10月21日(土)よりアップリンク渋谷にてロードショー

監督:ロクサレ・ガエム・マガミ
出演:ソニータ・アリザデ、ロクサレ・ガエム・マガミ
製作総指揮:ゲルト・ハーク
配給:ユナイティッドピープル
2015年/91分/スイス・ドイツ・イラン

公式サイト


▼映画『ソニータ』予告編

キーワード:

ソニータ / ドキュメンタリー


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