骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2017-08-24 17:50


レーベル運営×子育て×バンド×介助 映画『MOTHER FUCKER』が描く"パンク"と"家族"

偏見こそMOTHER FUCKER!新鋭女性監督・大石規湖と師匠(!?)川口潤対談
レーベル運営×子育て×バンド×介助 映画『MOTHER FUCKER』が描く"パンク"と"家族"
映画『MOTHER FUCKER』 ©2017 MFP All Rights Reserved.

1992年に設立された日本を代表するオルタナティヴなパンクレーベル「Less Than TV」。その中心人物である谷ぐち順が、介助の仕事を続けながらレーベル運営とバンド活動を行う日常を家族の関係とともに描くドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』が8月26日(土)より公開。webDICEでは大石規湖(のりこ)監督と、大石監督と親交の深い映像作家・川口潤(『77BOADRUM』『kocorono』)による対談を掲載する。

「パンク」と「家族」という一見相反するテーマを独自の視点から描いた本作を監督した大石監督。今回の対談では、初監督作となる本作の成り立ちやテーマ、撮影中のエピソードについて語った。


「谷ぐちさんから最初に「映画やろう」って言われた時に、もう「タイトルは『MOTHER FUCKER』で」って(笑)。確かに眉をひそめるタイトルだとは思うんです。でも、この映画では見かけとか名前とか肩書きにとらわれず楽しく本気で生きている人の姿たちを描いてます。肩書きとか勝手な先入観にこそ、MOTHER FUCKERって言うべきかなって。この映画を観て、少しでもそう思ってもらえれば嬉しいです」(大石規湖監督)


谷ぐち家はわけわかんないけど、すごく面白かった

──今回の『MOTHER FUCKER』は大石さんの初監督作品ですね。

大石規湖(以下、大石):私が映画を作ろうと思ったのは『kocorono』の影響が大きいんですよ。川口さんは音楽を伝える方法論の1つとして映画を使ってるような気がするんです。実際『kocorono』をスクリーンで観て、「音楽のこういう伝え方があるんだ」って衝撃を受けたし。あくまで音楽を伝えることに主眼が置かれてて、映画業界の人が撮った音楽映画とは違うんですね。今回は、たまたまスクリーン映えする人たち、谷ぐち一家と出会えたので、「この人たちを撮りたい」「スクリーンで流したい」と思って映画にすることに決めました。

川口潤(以下、川口):じゃあ、大石さんからタニさんに声かけたんだ。

映画『MOTHER FUCKER』大石規湖(右)、川口潤監督(左) ©2017 MFP All Rights Reserved.
映画『MOTHER FUCKER』の大石規湖監督(右)、川口潤監督(左) ©2017 MFP All Rights Reserved.

大石:はい。まず、谷ぐちさんの盟友であるyounGSoundsのモリカワ(アツシ)さんに「『Less Than TV』というか谷ぐち一家を撮りたいんです」って相談したんですよ。そしたら「タニさんはそういうの避けると思うよ」って教えてくれたから外堀から埋めていくことにしました。「METEO NIGHT」を1人で撮りに行ったり。他の人にも相談してたから、それでなんとなく谷ぐちさんの耳にも入ってたみたい。そしたら2015年にある日突然電話がかかってきたんですよ。「映画作ろう」って。息子の共鳴(ともなり)くんがバンド始めたし、奥さんのYUKARIさん(Limited Express(has gone?))のブログに共感する人も増えてたし。

川口:つまり大石さん発信ではあるけど、タニさんにもそういう思惑はあったんだ。大石さん、俺のとこにも一回相談に来たよね?

映画『MOTHER FUCKER』 ©2017 MFP All Rights Reserved.
映画『MOTHER FUCKER』より、谷ぐち順 ©2017 MFP All Rights Reserved.

大石:映画は撮りたかったけど、どうやっていいか全然わからなかったから、川口さんに相談しに行ったんです。それでいろんな方を紹介してもらって、ようやく座組みが整ったんです。

川口:実は「Less Than TV」が20周年を迎える時、僕のところに「映画やらないか」という話があったんだ。その話はタニさんと一緒に「Less Than TV」をずっと支えてきたタカヒロさんからもらって。彼はタニさんと一緒にGOD'S GUTSという最高のバンドをやってる人でもあるんだ。結局その話はなくなってしまって。そういう経緯があったから、当時の関係者を紹介すれば映画もできるんじゃないかと思ったんだよね。

大石:本当にありがたかったです。

川口:タニさんが今回の映画に自分の中でイメージを持ってて、そこに大石さんがフィットしたんだと思う。自然に家族の輪に入っていけたりとか。実はタニさんはずっと映画やりかったんだよ。「Less Than TV」と関係が深い、SiNEというバンドのまーくん(本間則明)から以前聞いた話なんだけどね。しかもレーベルをコンプリートするようなものじゃなくて。

大石:「劇映画が作りたい」というアイデアも谷ぐちさんは持っていましたよ(笑)。

川口:その流れちゃった企画の時、僕はタニさんが劇映画を撮ってる様子をドキュメンタリーにしようと思ってたんだよ(笑)。

大石:谷ぐちさんとは最初具体的な内容の話はしてないんですよ。私の中では谷ぐち一家を撮りたいという思いは最初からあったんだけど、そういう話はほとんどしてない。でも最初に電話をもらった時に、「家でいつもYUKARIに怒られてるからそういうところを撮ってほしい」とか言われてましたね(笑)。だからなんとなくイメージが共有されてたのかもしれないですね。

映画『MOTHER FUCKER』 ©2017 MFP All Rights Reserved.
映画『MOTHER FUCKER』より、YUKARI(左)谷口共鳴(右) ©2017 MFP All Rights Reserved.

川口:なんで家族を撮りたいと思ったの?

大石:私、働きながら音楽をやってる人たちが好きなんです。生活の中にある音楽というか。真実味がある。昔スペースシャワーTVの企画で、工場で働きながらヒップホップやってるラッパーのショートドキュメンタリーを作ったことがるんですけど、谷ぐち一家まさに生活と音楽が一体になっているのでその姿に惹かれたましたね。

川口:谷ぐち家を撮影することにしたのはなんでなの? 生活と音楽結びついてる人たちなんて、いっぱいいるじゃん。

大石:私は、谷ぐちさんが奥さんのYUKARIさんとやってるバンド・FOLK SHOCK FUCKERSの「インマイライフル」という曲でPVを撮ってるんですよ。その時初めて谷ぐちさんの家の中に入ったんですが、家の中がフォトジェニックに見えたんですよね。「スクリーン映えしそう」って。おにぎりを食べてるシーンを撮ってたら、谷ぐちさんが食べかけのやつを「食べる?」って渡してきたり。もうわけわかんないけど、すごく面白かったんです。この感じをそのままくり抜こうと思いました。

精神と肉体を整えるために
加圧トレーニングで体を鍛えた

川口:最高だな、その話。でも、その感じは大石さんじゃないと撮れなかったと思う。少なくとも男の撮影者だとああいう感じにはならない。YUKARIさんの本音を聞き出せたりとかさ。僕は映画を観ててYUKARIさんにすごく感情移入したもん。

大石:えーっ!私は男の人はみんなタニさんに共感するのかと思ってた(笑)。

川口:いやいや。あの人は、結婚して子供もできて、それでようやく民のレベルにまで少し降りてきてるけど、基本的には神の領域だから。

大石:それいうと、川口さんも神レベルの人と作品を作ってますよね? EYヨさん(BOREDOMS)とか、吉村さんとか、吉野さん(eastern youth)とか、BOSSさん(ILL-BOSSTINO/THA BLUE HERB)とか。そういう人たち毎回対等に戦ってる。私、川口さんのアーティストと同等の立場で撮影に立ち向かう姿勢にはすごく影響を受けたし、今回も意識してましたよ。

川口:同等の立場っていうか、それは気持ちの話よ。気持ち負けしないっていうか。全然同等じゃないもん、実際(笑)。

映画『MOTHER FUCKER』 ©2017 MFP All Rights Reserved.
映画『MOTHER FUCKER』より、YUKARI ©2017 MFP All Rights Reserved.

大石:私、川口さんのそういう戦ってる姿勢を実践しようと思って、精神と肉体を整えるために今回も制作期間はずっと加圧トレーニングで体を鍛えてました(笑)。

川口:本当に意味不明だよね(笑)。たぶんその謎の天然っぽいとことかもあって、タニさんの共同体にすごく自然に入れたんだよ。前にとあるアーティストの映像作品を大石さんから渡されたことがあったじゃない? 大石さんは普段あまりそういうことないから、俺もちゃんと観て珍しくいろいろ細かくフィードバックしたんだよね。

大石:その時に言ってもらったのは、やはり映画は出演者と対等に渡り合うべきだということで。そうじゃないとテーマも見つけれないし、そもそも出演者たちに対する責任も取らなきゃいけない。だからもう限界突破の精神というか、そういう死線を何回も超えたところで作らなきゃいけないんだって。

川口:ええっ!? そんな話だったっけ? 確か僕が大石さんに話したのは、映画として上映するには厳しいという技術的なことだったんだよ。とあるアーティストの活動をまとめた映像だったんだけど、良し悪しは別としてお金を払って映画館に来た観客に見せるものとしては弱いというか。DVDや番組とかなら良いと思ったという話をしたじゃん。

大石:えっ、私全然違う解釈してました……。

川口:大石さんは変なところがストイックというか、暴走しがちというか(笑)。その時の話は撮影する対象にもよるから、一概に正解だとは言えない部分もあってさ。ただ、タニさんたちって面白いじゃない? だからすごく映画向きだと思ったんだよね。しかもYUKARIさんはすごくちゃんとしてて、共鳴くんがライブをやるっていうカタルシスもある。今回の『MOTHER FUCKER』はすべてクリアしていると思った。

映画『MOTHER FUCKER』 ©2017 MFP All Rights Reserved.
映画『MOTHER FUCKER』より、谷口共鳴 ©2017 MFP All Rights Reserved.

実は子供が苦手だった

──大石さんは川口イズムを自己解釈して今回の映画撮影に臨んだと(笑)。

大石:でも『77BOADRUM』とか『山口冨士夫 皆殺しのバラード』とかを自主で、興行もつかない状態で撮るのってすごい精神力だと思うんですよね。

川口:まあ、興行がつかないのにはいろんな事情があるんだけどね(笑)。今回の映画はそんなに大変だったの?

大石:感情の揺り戻しがすごかったです。実は第一稿は今思い返してもダメな編集になっていて。というのも去年末に母が倒れてしまったんですよ。それで一時的に編集機材を全部実家に持っていって「母の病院⇔実家で編集」というサイクルを繰り返してたんです。そしたら環境に影響されまくっちゃって、すごくジメジメした内容になってしまった。谷ぐちさんはそれを観て「ちょっとエモくなりすぎたね」と言ってました。

川口:あの映画のどこを切り取ったらジメジメした感じになるの? 全然想像つかないんだけど(笑)。

大石:素材にはすごくいろんな要素があって、撮影した人すべてに思い入れが強くなりすぎて取捨選択ができていなかった。

川口:なるほどね、そうすると散漫になっちゃうもんね。

大石:そうなんです。自分的にダメだった。それで修正前に谷ぐちさんと一回打ち合わせをしたら、自分がすごく感傷的になってることに気づいたんですよ。母の看病も落ち着いたので東京に戻ってきて、頭も切り替えて。それで今の形になりました。

映画『MOTHER FUCKER』 ©2017 MFP All Rights Reserved.
映画『MOTHER FUCKER』 ©2017 MFP All Rights Reserved.

川口:『MOTHER FUCKER』ってタイトルは大石さんが決めたの?

大石:いや、谷ぐちさんから最初に「映画やろう」って言われた時に、もう「タイトルは『MOTHER FUCKER』で」って(笑)。確かに『MOTHER FUCKER』って眉をひそめるタイトルだとは思うんです。でも、この映画では見かけとか名前とか肩書きにとらわれず楽しく本気で生きている人の姿たちを描いてます。実は私、子供が苦手だったんです。でも実際に話してみたら全然普通だった。むしろかわいかったし。今回、そういう勝手な思い込みで可能性を狭めるのはつくづく馬鹿馬鹿しいと思ったんです。肩書きとか勝手な先入観にこそ、MOTHER FUCKERって言うべきかなって。この映画を観て、少しでもそう思ってもらえれば嬉しいです。

川口:大石さん、子供嫌いだったんだ(笑)。

大石:そうなんです……。あと障害者の施設にも初めて行ったんですけど、最初はすごく緊張しました。何をどこまで撮っていいのかわからなかったし。「カメラ向けていいのかな」とか。でも実はみんな超撮られたがりで(笑)。結局こっちが勝手に壁を作ってただけだったんですよね。女でこういう仕事をしていると、すぐ下に見てくる人がいっぱいいるんです。あとバンギャと思われたり、メンヘラと思われたり。世の中って、実は偏見の塊なんですよ。でも撮影中は本当に一度もそういうことがなかった。みんな普通に会って、挨拶して、ご飯食べて、みたいな。それが衝撃的だったんですよね。偏見とか、本当にマザーファッカーです!

(オフィシャル・インタビューより 取材・文:宮崎敬太)



大石規湖(おおいしのりこ)  プロフィール

フリーランスとして、SPACE SHOWER TV や VICE japan、MTVなどの音楽番組に携わる。また、トクマルシ ューゴ、DEERHOOF、BiS階段、奇妙礼太郎など国内外問わず数多くのアーティストのライブDVDやミュージックビデオを制作し、女性でありながら男勝りのカメラワークで音楽に関わる作品を作り続けている。映画『kocorono』(2010年・川口潤監督)では監督補助を担当。また谷ぐち順の初MVとなるFOLK SHOCK FUCKERS「イン マイ ライフル」の監督も務めている。

川口潤(かわぐちじゅん)  プロフィール

SPACE SHOWER TV / SEPを経て2000年に独立。ミュージックビデオ、ライブDVD、音楽番組の演出等を多数手がける。08年『77BOADRUM』をライブドキュメンタリー映画として発表。自主制作、自主配給で日本全国横断、海外上映を果たす。同年80年代パンクバンド「アナーキー」のドキュメンタリー映画にリミキサーとして参加。11年に劇場公開されたbloodthirsty butchersのドキュメンタリー映画『kocorono』は音楽ファンだけでなく映画ファンにも支持された。13年、東北の被災地に立つライブハウスツアーを敢行したTHA BLUE HERBの模様を追った DVD『PRAYERS』も話題となる。14年にスマッシュヒットを記録したTEENGENERATEのドキュメンタリー『GET ACTION!!』に撮影・編集として参加。監督作品として『山口冨士夫 / 皆殺しのバラード』『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』を発表している。




映画『MOTHER FUCKER』 ©2017 MFP All Rights Reserved.
映画『MOTHER FUCKER』 ©2017 MFP All Rights Reserved.

映画『MOTHER FUCKER』
8月26日(土)より公開

8/26(土)~9/8(金)渋谷HUMAXシネマ
9/9(土)~9/15(金)シネマート心斎橋
9/16(土)~9/22(金)シネマート新宿
9/23(土)~9/29(金)名古屋シネマテーク
9/30(土)~10/6(金)広島・横川シネマ
10/14(土)~10/20(金)横浜シネマ・ジャック&ベティ
10/21(土)~10/27(金)仙台・桜井薬局セントラルホール
10/28(土)~11/3(金)京都みなみ会館
以降 神戸・元町映画館 他全国順次公開

出演:谷ぐち順、YUKARI、谷口共鳴 他バンド大量
監督・撮影・編集:大石規湖
企画:大石規湖、谷ぐち順、飯田仁一郎
制作:大石規湖+Less Than TV
製作:キングレコード+日本出版販売
プロデューサー:長谷川英行、近藤順也
1:1.78/カラー/ステレオ/98分/2017年/日本
配給:日本出版販売

公式サイト

▼映画『MOTHER FUCKER』予告編

レビュー(0)


コメント(0)